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上級魔法

アルドルたちがいる場所から東方向に数キロ離れた場所でリュウガ達は彼らの3倍はある体躯の魔物と遭遇していた。

「フォティア牽制しろ!こいつを叩く!」

「了解!『ラピッド・バレット』」

無数の炎の弾丸が目の前で飛び出してきた魔物を襲う。



「フィルフィー!」

「はい!!永遠(とわ)に眠れ煉獄の王、冷炎がすべてを包み込み、万物を安らぎへと誘わん」

詠唱が始まる。

魔力の流れを感じ取り、魔物マンモニールは巨体を揺れ動かし、フィルフィーの詠唱を妨害する。

その巨体に違わず、愚鈍ではあるが、一挙手一投足が木々をなぎ倒し、地面を揺らす。

腕の一振りが土を巻き上げ、視界を奪う。



「『ウィンドミル』」

詠唱を中断し、術者の周りに風を発生させる魔法で土埃を吹き飛ばす。

「グガアアアアアア!!!!」

地面が揺れ、視界が黒く染まり、巨大な腕が迫りくる。

その間にリュウガが割って入り、刀の一振りで腕を弾く。

永遠(とわ)に眠れ煉獄の王、冷炎がすべてを包み込み、万物を安らぎへと誘わん。万物の時を支配せよ冬鎧の(わらべ)。我は童に尽くす者なり」

すかさず中断した詠唱を再度行う。

フィルフィーの周りには巨大な氷の結晶が形成されていき、草木に霜が降りていく。



腕を弾かれ、後退するマンニモールだが、両腕を地面に叩きつけ、地割れを起こす。

地面が揺らぎ、リュウガ達は一瞬動きを封じられる。

近くにある倒木を鷲掴み、槍のごとく投擲。

さらに、地面を抉り取り、視界を奪うために大量の土も投げつける。

「『ファイア・ウォール』」

二人の前面に炎の壁が出現し、槍となった木を灰へと変える。

しかし、炎の壁は数秒ともたずに消失する。



(まあまあな冷気じゃねえか)

消えた原因はフィルフィーの周りに形成された氷の結晶。

「猛火は閉じ、豊穣(ことごと)く息絶えよ。我は時をも止める氷結の家臣!!」

詠唱が完了し、さらに温度が下がる。

パキパキと物が凍り付く音が聞こえる。

「『フロス・ブリーズ・クローザー・エタニティ』」



「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」

咆哮を上げ、自らを葬ろうとする敵に向かって突撃する。

マンニモールが地面を踏みしめるたびに凍った地面が割れ、再び凍結する。

凍った大地に足を踏み入れ、両手を握り、岩石と見まがうほどの拳を振り下ろす。

元々、鈍重で単純な動きであるため、対処は容易い。

初めは紙のように薄かった氷の結晶も、いまや鈍器に近い分厚さを誇る魔導書ほどの厚さまで成長している。

それを振り下ろされる拳の軌道に置いておけば後は相手が勝手にやってくる。



氷の結晶と岩石のような拳がぶつかり合い、衝撃が発生する。

「くっ!?」

リュウガが衝撃に耐えかねて後方へ飛ばされる。

フィルフィーはというと全く微動だにもしていない。

氷像のごとく動かない彼女だが、目は真っすぐマンニモールに向けている。

「『クローズ』!!」

開いていた右手のひらをグッと握りしめる。



「グギャっ!?!?」

氷の結晶からゼロ距離で吹雪を浴びせられ、地面からは氷が侵食してくる。

吹雪を浴びせられた腕は一瞬にして凍結し、地面を簡単に割るような怪力をもってしても離すことができない。

「ギャ、グガリャ、オオオオオオ!!!!」

(わずら)わしい咆哮を振りまいて脱出を試みるが纏わりついた氷が剥がれることはなく、一つの巨大な魔物の氷像が出来上がる。



「終わった……?」

「息はもうない。二度とこいつの心臓が動き出すことはない」

刀で氷漬けとなったマンニモールをカンカンと叩く。

「なら、良かった」

フィルフィーの周りにある氷が砕け、膝から崩れ落ちる。

「おっとと、大丈夫……じゃあねえな。フォティア頼む」

倒れないようにフィルフィーを支え、ゆっくりと地面に座らせる。



まるで氷のように冷たい彼女は既に意識が朦朧としていた。

「はぁ……はぁ……」

息も絶え絶えの彼女のもとにフォティアが炎を届ける。

「あった、かい」

さっきの戦いも含めて上級魔法の行使2回。

魔獣からの攻撃などによって詠唱が中断された回数が3回。

中断されても魔力は消費されるので、自身の体を守れるだけの魔力が最後の魔法行使の際になかったのだろう。



フォティアは精霊の炎を少し混ぜてフィルフィーの近くに炎を出している。

(適性者でもない人間相手にこういうのはしちゃいけねえんだがなぁ)

(そう言わずにさ。頼むよ。仲間が死んじゃうところなんて見たくない)

(今回だけだぞ?それに、氷使いの嬢ちゃんに俺の炎は逆に毒だ)

当て過ぎなければ害はない。

そうも付け加えられた。

正直、ここ一体の気温が下がっているから暖かくしたいという気持ちもあった。



「ありがとうフォティア!ちょっとだるいけどもう大丈夫!」

「良かったって言いたいけど、魔力残ってる?」

「うーん……あと一回戦うくらいなら大丈夫、かな?」

「無理はしない方が良い。今ここで無茶を押し通す必要はない」

未だに腕の中に納まっているフィルフィーに声を掛けるリュウガ。

現時点で魔物の討伐数はライアルたちと同じ3体。

ライアルは既にリタイアしているので後一体倒せばよいのだが……



「私が二人寄る劣るせいで足ひぱってるのわかってる。それに、リュウガに言われた通り、分不相応な場所に立ってるのもわかってる」

フィルフィーの体に力が入る。

「でも!リュウガに言われて気づいたんだ。分不相応な場所に立つなら最後まで全力を出して自分の力で立っていようって」

リュウガの腕から抜け出し、両膝に手をついて立ち上がる。

「だから、今は時間いっぱいまで自分の力で戦いたい!」

「フィル……」



魔力が底を付きかけているのにとても強い眼差しを二人に向ける。

とても硬い意志を二人は感じ取る。

「わかった」

「リュウガ!?」

「ただし、二人で全面的にバックアップする。満身創痍の仲間を戦場に連れて行くんだ。そのくらいの事はさせてくれよ?」

しれッとバックアップすることが確定するフォティアだが、何も言わずに見守る。



「わかった。ごめんね二人とも……」

「そこは……」

「『ありがとう』だよフィル」

言いたいことを先に言われ、少しムスッとするリュウガだが、フォティアは敢えて無視する。

「そうだね。……ありがとう二人とも!」

「ああ」

「うん!」

三人で笑い合い、少しの休憩した後、リュウガのサーチで見つけた魔力反応がある場所へ移動する。



「魔力切れになることも学園にいるとそうそうない。この機会にどれだけ動けるか次の魔物で試してみようか」

「うへ~攻撃避けれるかなー?」

師匠モードに入ったリュウガが次の魔物とどう戦うかを提案しながら、ゆっくりと移動していく。

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