代表戦終了と女の子
「この後時間あるか?ちょっと付き合ってもらいたいことがあるんだ。」
「時間はあるけど、付き合ってもらいたい用事ってなんだ?」
「えっとだな……」
フォティアの話と言うのは、幼馴染の女の子に魔法を教えてほしいという事だった。
「僕も君たちと同じ生徒なんだけどな。」
「いいじゃないかエイン。男は黙って女の子のお願いは聞いてやるもんだろ?」
リュウガが、断ろうとするエインの退路を断つ。
「ぐっっ、それを言われると断りずらくなるだろう。それにお願いしてるのは男のフォティアだ。女の子じゃない。」
「融通が利かないな~。」
「頼むよエイン。」
リュウガとフォティアがエインの顔を覗き込む。
「あーもう!わかったよ。そんな顔で僕を見ないでくれ。断る理由もないから教えるよ。」
「ありがとうエイン。」
「良かったなフォティア。じゃあ俺はもう用済みだな。それじゃ。」
リュウガは手を振りながらその場を去っていく。
「リュウガ君ありがとう。」
「おう。」
リュウガが去り二人だけになる。
「それで、問題の女の子はどこにいるんだ?」
「中庭で待ってもらってるんだ。」
「僕が断ってたらどうするつもりだったんだ?」
「エインは断らないだろ?」
「どういうい自信だよ……。まあいいや、それじゃあ行こうか。」
二人が中庭まで行くと制服を着た女子が一人、木に寄りかかっていた。
「フレム~読んできたぞ。」
フレムと呼ばれた女の子にフォティアは近づいていく。
「フォー君本当に連れてきてくれたんだね。」
「言っただろ、エインならきてくれるって。」
「それでこの子が魔法を教えてほしい子でいいんだな?」
遅れて近づいて来たエインがフレムの方を向きながら確認をする。
「あ、はい私です。フレム・フェアリーヌと言います。3組です。」
「僕はエイン・クロイル。組はフォティアと同じ5組です。それで、フレムさんはなんで僕に魔法を教えてほしいんですか?」
エインはフォティアにフレムのことを聞いた時に思ったことを聞いてみる。
「えっと……それは……」
簡単な質問であるはずだが、フレムは口ごもってしまう。
「ああ、エインそれはエインを呼ぶ建前みたいなもんなんだ。わりいな。」
フォティアはすぐに返答できないフレムの間に割って入る。
「じゃあ本当の呼んだ理由っていうのは何なんだ?」
「フォー君、あの事言わなかったの?」
「多分あの事を言っても来てくれたとは思ったけど、魔法を教えてほしいって言った方が確実だと思ったからね。」
「二人が話しているあの事ってのは何の事だ?僕にはさっぱりなんでけど。」
「それはな……」
「私が言うからいいよ。」
フォティアが言おうとするのを遮ってフレムは「あの事」について話し始める。
「私は…………初級魔法が使えないんです。」
なかなか衝撃的な告白だった。
この学園に入学する者は初級魔法を少なからず使えるようになるはずなのだ。
でなければ、入学招待状が送られてくるはずがない。
しかし、目の前にいる女の子、フレムは初級魔法を使えないと言っているのだ。
「なんで使えないのか聞いてもいいかな?」
エインは出来る限り優しく聞く。
「私のマジックパスが普通の人より細いようなんです。だから、うまく魔力を手に伝えることが出来ないくて魔法をいくら発動させようとしてもこの通り、魔法とは言い難い魔力の小さな塊しかできないんです。」
フレムの手のひらには飴玉サイズの魔力の塊が出現していた。
通常、初級魔法のサイズは平均的に魔力測定で使ったような水晶玉くらいのサイズになることが多い。ゆえにフレムのサイズは異常とさえ思えるものだった。
「すまないけど、僕にはどうすることもできない。マジックパスはいくら魔力を上げようが魔法の効率のいい使い方をしようが広がることはないんだ。」
「やっぱり……そうなんですね。私も以前お医者様に見てもらったときにも同じことを言われました。「君のそれは生まれつきのものだからどうすることもできない」、と。」
フレムは俯いてしまう。
「医者がそう言うならそうだろうな。その医者はどうやってフレムのことを調べたんだ?」
「魔力顕微鏡で直接私の腕を見てくれました。それでさっきのことを……」
フレムの目から一筋の涙が零れ落ちる。
この世で魔法が使えない人は確かにたくさんいる。それに魔力量が少ないせいで魔法をまともに使えない人もいる。
しかしフレムは違う。魔力量は少なくないのに魔法が使えない。学園の生徒なのに魔法が使えない。周りからは可哀そうにと慰められ、他にもできることがあるはずだからそれを見つければいいと言われる。
しかし、フレムには夢があった。それをいつか叶えるために魔法の練習にも励んでいた。
そんな中で医者から魔法が使えないと宣告され、最後の頼みであったエインにもどうすることもできないと言われた。
やはり私には魔法が使えないのかと失意の中に落とされたフレムは泣くことしかできなかった。
「エイン、本当に無理なのか?他にできることはないのか?」
フォティアは友のためにと再度エインに縋るが、エインは目を逸らす。
「フォー君もういいよ。仕方ないんだよ。もう……私……諦める……から。」
「ホントに諦めるのかよ⁉あんなに魔法の練習して、この学園にまで入って……それで諦めるなんていうのかよ‼」
「でも……ひっく……もう無理だって……」
フレムは涙が止まらなくなり、その場に座り込んでしまう。
泣きじゃくるフレムを落ち着けるようにフォティアは背中をさする。
エインは目の前で泣いているフレムを見て申し訳ないこと言ってしまったと思ってしまう。
おそらく医者に言われた時も同じように泣いただろうが、今回はもしかしたら魔法が使えるようになるかもしれないという一縷の希望を持ってエインと会ったのだ。
希望を打ち砕かれてしまった人の絶望というのは計り知れるようなものではない。
故にエインは本当に何もできないのかと、頭をフル回転させる。
ごく最近の出来事、ゴルドーたちと過ごしてきた時のことうっすらとしか覚えていない父親と過ごした時のこと、今までのことを全て思い出すようにエインは記憶の海に入り込む。
どんなに小さなことでもいい、この場を、フレムを救える術はないのかと考える。
そして、エインがまだ物心ついて間もない頃の父親の記憶が甦る。
〖この石を使えば、どんなに魔力が無くてもアルドル並みの魔法が放てるようになるんだ〗
エインの記憶の奥底に眠っていたそれは、夕日の中で青く光る水縹色の宝石が映っていた。
「もしかしたら……」
黙り込んでいたエインが突然話始め、驚いた二人は揃って上を向く。
「もしかしたら、治るかもしれない。」
「え?」
「どういうことだエイン?」
二人は、先程とは真反対のことを言い始めるエインの言葉に耳を疑う。
「いや、正確には治らない。でも、魔法は使えるようになるかもしれない。」
「う……そ?そんなこと……できる……の?」
「まだ、確証はないから断言はできない。でも希望はある。」
途切れ途切れの弱々しい問いにエインは力強い返答をする。
父親のことは全くと言っていいほど覚えていない。だがエインがいつもここぞという時に頭に浮かぶのは誰でもない父親の姿や声なのだ。今回も同じように覚えているはずのない遠い遠い記憶の中から父親の言葉が浮かんできたのだ。
エインにとってそれは無視することのできない神からのお告げのようなものと同じだった。
それと同時に確かな証拠もないままに希望を与えてしまったことに後悔も覚える。
エインの言葉を聞いて泣き止んだフレムはよろよろと立ち上がる。
「本当に、私、魔法が使えるようになる?」
「さっき言ったことは信用しないでくれ、これは君にとっては希望であると同時に絶望への切符でもあるんだ。希望があるとは言ったが、それは僕が都合のいいように解釈しているだけかもしれない。」
「でも、あんなこと言われたら……」
「わかっているよ。人はそう簡単に希望を捨てたりなんかできない。だからこれだけは約束しよう。君を泣かせるような結果にはさせないと。」
この場にいない第三者がこれを聞いたなら告白を受けた男子が格好良く返事をした現場に居合わせてしまったと勘違いしてしまうだろう。
もちろんこの場にいたフォティアですらキザなセリフだと思っていたのだ。
キザなセリフを言った当の本人はその自覚は全く無く、真っすぐにフレムを見る。
フレムは顔を赤くしてエインから顔を逸らす。
何とも言えない空気が漂う中この空気を換えたのは傍観者であったフォティアだった。
「じゃあエインはどうにかできるんだな?」
「断言はできない。でも、できる限りのことはする。ということで僕は図書館に用があるからフレムさんをよろしく。」
エインはそれだけ言うと足早に図書館に向かって行った。
「フォー君ありがとね。」
エインが図書館へと向かい、フォティアとフレムの二人きりとなった中庭でフレムはフォティアに感謝を述べる。
「それは俺じゃなくて、エインに言ってやれよ。俺はただエインを連れてきただけで何もしてない。それに……」
「それに、どうしたの?」
「いいや何でもない。とりあえず帰ろうぜ。」
「うん、そうだね。」
フォルトゥが言いかけた先の言葉を聞きたいと思ったフレムだったがその思いは、胸にしまって、フォティアと一緒に歩きだす。
二人は中庭を出ると真っすぐに正門に向かって行った。
「あ、そういえば。」
「どうしたんだ?忘れ物か?」
「ううん。そうじゃないんだけど、フォー君って自分のこと『俺』なんて言ってたっけ?」
さっきまで泣いていたフレムはどこへやら、昔と一人称が変わっている友だちをおかしいと思い、少しからかい気味に質問する。
「そ、そうだったか?」
「そうだよ~。入学式の前に会ったときは「僕のルームメイトどんな人かな?」なんて言ってたじゃない。」
「ぐっっ、僕は入学して変わったんだよ。……あ⁉」
「あっはは。やっぱりそうだ。理由は聞かないであげるから頑張って一人称変えれるように頑張りなさい。」
フレムはフォティアの背中を叩くとそのまま駆けていった。
そして駆けていったフレムは花を咲かせたような笑顔をしていた。
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