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顔合わせ3

「あっ!やっときた~~!待ちくたびれたよーー」

舞台の上で寝そべっていたのはミーナ先輩だった。

「あれっ?ガイザーは?」

「ガイザーなら、ライアル君と一対一で指導しに行ったよ」

「へ~それじゃあエイン君たちは私たちが指導する感じ?」

「いや、エインたちには実践で訓練してもらう。」

「それじゃ、エイン君は私とエステルちゃんと戦おうか」

「おいおい。お前が仕切るのか?」

「いいでしょ~結局全員と戦うことになるんだから」

ディーナ先輩は不服そうにしているがそれ以上口をはさむことはしなかった。



「リュウガ君はディーナとレオンちゃん。フォティア君は残り全員とやろうか!」

「最後雑っ!」

「あっはは~突っ込まれちった」

突っ込みを入れたのはエステル先輩。

ミーナ先輩とは仲がいいみたいだ。

「それじゃ、さっそく始めようか~」

ミーナ先輩の号令で訓練が始まる。



初めに俺とミーナ先輩が模擬戦を行った。

以前の戦いから風の鎧と拘束魔法の対策はおぼろげながら想像できている。

「模擬戦、はじめ!!」

ディーナ先輩の合図と共に駆ける。

対策と言っても風の鎧に弾かれないように白兵戦に持ち込むだけである。

これを実践できるかが勝利のカギになる。そう考えていた。

しかし、ミーナ先輩は風の鎧を纏うことはなかった。

「対策考えて立ったぽいけど残念。そうやすやすと対応させませ~ん!」

「クッソ!!」



辺り一面風の壁!壁!壁!

舞台上を埋め尽くす暴風

一度触れようものなら巻き込まれてもみくちゃにされる。

速度重視のインパクトを放っても効果なし。

「一か八か……」

足裏からインパクトを放ち、その反動で空中へ跳び上がる。

案の定、ミーナ先輩に待ち構えられていた。



「僕の領域エリアへいらっしゃーい!!」

「『インパクト』!!」

インパクトの反動で無理やり空中を移動し、ミーナ先輩の背後に……

「甘い甘~い」

「またか……」

移動する間もなく、捕らえられてしまった。

外野からは僕が空中で静止しているように見えるかもしれないが、今の僕はミーナ先輩の操る風に拘束されている。



「これも、ウィンド・シークの改良版ってやつですか?」

「さぁ~どうでしょう。で、どうする?ギブアップする?それともまだやる?」

「先輩が攻撃をしないというのであればこの拘束から無理やりにでも抜け出します。そうでなければギブアップで」

「やれるもんならやってみ~僕は見学してるから!」

余裕の笑みを浮かべてミーナ先輩がどうぞと手を向けてくる。

既に地上の暴風は止んでいる。



「『ブースト・トリプル』」

体中に魔力を流し込み、全力で後続を振り払う。

しかし、ビクともしない。

鉄の鎖で締め付けられているみたいに動けない……!!

以前の拘束方法とはまた別のものか?



身動きが取れないとわかり、次は魔法で拘束からの脱出を図る。

しかし、それも無駄に終わってしまった。

どうも、魔法を発動しようとしても彼方に飛んで行ってしまう。

「どぉ~~?抜け出せそうかな??」

とてもニヤニヤしたミーナ先輩が目の前に飛んでくる。

ああ。悔しい。悔しいが……

「今の僕では無理です。ギブアップします……」

そういうと、とたんに体に浮遊感が出てくる。

拘束が解かれ、落下し始めるが先輩が抱きかかえてくれた。

「まずは、この拘束を突破できるようになるところから始めようか」

「……はい」

あの拘束から抜け出す方法。

今は全く見当がつかないがこの模擬戦で必ず攻略する!



地上に降り立って早々にヴォルケスタ先輩が詰め寄ってきた。

「おいおいミーナ、大人げないんじゃないかい?模擬戦だということを忘れたのかっ?」

「大人げないとは失敬なあれくらいの拘束魔法くらい悠々と突破してくれないと戦いにならないよ!」

「なぁ~にが拘束魔法だ!俺には絶対使うんじゃないぞ!弾け飛びたくないからな!」

弾け飛ぶ?

「そんな物騒なことにはならないって~~もう。さ、次どうする?休む?それともエステルちゃんとやる?」

「不完全燃焼気味なのでやらせてください」

ほれ見たことかとヴォルケスタ先輩がミーナ先輩の脇をつつく。

この二人結構仲がいいんだな……



「あとで、ヴォルケスタはしばくとして、エステルちゃんお願い!」

ん?仲良いん、だよね……?

「分かりました。エイン君お願いします」

「はいお願いします」

「あれだけテンションの高いミーナは久しぶり見ました」

「そ、そうなんですか?」

「期待してます」

「えっ?ああ、はい」



何だろう?

初対面の時は感じなかったけど、この人……怖い。

圧を感じるというか、魔物に睨まれた時に近い感じだ。

互いに舞台の中央付近で相対する。

エステル先輩は槍を構える。

銀の柄に金色の刃。

柄には雷を彷彿とさせる模様があしらわれている。

「それじゃー始めようか~戦闘……開始!!」

ミーナ先輩の合図で模擬戦が始まる。



槍を中心にバチバチと音が鳴り始める。

「これは……」

そう考えた瞬間、眼前に矛先が迫っていた。

「ぐっ!!」

思い切り体を反らす。

顔があった場所を槍と雷が通過する。

「期待通りだ!」

少し興奮したようなエステル先輩の声がすぐ近くから聞こえる。



「避けれると思ってたけど、やっぱりすごいね~」

審判をしているミーナ先輩の声が遠くから聞こえる。

そして、ドッ!ドッ!という心臓の音が体を揺らす。

追撃がないことを確認し、態勢を立て直して距離をとる。

油断をしていたつもりはない。

それでも、攻撃を認識できなかった。



ゴルドー達と生活していた時、一回の被弾が命取りになる敵と何度か戦ったことがある。

その経験がなかったら恐らく貫かれていた。

「あの速さは、無理だ」

恐らく、トリプルブーストを使用して身体能力を極限まで高め、魔力で動体視力を最大限向上させても対応するので精一杯。

フォルトゥの力を借りれば反撃も可能だろうが、今は使えないし、使わない。

「降参です。さすがにあの速さには対処しきれない」

「……そうか。なら、普通に戦おう。『ライトニング』は使わないようにする」

少し肩を落とし、残念がるエステル先輩。しかし、模擬戦は続行したいようだ。

「分かりました。では、手合わせお願いします!」



エステル先輩はライトニングという高速移動技がなくても十分強かった。

そもそも拳と槍とでは攻撃が届くリーチが違う。

僕が攻撃を命中させるには槍の間合いのさらに内側に入らなければならない。

仮に入れたとしても雷魔法で迎撃される。

結局、先輩に攻撃を届かせることができず、負けてしまった。

「ミーナ先輩の時よりも勝てるビジョンが見えなかった……」

「お~?それは僕に勝てるってことかな??」

「どうでしょう?でも、ミーナ先輩の魔法の対処法さえ講じることができればあるいわ」

技量ではミーナ先輩に負け、速さでエステル先輩に負けた。

学校対抗戦で戦う相手は同じ一年生だと聞いている。

気負う必要はないのかもしれないが、負けたままでいるのは少し気に喰わない。



「さて、次はリュウガ君たちの番だ」

「私が合図出すよ。どっちが先にやる?ディーナ?それともレオンちゃん?」

僕とエステル先輩が舞台から降り、代わりにリュウガとディーナ先輩が舞台に上がる。

「二人とも準備はいいね?」

「ああ」

「大丈夫です」

互いに得物を構える。

リュウガは居合の構え。

対するディーナ先輩は……

「居合?」

両者ともに同じ構えをとる。

性格には構えが少し違うが、居合の構えであることに変わりはない。



「よーい……始め!!」

ミーナ先輩の合図と共に二人は抜刀。

金属同士がぶつかり合う轟音が鳴り響く。

鍔迫り合いをしているのは舞台の中心からややディーナ先輩側の位置。

移動速度はリュウガの方に軍配が上がったらしい。



「なぜあなたが刀を?」

「……今君に教える必要は、ない!!」

ディーナ先輩の周りに風が吹き始める。

風の勢いを載せて、リュウガを押し返す。

「くっ!」

たまらず後退するリュウガを風の刃で追撃するディーナ先輩。

「『裂空』!!」

ディーナ先輩が振るった刀から4つの風の刃がリュウガを襲う。

それを容易く断ち切るリュウガ。

お返しとばかりに刀に魔力を纏わせ、魔力の刃を飛ばす。

ディーナ先輩の裂空よりも早く、そして多数の魔力の刃がディーナ先輩を襲う。



しかし、魔力の刃はディーナ先輩に届くことはなく、あらぬ方向へ飛んで行く。

「厄介な風だ……」

「そうでもないだろう?君の本領は魔力のそれではなく、こっちだろう!!!」

ディーナ先輩の体が沈んだかと思うと、強風が吹き荒れ、彼の体を前へ前へと押し進める。

雷ほどではないにせよ、風もまた速い。

正面から迫ってくるディーナ先輩を迎え撃つリュウガ。

「正面からの斬り合いでは負けな……グハッ!?!」

突如として目の前から姿を消したディーナ先輩。



「風を利用した高速移動……」

少しコツはいるが、風を操ることができる人であれば一度は使ったことがあるであろう移動方法。

風に乗る。

文字通り、自分で発生させた風に乗って移動する。

風を足の裏や胴体などに押し当てることで追い風が吹いたように素早く移動ができる。

「初見殺し過ぎたかな?これは?背中に太刀を浴びるのは初めてだったかな?」

挑発するような言いぐさのディーナ先輩をリュウガは睨みつける。



リュウガは恐らく怒っていない。それに背中に太刀ではなくとも攻撃を受けたことはあるだろう。

「初見殺しだろうが何だろうが構いませんよ。ただ……」

刀を握っている右手に力が入る。

「独学のあなたには負けられない!!」

振り向きざまに一閃。

しかし、読まれている。

ワンステップで後方に回避され、攻撃は届かない。

「轟竜牙、押してまいる!!」

タイルを砕くほどの踏み込みからの縦一閃。

「なっ!?」

10歩ほどあった距離を一瞬で詰めたリュウガの攻撃をディーナ先輩は避けることができず、刀で受ける。

攻撃の圧に負け、片膝をつくのはディーナ先輩。

彼を中心に舞台上にひびが入る。



「ふっっ!!」

身動きが取れないディーナ先輩を蹴り飛ばすリュウガ。

予期せぬ攻撃だったのか、横腹にまともに蹴りを貰うディーナ先輩。

体勢が崩れた一瞬を逃さないリュウガは刀を持っている右の腕を一閃。

さらに、両太ももを斬りつける。

「ぐううっ……」

見たところ、傷は浅いようだ。

恐らく、風を使って刀お押し返していたのだろう。

人の体を宙に浮かせ、移動させられるほどの威力がある風をもってしても吹き飛ばせないリュウガの一閃。

この場にいる誰ものその事実に青ざめる。



「止め……」

言葉にも刃が乗っているのではないかと思わせるほど冷たい一言。

「『ゲイル・ストーム』!!!!」

負けじとディーナ先輩は魔法を発動させる。

流石のリュウガも風圧に負け、後退せざるを得ない。

「そう簡単にやられてくれないか」

「これでやられてたら先輩の立つ瀬がない」

しかし、追い詰められているのは変わらず先輩。

リュウガは魔力の刃を飛ばし続けている。

風によって守られているため、先輩に届くことはないが身動きをとることができない。

一方のリュウガは一歩ずつ先輩に近づいていく。

「『ウィンド・バースト』!!」

リュウガを近づけまいと強力な風圧をぶつける。

風が地面を抉り、リュウガを押し飛ばそうとする。

しかし、リュウガは正面で受け止める。



砂埃によって二人の姿が見えなくなる。

リュウガが魔力の刃を飛ばし、空を切る音が聞こえてくる。

徐々に、砂埃が晴れていき、リュウガはディーナ先輩まで残り数十歩のところまで近づいていた。

「『ゲイル・ブラスト』!!!」

無数の風の弾がリュウガを襲う。

そのすべてを刀で斬り伏せる。

そして……

「『斬』!!!!」

先程まで飛ばしていた魔力の刃よりもさらに高密度な魔力の刃を飛ばす。

吹き荒れる風をものともせず、動けない先輩に直撃する。

「なっ……」

直撃した瞬間、目の前にいた先輩が風のように消え去る。

その直後、風を切る音と共に空中からディーナ先輩が刀で攻撃を仕掛ける。



「甘い!」

すかさず、先輩の攻撃の軌道を読み、刀を軌道上に置く。

「ぐっっ!!!」

「これ以上、続けますか?」

風の力で空中に留まっている先輩の両足からはポタポタと血が流れ落ちている。

顔色も戦う前よりもずっと悪くなっている。

「……降参だ」

その言葉を聞いてリュウガは刀を鞘に納める。

そして、空中にいる先輩に手を差し伸べる。

「感謝する」

素直にリュウガの手を取り、地上へと降りるディーナ先輩。

「しゅーりょー!勝者、リュウガ君!」

ミーナ先輩がリュウガの勝利を宣言し模擬戦は終わった。

流石にディーナ先輩を放置するわけにいかず、エステル先輩がおんぶをして保健室まで連れて行くこととなった。



次はレオン先輩との模擬戦になる。

「少し休憩する?疲れてるでしょ?」

「いえ、すぐに次をやりましょう。ちょうど温たまってきたところなので」

腰の鞘にさしてある刀の柄を右手で握るリュウガ。

すぐにでも戦いたいようだった。

「すごい体力だね!それとも精神力かな?すぐやりたいならもうやろうか!」

レオン先輩もやる気のようだ。

すぐに舞台に上がり、拳を構える。

剣を携えているがそれは使わないらしい。

リュウガも舞台に再び上がる。

今回は居合の構えをとらず、普通に抜刀し、体の正面に構える。



「それじゃー模擬戦……始め!!」

ミーナ先輩の合図で模擬戦が始まる。

合図と同時にレオン先輩が走り出す。

両拳には既に岩を纏わせている。

魔法で武器屋鎧を作り出し、体一つで立ち向かう白兵戦を得意としているレオン先輩。

対して、刀を持つリュウガはその分だけリーチのアドバンテージがある。

戦い方の相性だけで言えはリュウガの方が有利。

ミーナ先輩もそれは百のも承知のうえでリュウガに接近する。

リュウガは刀を正面に構えたままミーナ先輩の動きを眼で追う。

左右にステップを踏みながら近づくレオン先輩。

相手を揺さぶる動きだが、リュウガは全く翻弄されてくれない。

そして、刀の間合い近くまで接近する。

そこで初めてリュウガが動く。刀をグッと引き、顔の高さにまで刃先を持ってくる。

そして、狙いを澄まして高速の突きを放つ。

ステップを踏み、空中に浮いた一瞬を狙った突きはレオン先輩の顔面目掛けて放たれる。

それに反応したレオン先輩は無理やり体をひねり、左手の甲で突きを受ける。



体をひねった反動と突きの衝撃を利用し一回転。

大きく踏み込み、一気に刀の間合いの内側に入る。

勢いそのままにリュウガの横腹に右手の甲を叩き込む。

「ガっっ!?!」

流石のリュウガも防御が間に合わず無様に浮き飛ばされる。

その吹き飛ばされた先には突然土の壁が現れ、そこに激突する。

「壁!?くそっ!」

すぐさま壁から離れようとするが、壁から生えてきた土に左腕と右足を拘束される。

刀を握っている右腕のみで左腕と右足の土を斬り、拘束から逃れる。

直後、レオン先輩の追撃がやってくる。



「そう簡単には取らせてくれないか~」

「一戦した後だからと言って動きが鈍ることはありませんよ!」

「言うね~万全の状態ではないでしょうに!!」

レオン先輩の打撃及び脚撃を刀で受け流し、避け続ける。

レオン先輩の猛攻に防戦一方となるリュウガ。

ディーナ先輩の時とは立場が逆転している。

「先輩こそ、まだ本調子には遠いんじゃないですか!!」

レオン先輩の攻撃の反動を利用し大きく距離をとる。

距離を取れれば有利になるのはリュウガだ。

「そうだね~まだギアの回転率7割ってとこかな?でも、それだけあればやれるんじゃない?」

レオン先輩が大きく屈む。

突っ込んでくると身構えるリュウガの左右と後方に壁が出現する。

来る方向は正面。退路は無し。

跳んで避けるか迎撃するか。

前者であれば空中にいるタイミングを狙われていいのを貰う可能性がある。

であるなら、とる行動は一つ。



「『ガイア・ダッシュ』!!」

地面から土壁を生やし、その勢いに乗って高速移動をする。

「『斬』」

タイミングを合わせ、魔力のこもった刀を振り下ろす。

「グッッっそ!!」

レオン先輩は高速移動のさなか、地面に触れる。

そして、リュウガの真下から土壁を出現させて打ち上げる。

レオン先輩も土壁を使って自身を上空に発射。

空中に飛ばされ、まだ体勢を整えられていないリュウガの背中に岩で覆われた右拳のストレートが飛来する。

リュウガはレオン先輩の右ストレートによってさらに上空柄と打ち上げられる。

レオン先輩が加齢に着地を決めた十数秒後にリュウガが地面に落下する。

何とか足から着地できたようだが、片膝を地面に着けた状態から立ち上がることができない。

「さて、これ以上やると体壊しちゃうと思うけど続ける?」

レオン先輩は構えを解き、リュウガの前に立つ。

「当然!続け…………」

目の前の人物の胴体を分かつ横一閃。

になるはずだったが、刀が振るわれることはなく、リュウガの動きが止まる。

「もう!無茶しちゃダメ。もう終わり」

そういうと、刀を取り上げ、リュウガを抱きかかえる。

「ミーナちゃん!私リュウガ君保健室連れてくからあとよろしく」

「は~い!それでは、試合終了!勝者レオン!!」



リュウガとレオン先輩の模擬戦が終了した。

いくら、ディーナ先輩と戦った疲労があったとはいえここまでリュウガが圧倒されるとは思ってもみなかった。

「外野から見てるとね、なんで気づかないの?って思うこと沢山あると思うんだよ。最後リュウガ君が飛ばされたところとか」

心でも読めるのだろうか?それとも顔に出ていたのだろうか?

先程の模擬戦で疑問に思ったことをミーナ先輩が話し始めた。

「レオンちゃんはね、いやなタイミングで魔法を使うんだよ。瞬きをしたり、視線をそらしたりした瞬間にね」

相手の意識外から攻撃をするということなのだろう。

言葉にするのは簡単だが、それを実践するのは至難の業だ。

無理だという者もいるだろう。

「そんなこと、本当にできるんですか?」

フォティアは半信半疑と言った感じだ。

戦いの最中に相手の動きを確認することは重要だ。特に目線は移動先を推測する重要な情報になり得る。

「実際にレオンちゃんと戦ってみればわかるよ。私は慣れたけど、本当に想定外の場所から魔法が飛んでくるから」

「念のため言っておくけど、マネを使用なんて考えない方が良いよ。あれはレオン先輩だからできることだから」

エステル先輩は少し諦めを含んだような声音で僕たちに釘を刺す。



「さぁて、次はフォティア君の番だ!」

「は、はい」

緊張気味なフォティアが舞台に上がる。

初戦の相手はヴォルケスタ先輩。

水、氷、炎の三種類の属性を使えるとても珍しい人だ。

この学園どころから世界中を探しても滅多にいないだろう。

「緊張してるね~フォティア君。そんな君にアドバイスだ!」

第一印象から飄々としている人だとは感じていたが少し雰囲気が変わった。

「な、なんでしょうか?」

「“敵”に対して年上だとか、尊敬するべき人であるとかいう属性を付与するのはやめた方が良い」

「え?それはどういう……」

「少し考えてみればわかることさ。さ~て始めようか模擬戦。ミーナさん」

「はーい!2人とも戦う準備はいい?」

「えっ?あ……」

ヴォルケスタ先輩の発言の意図をくみ取れないままのフォティアは慌てて先頭の構えをとる。

「模擬戦、始め!!」

合図と共にフォティアはファイア・ボールを周囲に発生させる。

数にして20。

その全てをヴォルケスタ先輩に打ち込む。



「始めから全開、というわけでもないんだろう?」

驚く様子もなく、ヴォルケスタ先輩は氷塊、アイシクル・ボールで全てを迎撃する。

「『バブル・バレット』」

そして、水の弾で反撃をする。

ファイア・ボールやアイシクル・ボールに比べ、殺傷力は低いバブル・バレットだが、使い方を工夫すればとてつもない効果を発揮する。

それが___

「『ブリック・ロック』!」

フォティアではなく、その周辺の地面に向けて放たれていたバブル・バレットが凍り付く。

バブル・バレットが弾け、フォティアに付着した氷も共に凍り付く。

大した拘束力は発揮することはなくすぐに氷は割られてしまう。

しかし、その一瞬であれば彼には十分だった。

ボンッ!という音がしたかと思うと舞台上にいる二人を煙が隠した。

「いや、煙じゃない。雲?」

「正解」

エインの声が届いていたのか、それともたまたま近くに来ていたからなのかヴォルケスタ先輩は雲の中から飛び出し、雲の上に姿を現した。

「イッツ……ショウタイム!!!」

道化師のような口上から指パッチンが鳴り響く。

すると、雲が光り始めた。



「ぐあああああああ!!!」

フォティアの絶叫が響く。

「いや~勘弁してほしいよほんとに……」

エインの隣にしれッと来ていたミーナ。

水滴の塊である雲に飲み込まれたせいで少々瑞々しくなっている。

「雷、ですか?相手の視界を雲でふさぎ、その中に雷を奔らせる。えげつないことしますね」

「雷だけじゃないと思うよ。つららとかも……」

ミーナ先輩を肯定するように雲の中からつららが飛び出してきた。

間一髪で避けるが普通に危険である。

そして、なぜか空中で静止しているヴォルケスタ先輩。

魔法を知らないものから見たら超常現象以外の何物でもないのだろう。

魔法使いの最高峰と言われる爺さんの魔法をいくつか見せてもらったが風魔法以外で空中に留まっていることを見たことが無い。

「ひゃー!危ないな!ちょっとぉー高みの見物してないで僕たちの安全も考えてくれない!?」

「いや~すみません。でも、安全を考えて戦えるほどの相手ではないので」

雲の中が発光する。

雷を示す金色の光ではなく、紅の光が灯る。

そして、爆発。

舞台上の雲を吹き飛ばし、火山が噴火したとも思える熱気が伝わってくる。

舞台上には無数のファイア・ボール。

「文字通り無数だね」

ミーナ先輩がそうこぼす。

大きくはないが確かに数が多い。

しかし、サイズが大きくないからと言って侮ってはいけない。



「圧縮した魔法ほど怖いものはない……」

空中にいるヴォルケスタ先輩も多数のバブル・バレットとアイシクル・バレットを放つ。

それらの魔法とファイア・ボールがぶつかり、相殺されることで蒸気が発生。

再び舞台上の様子が見えづらくなる……

ということはなく、フォティアから発せられる炎が霧を即座に蒸発させる。

「おいおい。摂氏何千度だよそれ」

冷や汗をかくヴォルケスタ先輩はさらに高度を上げ、水と氷の弾で弾幕を張る。

時折雷を奔らせるライトニングも放つが避けられてしまう。

「いやーエイン君やリュウガ君に勝るとも劣らない戦いっぷりだよ。対戦相手の俺が言うのもなんだけど」

ヴォルケスタ先輩は無邪気な笑顔をフォティアに向けるが彼はいたって真面目にそして少し怒りの混ざった視線を向ける。

「それじゃ、お疲れ様ー」

「なぜ?」

フォティアに近づけば水だろうが氷だろうが一瞬で蒸発してしまう。

そうなるはずの水が蒸発せずにフォティアの周りを浮遊している。

「ドカンといこう!」

その水が弾け、無数の氷の針となってフォティアに襲い掛かる。

フォティア自身が発する熱でも溶けないその氷を至近距離から発射されてしまい、なすすべなく刺される。

小さいとはいえ無数の針で身体を刺されて身動きを取れる者はそういない。



「溶け、ない?なぜ??」

無傷の左手で身体に刺さる氷の張りに炎を近づけるが全く溶ける気配がない。

「やるつもりはないけど、一応忠告しとくよー。……降参しないと氷漬けにするからね」

飄々とした雰囲気とはかけ離れた背筋が凍るような声音。

本当に凍ったのではないかと錯覚を起こしたフォティアは一瞬炎の制御を乱すが大事には至らなかった。

「降参、します」

悔しそうな表情で降参を宣言する。

「はーい。ヴォルケスタの勝利~!」

これでフォティアとヴォルケスタ先輩の模擬戦が終わった。

この戦い、相性だけで考えると炎魔法を扱うフォティアが有利だと思っていた。

やはり、先輩、しかも代表になれるような人は一癖も二癖もある……

残りの先輩ともフォティアは模擬戦を行ったがどちらも善戦は下が勝つことができなかった。

模擬戦が終わった後は戦いをした相手からお開きの時間になるまで指導を受けた。

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