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第十二話 ネクロマンサーVSネクロマンサー後編

「くっ、ガリアン様!!」


 一瞬で移動して、ガリアンの真横に現れた銀髪の少女は、近接戦が不得意な死霊術士では反応できないほどの速度で、二本の剣を振るう。


 だが、常時発動可能なパッシブスキル状況把握向上を持つレアが、盾でそれを防ぎ、ガリアンの命を守った。一撃必殺を狙っていたのか、銀髪の少女は、攻撃が失敗したと悟り、二人から距離を取った。


(何とか辛うじて、反応できたわ)


 レアが持つ盾には、傷一つついていない。ガリアンが用意したミスリル製の特別な盾であり、さらにパッシブスキル盾強化向上で、防御力も格段に上がっている。


 レアは、スピードでは負けているが、今の攻防で少なくとも、あの少女の攻撃を防げることは確認できた。


「ガリアン様、何とか敵の攻撃は防げますが、恐らくスキルによるものと思われるあの速度と再生能力は厄介です。高火力持ちのあの子を出すことをご提案致します」


 ガリアンに心身ともに絶対服従の身であるレアが、主に意見するのは非常に珍しいことであったが、それでも、プライドの高い普段のガリアンであれば、指図するなと一喝しただろう。だが、今のガリアンは銀髪の少女の正体を見極めるためにも、この提案は一考する価値があると考えていた。


 しかし、その間に、先ほどの攻撃で刃こぼれしてしまった自分の二本の剣を見て、残念そうに銀髪の少女が呟いた。


「主様にあれだけお任せをと言って決めきれませんでしたか、まあ、剣も拾い物ですし、何より、スキル無しの攻撃では簡単にいかないと言うことなのでしょうね……」


「「何だと?!」」


 自分に対して言っていたはずの少女の、その一言をガリアンとレアは聞き逃さなかった。


「スキル無しですって!?」


 銀髪の少女の正体に薄々気がついていながら認められないガリアンは口を閉ざしたが、少女の正体に一切心当たりがないレアは、思わず叫んだ。


「あれが、スキル無しの攻撃ですって、嘘を言いなさい! どう考えてもパッシブスキルとアクティブスキルを同時使用しているでしょうが!!」


 レアは、自分の常識を超えた事を言ってのけた、同じグールであるはずの銀髪の少女に問いかける。だが、銀髪の少女は、何を言っているんだこいつと言う目をした。


「私の主様とは格が違うとは言え、あなたも同じ死霊術士に呼び覚まされたアンデットでしょう? 私達は生前の頃よりも、素の身体能力に関してはかなり強化されているはずです。あの程度の動きであれば、常時発動できるパッシブスキルを切ってもできるでしょうに」


 むしろ、逆にその程度の事もできないのですかと、銀髪の少女は問い返した。


 その返しに、レアはグールとして己の矜持を傷付けられショックを受けるが、その後ろで表には出さなかったが、主であるガリアンの心の中は、盛大に荒れていた。


(馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!! いや、そんなはずはない!! あんなガキが、死霊術士すら支配できないヴァンパイアを使役するなどありえない!!!)


 スキル無しでの馬鹿げた身体能力、グールの常識を超えた再生能力。この二つを実際に見せられ、ガリアンは、心の中で全力で否定するしかなかった。


 しかし、レアとは違い、アンデットを支配する死霊術士として、ヴァンパイアを知るガリアンは、皮肉にも、この時理性を保てなくなっていた。


「ふふふ、ハハハハハハハハ!!」


 そして、突然笑い出したガリアンは、新たなグールを投入する。


「ああ、麗しのガリアン様」


 新たに箱から姿を現したグールは、十代後半頃の年頃の容姿に、黒いローブを着た黒髪の少女。名前をアンナといい遠距離系の攻撃魔法に秀でた上位天職・魔砲士に就き、レア以上に、ガリアンに心酔しているグールだ。


 いつもであれば、「ガリアン様素敵!」と一芝居見せるが、残念ながら今のガリアンに、それに付き合っている暇はなかった。


「あの銀髪娘を、お前の最強魔法で、消し飛ばせ!!」


 ガリアンは有無を言わさずに、アンナに命令を下し、アンナは不服そうな顔しつつ命令に従う。


「はい。ガリアン様。 ちっ、食らえ!!プラズマ・ボム!」


 上位天職・魔砲士、その専用アクティブスキル魔法最強化。一日に一回しか使用できないという対価と引き換えに魔法を限界以上にまで強化するスキルよって雷属性でも屈指の威力を誇る上級魔法プラズマ・ボムはとてつもない威力となった。


 激しい閃光と共に、巨大な雷の玉が銀髪の少女に迫る。この魔法をまともに受けて、生きている者などほとんどいないだろう。防御に長けた守護騎士であるレアですら、ミスリルの盾とパッシブスキルに、回数制限のある防御系スキルを併用して辛うじて防げるかどうかだ。


(これほどの攻撃であれば、もしヴァンパイアだったとしても、再生できずに、焼き焦げるだろう)


 常に余裕を見せつける普段のガリアンであれば、絶対にこの程度の攻撃ではヴァンパイアをどうこうできるわけがないと笑い飛ばすに違いないが、今のガリアンにはその余裕もなかった。


 それでも、心のどこかで、あの雷を浴びてすぐに再生して無傷の姿を見せるのでは?とガリアンは最悪の光景を予期していた。


 しかし、幸いにも、その最悪の予想は外れた。


 そして、予想よりもさらに最悪な出来事が目の前で起きた。


 銀髪の少女は、なんとプラズマ・ボムを回避するために、真上にジャンプしたのだ。


「ふん、馬鹿ねあの女。上にジャンプしたくらいで、私のプラズマ・ボムからは逃げられないのよ!!」


 アンナは下策ねと、銀髪の少女を嘲笑うが、銀髪の少女の次の行動を見て、ガリアン、レア共々驚きで目が点になった。


「スキル、空中歩行」


 銀髪の少女は、何もない空中を蹴り、さらに上に跳躍した。


 それも、一度ではない、銀髪の少女は、何もない空中に見えない足場のようなものを発生させそれを踏み台にして遥か上空にある雲を目指す。


 主であるジンですら知らない。これがルーチェの天職が持つ専用アクティブスキルの一つ。その名も空中歩行。


 ワイバーン等、飛行系の魔物を使役して乗る以外、空を飛ぶ術を持たないこの世界の人間にとって、空中を翔る彼女の姿は絶対的存在に思えた。


 プラズマ・ボムは盛大に炸裂するが、ルーチェはすでに、爆風すら届かない大空にいた。


 逆に、地上には無駄撃ちとなったプラズマ・ボムの余波が襲い掛かる。街道どころか、周辺の木々も根こそぎ焼き払われるほどの大爆発であったが、ガリアン達は、レアの盾に守られ無傷であった。


 しかし、肝心のルーチェに逃げられても、目を開くことも困難な爆風に守られながらガリアンは、己の勝利を確信し邪悪な笑みを浮かべる。


(あの銀髪娘が、ここまで規格外とは、しかし奴は無事でも、あの小僧は持つまい)


 護衛すべきヴァンパイアは空の上、死霊術士となって一週間のジンでは、この爆風で死亡、良くても吹き飛ばされて重傷だろうとガリアンはほくそ笑んでいた。


 だが、その希望は空しく砕かれた。


 爆風が収まり、鼻が利かないため、目視で状況を確認するガリアン。そこには赤いドーム状の物体があった。


「おお、何だかよく分からなかったが、助かったのか?」


 ジンは、ルーチェが事前に展開していた血の盾によって守られていた。ヴァンパイアの血液は、液体の柔軟さから、ミスリルすら軽く凌駕する硬度にもなり、おまけに、遠隔操作もある程度の自動化もできた。


 ガリアンの切り札は、理不尽なほどチート能力を持つヴァンパイアの血によって打ち砕かれたのだ。



 

 だが、それでも倒したと確信し失敗してガリアンは落ち込まなかった。


 確かに、ガリアンは外道で残虐な死霊術士である。しかし、逆に考えれば、それができるほど彼は強く、経験も豊富である証明でもある。先ほどは多少理性を失いかけたが、経験から彼は立ち直ったのだ。


 故に、今が本当の最後のチャンスと判断した。


「てめえら、何でもいい。あの女が空から降りてくる前に、今すぐあのガキを殺せ!!」


 幸いにも、彼の守り手は遥か上空。あのヴァンパイアが残した血の盾があるとはいえ、それだけだ。レアとアンナが今すぐに全力でかかればジンを殺せる。


 そうなれば、主を失い、あのヴァンパイアは理性を失い暴走する。その隙にここから逃げればいい。


 レアとアンナは、ガリアンの思惑を完全には理解していなかったが、ルーチェが空を飛んだ時点で、向こうを格上の相手だと判断していた。


 なので命令に従い、今すぐに目の前にいるジンを殺すために行動に移す。






 しかし、それを遥か上空にいる彼の守護者が許すはずがない。


 ルーチェがヴァンパイアになる以前の話。かつて、この国を襲った異教徒達を、敵の手が届かない遥か上空から一方的に殲滅した経歴を持つ上位天職・戦乙女、ルーチェ・ローズマリア。


 そんな過去を持つ彼女は現在、裂空斬の上位スキルに当たる十二剣戟に、さらにミスリル以上の硬度を持つ状態のヴァンパイアの血を掛け合わせ、おまけに上級風魔法ブラストアップで斬撃自体を加速させ、とどめに、上空からの落下エネルギーまで加算させ地上に向けて放った。


複合術ユニオン、ブラッドレッド・ヴァルキュリア!」


 真紅に彩られた十二の刃は、流星のような速度で、最後のあがきを試みようとしたガリアン達を容赦なく、天空から切り裂いた。


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