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第十五話 邂逅

いつも応援ありがとうございます。

「さあ、皆様!! 先にリング出てきたのは冒険者ギルドの評価ではAランク、皆様、御存じのオーガのマックスだああああああ!!!!!」


 魔法道具で拡張された司会者の声と共に、会場中が大歓声に包まれました。


「対するは、現在十連勝中、グレータースネークのバルサーだあああああああ!!!!!」


 再び、先ほどと、同じくらいの大歓声が上がります。


 それにしても、


「武闘大会と言うからには、選手として出場するのかと思いました」


 観客席で、僕の右隣に座りながら、ルーチェがどこか残念そうに言葉を漏らしました。僕も全く同意見です。


「ハハッ、確かに以前は、選手は人間だったけど、そっちの方は王都の闘技場に客を奪われてしまって、去年から、捕獲した魔物を使って賭け試合をするようになったのさ」


「ごめんね。従者や冒険者として腕を見せたかったんだろうけど、この街では人間同士の決闘はご法度なんだ」


 そして、落ち込むルーチェを励まそうと、ナンパ男達がこの街の闘技場の仕組みについて解説してくれました。


 簡単に言うとこの場所は、冒険者ギルドが捕らえた魔物をリングの上で戦わせ、観客である人間は、どちらが勝つのかを賭けをする施設です。


「ルーチェちゃんはどっちが勝つと思う?」


「そうですね。武器を持っているのであれば、オーガに軍配が上がるかと思いますが、武器無しでは、グレータースネークが勝つでしょう」


 緑色のオーガと黒い大蛇、ルーチェは黒い大蛇が勝つと予想しました。


「じゃあ、私は、あのオーガにする。前にパパと一緒に倒したことあるから、応援したくなってきた!」


 何か物騒な事を言った気がしましたが、リーリスはオーガの方に賭けました。


「では、坊ちゃんはどうするので?」


 ナンパ男の問いに、ルーチェとリーリスが無言で僕の方を見てきます。恐らく、自分の応援している方を応援してくれと訴えているのでしょう。どちらも、何か怖い目をしていますが、今見定めるべきなのは、あの二体の魔物なので、無視します。


「オーガかな、見た目強そうだし……」


「やった!!」


「ギリッ……」


 歯ぎしりして睨め付けるルーチェの視線が怖いですが、これはどちらの魔物が勝つのかを競う場面なので、無視しました。


 その後、ナンパ男達の案内で、一旦席を立ち、客席の裏手にある売店で賭札を購入しました。ナンパ男達はお金がないと言って賭札を買いませんでしたが、幸いにも、僕達三人には、教会から拝借した金があります。僕は信徒達のお布施で賭け事をすることに少しだけ抵抗を感じながらも、賭札を購入し客席に戻りました。


「さあ、皆様、準備よろしいでしょうか!! ではバトルスタートです!!」


 しばらくすると、司会者の声を共に試合が始まりました。オーガとグレータースネーク。二転三転する面白い試合でしたが、最後に相手をリングからはじき出し勝利したのは、オーガのマックスでした。


「やった!!!」


「ぐぬぬ……」


 自分の応援していた方が勝って無邪気に喜ぶリーリスと後一歩の所で負けてしまったルーチェ。惜しくも破れてしまった大蛇に、恨みでも抱いたのでしょうか、あいつ後で殺すと物騒な事をルーチェが言い、彼女の殺気が周囲に少しだけ漏れてしまいました。


 そして、喜びの余り、それに気が付かないリーリス以外は、ルーチェから少しだけ距離を取りました。


「負けてしまいましたか、ですが、次勝てばいいんです」


 そう言ってルーチェは、次の試合に出てくる魔物を品定めをし始めました。この流れのまま、僕達は次の試合も続けて観戦しました。







「おかしい!! 何故私の賭けた魔物は勝てないの!!」


 あれから、七試合目。未だにルーチェの賭けた魔物は勝ち星を上げられませんでした。


「絶対におかしい。どう見ても、あそこで負けるはずがない。あそこで最後の攻撃を躱せていれば勝てたのに!!!」


 ルーチェは、価値のなくなった負け札を握りしめながら、負けた魔物に恨み節をぶつけ、鬼ような形相で睨んでいます。ナンパ男達は、そんなルーチェに恐怖したのか、何が目的かは分かりませんでしたが、随分と前にどこかに消えていました。


「ルーチェさん。そろそろ終わりにしませんか?」


 飽きてきたのか、リーリスが別の場所に行きませんかと提案しますが、


「うるさいです! 次です。次!!」


 一喝されて、萎縮してしまいました。


 幸いにも、僕とリーリスが勝っているので、財布の中身は若干プラスですが、二択の勝負で七連敗中のルーチェが良しとしない限り、いつまでもこの場に留まるつもりでしょう。


 それにしても、ルーチェ本人は強いのに魔物の戦いの勝敗を当てられないのは意外でした。もしかしたら、自分が強すぎて他者の研究とかしないタイプなのかもしれません。相手の事など知らなくて勝てるほどルーチェは強いのですから。後、強過ぎて、あまり負けたことが少ない分負けず嫌いかもしれません。


 まあそれは別として、中々勝てずに怒りを散らしている今のルーチェは、いつもとは別の意味で怖いです。


「僕ちょっと、トイレに行ってくるね」


「あ、ずるい」


 僕はリーリスに、ルーチェを頼むと命令して、席を立ち、心の中で次の試合は勝ちますようにと祈りながら、観客席を離れ売店の方へと移動しました。











「色々、売っているんだな」


 賭札を売っている店しか見ませんでしたが、他にも様々な物を売っている売店があります。


 飲食物はもちろんですが、闘技場で活躍する魔物の絵や銅像何かも販売している店もあり、中々興味深かったです。


 それから、色々な店を物色しながら、円形の闘技場を半周歩いてさっきまでいた客席の反対側に出ると、ルーチェと似たような事を叫んでいる人を見かけました。


「何故だ!! もう七連敗だぞ!! 絶対におかしい!!」


 その人は、五十代くらいの人間の男性で、神父様が着るような服を着ていましたが、色が白ではなく黒だったため、教会とは関係ないなと判断しました。そもそも、清廉潔白なはずの教会の神父様がこんな場所で賭け事に興じているはずがありません。


「ヤバい、ヤバい、流石にこれ以上はヤバい。今日の晩飯すら食えなくなるぞ!! しかし、ここで、引いたら今までの犠牲が!!」


 おじさんは泣き崩れながら、床をバンバン叩いています。ですが、この闘技場では、こうした光景はありふれたものなのか、周囲の人間は気にも留めていません。


「あのう? 良かったらこれ食べますか?」


 ルーチェと同じ目に会っているためか、悪い人ではないと感じた僕は、先程購入したサンドイッチをおじさんに分けてあげました。


「おお、いいのか?」


「ええ、これ僕しか食べませんし」


 うちのパーティで食費が掛かるのは僕だけです。僕の血をルーチェが飲んで、ルーチェの肉体をリーリスが食べます。おかげで、三人パーティですが、常に二人分食費が浮いています。


「おお神よ、この少年に祝福を!!」


 今の僕の立場で、祈られると少し複雑な気分になりますが、この人神父ではないので気にしないことにしました。


「すまんな。少年」


 感謝の言葉を述べながら、おじさんは立ち上がり、売店の方へと足を運ぼうとしました。


「ちょっと待ってください。どこ行くつもりですか?」


 嫌な予感がして、僕はおじさんを止めました。


「何って、少年のお陰で、晩飯分が浮いたから、その分賭けに投じるんだ」


 マジか!


「ええと、やめませんか? また外れたらどうするのですか?」


 でも、この人もルーチェと同じで満足行くまで、戦うタイプのようです。何だか、止めても無駄な気がしたので、好きにさせました。




「悪いな少年。飲み物まで貰って」


「いえ、僕も、今すぐには、仲間の所には戻りたくないので、この試合が終わるまでは付き合いますよ」


 その代わりに、僕とおじさん二人分のジュースを購入して、一緒に観客席から試合を見届けることにしました。


「そうか、ありがとう。ではついでにおじさんの苦労話を聞いてくれないか?」


「? いいですけど」


 僕に人生相談とかされても経験が浅いからアドバイスできないのですが、聞いてくれと懇願してくるので、おとなしく聞くことにしました。


「あの禿げ、おっと、仕事上不用意に本名を上げるわけにいかないな。ともかく、上司にとある人物を探してきてくれと仕事を押し付けられたんだ」


「人を探す? 王都で流行りと聞く、探偵のようなお仕事ですか?」


「ん?まあ、それに近いかな。それで、最後にそいつが確認された街に行ってみたら、なんと!」


 驚くことに、その街で、おじさんが探していた人物が、最後に目撃されたとされる施設が全焼していたそうです。


「どうやら、そこの施設の責任者が、自ら火を放ったようらしくてな。責任者共々、手掛かりになりそうなものが消えてしまったんだよ。奴には別件で、色々と問いた出すべきことが、あったのにこれで永遠に闇の中だ」


「それはお気の毒に……」


「それでよ。手掛かりになりそうな情報を集めていたら、そいつの昔馴染らしい奴らが、そいつは以前アクアロードに一度行ってみたいって言うのを聞いたって言うもんで、この街に来てみたんだよ」


 確かに交易都市、水の都アクアロード。話を聞けば人生で一度くらいは行ってみたと誰だって思うでしょう。


「でも、何も手掛かりになりそうなもんがねえ。この街は情報の宝庫でもあるんだが、そいつに関する情報はさっぱり出ねえ」


 それは、運がないですねとしか言えませんでした。


「それでよお、おじさん、上司に、調査費って名目で宿代やら食費を渡されているんだが……」


「どうかしたんです?」


「ああ、いやな。さっぱり手掛かりが掴めなくて、苛立って酒代とかに消えてしまった。ここ、高級ホテルとかもあるから、豪遊し過ぎた、ハハッ」


 いくら、仕事が上手く行かないからって、上司が出してくれた生活費で豪遊するのは、問題がある気がします。ん?まてよ。


「今、賭けているお金はどこから出ているんですか?」


「その調査費の最後の残りだよ。ホテルも追い出されて、もうどうでもいいやと考えていたら、ここには、賭博場があるじゃないか、なら賭けで使った分取り戻そうとおじさん考えたのよ」


 あっ、はい、落ちが読めました。


「それが、七連敗。流石に酷くない?」


 この時、歓声と共に、観戦していた試合の決着がつきました。


「八連敗……」


 おじさんは価値を失った賭札をばら撒き、よろよろと立ち上がりました。


「ありがとうな。少年。最後まで聞いてくれて、後、飯もくれて、おじさんは今日寝る場所を探しに行くわ」


 何だか、見ていられませんでしたが、かと言って、アンデットである仲間も元へ連れていくわけにも行かないので、最後にお別れの挨拶をすることにしました。


「えっと、お仕事頑張ってください。豪遊と賭博の件は自業自得なような気がしますが、おじさんが探している人が早く見つかることを祈っています」


 その言葉を聞いて、おじさんは、おおっと感涙しながら、


「いや本当にありがとう。おじさんも、改めて本気で神ルクシオンに、少年の人生に幸運をと祈っておくよ」


 ルクシオン教の祈りの所作をしてくれました。


「あれ? おじさん神父だったんですか?」 


「ん?まあな。でも昔の話だ。今は別のお仕事をしているから、信徒を導く神父じゃない。だから、賭博に手を染めても問題ははずだ。多分な。 あれ? だから、勝てないのか?」


 その言葉を残し、おじさんは人混みに消えていきました。


 世の中には、色々な人がいるんだな。


 そう考えながら、ルーチェ達の元へ戻りました。







「もうルーチェさん止めましょう!!また明日! また明日、来ましょう」


「うるさいですよ、離しなさいリーリス!明日勝っても意味がないのよ! 今日勝たないといけないの!!」


 僕は何も見ていない事にして、もう一度闘技場を散策することにしました。

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