急襲
「よくやってくれたみんな!」
一年生の代表戦が終わり、今は休憩時間。
ガイザーさんが興奮した様子で労いの言葉をかけてくれる。
「これで私たちもカッコ悪いところ見せられないね」
「そうだな!だが、もとよりそんな姿見せる気などない!このまま今年の代表戦は我々が優勝するぞ!」
二年生と三年生がやる気を出す中、外からドンッ!という音が聞こえてくる。
何が起きたのか分からず、控え室の外を見ると舞台が粉々になっていた。
「外、変じゃないですか?」
フォティアに指摘され、控え室の外を見ると先ほどまで見ていた景色よりも紫がかったように感じた。
「先生たちに確認をとってくる!それまでみん…」
「ガイザーさん!?」
みんな待機しているように。そういう前にガイザーが倒れた。
ガイザーに続き、次々と2年生3年生がその場に倒れ込む。
「一体何が?」
「ガイザーさん!大丈夫ですか?ガイザーさん!!」
ライアルが呼びかけるも返事はない。
「リュウガ」
「ああ」
エインとリュウガは控え室の外に出る。
会場内もエインたちの控え室と同じような状況になっており、一年生と思しき生徒がパニックになっている。
「何が?」
「こういう時は…」
そういうエインは空を見上げる。
その視線の先には人間にはない羽を有した人型の生物、魔族がいた。
「おっと、バレた。骨のありそうな奴も残ってるのか。フラスト、手筈通りに。俺は遊んでくる」
「ずるいぞブラダナール!チッ聞いてねぇ!!おいシュリアス!まだおわらねぇか?」
「そう急かすな。厄介な奴は残ってない。じっくりやろうじゃないか」
「退屈だぜ。ただ待ってるだけなんてヨォ」
「魔族が三匹。しかも何か企んでやがるな」
「あなたは?」
「俺はそいつの兄だ。そういうお前はナニモンだ?」
「僕はエイン……っ!?」
自己紹介の最中だというのに魔族が空気を読まずに攻撃を仕掛けてきた。
「だいぶ失礼な野郎だなあ。いや、あいつらに礼儀を求めること自体間違ってるか。おい、エイン!上で高みの見物してる二匹を叩き落せ!」
(叩き落せるかではなく叩き落せ、か)
「上等!!」
「お、おい!流石のお前でも」
「お前は指図するな。適材適所だお前は俺についてこい」
「また勝手なことを……」
「ごちゃごちゃのたまうな下等生物が!!」
空から降りてきた魔物がエインたちに攻撃を仕掛けてくる。
強靭な肉体から繰り出される拳は風圧だけで吹き飛びそうになる。
それに耐え、リュウガと彼の兄は刀で反撃する。
「へっ!ノロイノロイ!ノロすぎて眠くなっちまうぜぇ!」
力強く足を地面に叩きつける。
衝撃により舞台に亀裂が走り、3人の体が少し浮く。
「死にな」
ブーストで身体強化していてもそれを物ともしない衝撃が身体中を襲う。
全員が舞台の壁にぶち当たる。
「これじゃ上のやつを墜とす前にやられる…」
「まだ落とせると思ってんのか?あぁ!?」
「ガッ!?」
首を掴まれ、無様に持ち上げられる。
「神の力を使えないお前らに負けるわけねぇだろ!!!」
「なら、負けてもらおうか」
「ほざくな!」
エインを持ち上げたまま、リュウガの兄に魔法を放とうとする魔族。
「なに?」
しかし、余裕に満ちた表情はすぐに疑問に塗りつぶされた。
彼にむけていたはずの右腕の手首から先が消えている。
正確には斬れている。
「何をしやがった!!」
「斬った。それだけだ」
姿が消えたとエインが認識すると同時にぐらりと体が宙に浮く感覚を感じる。
見ると目の前の魔族の腕が斬られており、胴も斬られ、地面に堕ちようとしている。
「何が…」
「舐め腐るなよ魔族。俺はロウガ。最強の剣士だ」
最後に首を切断し絶命させる。
(リュウガも強いと思っていたが、兄はさらに強いとは…)
ロウガの強さに感心するエインだったが、上空に居座る魔族にすぐに意識を切り替えた。
(さて、どう落とそうか)
「シンプルに行こう」
思い切り屈み、足裏に魔力を溜め、それを一気に開放する。
一気に加速し、頭上の魔族めがけて一直線で飛んで行き、通り過ぎる。
「勢い余って通り過ぎるとはバカな野郎だ。打ち落としてやる」
魔族が嘲笑い、漆黒の魔力弾を放とうとするが、その魔族の眼前には既にエインの足が振り抜かれていた。
空中で態勢を整え、下方向へと足裏からインパクトを放ち、加速。
落下の勢いと併せて、鉄をも砕く一撃を魔族の顔面に直撃させる。
「ブラダナール!!」
もう一人の魔族の声が聞こえてきたが今は無視し、地上へ降り立つ。
地面に上半身から突き刺さった状態の魔族はピクリとも動かない。
「派手にやったなあ」
「これ以外に思いつかなかったので。それで、残りの一匹はどうしますか?」
「あれは、俺がやろう。少しだけ面白いもんを見せてやる。リュウガは地面に突き刺さってる奴に止めを刺しておけ」
「わ、わかった」
そういうと、ロウガは彼が元居た控室へと走って行った。
「すまない。俺の兄が」
「リュウガのお兄さん、とても強いんだね」
「強いうえにその自覚を持ったうえで横柄にふるまっているからあまり好ましくない。俺としては」
リュウガは兄のロウガに対してあまり良い印象を持っていないようだった。
「さてと……『斬』!!!」
即座に居合の体制に入り、地面に突き刺さっている魔族の胴を一刀両断する。
これで残るは上空にいる魔族のみ。
「は~~~~~これだから穏便に事を済ませようって言ったのに。可能性は少しでも潰していった方が良いとあれほど言ったのに」
何か魔法を発動させている魔族はやれやれといった様子で地上にいるエインたちと彼らにやられ無残にも死体となった同胞を見下げる。
「あいつらを言いくるめられなかった私が悪いと言えば悪いし、私だけ陰でこそこそやればよかったという話でもある。ああ!どう考えても自業自得に感じてしまう!ああ!!どうして俺はネガティブ思考が辞められないんだああ」
下のエインたちには聞こえない独り言が延々と発せられる。
とても臆病で慎重であり、マイナス思考な彼は敵の前に堂々と姿をさらしてしまったことをとてつもなく後悔している。
仮に客観的に見て彼に原因がなくとも彼は自分のせいだと自分の中で結論付けてしまう。
そして、その思考がエスカレートすると……
「アアもうめんどくさい……あいつら全員ぶっ殺せばアホウどもの仇もとれるし作戦も遂行できるし、いいよね??」
全力の自己嫌悪を殺意に変えて、現在発動させている魔法とは別の魔法を並行して発動させる。
本来そのようなことは無理なのだが、彼はマイナス思考による自問自答のせいでそれができるようになった。
「『ディザスター・ケイオス』」
左の掌から展開された魔法陣が徐々に大きくなる。
それに伴って青空が曇り空となり、雷雲が発生する。
そして、紫色の異常な雷が走ったかと思うと、その一つが魔法陣に落ちる。
そして、吸収され、魔法陣から煙が湧きたつ。
「殺っちゃえ、ボルディギアス」
煙の中から歪で凶悪な角を生やした魔物が現れる。
それと同時にロウガが控室から出てくる。
1分にも満たない時間の中で絶望が呼び寄せられてしまう。
呼び出された魔物の危険性をいち早く気付いたロウガが魔力でつくられた斬撃を飛ばすが全く意に介すことなく。地面へと落下してくる。
ズドンという大きな鉄の塊が落ちたのかと錯覚するほどの衝撃が起きる。
「あの野郎。ここに転がってる仲間ごと俺たちを轢き殺す気か……」
ロウガが目の前の凶悪な角を生やした猛獣と対峙している間にエインとリュウガはその場を離脱する。
リュウガはミルス学園の控室へ、エインはヘイルド学園の控室にそれぞれ向かい、倒れている先輩たちを闘技場の外へと運び出す。
エルドリア学園の先輩たちは既にフォティアとライアルが運び出していた。
既に破壊された舞台上ではロウガとボルディギアスが戦いを始めており、地震と勘違いするほどの地鳴りが発生している。
「大丈夫ですか?」
「大丈、夫だ。おそ、らく…神の力、に反応、してる。」
「神の力に?どうやって…」
「い、まは、ここから、はなれ、よう」
「そうですね」
耳を塞ぎたくなるような爆音が控え室の外から聞こえてくる。
一進一退の攻防ではないのかもしれないが、熾烈な戦いが繰り広げられているのだろう。
エインの体格では持ち上げて運ぶことができないため、二人ずつ引きずりながら運ぶことになった。
競技場の外にも魔獣が数匹おり、暴れていた。
一年生やおそらく神の力を宿していないであろう2年生が対処に当たっているが戦い慣れていないのか苦戦している様子だった。
控え室にいた生徒を全員安全な場所に移動し、少し息をつく。
「これであとは…」
ボルディギアスと空にいる魔族だけ。
そう思った。
しかし、魔族は街の中にも紛れ込んでいた。
街の方からも日の出が上がったのだ。
それも一つや二つではなく、10近くの火の手が…
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