第四話 棺の中身
はい! 僕の名前はジン。キイラ村と言う超田舎から来た十五歳の冒険者です。
唐突ですが、僕は今日処刑されます。
罪状は死霊術士という死者を冒涜する天職に就いたからだそうです。僕を裁く立場である教会の司教様も何だか、正気ではなかったようですし、意味が分かりません。何で、僕はまだ、何もやっていないのに、殺されなければならないのでしょうか?誰か教えてください。いや、助けてください。
………。
「はあ~、って言っても、誰も聞いていないな……」
処刑前夜、日付が変わった頃、僕は独房から見える月を眺めながら、空腹で少し頭がおかしくなったのか、いつもとは違うテンションで月に向かって助けを乞いましたが、何も起きません。
このままでは、月が沈み、日が昇り、太陽が頂点に達した頃には、教会に背いた異端者として広場で晒し首になっているでしょう。
………。
嫌だ!! 死にたくない。偶然とは言え、やっとのことで、上位職まできたのに、冤罪で殺されるなんて嫌だよ!!!!!
後、半日で殺される。刻限が迫ってきて、死への恐怖を実感できるようになっためか、僕は一人独房で暴れました。
「嫌だ! 助けて!! 死にたくない! 死にたくない!!」
喚くだけでは、何も変わらない。そうと分かっていても、恐怖から何かせずにいられなかったのです。
ああ、叫んでも、何も変わらない。でも、でも、誰か助けて!!
と、独房の中で暴れていると、奇妙な音が聞こえてきました。
「ん? 何だこれ?」
それは、臭いが臭かったため、できるだけ、近づかないようにしていた独房の隅に備えられた、用を足すための穴。その近くの石畳の上を思いっきり踏んだ時の事です。
ここだけ明らかに他の石畳と踏んだ時の音が違います。どうやら、この石畳の下は空洞のような気がします。
不思議に思った僕は、その石畳を引きはがしました。すると、案の定、僕の体でギリギリ通れるくらいの穴がありました。
「何だこの穴? 昔脱獄した人が掘った穴?」
真相は分かりませんが、ここにいたら、殺されるのが明白な以上僕は迷わず穴に飛び込みました。
「ランプ・ファイア!!」
僕は、魔法で指先から小さな火を灯して穴の奥へと進みました。穴は、まず竪穴で底まで行くと横に向かって続いていました。僕は穴の中を這いながら進みます。
そして、木でできた蓋ような場所に辿りつきましたので、強引に押します。すると、開けた場所に出ました。
てっきり、穴の先は外に通じているものと思いましたが、違ったようです。恐らく、ここは教会の敷地内の地下室の一つでしょう。
狭い地下室は、魔法道具であるたいまつによって常に明かりが灯されており、部屋の中央には、不気味な雰囲気が漂う黒い棺が安置されていました。
「何この部屋?」
教会のイメージを色で言い表すと白色です。教会内の柱や壁は白い大理石でできており、シスターや司教、騎士達の服装も形は違えど全て白色で、死者を埋葬する棺も白色です。
それに対して、この部屋のイメージは黒。神々しさ、神聖を感じる白とは真逆の黒。怪しげな黒魔法などの儀式が行われるようなそんな、雰囲気が漂っています。
最初は、ルクシオン教の教会内に別の宗教の部屋があるのではと思いましたが、黒い棺には、ルクシオン教のシンボルである瞳。神はいつでも見ていると言う意味の瞳が書かれていましたので、間違いなくこの部屋は、ルクシオン教のものでしょう。
審問の時の司教様の豹変ぶりと言い、清廉潔白だったルクシオン教の印象が大分代わりましたが、そもそも、神の元に処刑すると言っているような連中です。よく考えてみれば、頭のねじが外れているのかもしれません。
そのためか、棺の中を覗くことに、何の抵抗もありませんでした。僕は棺を開けて、その中身を確認して驚きました。
「凄い美少女だ」
棺の中に納められていたのは、僕よりも、二つ、三つくらい年上の十七、八くらいの年齢の少女でした。
白い騎士鎧を着ているため、全身は分かりませんが、白い肌と銀色の髪を持つ、美少女と言っても過言ではないでしょう。少なくとも、僕が今までに見てきた女性の中では一番綺麗です。
そう、怖いくらいに綺麗です。
触れてみると肌からは体温を感じられません。どう見てもすでに死んでいるようですが、にもかかわらず、体温こそ感じないものの、体が腐敗していないのが、逆にとても不気味です。
「この死体、いや遺体は何だ?」
ルクシオン教については、司教様の言ってたように余り多くは知りませんが、それでも、死者は棺に入れ、土の中に埋葬するくらいは知っています。
大地に体を捧げることで、魂は天へと昇るとか言っていたような気がします。
では、それならこの遺体はなんでしょう?
教会の普段使用している白い棺ではなく、黒い棺に納められ、地下室とは言え、大地には埋葬されていないこの遺体は一体何なのでしょう?
疑問が生まれ、ふと、僕はある考えに至りました。
「僕は死者を蘇らせることのできる『死霊術士』蘇らせて直接聞けばいいのでは?」
その思考に至った時、僕の中、天使と悪魔が現れました。
いやダメだ。死者は蘇らない。それはルクシオン教の最大の掟。それを破れば本当に異端者になってしまう。
何を言っている!! すでに異端者と断定されて今日の昼には処刑されるではないか?
僕の頭の中で、理性を保てと天使が励まし、興味を探求しろと悪魔が囁きます。
しばらくの間、頭の中で両者はせめぎ合いましたが、結局、悪魔に軍配が上がりました。
「もう殺されるのは確定だし、行けるとこまで行こう」
人間死ぬと分かれば、理性など吹き飛ぶようです。
僕は、瞳を閉じて眠っているようにしか見えない少女に手をかざし、意識を集中してスキルを発動しました。
現在、会得しているスケルトン作成では、望む答えは得られない。
司教様が警戒していたスキル、死者隷属でなければ。
普通に考えれば、そう簡単に新たなスキルを会得できるはずがありません。
しかし、何故でしょうか? 極度の空腹か、それとも、理性を無くしたからか。理由は分かりませんが、望めば、この死体を蘇らせることができると、今夜の僕は何故か確信していました。
そして、全てが終わり、少女はゆっくりと瞼を開けて、闇の中に輝くルビーのような赤い瞳を輝かせました。
「私は……」
少女は、ぼーっとしながら、上半身を起き上がらせました。そのまま、寝坊した感じのまま、僕の方を向き、僕の顔を見て慌てた様子で頭を下げ謝罪してきました。
「こ、これは、申し訳ありません。主様。このようなお恥ずかしい姿をお見せして本当に申し訳ありません。お許し頂けるのであれば何でも致します。ですから、どうか、どうか、お許しを!!」
あれ? 何だか、思っていたよりもキャラが違う。
聖女のような、凡俗が触れてはいけないような雰囲気だったせいか、てっきり、もっと凛々しくてクールみたいな人物像を予想していたけど.今の少女を見ると、使えない奴だとロイスさん達に罵倒されていた僕を思い出させます。
でも、このままでは、埒が明かないので、僕は少女に名前を尋ねてみました。しかし、
「えっ?! な、名前ですか? 私の? えーっ、えーっと。あれ? 私って誰? 何も思い出せない……」
どうやら、彼女は記憶喪失のようで、何も覚えていないようです。自分の蘇生が失敗していたという気もぬぐえないけど、
「いえ、主様の蘇生は間違いなく成功しております。それは蘇生の際に主様から感じられた温もりから確信をもって言えます」
彼女は、両手で僕の片手を握りしめて、間違いなく成功しました記憶がないのは私の至らぬが故です、と再びへこへこ頭を下げてきました。
いや、本当にどうしよう。このアンデット? 凄い腰が低いぞ。
そう思っていると、何だか、扉の向こうが騒がしくなってきたのが感じられました。
「主様に危害を加える者は許しません」
銀髪の少女も、何者かが、ここへ近づいてくるのを感じたのか、棺から出て身構えます。
そして、扉が開き、僕が思っていた人物が姿を現します。
「もしやと思ったが、ここに居ったか。さあ、牢獄へ戻れ、異端者」
予想通り、扉の向こうには司教様が立っていました。




