#2 彼女
俺が彼女と出会ったのは2年前の夏、高校に入ってすぐの事だった。
彼女は隣のクラスで、入学当初は顔も知らないくらいだったのだ。
比較的田舎に住んでいた俺は、市街地にある高校に進んだことで少しワクワクしており、放課後になれば、街中で喫茶店を見つけては入ってみるという場当たり的な過ごし方をいていた。
毎月の小遣いは大量の飲食代に消えていった。それはまあいいとして。
ある日、あれはよく晴れた日だった。そう、入った喫茶店に彼女がいたのだ。
いつものように店内をぐるっと見回していると、あることに気づいた。
店内装飾のほとんどが木製で出来ているのだ。カウンターや、窓、照明や柱の模様まで全てが木で出来ていた。
「すげぇな。」
思わず口から漏れてしまっていた。不思議な雰囲気を醸し出す店内に見入っていると後ろからクスッと笑う音がした。
「あ、すみません。笑うつもりはなかったんですけど、あまりにも自然にすげぇなっと言っていたので。」
振り向くとそこには白いブラウスに黒いエプロンを付けた店員さんがお冷を手に立っていた。
「私もここの雰囲気が気に入ってて、高校に入ったら絶対ここでバイトしようと思ってたんです。」
店員さんは慌てて付け足した。
可愛いなと思った。ほとんど一目惚れである。
その後話している内に同じ高校の1年生だと知った時には心の中でガッツポーズをしてしまった。
その日を境にその喫茶店に通いつめたことは言うまでもなく、それから2ヶ月後俺達は付き合い始めたのだった。
付き合い始めてからも喫茶店に通っていたのだが、恥ずかしいとのことで、渋々俺も違う店でアルバイトを始めたのだった。
今でもバイトは続けているそうだが、立場的には受験生となるため、バイトは控えめにしているそうだ。
将来は自分の店を持つのが夢らしく、大学へ行くのか専門学校にいくのか、迷っているらしい。
ちなみに俺はとっくに辞めている。受験生はバイトするなという家族からの圧が強すぎたのはここだけの話。
明日香はというとまだ見ぬクレープを想像して幸せそうな顔をしている。
バイトのない日はいつも一緒に下校している。今日も呼びに来てくれたのだが、急にライブが決まってしまったからな、すまない。
「そう言えば、ライブって竜也君と一緒に行くの?」
「あぁ、そうだよ。」
「やっぱり!相変わらず仲がいいよねー。」
竜也は入学式の日にはもう意気投合していた。なるべくしてなったと言うべきか、運命というか、うん、そういうものである。
「じゃあ、また明日ね!」
明日香は笑顔でそう言うと校門を出ていった。俺は手を振り返しながら、まだ来ぬ親友を校門で待つ。
明日香は高校の近くに住んでおり、駅とは逆方向になる。一緒に帰る時はいつも家の近くまで歩いていくのだ。まあ、俺にとっては少し遠回りになるのだが。
「おまたせ。」
「遅いよ。」
竜也は何事もなかったかのように現れた。
「ちょっと先生に呼ばれててな。わりぃ。」
「大丈夫か、お前。」
「いや、それお前には言われたくないわ。」
まあ、それもそうか。教師の中で竜也と俺はちょっとした有名人なのである。あまり、良くない方で。
「さて、いくか。」
「そうだな、早くしないと始まっちまうよ。」
俺達は足早に駅に向かった。日はまだ高く、夕暮れはまだまだ先であった。