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第二十四話 夢の世界

いつも応援ありがとうございます。それとすみません、明日は更新できないと思います。毎日、楽しみに待っている読者の皆様、本当に申し訳ありません。


「チッ、いつも遅いな。もっとテキパキ働け! 誰のお陰で、生活できていると思っていやがる、ジン!!」


「はい、すみません。ロイスさん」


 僕の名前はジン。一年前に、冒険者になるために、ど田舎にある村を出て、多くの冒険者達が活躍しているこの街ローズにやってきました。


 この街のすぐ近くには、魔物が大量に生息している深い森があり、冒険者は森へ入り魔物を狩ったり、薬草などを採取してお金を稼いで生活しています。


 しかし、街に来て一年が過ぎましたが、現在、僕がやっていることは、ロイスさんという街で出会った冒険者が率いるパーティでの雑用作業です。


 見知らぬ土地でどうすればいいのか分からなかった僕に仕事と寝る場所を与えてくれたロイスさん達には感謝してますが、彼らは森へ連れて行っても、僕にほとんど戦闘をさせずに、自分達が倒した魔物の解体や荷物の運搬作業などしか仕事を与えてくれません。


 最近になって知りましたが、ロイスさん達は、僕みたいに、何も知らない田舎から来た新人冒険者をパーティに誘って、安い賃金を払って自分達がやりたくない雑用を押し付けているそうです。


 そして、新人冒険者が雑用仕事で根を上げて、田舎に帰ってしまうと、また次の新人を勧誘しているみたいです。


 今まで、ロイスさんのパーティに入った新人達は数か月もすると、根を上げて自分から去ってしまうみたいでしたが、昔から、鈍感と言われているように、僕は最近になって他人から言われるまで気が付きませんでした。


「おい、ノロマ帰るぞ!」


 ここら辺が潮時でしょう。幸運にも僕には、この先に一人でやっていける力があります。


 森から戻り、街の中央に建つ冒険者ギルド、ローズ支部で、今日狩った魔物の換金するためにロビーで待っている時に、僕はついに、意を決してロイスさん達に、パーティを抜ける旨を伝えることにしました。


「ロイスさん、僕、そろそろこのパーティを抜けようと思っているですが……」


 僕は勇気を振り絞って、パーティを抜ける旨を伝えました。すると、パーティメンバー全員がお怒りになられました。


「はあ? てめえ何を言ってやがる? 新人に毛が生えたような奴の癖に生意気言うんじゃない!」

「そうだ。お前が抜けたら、誰が魔物の解体をすると思っているんだ? Bランク冒険者である俺達に、駆け出し扱いのCランク冒険者が意見するな」

「そうよ。みんなの言う通りよ。それに下位職のあんたがどうやって一人で生きていくわけ?」


 皆さん、新しい雑用を探すのが嫌なのか、好き勝手に色々なことを言って僕を引き留めようとしました。なので、僕は今まで隠していたある事を告白しました。


「皆さん、今まで黙っていてすみません。実は僕、もうクラスアップできるんです」


 僕は、自分のポケットの中からステータスプレートと呼ばれる魔法道具を取り出します。そのプレートには、名前や種族、性別といった持ち主の情報が載っていますが、その中に持ち主の天職について書かれている部分があり、他の文字とは違い赤い字で魔術師と書かれていました。


 僕のプレートを見て皆さん目を大きく開いてとても驚いています。


 ロイスさん達が驚くのも無理もありません。ステータスプレートの天職欄の文字が赤くなったと言うことは、その者が一定量の経験値を獲得し、何らかの上位職へとクラスアップする準備が整ったことを示します。

 

 後は、ギルドに通達すれば、ギルドお抱えの魔法使いがクラスアップするための魔法を施してくれます。ギルドとしても強い冒険者は大歓迎なので、無料で魔法を施してくれます。


 その後、僕は、ギルドに早く報告してクラスアップしてなれる天職について知ろうと提案し、了解をもらいました。


 僕達はギルドのカウンターのお姉さんに僕がクラスアップ可能になったことを報告します。お姉さんは「この若さでクラスアップとは天才よ、この子!」と驚きの声を上げました。


 その声に釣られて、新たな上位職の誕生を見ようと多くの冒険者達が集まってきて、ホールは一時騒然となり、新たな上位職の誕生を祝ってか、お祭り騒ぎになります。


 今の僕の天職は、下位職の『魔術師』です。なので、クラスアップ後になれるのは、割合で見れば『魔術師』の上位版と言われる『魔導士』の可能性が一番高いです。でも、『魔術師』であれば、『精霊使い』や『召喚士』といった魔法が得意な他の天職になれるかもしれません。


 むしろ、そう言った就いている人が少ない天職の方が貴重な存在になれるので、そちらの方がいいでしょう。


 ともかく、どんな天職になれるかは分からないですが、きっと、今の生活を一変させるだけの力を得るのは違いないでしょう。


 高まる期待に胸をワクワクさせながら、僕はクラスアップの魔法を受けるために、ギルドお抱えの魔導士の元へ赴きました。


 しかし、魔導士の方が、クラスアップの魔法を掛けてくれる寸前に、耳からではく、頭の中に、直接声が響きました。


「本当に、クラスアップしてもいいのですか?」


 慌てて周囲を見渡しても、声の主は分かりません。


「それはどういうことですか?」


 なので、僕は心の中で呟きます。すると、すぐに返事が返ってきました。


「クラスアップすると、今よりも遥かに強くなれる。それは間違いないです。でも、必ずしも幸せになれるとは限らないです」


「それは一体? ランクアップして上位職に上がれば、より強く、より多くの魔物を狩れるようになって収入も増えて、名声も得るではないのですか?」

 

 僕は、この世界の人間の常識を語りました。ですが、それ以降、声の主は、何も話さなくなりました。


「では、行きますよ」


 気が付けば、準備を終えた魔導士の方が僕にランクアップの魔法を施そうとしています。あの声はなんだったのか。僕には何も分かりませんでしたが、そんなことはもうどうでもいいのです。


 僕は、クラスアップして、幸せと栄光を掴むのですから。













 ルーチェの攻撃を受けて意識を失ったと思った僕ですが、気づけば、死霊術士になる前の過去の自分の姿を見ていました。


 このまま行けば、死霊術士になって街を追われる。


 なので、最初は止めようとしました。ですが、過去の自分と会話をして考えを改めて、何もしないことにしました。




「どうして、止めなかった?」


 目の前にロイスさんが姿を現し、先ほど僕が死霊術士になるのを止めなかったことを問いただします。


 正直なところ、何故、死霊術士となって辛い目に会うのが分かっていて止めなかったのか、僕にはその理由が分かりません。でも、これだけは分かります。


「見ていて、死霊術士になる前の自分が余りにも眩しかった」


 ほんの一か月前のことですが、この時の僕は死霊術士が迫害されていることも、自分が死霊術士になることも知らない無知な少年でした。


 未来は幸せに満ちている。そう信じていたかつての自分を止めることはできない。いや、言葉でいくら説得しても無駄だとあきらめたが故の行動だった気がします。











「なるほど、なるほど、面白い意見じゃのう」


 いつしか、目の前に立っていたロイスさんの姿が消え、代わりに、見たこともない栗色の髪の少女がいました。


「君は誰? それにここは……」


 先程まで、ギルドホールにいたはずでしたが、今は別の場所に立っていました。そこは、延々と本棚が続くほどの広さを持つ図書室でした。


 ローズの街の教会にも、貴重で高価な本を無料で読める図書室と呼ばれる部屋がありましたが、この場所に置かれている本の数はあそことは比べ物にならないほど膨大です。


「ふふん! 見よ! そして、光栄に思え、ここがウチの自慢の記録保管庫じゃ!!」


 リーリスと同じくらいの年の頃の栗色の髪の少女が、目の前で両手を広げて自慢しています。


「は~、そうですか……」


「なんじゃ、その反応は? これだけの数の本が収められた空間など、まだこの世にはないぞ! もっと驚け! そんなんじゃから田舎者とか、何も知らない無知な少年等と呼ばれるのじゃ」


 本に興味はないので、前半は聞き飛ばしましたが、後半は聞き捨てなりません。


「君が、何者かは知らないですけど、初対面の人に罵倒されたくはない!!」


 自分が何も知らなったことは重々承知しています。ですが、それを今初めて会った人に言われたくありません。


 しかし、僕の反論を栗色の髪の少女は鼻で笑い、僕の右手を指さしました。なので、少女の指差した方、即ち、僕の右手に目をやり、そして驚きました。


 いつの間にか、僕は右手に一冊の本を持っていたのです。そのまま、僕は本の表紙のタイトルを読み上げます。


「ジン・ブレイザー」


 そこには、紛れもなく僕の名前が記されていました。


「この本は?」


 僕はそのまま本を開こうとしましたが、それを少女が静止します。


「開けるな! それを開けたら、しばらく戻れなくなるぞ」


 突然、大きな声でびっくりしましたが、少女の言葉に従い、僕は本を読むのを止めることにして、少女の方を向きます。


「君は誰? 名前は?」


 僕の問いに、栗色の髪の少女はやっと自己紹介できるとうれしそうに口を開けます。


「ウチの名前は、レイチェル・ドラキュラハート。気軽にレイチェルと呼ぶがいい。ついでに、ウチは二番目のヴァンパイヤじゃ」


 レイチェルか。  ん?  いや待ってヴァンパイア?  二番目?  それは一体どういうこと?


 僕の疑問にレイチェルと名乗った少女は指を一本立てます。


「闇の王の手によって、最初に誕生したヴァンパイアがアルカナード」


 次にもう一本指を立てます。


「二番目が、ウチ」


「三番目がルーチェ・ローズマリアじゃ。最も、ウチやアルカナードがヴァンパイアになったのは千年も昔じゃが、ルーチェを始めとする残りの五人はここ三百年で誕生した比較的若いヴァンパイアじゃ。だから、ウチをルーチェのような若造と同じように考えるなよ」


 なるほど、今の説明でこの少女が何者であるかは理解できました。それで、この場所はなんでしょうか?


「ウチは、眠っている人間の頭の中に忍び込んで、その人間の持つ記憶や知識を読み取れる。そして読み取った記憶や知識を、このウチが作った精神世界に本として保管しているのじゃ」


 今、なんかさらりと凄いことを言った気がします。人の記憶を読み取って保管する?


「まあ、別に寝てなくてもいい。寝ている時が一番楽であって、こちらから誰かの人間の頭の中を探ることは容易なことじゃ。しかし、他人をウチの精神空間であるこの場所に呼ぶのはいくつか条件があっての、まあ、その一つが気絶して意識を失った状態の人間であるということじゃ」


「?! では!!」


「そうじゃ、君はまだ生きている。ただ、あの場で気絶しているだけじゃ」


 その一言を聞いて、僕はまだ自分が死んでいないことに喜びを感じました。










「さて、どこから話すかのお?」


 レイチェルは、どうしたものかと頭を抱えていたので、僕の方から尋ねました。


「つまり、この本は、レイチェルが、寝ている間に僕の頭の中に入り込んで、得た事が書かれているんだね?」


「そうじゃ、勿論、君だけではないぞ、この世界に生を受けたほとんどの人間の情報がこの場所には保管されている」


 見渡す限りぎっしりと本が納められた本棚が延々と続きます。これが全て人間の記憶だと言うのであれば、一体どれほど多くの情報を彼女は知っているのでしょうか?


「おお、そうじゃ! これから行こう!」


 レイチェルは、本棚から一冊の本を取り出し、無造作に僕の方に投げて来ました。


「シド・アズライト……」


「そうじゃ、その本を開けば、その本に書かれた男のこれまでの人生を、本の中に入って追体験できる。先程、君が自分の本の中で過去に向き合っていたのと同じ要領でな」


 シド・アズライト。捨てられし王子。


 その人生は壮絶なものであったと、本人の言葉を聞いて伺い知ることはできましたが、やはり言葉だけでは、復讐のために世界を滅ぼすという、その狂気な考え方を真に理解できませんでした。


 ですが、この本を開けば、彼の味わった凄惨な人生の一端を知ることができる。そうなれば、もう無知な少年扱いされない。


 この手に持つ本には、それだけの誘惑がありました。


 しかし、


「必要ないです」


 僕は、シドの半生が綴られた本をレイチェルに返却しました。


「いいのか? 少なくとも、この本を読めば、一般的に死霊術士がどういった扱いを受けているのか、それを正しく知って理解することができるぞ。そして、ネクロポリスの連中が世界よりも復讐を選んだわけを知ることができる」


 確かにそうでしょう。でも……。


「それは、シドが歩んできた人生であって、僕の人生ではない。同じ死霊術士だとしても、彼と僕が同じ、思想と目的を選ばなければいけないルールはないと思う」


 ついさっき、何も知らなった頃の自分を見ました。あの頃の自分は何も知らなかったが故に、周囲から密かに馬鹿にされていたのでしょう。でも、それの何がいけないのでしょうか?


 あの瞳の輝きと、全てを諦めた死霊術士達の自暴自棄な目。どちらか一方を取れと言われたら、僕は前者を選びます。


 なので、僕は決めました。これからは、自分が知りたいことだけを知ると。


「もしかしたら、いつか、シドやネクロポリスの死霊術士達の辛い過去と同じ目に会うかもしれない。でも、必ずしもそうなるは限らないと思います。同じ天職でも、彼らは彼らの。僕は僕の人生を歩むのですから」


「相手と分かり合う一番の近道は相手を知ることから始まるのだぞ?」


 レイチェルの言う通りです。ネクロポリスの人達と分かり合うためには、彼らの苦行を知るのが近道です。ですが、


「別にネクロポリスの人達と仲良くする必要はないんじゃないですか?向こうも、僕の事どうでもいいようでしたし、僕も彼ら無しで生きていけないわけではないのですから」


「ふっふふふふふ、はっははははははあああああああ!!!! そうか、そうか、そうじゃな。そうだった。嫌いな奴と無理に仲良くする必要はない!! うん、いいぞ、君かなりおかしい。でも、そう言ったおかしい奴の方がウチは好きじゃ!!」


 何がつぼに入ったのかは、分かりませんが、レイチェルは床に転がってゲラゲラ笑い続けました。






「復讐しか考えていない、ネクロポリスはどうでもいいです。それよりも、ルーチェの記憶が書かれた本はないのですか?」


 知りたいことだけを知ると決めた今、僕にとっての最優先課題は、突然おかしくなったルーチェについてです。


 この場所が、人の記憶の保管庫であるならば、きっと僕が知りたいルーチェの過去が眠っているでしょう。僕はそれを知りたいのです。


 しかし、その事をレイチェルに告げると、先程までの友好的な雰囲気が消えました。


「確かに、ルーチェの記憶が刻まれた本はある。アンデットは夢を見ない。だから、ヴァンパイアになってからの、彼女の記憶や知識は分からないが、生前の闇の王に破れるまでの彼女の記憶は、確かにここにある」


 レイチェルは別の棚から一冊の本を取り出します。ですが、どうゆうわけか、シドの時と同じように簡単には渡してくれませんでした。


 レイチェルはニヤリと笑います。


「知りたいことだけを知る人生を選んだのだろう? ならば、本人に直接聞け! 第三者のウチではなく、本人に直接聞くがいい」


 正論です。僕は何も言い返せませんでした。


「でも、僕の力じゃあ」


 幸いにも、まだ生きているようですが、無知なまま死になさいと容赦なく殺しにきたルーチェが素直に答えるとは到底考えられませんでした。


 そんな、僕の弱気な心を見透かしてか、レイチェルは口を開きます。


「まあ、そんなに心配しなくてもいいじゃろう。良く分からないが、君は凄い幸運に恵まれている。スキルや魔法を超えてもはや加護の域におる。加護は人間の作ったステータスプレートでは判別できないから、今まで気が付かなかったかもしれんがのお」


「幸運?」


 死霊術士になって、街を追われて、しもべに裏切られたのに幸運? ちょっと、意味が分かりません。


「まあ、君の加護は自分のためには使えない種類だから、気が付かなくても仕方がないじゃろう。その加護は君の周囲の人の強い願いを叶える。ルーチェの予想を超えて思惑が進んだのはそのせいじゃろう。ああ、そうじゃ、このことはできるだけ秘密にしておけよ、その種の加護は、加護の事を知っている人間には効果は発揮されない」


 加護? なんでしょうか? 聞いたことがない物ですが、一応忠告は胸に留めておきましょう。


「お、そろそろじゃな」


 突然、レイチェルが僕の事を指差します。僕は自分の体に目を向けました。そして、あることに気が付きました。


「体が透けている……」


「君の体が目を覚ましたのじゃ。そろそろお別れじゃな、久しぶりに誰かと会話できた楽しかったよ」


「え?! ま、待って!! まだ聞きたいことがあるのに」


 しかし、僕が叫ぶよりも早く、視界から本の山は消え。


 僕は目を開けました。



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