第七話 刺客
ジン達がいたローズの街から遠く東の地に、このアズライト王国の王都ソロンがある。
アズライト王国は、大陸一の領土面積を誇り、人口、軍事力、経済において、他国を大きく突き放すほどの大国だ。
しかし、元々大陸の一小国に過ぎなかったアズライト王国がここまでの発展を遂げることができたのは、この王国内に総本山を置く大陸最大の宗教であるルクシオン教のお陰である。
そのため、大陸最強国のトップであるはずの歴代のアズライト国王は、ルクシオン教会の意向には逆らえないどころか、国王を決めているのは、王族ではなく教会ではないかという噂が国民の間に深く浸透している。
事実、数百年の歴史上、教会が王家に干渉したとされる例は山のようにある。大国アズライトや他国において数々の利権を持つ教会がバックに付けば、第十何王子や王女のような王位継承権が低い者でも、王様や女王になれるのだ。なので、むしろ王族の方から積極的に教会に接触してくる。
反対に、教会側からしても、自分達にとって操りやすい王の存在は好ましい。なので、王家や一部の貴族達と教会の上層部との間の癒着は凄まじい事になっている。
その最も分かりやすい例が、王都ソロンに建設されたルクシオン教の王都支部である教会だ。王都の中心にそびえる王宮と同じくらいの敷地面積を持ち、建物全てが白亜の大理石で作られ、数々の宝石で彩られたこの巨大な王都支部教会の建設費用は王宮の建設費の数倍とまで言われている。
この王国と教会の癒着の象徴とまで一部から揶揄される白亜の巨大建造物の一室に二人の男がいた。
そのうちの一人の名はマルコ・クローム。教会のトップである教皇を支える十二人の枢機卿の一人。教会の最高幹部の一人だ。
実際に教会の運営をしているのは、十二人いる枢機卿達であるが、彼らこそが、腐敗の極みと断じても過言ではない。
結婚式、葬式、洗礼式などの各種行事や医療行為を独占し、冒険者ギルドをも運営しているルクシオン教会には、巨万の富と絶大な権力が転がり込んでくる。枢機卿はそれらを最も味わうことができる者達だ。
最も、これは枢機卿に限った話ではない、教会の上層部に行くにつれ、腐敗は酷くなる一方である。
しかし、十二人いる枢機卿の内、彼だけは違う。
枢機卿であると同時にマルコはとある部署の責任者でもあるが、その部署の重要性から他の枢機卿のように金と権力に固執している暇はない。
その部署名は、ルクシオン教会異端者殲滅機関、一部の者達からD機関と呼ばれる組織で、マルコ・クロームはその組織の最高司令官である。
「資料には目を通したか、オリバー」
過酷な職務からくるストレス故か、五十代前半にも関わらず毛根が完全消滅してしまったマルコは、部下の一人に新たな任務内容の説明をする。
「ローズって、またえらく遠いところじゃねえか!」
この部屋にいるもう一人の人物。マルコの部下にして異端者殲滅機関の一員であり、古くからの彼の友人でもあるその男、オリバー・エラクレアは、悪態をつきながら受け取った資料を突き返した。
「ヤダよ、そんな遠い場所。若い奴に行かせろよ。俺だってもう歳だぞ!」
「そんな事知らん!働け、俺なんか、この組織のトップになってすぐにストレスで禿げたんだぞ!お前も俺くらいに働け、そして禿げろ、禿げてしまえ!」
マルコは他の枢機卿が全くと言っていいほど仕事をせずにそのしわ寄せが自分のところに来てることに対する苛立ちを友人であるオリバーにぶつけるが、それがお前の仕事だろうと、オリバーも反論する。
その後二人は、しばらくの間無意味な口論を繰り広げたが、お互いに時間の無駄だと悟ったのか、本題に入ることにした。
「ともかくだ! ローズで新たな死霊術士が誕生したと、冒険者ギルドから報告があった、現地の教会が取り逃がしたという失態付きでな」
これは、これで、関係各所が、責任問題を押し付け合うほどの事案ではあるが、彼らがやるのは後始末だ。
何故なら彼らは異端者殲滅機関だからだ。
「今は、色々ときな臭い。だから、一番暇で、有能なお前が行ってとっと始末して来い。ネクロポリスの連中も出てくる可能性もある。向こうも戦力を増強したいだろうからな」
「はぁ〜それ出されると、行くしかねぇじゃねぇか」
ネクロポリス。
それは、教会から迫害されし『死霊術士』達の集団。元々は教会から迫害されていた者達が、互いを守るために結成した組織であったが、長い年月を掛けて力をつけてきた彼らは、現在ある目的のために、王国の各地で様々なテロ行為を行っている。
ルクシオン教会はネクロポリスを、現在教会にとっての最大の脅威と断定して、全世界に指名手配すると共に、その殲滅に躍起になっている。
そんな教会最大の脅威を引き合いに出されては、働きたくないオーラ全開のオリバーも動くしかない。
マルコに説得され、オリバーは渋々立ち上がるが、彼が部屋を立ち去る前にマルコは一つ忠告をする。
「気をつけろ、ローズ教会は昔から何かを隠している疑いがある。まあ、それでもお前が負けるとは思わないがな」
異端者殲滅機関。
その名の通り、異端者、それも主に『死霊術士』を殲滅するため組織だ。その中で最高戦力である執行官と呼ばれる者達はオリバー含め十数名しかいないが、その全員が上位天職の中でもより戦闘に特化した天職に就いており、全員が、多数の死者を操る『死霊術士』を単独で撃破できるほどの力を有する。
その強さは一騎当千。間違いなく、大陸最強の戦闘集団だ。
そんな、数少ない猛者達の中でも、特にベテランと言われる男が今重い腰を上げた。
彼はその日のうちに教会に所属する『魔獣使い』の天職持ちが操るワイバーンの背に乗り、ターゲットであるジンを抹殺するため目的地へと飛んだ。




