プロローグ 突然の雨に少年は
学校帰りにスーパーへ寄った。
買い物を終え出口へ向かったとき、ぞわりと胸騒ぎがした。
直感的に理解する。これは雨の匂いだ。
───今日は、お洗濯物をお干しするのに、お打って付けのお天気となるでしょう。───
今朝見たテレビを不意に思い出す。
全幅の信頼を置いていたはずの名前も知らないお天気お姉さんに、お裏切られてしまった。
明日から、朝のテレビは5番チャンネルにしよう。
早めに起きて時代劇を見る日があってもいいかもしれない。
出口のすぐ横で立ち尽くす僕がそんな下らない思考を重ねるのは、果たして余裕の表れだろうか?
否、信じ難いことに、僕という極めて脆く小さな人間の心は、こんな些細な危機で呆気なく折れてしまったらしい。
無意味な現実逃避であると、僕自身しっかり理解しているつもりではある。
今すぐ足を動かせば、大して取り留めもない「予報外れの雨が降ったので、仕方なく雨の中を走る人間」で終わることが出来る。
クレバーな思考とは裏腹に、僕の足は地面に縫い付けられたように動けない。
たった一歩を踏み出すための自信や勇気が、全くもって足りないのだ。
過ぎゆく時間と比例して、人々の視線は質量を増した。
まるでこの世界からたった1人切り取られてしまったかのようで、名状し難い色とりどりの感情が僕の傷口を抉った。
あぁ、
今日も今日とて、死にたい日和だった。