入学ハプニング
昨日通ったギルド本部の前を通過し、学校の正門があるイーストストリートの始点に向かう。
学校の正門付近に到着するとそこには既に、人だかりができていた。
「一般の生徒はこちらから校内に入ってください。保護者の方は案内の生徒が付きますので、少々お待ちください。」
生徒のほかにも保護者が来ているらしく整理に当たっている先生と思われる人はてんてこ舞いになっていた。
そこにエインも近づいていく。
「あ、一般の方の入場は遠慮させていただいているのですが……」
「僕はここの新入生です。招待状も持っています。」
招待状を見せるが、忙しいせいか相手にせずそのまま突き返されてしまう。
「君、ちょっとそれ見せてくれないかい?」
さっきの人とは違う女性がエインの持っている招待状を見せるように言ってくる。
「どうぞ。」
女性はまじまじとそれを見ると招待状をエインに返して、「ついてきなさい。」とだけ言って踵を返す。
エインは女性の後を追って正門を通って学園内に入っていく。
「君、制服は貰わなかったの?」
「貰っていませんよ。そもそも制服なんてあったんですね。」
「君ねぇ、学園に制服は付き物でしょう。そんなことも知らないの?」
「すみません……」
女性の呆れたと言わんばかりの声音にエインは肩を落としてしまう。
女性に連れてこられたのはいかにも偉い人の部屋ですと言わんばかりの豪勢な扉の前だった。
「もしかして……」
この学園において偉い人となると一人しか思い当たらないエインは、毎度毎度山の小屋にきては学園に来てくれとせがんでくるいろんな意味で残念な爺さんの顔を思い出す。
「学園長、連れてきました。」
「入っていいですよ、メイ。」
扉の向こうから聞こえてきたのは確かに残念爺さんの声なのだが、雰囲気が小屋にいる時とは全く違う。
上に立つ者の威厳がつまった声色をしていた。
「失礼します。」
メイと呼ばれた女性は、扉を開けてエインに入るように促す。
促されるまま中に入ると、目の前の机に見知った白髪の男性が座っていた。
「良く入学を決意してくれましたね。ところで制服はどうしたんですか?」
「それはこっちが聞きたい。なぜ制服があるのならそれを送ってこない?」
「あなた、学園長に対してその態度は何すですか?失礼ですよ。」
エインの態度に驚いたメイは鋭い声で注意する。
「構いませんよ、私とエイン君は少々面識がありましてね。」
「ですが……」
メイは納得がいかないような顔をする。
「そうだ、彼の制服を持ってきてはくれないか?これから入学式も執り行われるのに制服が無くて参加できないのは悲しいだろう?」
「わかりました。すぐに持ってきます。」
メイはエインの制服を取りに部屋を出ていく。
「ちゃんと送ったんだけどな~。なんで届いてないんだ~?」
メイがいなくなった瞬間いつもの口調に戻った。
「いつ送ったんだよ?」
「招待状と一緒に送ったんだけど?」
「どうやって?」
「招待状を送る鳩を使ったんだけど……」
「その鳩は手紙みたいな軽いやつを送るの専用だよな?そんなのに制服みたいな重いもん持たせたら届くもんも届かなくなるだろうが‼」
「だってお前らが住んでるとこ馬車郵便使えないし、誰かに行ってもらおうにも私以外に場所を知ってる人もいないしなら鳩で運ぶしかないじゃん。」
「「ないじゃん」じゃないよ。あんたなら魔法で瞬間移動させるとかできただろう?」
「いやいや、簡単に言ってくれるけどあれ相当疲れるんだからね。一日休まないといけないレベルで疲れるんだからね。」
「なら、こっちに来るときに瞬間移動で来るんじゃねえよ‼てか、毎回来るときに「疲れた~」って言ってたのはそのせいかよ。」
「あははは……それで、何で入学をしようと思ったんだ?いっつも「そこで学ぶものはない」って言って断ってたのに。」
話逸らしやがった。と思ったエインだったがそれは喉の奥に引っ込める。
「この学園にいる『光帝』ってやつに興味がわいてきたんだよ。どれだけ強いのかなって。」
「へ~外の世界のことを知らないエインが『光帝』のことを知っていたとは。ゴルドーか誰かに教えてもらったのか?」
「フォルトゥだよ。」
「神様から教えてもらったのか。」
「それで、『光帝』は強いのか?」
「それはねぇ……」
爺さんが言いかけた瞬間、エインの後ろドアがノックされた。
「学園長、エイン君の制服を持ってきました。」
「入っていいですよ。」
「失礼します。エイン君これが制服です。着替えてきてくださいね。」
メイはそういうと部屋の片隅にあるドアを指さす。
「ありがとうございます。それじゃあ着替えてきます。」
エインは渡された制服を手にドアを開けて隣の部屋に入っていった。
~エインが出発して一日たった山小屋にて~
「ゴルドー、なんか小屋の前に荷物が置いてあったんだけど、なんだろう?」
シルニアが持ってきたのは包み紙で包装された荷物らしきものだった。
「これは……」
ゴルドーが荷物を開けるとそこには服が入っていた。
「これは魔導学園の制服ですね。」
リビングで読書をしていたセインがエインが入学する学校の物だと言う。
「これってエイン宛の荷物だよな……。もうあいつ居ないけど、どうするんだ?」
同じくリビングにいたギルダがゴルドーに質問する。
「持って行ってやりたいが、これから仕事もあるからなあぁ……」
「向こうにはあの爺さんもいるし大丈夫でしすよ。きっと。」
「そうだな」
「もとはと言えば、これを送ってきた爺さんが悪いわけですし。」
「これは仕事が終わったらエインに届けてやろう。」
「さんせーい。届けるのはあたしがやるよ。」
「届ける役はまたあとで決めよう。」
「なんでだよー!」
そんなこんなでエインの制服はいまだにゴルドーたちが住む山小屋にあるのだった。。
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