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第二十六話 約束

「ハァハァ、着いた」


 僕はリーリスを残した後、必死なって走り、ついに大樹の根元まで辿りついた。


「「「うっううううううう」」」


 動く死体を積み重ねてできている大樹は、目で見れたものではなく、僕は思わず目を逸らしてしまったが、ゾンビ達のうめき声までは消えない。


 あまり時間もない。僕は、甘い心を捨てて、魔眼を使用する。


複合術ユニオンエターナル・デス!!」


 発動と同時に、視界に入っていた数百というゾンビ達が活動を停止し動きを止めた。だけど、今止めたのは、この大樹を構成するゾンビのほん一部だ。だから、僕は別の方向を見て再度発動する。


複合術ユニオンエターナル・デス!!」


 再び多くのゾンビが活動を停止して動きを止める。しかし、これでもまだ足りない。


複合術ユニオンエターナル・デス!!」


複合術ユニオンエターナル・デス!!」


 僕は、複合術ユニオンを発動させまくった。


 そして、気が付いた時には、何もない上も下も真っ白な不思議な空間に一人で立っていた。




「ここは?」


「ここは、大樹の中ですよ、主様」


「!? どこだ! どこにいるルーチェ!?」


 何もない殺風景な世界のどこからか、ルーチェの声が聞こえてきました。しかし、声が聞こえるだけルーチェは姿を現しません。


「残念ですが、今の私には、肉体と呼べるものはありません。あの複合術ユニオンによって肉体と魂を融合させ、私は莫大な魔力と思考能力を持った一種の精神生命体ような生物。種族名で言うならば、ワルキューレへと進化したのです」


 う~ん、何となくですが、頭の中で整理できましたが、それでも、まだ分からないことがあります。


 僕が首を捻っていることを見て、不憫に思ったのか、しばらくすため息と共に、ルーチェが説明を始めました。


「そうですね。もう最後ですから、特別に教えてあげましょう。まず、あの複合術ユニオンによって、魂と肉体を融合させました。その結果は先程教えた通りですが、一つデメリットが生じました。それは、私がこの世界の生物の枠を超えてしまった事です」


「生物の枠を超える?」


「その通りです。一般的に、天使や悪魔といった精神生命体は天上の世界にいると言われていますが、彼らがこちらの世界に出現させ、この世界に繋ぎ止めるために、船でいうところの碇のようなものが必要なのです。この話は分かりますか?」


 僕は無言で頷いた。


 天使を呼ぶことができる召喚術士は、召喚させた本人が倒されると召喚した天使は消える。つまりこれは、自らを召喚させた召喚術士がこの世界にいるからこそ、それを触媒に天使もこの世界にいられると言うことの証明でもあり、天使の倒し方として割と有名な話です。


「つまり、あの大樹が、天使と同様の次元に立った君をこの世界に繋ぐための、召喚術士みたいな役割を果たしているのか?」


「はい。そして、付け加えるのであれば、この大樹は何万という死者の憎しみを持つ魂の集合体でもあり、その激しい憎しみを魔力に変換する機能も備わっています」


 なるほど、あの醜悪な大樹は、自分をこの世界に繋ぐための道具であり、同時に死者の怨念を魔力に変えるための、巨大な魔力を生み出す源でもあるわけか。


「主様が外で見た私は、私がこの姿になったことで、新たに獲得したスキル・エインヘリアルによって生み出された私の分身体です。私の本体は精神体となりこの大樹の脳のような役割のしているため、あのように分身体を生み出して、ここから遠隔操作しているのです」


 正直な所、彼女が言っている事は本当の意味で理解できていません。しかし、きちんと分からないですが、これだけは言いたいです。


「どうして、こんな事をしたの?」


 再び沈黙が続きましたが、再び彼女の声が響き渡ります。


「主様、はっきりと申し上げましょう。私は凄く負けず嫌いなんです」


 うん、それは知っている。あの闘技場の一件を見ればすぐに分かるから。


「そんな私が初めて負けた相手。それが、闇の王です。だから、私はリベンジしようと計画を立てたのです。詳しい過去のお話は省きますが、主様が教会の地下で見つけた私の眠っていたあの黒い棺は、この複合術ユニオンを発動するために必要な分の魔力を蓄えるための魔法道具です。魂がない状態の死体に魔力を注ぎ込むという条件があったので、わざと浄化を受けました」


 なるほど、やはり、あの時のローズの街の司教様は真実の全てを知らなかったということでしょう。ルーチェは複合術ユニオンの発動に必要な魔力を集めるために、わざと魂を浄化させ、抜け殻となった肉体に三百年かけて魔力を注ぐ、全ては闇の王を倒せる存在であるワルキューレになるために。


「当然、当時のあの街の司教は私の協力者です。そして、あの街にいた死霊術士の少年に魔眼を預けたのは、複合術ユニオンの発動に必要な大量のゾンビを生み出すノウハウを生み出させ、それを後に自分が使えるようにするためです。それが三百年経ちネクロポリスなんて組織を作って世界を滅ぼそうなんて思ってもいませんでしたが」


 レイチェルが言っていた加護など、まだ分からない点や、三百年前の詳しい事は分かりませんが、大体理解しました。


 要するに、負けず嫌いなルーチェは初めて自分の土を付けた闇の王を倒すために、三百年掛けて色々と準備してきた。それが全てでしょう。


 不謹慎かもしれませんし、僕を捨てたルーチェを許したわけではありません。ですが、それでも、裏切っても尚、僕の知っていたルーチェだったことが分かり少しだけ安堵しました。







 僕はもっと、詳しい話を聞きたかったです。しかし、突然、何もないはずのこの空間から、ルーチェの声とは別に、建物が倒壊していく音が響いてきます。


「?! この音は?」


「主様のおかげで、この大樹を構成するゾンビの一部が魂を浄化されて、大樹を維持できなくなりました。物理的な破壊であれば、即座に再生するこの大樹も、魂のみを浄化されては打つ手がありません。主様をさっさと始末しなかった私のミスです」


「つまり、もう終わるのか?」


「はい。そうです。あなたの勝ちですよ主様」


 僕は、ルーチェが元に戻ってくれると喜びましたが、彼女はそれを即座に否定します。


「残念ながら、それはあり得ません。先程も言いましたが、上位存在となった私を、この世界に留めておいている大樹が消えることで、私は強制的に天上の世界へ行くことになるでしょう。つまり……」


「え? まさか、もう会えない?」


 寂しそうにルーチェは「はい」と呟きます。


「そんな?! まだ、ルーチェの昔の話を聞いていないし! 君を許したわけでもない! それに僕がここに来たのは、君を引っ叩いて、僕が主だと改めて教えるためだぞ!!!」


 一体、何のためにここに来たんだ。ルーチェは無駄だと諭しますが、僕は諦めません。


「そうだ! この場で君を取り戻せないのであれば、君が天上の世界に行った後、召喚術士に頼んで召喚させればいい!! 天使と同質のものになった君ならば、また召喚できるはずだ!!」


 僕は名案が浮かんだと、ルーチェに告げましたが、彼女は無理ですと静かに告げます。


「今も感じます。私の中からワルキューレの力が少しずつ抜けて、私の魂が上位存在から、ちっぽけな人間の魂に戻っていくのを。恐らく、天上の世界に行くまでは持つでしょうが、向こうについたら、ただの魂になるでしょうね。それにしても、力の源である大樹が消えるだけで、上位存在から落とされるとは、やはり、複合術ユニオンでは、一時的な仮初の進化しか再現できないということですね」

 

 凄く残念そうなルーチェの思いが伝わってきます。天使ではなくなるのであれば、召喚術士では召喚できません。やはり、もう彼女を取り戻す道はないのでしょうか。


 崩壊の音はますます激しくなってきます。もう時間はあまりないと思われます。それだけに頭をめい一杯働かせて僕は一つの答えを出した。


「なら、死霊術士である僕が、君をもう一度蘇生させる。君の死体に改めて、死者隷属を使えば」


 妙案であると思いますが、これもすぐにルーチェは否定します。


「先ほども言いましたが、複合術ユニオンの発動と同時に、私の体は魂と融合してこの世界から完全に消えました。死体がないのにどうやって死者隷属を使うつもりですか?」


 ならば、ならば、ならば、僕は頭の中をかつてないほどフル回転させます。そして、一つの答えを導きます。後から思えば、それが僕の人生の原点となりました。


「だったら、君を生き返らせる。今度こそ完全な形で」


「は? 正気ですか? それはもはや、完全なる死者の蘇生ですよ。確かに、死霊術士以外に死者を蘇らせる天職はありませんが、それでもアンデットとして蘇らせるのが限界です。その上、死体もないのですよ。そんな事は絶対に不可能です」


 ルーチェははっきりと不可能だと断言します。その言葉を聞き、僕は笑いました。


「じゃあ、もし、僕が複合術ユニオンか、何かを新たに開発して君を蘇らせたら今度こそ僕に本心から忠誠を誓ってくれる?」


 顔があったのであれば、きっと今の発言を聞いて目玉を飛び出すくらい驚いていることでしょう。それが分かるほど嬉しそうな笑い声が聞こえてきました。


「ふふふ、ははっはははは! 分かりました。どちらにしても、私に打つ手はもうありません。いいでしょう。もし本当にそんな奇跡を起こせたのであれば、その時は闇の王への挑戦を諦めて、あなたに生涯の忠誠を誓いましょう」


「約束だよ。その時はリーリスと一緒に今回の件の落とし前を付けるために一発引っ叩くから覚悟してよ」


「ふふふ。ええ、その日が来るのを楽しみに待っていますよ」



 それが、僕とルーチェがこの場で躱した最後の会話でした。


 一瞬だけ、光が瞬くと、僕は崩れていた大聖堂の上に立っていました。ルーチェも、あのゾンビの大樹もどこにも見当たりません。恐らく、アンデットの死体ごと天上の世界に招かれたのでしょう。


 水の都は廃墟と化し、住民も死亡して消えてしまいました。とてもではありませんが、ハッピーエンドとは呼べません。


 でも、僕の心の中は、生まれて初めて一生を掛けてやりたいと思える人生の目標ができ、とても晴れやかでした。

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