ジルフのギルド
正門を出たエインは急いでミレーネの酒場に帰るとすぐに部屋に入り、机に二冊の本を並べる。
エインが見つけた本にはイラスト付きで『魔力石』が載っていた。
メイが見つけた本にも同じようにイラストが載っていたが、物語に出てくるワンシーンであったため手掛かりとなる情報は載っていなかった。
『魔力石』は通常の魔石とは異なり、地下に存在する魔力が結晶化しただけでなく、結晶化後も周りの魔力を吸収しながら成長していくため別名「無限宝石」と言われている。
無限というのは文字通り魔力が尽きない限りなくなることのないというわけで、『魔力石』が使われた魔石灯などの製品は高価な代わりに、半永久的に使うことが出来る。
「これなら、どうにかなりそうだが問題は……」
エインは部屋を出ると、ギルド本部に向かう。
既に日は落ちているため、すれ違うのは屈強な冒険者ばかりだった。
冒険者の波をかき分け、本部までたどり着き中に入る。
扉を開けると数人の冒険者の視線を感じる。
(昼間より冒険者の数が多いのはわかっていたが、この視線の多さは……?)
「おい坊主、ここがどこか知ってて入ってきたのか?」
いかにもチンピラという風貌の男が近寄ってくる。
「知っていますよ、当然。ここは冒険者が集まる『ギルド本部』ですよね?」
「おうおうわかってんじゃねーか。ならお前みたいな坊主が来るとこ出ねえこともわかるよなあ?」
挑発的な態度で上からものを言ってくる。
「あなたに用はないので。それでは。」
男の横を通り抜けようとするエインの肩を男が鷲掴む。
「お前のその服見たことあるぞ。それ、学園の制服だろ?エリートちゃんが何しに来たのかくらい教えてくれたっていいだろぉ?」
しつこく付きまとう男を睨みつけるがそんなのどこ吹く風で男はニタニタとエインの顔を覗き込む。
鼻先がほんのり赤くなっている男の腕を振り払おうとするが、冒険者だけあって力が強く、簡単に振り払えない。鬱陶しく思い始めたエインは男を無理やり引きはがそうとする。
その時、後ろの扉が開き、4人組の冒険者が入ってきた。
入り口付近でエインが男に肩を掴まれていたので、すぐにその冒険者は、何かあったことに気づく。
先頭にいる冒険者は赤い鎧を身に纏い、大剣を背負っていた。
他の3人も同じように赤の鎧を身に着けていた。
この王国では王国騎士団とは別に冒険者もこの国を守るために戦場に立つことがある。
そして、戦場に立つことが出来るの冒険者は国から認められたごく一部に限られ、認められた冒険者の肩には王国のシンボルが刻まれている。
そして今入ってきた冒険者にも同じように肩にシンボルが刻まれていた。
「お前、何やってるんだ?相手は子どもだろ?手を放せ!」
先頭に立っていた男がエインの肩を持っている男の腕をつかむと無理やり引きはがす。
「何すんだてめえ‼俺は何もしてねえだろうが‼」
「周りを見てみやがれこの酔っ払い野郎‼」
エインと男のやり取りを見ていた冒険者たちは冷ややかな目で男を見ていた。
男は周りが自分と同じ事を思っていると勘違いしており、自分の意見こそこの場の総意だと本当に思っていたのだ。
当然、酒を飲んで気持ちよくなっている冒険者もいたがそれでも学園の生徒とわかると男には加勢せず、エインに何かあったら貸しを作ろうと構えていた。
男が冷ややかな目で見られていたのはすぐに事を起こさなかったせいでエインに貸しが作れなかったからだ。男の腕を掴んだ赤鎧の男が言いたかったこととは違う意味を持った眼差しだったが、周りが自分の行為を認めていなかったから冷ややかな目で見られていたのだと勘違いをした男は、そそくさとギルドを出ていった。
「大丈夫だったか?少年。」
「ありがとうございま……って、ジルフさんじゃないですか。」
背中越しで顔が見えなかったのだが、赤鎧に身を身に纏っていた男は、エインがよく知る人物だった。
「お、エインじゃないか。こんなとことで何やってんだ?」
「ジルフさんの居場所を教えてもらおうと思ってここに来たんです。」
「そういう事か。ならタイミングばっちりだったな。ちょうどクエストを片付けて帰ってきたところだ。完了報告してくるからちょっと待ってろ。」
ジルフは小走りにカウンターに向かった。
「君がジルフが言ってた学園の生徒か、確かに面白そうないやつだ。」
「確かにな。冒険者相手に一歩も引かないとか肝が据わってるな。」
「学園の生徒はこんなんばっかかよ?」
ジルフの後ろにいた三人がエインに近づいてくる。
「あなたたちはジルフさんの……」
「ん?ああ、仲間だよ。俺はアレンだ。よろしく。」
槍を持っている方とは逆の手で握手を求めてくる。
エインはそれに応じて握手をする。
戦斧を持ったケインと戦鎚を担いでいるエルラも自己紹介を済ませる。
終了報告に言ったジルフは未だにカウンターの受付嬢と話をしていた。
「ジルフさん遅いですね。」
「いつものことだ。ほっとけばいい。」
「あの子は無理だって言ってるんだけどな。」
「それでも聞かないんだよな~」
「ジルフさんは受付の人が好きなんですか?」
「まあ、あの子はギルドの人気者だからな。あの子に告白して玉砕していく奴を何人見たことやら……」
「あいつも一回告って振られてるんだがそれでも諦めきれなくてあんな風にクエストが終わったら、自分の武勇伝を聞かせてるんだ。」
「このギルドじゃあいつだけだもんな結婚してないの。」
「え⁉皆さん結婚してるんですか?」
「そりゃまあ、いい歳だし結婚くらいしてるさ。俺は二児の父親だ。エルラにはかわいい娘がいるし、ケインだってもうすぐ新しい家族が増える。」
「アレンが結婚するって言ったときスゲー驚いてたもんなあいつ。」
「エルラと俺も結婚するって言った時も「俺を置いて行くのか⁉」って言ってたし。」
要するにこのギルドの中で結婚してないのはジルフだけで、彼も早く結婚するために彼女に猛アタック中なのである。
一通りの話が済んだのか、お金の入った袋をもってこちらに戻ってきた。
「これで要は済んだし、エインの話でも聞こうじゃないか。あそこの空いてる席にしよう。」
「あ、ここでは、話しづらいのでジルフさんたちのギルドホームに行きませんか?」
「公で話せない話ってどんな話だよ……。」
アレンはエインが持ちかけようとしている話を警戒する。
「まあいいだろ、こいつだってわざわざこんなとこまで来て俺たちを探してたんだ。話くらいは聞いてやってもいいだろう?」
「話くらいだけならな。」
ケインの言ったことにも一理あると思いアレンはエインの話を聞くことを了承する。
「じゃ、ホームまで行こうぜ。」
ジルフに続いてアレンたちはギルド本部を後にする。
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