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第十七話 復讐の時

いつも応援ありがとうございます。

 アクアロードにあるごく普通の家族向けのホテルの一室で目を覚ました僕は、隣のベットで寝ているはずの少女がいないことに気が付き、慌てて、すでに起きていたもう一人の少女にその行方を尋ねました。


「リーリス! ルーチェはどうした?!」


 僕の問いに、かなり気まずそうな顔をしながら、リーリスは失踪したルーチェの行方を告げようとします。


「え、えっと、ですね」


 言葉にしたくないのか、リーリスは、僕のポーチの方へと目を向けます。


「おい、まさか!」


 今のリーリスの態度で、ルーチェの行き先に心当たりができた僕は、慌ててポーチの中を漁り、明らかに量が少なくなっていた金貨の入った袋を見て愕然としました。


「ねえ、一応聞くけど、ルーチェの奴、教会から盗んだお金ではあるけど、僕達の生活費の一部を持って闘技場とかに行っていないよね?」


 その問いに、リーリスは物凄く気まずそうに視線を背けます。その態度で、僕はルーチェの行き先に確信が持てました。


 ルーチェは昨日、十連敗し結局一勝もできませんでしたが、それでも、まだやると駄々をこねていました。ですが、昨日行われる予定の試合が全て終了してしまったのため、流石に引き下がりましたが、どうやら、まだ諦めていなかったようです。


「ハハハッ、他の死霊術士達が、主に絶対服従するように心を調教したり、自我を奪ったり、コフィン・ボックスを使い必要な時だけ外に出す理由が少しだけ分かったよ」


 死霊術士は、死者隷属でグール化させた時点でそのグールの肉体の支配権を持ちます。しかし、この絶対的に見える肉体の支配権には大きな落とし穴が存在します。


 今のルーチェやリーリスのように自我があるグール、主によって自我を奪われたグールに関わらず、死霊術士によって生み出された人工のグールは、本人の意識とは別に、主の声や動作を身体が五感で感じ取り、本人の意識を無視して身体が勝手に反応して主の命令に従ってしまう状態にあります。


 なので、自我がある状態であれば、主の声が届かない場合、すでに受けている命令以外であれば、本人の意思で自由に行動できるのです。


 僕が嫌悪していたコフィン・ボックスを始めとする死霊術士達のグールに対する悪辣な扱い方は、こういった不測の事態を回避し、使役するグールを常に自分の命令が届く場所に留めておくために効率的なやり方だったと考えることもできます。


 そう考えると、僕にも多少の罪や失敗がある気がします。


 それは、彼女の心を調教したり、自我を奪ったり、持っていないけどコフィン・ボックスを使ったりしないどころか、一緒の部屋で普通に寝かせてあげたことです。


 基本的に今のルーチェは、主である僕には攻撃できませんが、それ以外であれば僕が命令しない限りは、常に自由に行動できます。ルーチェが最初から素直だったので、僕は彼女の意思を最大限尊重してきましたが、今回はそれが裏目に出てしまいました。


 要するに、ルーチェを信じて彼女の肉体に一切命令しなかったせいで、僕が寝ている間に、勝手に僕の声が届かない場所に行ってしまったわけです。しかも、お金を持ち出すおまけ付きで。


 それと、主である僕がもし死ねば、従者である彼女は意識を失い暴走するというリスクがあるのに、よく僕の側を離れるという決断をしたと呆れながらも、褒めたいです。


「えっと、ルーチェさんは、別にジン様を裏切ったわけではないですよ。今日は一日中闘技場にいると言っていましたし……」


 先輩であるルーチェをリーリスは庇いますが、もはや手遅れです。


 ヴァンパイアに戦乙女と、こんなに凄い人が僕なんかの従者でいいのかと、疑問に思うほど高評価だったルーチェの評価は、今や地の底まで落ちてしまいました。


「よし!」


 僕は拳を力強く握りしめます。


「リーリス、今日は二人で、街を見に行こう!!」


「えっ、でも、ルーチェさんは?」


「あいつはもう放っておこう!」


 その一言で、賢いリリースは、僕の思惑に気がついたようでお出かけの支度を始めました。







「見てください、ジン様! デビルバイソンのステーキですって。食べてみたいなあ」

 

 様々な物が並ぶ商業区へと繰り出した僕とリーリス。


 宝石や服よりも、食べ物の方に興味があるリーリスは、食材や出店が立ち並ぶ場所に足を運び、先程から食べ物の事ばかり語りますが、食べてみたい欲求が高まると同時に悲しい顔をします。


「でも、あんなに美味しそうなのに、ルーチェさんのお肉以外は何を食べても美味しくないんですよね……。例えるなら、味のないパンを食べているような感じです」


「そこは、ごめんなさいとしか言えない」


 グールは人肉を食べることで、体の腐敗と理性を保つことができますが、人肉以外は何を食べても味がしないらしく、昨日、リーリスは、匂いだけで食欲をそそるような物を食べましたが、彼女の顔は晴れませんでした。


「リーリス無理しなくてもいいよ。食べ物以外にも面白い物がこの街にはあるから」


 落ち込むリーリスを励まそうと、食べ物以外を見に行かないかと誘いましたが、リーリスは大丈夫と小さく呟きます。


「見た目と匂いだけでも、ワクワクした気分になれるから、もうしばらく、ここにいたいです」


 凄く悲痛な顔でしたが、僕は彼女の望むようにしました。


 




 ですが、それからしばらく歩いた後、突然リーリスは顔色を変え、僕を置いて一人走り出しました。


「え!? ちょっとリーリス!!」


 暴走するかのように、走り出すリーリス。


 慌てて後を追いますが、エルフである彼女の足は早かったため、どんどん距離が開いていきます。


 なので、余り気は乗りませんでしたが、ルーチェのように遠くに行かれると制御できなくなるのを心配して、声が届く位置にいる今のうちに僕は、大声を出して主としてリーリスの肉体に命じました。


「止まれ、リーリス!!」


 絶対命令の篭った、その一言で、暗い路地裏でリーリスの体は急停止します。


「一体、どうしたの? ッ!?」


 僕は、諭すように、リーリスに近づくと彼女が暴走した訳を知りました。


「ん? ふん、随分と早い再会だったなぁ?小僧。それにエルフのお嬢さん。予想通りに小僧のしもべになっていたか」


「ガリアン!!」


 日が当たらない暗い路地裏の奥で陣取っていたのは、かつてリーリスの両親を殺めた宿敵、死霊術士のガリアンでした。


「そう怖い顔をするな小僧。悪いが今はてめえらに構っている余裕はないんだ。この儀式に、もし失敗したら、シドの野郎に殺されるかもしれないからな。後、てめえらの事は組織には報告していねえぜ。いずれ俺様の手で復讐してやるつもりだからな」


 この街に来る道中で、遭遇し価値観の違いから戦闘になりルーチェにボコボコにされたあげく、屈辱的な謝罪までする羽目にあったネクロポリスに所属する死霊術士ガリアン。


 てっきり、僕の事を復讐するほど恨んでいるかと思っていましたが、いざ再会して見ると、向こうは思ったよりも僕に恨みを抱いていないようです。それどころか、どこかへ行けと手で追い払う仕草を見せました。


「こんな所で何をしているのですか?」


 しかし、ガリアンの足元には、魔法陣のような物が描かれており、彼はその中心に立っています。これを見る限り、因縁の相手である僕よりも大事な事があるようです。そして、勘ですが、それはきっと世のためにはならないような事でしょう。


「それはこっちのセリフだ! オリバーだけでも手一杯だと言うのに、ヴァンパイアまで出て来られたら、もうどうしようもない!」


 よく分かりませんが、ガリアンはこれはもう終わったと両手を上げ、諦めムードです。しかし、不意にあることに気が付き僕に質問してきました。


「ん? てめえのヴァンパイアはどこだ?」


 あ、しまった。一度勝っているから大丈夫だろうと、気が緩んでいましたが考えてみれば、前回ガリアンを圧倒したルーチェはこの場にはいませんでした。


 これは、マズイ。ガリアンに気が付かれる前にこの場を離れなければ。


 ですが、撤退を良しとしない子がこの場にはいました。


「殺す、殺す、殺す!!」


 両親の仇を前に、リーリスは、背中に背負った弓を構え、矢を放ちました。


 ガリアンを目掛けて飛んで行く矢。それに対し、ガリアンはリーリスが矢を構えた瞬間に、己のコフィン・ボックスを開封します。そして、箱から出てきたグールが、同じく弓矢でリーリスの放った矢を撃ち落としました。


 スキルを使っているのかは分かりませんが、飛んでいる矢を、同じ矢で撃ち落とすとは凄まじい技量の持ち主のようです。


「え?! 嘘……」


 そんな凄腕の技量を持つ者は、リーリスと同じく弓矢を武器とするエルフの男性でした。


 その何処となくリーリスに似た面影のある顔と、リーリスの驚く顔、そして、愉悦に満ちたガリアンの顔を見て、自我を奪われ無表情のままガリアンに付き従うエルフの男の正体に気が付き、僕はガリアンに怒りの声を上げました。


「この、卑怯者!!」


「それは心外だぞ小僧。肉親同士殺し合せるのが、死霊術士の本来の戦い方だ」


 ですが、ガリアンは僕の言葉に一切意を返さずに、驚きの余り呆然と佇むリーリスに笑い掛けます。


「さあ、愛しいパパとの再会ですよ? 存分に殺し合ってくれたまえ!!」


「き、貴様あああああ!!!!」


 そして、リーリスは激高しながら、再び矢を放ちました。












 一方その頃、闘技場にて、


「………何故勝てない……」


 常勝無敗の銀髪のヴァンパイアは、己の運のなさに一人嘆いていました。


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