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第十四話 水の都

いつも応援ありがとうございます。

「これが、水の都か」


「綺麗……」


「私の記憶にはございませんが、悪くない街ですね」


 ガリアンとの戦闘から一週間後、僕達は当初の目的地であった水の都と謡われる交易都市アクアロードに辿りつきました。


 アズライト王国を東西に分断するエルム大河。その大河の一角に、小さな中洲があり、その中洲を土台にして水上都市アクアロードは建設されました。


 そして、アクアロードは両岸から橋を架けられ、船を使わずに物を運べる巨大な橋にもなったため、王国の東西を繋ぐ一大物流拠点となり、同時に、あらゆる品が売買される交易都市にもなりました。


 そのため、この都市には、必然的に多くの情報が集まってきます。


 僕は、ローズを飛び出した直後は、他の死霊術士達の情報を集めるために、この都市を目指していましたが、道中でネクロポリスのメンバーであるガリアンと遭遇し、完全に決裂してしまったため、このアクアロードを目指す理由はなくなっていました。


 ですが、他に目的地もありませんし、折角だからとアクアロードを目指すことにしました。



 長い橋を歩き、僕達はアクアロードの街に入る門をくぐります。門の向こう側には、未だかつて見たことがないほどの活気あふれる商店街が続いていました。


「すごい! ママの言ってた通りの街だ!」

 

 その光景を見て、年相応の子供のように、はしゃぐのは、先日ガリアンから僕の配下となったグールであるリーリスです。


 彼女の種族は希少なエルフ。天職は戦闘系下位職・射手でステータスプレートを使い確認したスキルは、弓矢の技術が上がる『弓矢技能向上』、遠くのものが見えるようになる『視力向上』、矢の威力を上げる『貫通』の三つです。


 リーリスの年齢は約十三歳と聞いているので、この歳で、三つのスキルを会得しているのは、天才と言ってもいいでしょう。


「ジン様、あんなに大きなお魚見たことありません!!」


 リーリスは、僕の手を引っ張りながら、興奮しながらあちこち指さします。今は純真無垢な笑顔ですが、彼女の抱えている心の闇を知ってしまった今、深い負い目を感じています。


 あの時、ガリアンを見逃したのは、正しい選択だったのでしょうか?


 彼女は自分の手で復讐を果たしたいから、見逃しても大丈夫むしろその方が良かったと言ってはいますが、それでも、あの場でリーリスの因縁に蹴りを付けられたのに、みすみす見逃してしまったのは、残念でなりません。


 と言うか、リーリスが語るガリアンはとんでもないほど鬼畜な奴でした。次会ったらボコボコにして息の根を止めてやろうと、固く決意しました。


 さて、新たな仲間であるリーリスに関してこれくらいにしておいて、今一番の問題は、銀髪のヴァンパイアの方です。


「リーリス、そんなに、はしゃいでいたら主様に迷惑ですよ」


「でも、ルーチェさんも何か目を輝かせているではないですか?」


「……あなた、見かけによらず、意外と鋭いですね」


 はしゃぐリーリスを窘めるのは、僕の最初の従者であるルーチェです。当初は戦力として扱うつもりのようでしたが、妹のようにリーリスを可愛がっているように見えます。


 ですが、僕は今のルーチェが少し怖いです。記憶喪失だった彼女に記憶の一部が戻り、少しだけ性格が変わった気がしたからです。


 彼女が取り戻した記憶は、どうやら知識面の比重が多いためか、本人は未だに自分の死んだ時の光景も思い出せないと言っています。


 確かに、自分が何者かさえ分からなかった状態では意見もできなかったでしょうから、最初の頃のルーチェが、命令を淡々とこなすことしかしなかったのは理解できます。しかし、最近の彼女を見ていると、何か胸騒ぎがしてなりません。


 そんなルーチェのステータスですが、見てビックリしました。


 種族は世界に七体しか確認されていないヴァンパイア。


 ~向上と呼ばれるスキルの多くは身体能力や技能などを自分の意思で常時強化できるパッシブスキルと呼ばれていますが、ヴァンパイアは、それらのパッシブスキル発動時と同等の身体能力を素で持っています。


 例として、リーリスは遠くの物が見える『視力向上』と言うスキルを持っていますが、ルーチェはそのスキル無しでも、リーリスと同等以上に遠くの物が見えるのです。


 それに加え、ヴァンパイアは、光属性以外の攻撃からすぐに再生するほど高い再生能力を兼ね備え、自身の血を自在に操ります。


 もはや、ヴァンパイアと言う種族そのものが一つの天職と言っても過言ではありませんが、ヴァンパイアはあくまで種族名であり、天職ではありません。


 では、そんなすでに化け物であるルーチェの天職は何か?


 彼女の天職は、上位天職・戦乙女。僕の記憶にも、教会に資料にも記されていない天職で、さらに、前回の戦闘で披露した空を歩ける『空中歩行』を始め、合計十二ものスキルを保有しており、その半分くらいは、聞いたことがないスキルでした。


 彼女の強さに関して疑うことはもうないでしょう。最強と呼ばれるSランク冒険者ですらスキルの獲得数は、八つ前後と言われているので、いかに彼女が規格外なのかが良く分かります。


 ちなみに、僕は死者隷属と死者再契約の二つを新たに獲得していました。この短期間で二つのスキルを獲得している自分もおかしい気がしますが、そこは今は棚に上げておきましょう。




 まあ、ともかく、容姿もそうですが、二人とも僕以上の強くて、僕なんかが、彼女達の主で本当に良いのか疑問を抱きつつあります。


 なので、現在、姉妹のように仲良く会話している二人から一歩引いて、背後から二人に付いて歩いています。


 初めて見る品々に目を輝かせる二人の後を背後から眺めて、歩いていると、突然、複数の男性が、ルーチェ達に声を掛けてきました。


「お嬢さん達、可愛いね」


「どこから来たの?」


「俺達と一緒に遊ばない?」

 

 どうやら、ナンパされたようです。まあ、ルーチェは銀髪で凛々しい美少女、リーリスは金髪で可愛い美少女なので、むしろ声を掛けてきて当然でしょう。もし、僕が彼女達と縁がなかったとしても、ナンパをする勇気はないにしても、目で追うくらいしたでしょうし。


「ええと?」


「………」


 ルーチェの方は分かりませんが、生まれてからずっと森の中で暮らしていたリーリスにとってナンパされると言う経験はなかったようで、どうしていいのか分からずにオロオロしています。


「ん? どうしたの?」


「もしかして迷子かな?」


 そして、助けを求めてか、僕の方を見つめました。それによって、ナンパ男達は、偶々ルーチェ達の背後を歩いていたように見えた僕が、彼女達の関係者だと気が付きました。


「何だ、てめえは?」


「この嬢ちゃん達の連れか?」


「見た所冒険者っぽいが、パーティのメンバーか? ああ?」


 優しそうな雰囲気が消え、高圧的な態度で僕の方を睨んできました。僕の事を邪魔者と思っているのでしょう。どこかに失せろと視線で威圧してきます。


 昔から、こういった人達によく絡まれてきて、そのたびに頭を下げてその場を凌いできましたが、今の僕は彼女達の主です。エルフとヴァンパイアを従える人間として、簡単に頭を下げて良いものかと逡巡していると、ルーチェが声を上げました。


「この方は私達の冒険者パーティのリーダーで、とある貴族の御子息でもあり、私達は、彼の護衛でもあります」


「え? 何それ? 初めてき、んん……」


 折角、ルーチェが上手く誤魔化そうとしてくれたのに、余計な事を言いそうになったリーリスの口を塞ぎぎながら、僕はルーチェに良くやったと目をやって彼女を褒めました。


「え、貴族の御子息」


「マジかよ?」


 ルーチェの知識は三百年前から止まっているはずですが、今のとても良い判断です。案の定ナンパ男達は一歩後ずさりしました。貴族と言う言葉が出れば、大抵の人間は、むやみに近付こうとは考えません。それは三百年経っても変わらないと言うことでしょう。ナイス、ルーチェ! 


 ですが、これで退散すると思っていたナンパ男達は、意外にもしぶとく、先程までの高圧的な態度は引っ込みましたが、諦めたようには見えませんでした。


「そ、そうか、それは悪い事をしたな」


「まあ、貴族の家の人間が従者と一緒に冒険者をやるって話はよく聞くもんな」


 彼らは、態度を改め、下手に出ながらある事を提案してきました。


「この街は一大交易都市!! だが、同時にもう一つの顔がある!」


「そう! この街は、大陸でも珍しい武闘大会が開かれている街でもあるんだぜ!!」


「今日も、その武闘大会があるんだが、一緒にどうだ?」


 何だか、話がおかしな方向へと進んでいくような気がしましたが、折角なので、僕達は、彼らの話に乗ることにしました。


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