第二十三話 決戦
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おじさん、いや、オリバーさんと共に、僕達はこの街で発動されたと思われる複合術が起動されたと考えられるこの街の中心部である大聖堂を目指しました。
道中、数多のゾンビに遭遇するも、襲われるのはオリバーさんだけであり、そのオリバーさんも、片手でゾンビを瞬殺できるほどの強さを持っているため、移動するのに、支障はなかったです。
ですが、一つだけ気掛かりだった事は、道中一度も、ネクロポリスの死霊術士達と接敵しなかったことです。もしかしたら、すでに街の外へ逃げ出してしまったのではないのか? 一時は、そう言った考えもありましたが、大聖堂に辿りつき、そこで待ち構えていた死霊術士達を見てその考えは間違いであることに気が付きました。
「久しいな、オリバーエラクレア」
「全くだ、シド。それにしてもまさか、こうも大勢で出迎えてくれているとは思わなったぜ」
大聖堂の正面ゲートの前には、目視で確認できるだけで、八人もの黒いローブを着た者達がいました。
「当然だ。実験は成功したが、折角の機会だからと、貴様を始末するために、こうして手ぐすね引いて待っていたのだ。しかし……何故、死霊術士が教会の一員であるオリバーに協力している?」
どうやら向こうも混乱に乗じて、僕達と言うより、オリバーさんが、この場所に来るのを想定して、始末するために、待ち構えていたようです。
その中で、リーダー格と思われる青い瞳と、赤い瞳を持つオッドアイの男性が威圧するかのように僕を睨んできます。
もしこの場にいたのが、僕一人であったのであれば、逃げ出すか、頭を垂れていたでしょう。ですが、今の僕の周りには、頼もしい味方がいます。なので、僕もまた、この機会に、僕が持つ戦力を伏せながら、これまでの経緯を伝え、その後、彼らの真意について尋ねてみました。
「あなた達、ネクロポリスは、一体、何が目的でこんなことをしているのですか?」
シドと呼ばれるリーダー格の男性は、一度だけ目を瞑ると、ゆっくりと自分達の目的について語り出しました。
「我々は、教会という支配者の迫害されている身だ。故に、迫害から逃れるために、最善を尽くすのは当然のことであろう?」
「それが、この惨状にどう結びつくのです?」
死霊術士が大勢いるためか、目視できる距離にゾンビはいませんが、生者を妬むように聞こえるうめき声だけは、この場にも聞こえてきています。
「なるほど、死霊術士になって日が浅いと言うのは本当のようだ。世界の全てが敵であることを本当の意味で理解していないと見える。そんな甘ちゃんに教えても無駄であろうが、一応教えておいてやる」
「お優しいリーダーだ」
「まあ、世間を知らないガキに教育してあげるのは、大人の義務ですよ」
シド以外の死霊術士達は僕の事を何も知らないガキだと、罵っていますが、僕はそう言った声を無視します。
「我々の最終目的は、全ての生者を死者へと変え、死者の支配者たる我々が世界の全てを握ることにある」
「それは、ガリアンからすでに聞きました。僕が知りたいのは、死者の世界を作り出して、それからどうするのかです!!」
死霊術士の力は強大かもしれませんが、その数は圧倒的に少ない。仮に、ネクロポリスの野望が実現したとしても、ほんの数十人の死霊術士だけが生き残り、それ以外は、全て命を新たに生み出すこともできない操り人形も同然の死体が蠢く世界に何の価値があると言うでしょう。
僕は、思いの全てをぶつけて、ネクロポリスに対する疑問とその存在意義を問いただしました。ですが、返ってきたのは予想外の回答でした。
「何もない」
「え?」
「我々の作り出す世界に、生者の、いや人間の希望はない。あるのは、数百年近く虐げられてきた我々の復讐が叶ったと言う結果だけだ」
自分達が支配者となった未来の展望がない?! それは驚きの回答でした。
「察するに、君は、無限の可能性を持つ未来を信じているのだろう。だが、はっきりと言ってやる!! 死霊術士となった今、君の未来は教会や民衆によって拷問されて死ぬという一択しかない!!」
「そうだ! そうだ!! リーダーの言う通りだぜ! 教会が俺達を見逃すはずがねえ」
「どっちが、先に仕掛けただの、どちらが、先に傷を負ったかを考察するなんて、もう無意味なのよ」
「どちらかが、一方の全てを滅ぼすその日まで、戦いは終わらない。まあ、その点に関しては、数は少ないが、我々は教会よりも優位だ。なんせ、人が強さを求める限り、死霊術士にクラスアップする者は極少数ではあるが、必ず現れるのだから!」
「それと、てめえも、ひと段落ついたら、教会に消されるぜ~」
死霊術士達は、リーダーであるシドを擁護するかのように、激しいブーイングを上げます。シドはそう言った声を一度静止させ、再び口を開きます。
「数百年間戦い続けた我々と教会が分かり合うことなど決してあり得ない。君は理解できていないだろうが、それほどまでに溝は深いのだ」
それから周囲を見渡し、僕だけではなくネクロポリスのメンバーにも語り掛けます。
「この事を皆の前で語るのは、初めてだが、私はかつてこの国の王子であった。それゆえ、周囲の期待に応えるために、日夜努力を重ね、ついにクラスアップを果たした」
驚く素振りを見せないオリバーさんは、シドが王子であった事を知っていたようですが、意外な事に、ネクロポリスのメンバー達は、「本当に?」と半信半疑の様子でした。
「だが、努力の果てに、私が辿りついたのは死霊術士だった」
シドは、それから先は地獄だったと語ります。
「親しかった家族も、私に永遠の忠誠を誓った騎士も、取引上の関係であった商人や貴族でさえも、手のひらを返すように、私を見捨て、教会に売り払った。そして、激しい拷問を受ける中で、私は悟った。何故、皆の期待に応えようと努力した私がこんな目に会って、努力もしていない豚共や、私を裏切った者達が、安穏と暮らすのだとな!!」
それは、長い間、ため込んでした物を解放させる火山のようでした。
「だからこそ、私は、この世界を破壊するネクロポリスの考えに共感したのだ!! もうどうでもいい。自分達以外が支配者から転落して苦しむ様を見れれば、それで満足だとなぁ!!」
シドの言葉に他のメンバーは同意するかのように頷きます。
その様子を見て、僕は、同じ天職を持っていても、彼らと自分が違う存在だと認識しました。
いや、違います。正確には恐らく、まだ、僕は彼らと同じ域に達するほど、追い込まれていないので、世の中の全てを滅ぼしてでも、復讐したいと感じていないのでしょう。
「君は、遠くない未来に絶望して、この世界を滅ぼしてでも、笑顔を、希望を摘み取り、絶望と死だけが存在する退廃の未来を望むだろう。その時に、こそ………」
「そこまでだ!!」
シドはまだ言い足りないようでしたが、ここで、彼の言葉を遮るように、オリバーさんが大声を上げシドの口を閉ざしました。
「もう十分だ。少年、少なくとも、今の君とこいつらが相いれないのは理解できただろう?」
どうやら、オリバーさんは、僕の心が決まるまで待ってくれていたようです。
「ふん、折角見つけた協力者が心変わりしたら、困るからな。今は!」
シドは邪魔されたことに苛立ちを見せながらも、手を上げます。すると、死霊術士達が、ローブの中から、各々のコフィン・ボックスを取り出します。
「まあいい。どうしたいのかは、自分で決めろ小僧。どちらにしても、オリバーエラクレアをこの場で殺せるのであれば、君が仲間になろうが、死のうがどうでもいい」
もはや、戦いは避けられない。この場にいる全ての者達がそう考え、頭の中を戦闘状態へと切り替えました。
「ふふふ、そうですか。もしかしたら、私の想定外の事態になっている可能性があるかもと危惧していましたが、今の問答を聞いて、まだ私の手のひらに収まっているのが分かり安心しました」
この場にいる全ての者が、臨戦態勢を取り、戦いの口火を探している極限の緊張感の中、ただ、一人、ルーチェだけは、場違いな発言をし、周囲からにらまれるながらも、シドにあることを問い掛ける。
「一つ伺います。あなた方のリーダーはどなたですか?」
その疑問は、ネクロポリスの他のメンバーやオリバー、ジンも気になっていたことではあった。ネクロポリスのリーダーは代々不明。分かっていることは、表に出ないリーダーの代わりに、初代リーダーが、かの闇の王から奪ったとされる魔眼を継承する組織のナンバー2だけが、リーダーの正体を知っていることだけだ。
故に、リーダーの正体を知る者は、シド以外にこの世にいない。
「ふん、それを、我々の道具に過ぎないアンデットである貴様に教える必要があるのか?」
他の仲間にすら伝えていない事を話すわけがないとシドは一蹴する。しかし、ルーチェは不敵な笑みを浮かべ、そして、この場に全員を驚かせる驚愕の事実を告げる。
「私は、知っていますよ。あなた達、ネクロポリスにはリーダーはいないとね」
「「「「 !? 」」」」
「ふふ、正確には、ネクロポリスのリーダーは、その眼を奪った初代リーダーただ一人。それ以外はリーダーと名乗るほどの実力がないからナンバー2などと名乗っている。違いますか?」
ルーチェの言葉を聞き、この場にいる者達がシドの方を見るが、彼は何も言わない。黙秘を貫く。しかしながら、先程まで、饒舌であったシドが急に口を閉ざした意味をこの場にいる者達は理解した。
即ち、彼女の言葉に偽りはないと。
シドが黙ることを予期していたのか、ルーチェは更なる事実を告げる。
「あれから三百年経ちました。もしかしたら、もう知らないかもしれませんので、一応伝えておきましょう。初代リーダーの名前はルーチェ・ローズマリア。そうこの私ですよ」
再び告げられた驚愕の事実に驚く者達を尻目に、ルーチェは両手を合わせ、
「複合術ヴァルハラ」
魔力の篭った声で小さく囁き、禁断の術を発動させた。
その直後、シドの左眼が、金色に輝きを放ち、同時にルーチェの体は、白く輝きながら、ゆっくりと浮び上がり大聖堂の上空に留まる。
それから、街中に点在していた数多ゾンビ達が、見えない引力に引っ張られように、彼女を体にまとわりつき、やがて、一つの形をとった。
客観的に見るのであれば、それは、十万体ものゾンビによって構成された巨大な大樹に見えた。
しかし、今も、樹から逃れようと手足のみを動かすゾンビでできた大樹を見て、生命の象徴とも言える樹であると誰も思わない。良くて死の大樹と呼ぶのが精々だろう。
突如、明かされたネクロポリスのリーダーの正体に、大聖堂を土台に出現したゾンビの大樹。
ついさっきまで、これからいざ決戦だと気持ちが高ぶっていたが、それが嘘のようだ。
シドも、オリバーも、ジンも、リーリスも、死霊術士達も、全くと言っていいほど理解が追い付かないこの状況に対して、思考を停止させ、驚きの感情を露わにする以外に、何もできなかった。
この場に集う全て者が口を開けて、ことの成り行きを見守ることしかできなった中、死の大樹の中から、一人の少女が飛び出してきた。
ルーチェだ。
しかし、先程までの騎士風の服装とは違っていた。
純白のドレスをベースに要所を青い鎧で固めたような服装に変わっていた。そして、何よりの違いは背中から白鳥を思わせる一対の白い翼が伸びて、完全に空中で静止していたことだ。
何が起きているのかさえも、ほとんど理解できないでいた人間達に対し、遥か高みに至った少女は告げる。
「感謝します。ネクロポリスの皆様、あなた方のおかげで、未熟な主を育成する手間が省けました。私が三百年前に、開発したこの複合術の必要なものは、私の天職の専用スキルに、後は数万のアンデット、かの王の眼の二つだけでした。当初は、未熟な主を数万の下位のアンデットを生み出せるようになるまで鍛え、かつ、この世界に残した魔眼を回収するつもりでしたが、あなた方のおかげで、その手間が大幅に省けました。本当にありがとうございます」
自分達の行いが、たった一瞬で、横から奪われたネクロポリス。しかし、その事に憤慨するよりも、理解が追けなかったために、怒りの感情を見せることもできなかった。
「お前は何だ!! 一体何が起きている?!」
この状況下で、他よりは多少マシ程度に理解が追い付いていたオリバーは天に向かって吠える。だか、そんなオリバーに対し、ルーチェは憐れむような目を向ける。
「種族の違い示す肉体、魂の形である天職、この二つを融合させることで、私は天上の世界で神に仕えるとされる天使と同等の存在へと進化しました。そう、今の私であれば、あのアルカナードやレイチェルにも引けを取らない!!」
「天使だと?!!」
天使。それは召喚士などの一部の上位天職がスキルによって極短時間の間、天上の世界から召喚することができる上位存在だ。また、実体を持たない魔力の塊となって召喚される天使は、一体一体が、小国を滅ぼすほどの力を秘めているとさせる。
しかし、ルーチェはあくまで、自分は天使と同格の存在であり、決して天使になったわけではないと言う。
「そうですね。あえて言うなら、ワルキューレと呼んで下さい」
僕は何もできなかった。
でもオリバーさんや、シドですら、何もできなかったのだから、僕を責めるのはおかしい。
それでも、僕はルーチェの主だ。だから、ルーチェが翼を生やしてあのおぞましい大樹から出てきた後、慌てて彼女の動きを止めようと、その自我を奪おうとしました。
ですが、すでに手遅れだった。
自我を奪うように念じても、彼女の自我を失われず、僕が口で命じても彼女はそれに逆らう。
何も分からない中で、僕はこれだけは理解した。もはやルーチェは僕のしもべではないと。
「ルーチェ、君は何を考えている!!」
今の僕にはルーチェが何をしたいのかを問うことしかできなかった。
「私の目的は三百年前から変わっていません。私の望みは闇の王を殺すこと、ただそれだけのために、戦い、死ぬことを選び、そして蘇ったのです」
闇の王? ルーチェをヴァンパイアにした奴か。それに、死ぬことを選んだだと?! 一体、何がどうなっている。頼むから最初から教えてくれ。
僕は、理解が追いつかない自分の頭を冷やすために、ルーチェにきちんと話してくれと懇願しました。
しかし、ルーチェは今までに見た事ないほどの冷たい瞳で僕を見ます。
「主様、あなたは何も知らない無知な少年です。せめてもの情けに無知なまま死になさい。全てを知って絶望するよりも、何も知らないまま死んでいく方が楽でしょう。……来たれ、グングニル」
ルーチェが言葉を発すると、黄金の槍が現れ、彼女はその槍を握り、こちらに向けて放ちました。
「さようなら」
その直後、激しい閃光と高温に襲われ、僕の意識はそこで途絶えました。




