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第十三話 第2の契約

いつも応援ありがとうございます。

「てめえら、何でもいい。あの女が空から降りてくる前に、今すぐあのガキを殺せ!!」


 ガリアンは好機とばかりに配下のグールに命令を下します。


 敵の魔砲士が放った攻撃魔法は、何とかこの赤い盾が防いでくれたけど、現在ルーチェは空の上で、地上には僕と敵しかいません。


 あ、ヤバい。これ死んだ。


 と一瞬焦りましたが、上空から赤い斬撃のようなものが降り注ぎ、ガリアンさん達を切り刻みました。恐らく、ルーチェがやってくれたのでしょう。おかげで、命拾いしました。


 ですが、頭上からルーチェの攻撃を浴びた敵の方は酷いことになっていました。  


 ガリアンの使役する二体のグールは、体中を切断され、バラバラになって血と共に散乱しています。グールは頭部か心臓のどちらかを破壊されたらおしまいなので、もう彼女達はだめでしょう。


 肝心のガリアンは、五体満足のようではありますが、真っ赤に血を浴びたまま地面に伏したままピクリとも動きません。


 それにしても、


「え、えっと、ちょっと、強すぎではないでしょうか?ルーチェさん、いやルーチェ様?」


 戦う前に、本当に勝てるのか疑っていてごめんなさい。


 彼女は、死霊術士、守護騎士、魔砲士と、上位天職三人を相手に、たった一人で、しかもほぼ無傷で勝ちました。


「ヴァンパイアは光属性以外の攻撃であれば、即座に再生するってあの資料には書いてあったけど、本当だったんだ」


 スキル無しでも普通に強いし、空まで飛んでいるし、何でもありですね。


 それにしても何で空を飛べるのでしょうか?ヴァンパイアの能力?それとも、彼女の天職のスキルでしょうか?


 完全に僕の常識を超えた強さでした。多分ガリアンも同じだったのでしょう。戦闘中、ルーチェが規格外の行動をするたびに驚いて必死に策を考えていたように見えました。


 出会った当初のガリアンの放つ邪悪な雰囲気は完全に消え、最後には決死の戦いに挑む勇者みたいになっていました。まあ、だからと言って同情する気は微塵もありませんが、


「主様、ご無事でなによりです」


 と、ここで、大空からルーチェが降りてきました。結構な高さから降下してきた思いますが、膝をほとんど曲げずに綺麗に着地を決めました。


「お、お疲れ様?」


「ありがとうございます主様、ですが、まだ終わっていません」


「それはどうゆうこと?」


 僕の疑問に答えぬままルーチェは、地面に伏しているガリアンの元へ行き、その体を思いっきり蹴り飛ばしました。


「これが、噂の死体蹴り……」


 え、流石に酷くない? 


 と心のどこかで、ガリアンを憐みましたが、宙を舞うガリアンの体が、地に足を付けて着地したのを見て驚きました。


「い、生きていたの?」


「チッ、このまま死んだふりをしてやり過ごそうと思ったんだがな」


 ガリアンは思惑通りに運ばなかったことに対し舌打ちをして、立ち上がりました。彼の体は血で真っ赤に染まっていますが、思ったよりも元気そうな所を見るとあの血はバラバラにされたグールの血のようです。


「当然です。この男は殺さないようにわざと狙いを外して攻撃しましたから。下手な演技は無意味です」


 うん、もう驚きません。ガリアンの方も同じようです。


 あの高さから正確に狙いをつけて攻撃できるとか、もう意味が分かりませんが、それを一切自慢する素振りを見せないことから、あれが彼女にとって当たり前の事なのでしょう。


 そうなると、わざとガリアンを生かしたことになります。やはり、ルーチェも彼の背後のネクロポリスを気にしているのでしょうか?


「さて、では三下、度重なる我が主様への非礼を詫びなさい。」


 これっぽっちも、そんな事考えていませんでした。


「くっ……」


 ああ、ガリアンさんの方は凄い目でこちらを睨んでいます。彼は、もう一人グールを温存しているはずですが、二対一でも勝てなかったので、今さら出しても勝てないでしょう。


 ガリアンが生き延びるためには、ルーチェに従うしかありません。ですが、多分、僕よりも長い時間、死霊術士をやっていたのに、一週間前に死霊術士になった新人の僕に負けたばかりか、頭まで下げ謝罪するのがとても屈辱なのでしょう。


「く、済まなかった」


 それでも苦悶の表情のまま、凄く嫌々謝罪してきました。正直言って、登場時に、あれだけ凶悪なオーラを漂わせていた男がよく頭を下げたなと感心すらしてしまいましたが、


「私の方ではなく、主様の方を見て頭を下げ謝罪しなさい」


 ルーチェさん容赦ないな。徹底的だ。


「ち、ちくしょー……俺様が悪かった許してくれ小僧!!」


 ロイスさん達がこうやって謝罪してきてくれたら胸に来るものがあったかもしれません。


「どうですか主様? すっきりしましたか?」


 ゴミを見るようにガリアンを見ていたルーチェが、私頑張って仕事しました褒めて!と言う目で尋ねてきたのですが、残念ながら僕は彼女の期待には応えられませんでした。


「いやルーチェ。彼によって被害を被った人間は山のようにいるみたいだけど、僕自身はまだ直接被害を受けていなし、これと言った因縁もないので、いまいちざまぁと思えないんだよ」


 普通、出会って一時間も経っていない人間をそこまで恨めないし、この勝利はほぼルーチェがもたらしたものなので勝利の喜びもありません。それに何より、僕は何もしていないのですから。


「は~、そうですか、残念です」


 ルーチェは酷く落ち込んだ様子のまま、ガリアンに告げました。


「もう用はないので、お帰りになって下さい」


 その言葉を聞いた瞬間、ガリアンの顔はトマトのように真っ赤になりました。あの真っ赤な顔に、どれだけの屈辱的な思いが込められているのか伺い知ることは叶いませんが、命の方を優先したのか、黙って背を向けてこの場を去っていきました。


「意外だった、殺さないんだね?」


「あんな雑魚、殺す価値もありませんよ」


 強者故の驕りか、ブチ殺すと言っていたのに、ルーチェはガリアンを見逃しました。


「それよりも、主様にお願いして頂きたいことがございます」


 ルーチェに案内されて、僕は、森の中で倒れていたガリアンの連れていた金髪のエルフの少女の元へ赴きました。


「降下中に見つけました。恐らく、あの爆発に巻き込まれて森の中に吹き飛ばされてのでしょう」


 息があるという言い方は妙ですが、幸いにも頭も心臓も無事なようです。どうやら、あれだけ屈辱的な目に会わされたガリアンが回収し忘れたみたいです。


「で、どうするの?ガリアンのグールだよね。この子?」


 今は気を失っているようですが、目を覚ましたら襲いかかって来るかもしれません。油断しないようにしようと考えていると、僕の隣でルーチェは自分の左手の小指を右手の爪で斬り落とし、その子指を少女の口の中に強引に押し込んで飲み込ませました。ちなみに斬り落としたルーチェ自身の子指はすでに再生を終えて元通りになっています。


「え?何やっているの?」


「断片的ですが、戦闘中に記憶の一部が戻りました。それで分かったのですが、ヴァンパイアの肉体は、人肉の代わりにグールの捕食衝動を抑えることができます」


 記憶が戻った?


 僕はそこら辺のもっと詳しく聞きたかったのですが、その前にエルフの少女は目を覚ましました。


「うう、あなた達は、確か」


「私と主様は、あなたの御主人様の敵です」


 その一言で少女の意識は覚醒しました。


「ご主人様?違う!! あの男は絶対に許さない。あいつは八つ裂きにしてパパとママの仇を取らないといけない!!」


 詳しいことは分かりませんが、この少女は主であるガリアンに物凄い憎悪を抱いているようです。怒り狂った少女の様子を見て、ルーチェは僕が見た事のない不敵な笑みを浮かべました。


「ですが、あなたの肉体はあの男に支配されています。今は、私達に負けて逃げ去りましたが、今度見つかったら、また奴隷のように扱われますよ? それにどちらにしても死者隷属を受けているあなたでは、主であるあの男に攻撃はできません」


 なので、とルーチェは僕の方を向きました。


「私と一緒に、私の主様であるジン様に仕えてみませんか?」 


「え?」


「そんなことできるの?」


「私を支配するほどの腕前を持つ主様であれば、スキル死者再契約はすで習得しているはずです。それを用いれば、この子の所有権をあの男から奪えます。あなたの方も、私の肉を食べさせてあげるので、他の人間を襲わなくても理性を保てますよ」


 ルーチェは互いにメリットがあると提案してきました。突然提案されて僕は戸惑いましたが、少女の方はすごい乗り気のようです。


「やる! あいつの支配下にいたら、あの男を殺せない!! だったら、あなたの配下になってあの男を殺す。だから約束して、あいつを殺すのに協力すると。そのためだったら、私、何でもする!」


 確かに戦力が増えるに越したことはありませんし、彼女の食事もルーチェが用意してくれるのであれば、問題ありません。


「分かった。どうすればいい?」


 その後。僕は、ルーチェの指示に従い、スキル死者再契約を使い、新たにエルフの少女、リーリスを支配下に置きました。


 これは喜ばしいことなのかもしれませんが、それよりも、ルーチェの記憶が戻った方が問題です。


 記憶喪失の時の彼女は、自分から僕に意見や提案をしなかったのに、今は次々と物を申してきます。もう今の彼女はもう僕が知っているルーチェではないかもしれません。


 僕は一抹の不安を感じましたが、今は胸の内にとどめておくことにしました。









 その日の深夜。


 交易都市アクアロードから、北西に数キロの場所にある王国軍の砦に一人の男が現れた。


「おいおい、あんた、こんな時間にどうした?」


「ここは、軍の施設だぜ」


 砦を守る衛兵達は、初めは酒に酔った、酔っ払いが迷い込んできたのかと、ため息をつきながら追い返そうとするが、灯りに照らされてはっきり見えるようになった男の服装を見て考えを改める。


 年齢は四十代前後、灰色の髪の人間で、黒いローブに、左目を覆う眼帯が特徴的な男であった。


 杖は見えないが、服装から男が魔術師ではないかと衛兵達は考察した。それに酒に酔っているようにも思えなかった。


「この砦には、千人近い兵士がいる。上位職だって数人いるぞ」


 流石にたった一人でこの砦に襲撃してくるとは思わなかったが、一応、衛兵達は警告を出して、気を引き締め対応することにした。


「ああ、そうだな。それは大変だ……」


 武器を構えた衛兵達に対し、男がした事は左目の眼帯を外しただけであった。だが、それだけで、次の瞬間、衛兵達は糸の切れた人形のように地面に転がった。


 すでにこと切れている、即死であった。


「我ら、ネクロポリスのボスが、かの闇の王より奪い取ったこの魔眼。この目を見た者は、その瞬間命を失う」


 その後、男がゾンビ増殖と呟くと、倒れた衛兵達が立ち上がり、生者を求めて砦内に侵攻を開始した。


 突然のゾンビの襲撃に、阿鼻叫喚の砦を背にしながら男は、砦からをゆっくりと離れて行った。


「アクアロード周辺の軍事施設はこれで粗方潰した。各地に散らばるメンバーが到着次第。儀式を始める」


 姿を見せないボスに代わり、ネクロポリスを率いる男シドは、一切の油断もせず、儀式の中心点である交易都市アクアロードへと歩いて赴いた。


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