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第一話 クラスアップ

新作を書いてみました。お楽しみいただければ幸いです。

「チッ、いつも遅いな。もっとテキパキ働け! 誰のお陰で、生活できていると思っていやがる、ジン」

「はい、すみません。ロイスさん」


 僕の名前はジン。一年前に、冒険者になるために、ど田舎にある村を出て、多くの冒険者達が活躍しているこの街ローズにやってきました。


 この街のすぐ近くには、魔物が大量に生息している深い森があり、冒険者は森へ入り魔物を狩ったり、薬草などを採取してお金を稼いで生活しています。


 しかし、街に来て一年が過ぎましたが、現在、僕がやっていることは、ロイスさんという街で出会った冒険者が率いるパーティでの雑用作業です。


 見知らぬ土地でどうすればいいのか分からなかった僕に仕事と寝る場所を与えてくれたロイスさん達には感謝してますが、彼らは森へ連れて行っても、僕にほとんど戦闘をさせずに、自分達が倒した魔物の解体や荷物の運搬作業などしか仕事を与えてくれません。


 最近になって知りましたが、ロイスさん達は、僕みたいに、何も知らない田舎から来た新人冒険者をパーティに誘って、安い賃金を払って自分達がやりたくない雑用を押し付けているそうです。


 そして、新人冒険者が雑用仕事で根を上げて、田舎に帰ってしまうと、また次の新人を勧誘しているみたいです。


 今まで、ロイスさんのパーティに入った新人達は数か月もすると、根を上げて自分から去ってしまうみたいでしたが、昔から、鈍感と言われているように、僕は最近になって他人から言われるまで気が付きませんでした。


「おい、ノロマ帰るぞ!」


 ここら辺が潮時でしょう。幸運にも僕には、この先に一人でやっていける力があります。


 森から戻り、街の中央に建つ冒険者ギルド、ローズ支部で、今日狩った魔物の換金するためにロビーで待っている時に、僕はついに、意を決してロイスさん達に、パーティを抜ける旨を伝えることにしました。


「ロイスさん、僕、そろそろこのパーティを抜けようと思っているですが……」


 僕は勇気を振り絞って、パーティを抜ける旨を伝えました。すると、パーティメンバー全員がお怒りになられました。


「はあ? てめえ何を言ってやがる? 新人に毛が生えたような奴の癖に生意気言うんじゃない!」

「そうだ。お前が抜けたら、誰が魔物の解体をすると思っているんだ? Bランク冒険者である俺達に、駆け出し扱いのCランク冒険者が意見するな」

「そうよ。みんなの言う通りよ。それに下位職のあんたがどうやって一人で生きていくわけ?」


 皆さん、新しい雑用を探すのが嫌なのか、好き勝手に色々なことを言って僕を引き留めようとしました。なので、僕は今まで隠していたある事を告白しました。


「皆さん、今まで黙っていてすみません。実は僕、もうクラスアップできるんです」


 僕は、自分のポケットの中からステータスプレートと呼ばれる魔法道具を取り出します。そのプレートには、名前や種族、性別といった持ち主の情報が載っていますが、その中に持ち主の天職について書かれている部分があり、他の文字とは違い赤い字で魔術師と書かれていました。


 僕のプレートを見て皆さん目を大きく開いてとても驚いています。


「おい、嘘だろう」

「おまえほとんど戦闘に参加していないのにどうして?」

「ありえないわ」


 この世界には、 戦闘系、生産系と大きく分けて二つ分類される天職と呼ばれるその者が一番能力を発揮できる職業があります。


 そして、生まれた時点でこの世界の人間は何らかの下位の天職に就いており、僕は『魔術師』の天職を持っていました。


 戦闘系天職には、基本的なスキルのみを獲得できる『剣士』『闘士』『射手』『魔術師』『治癒士』と呼ばれる五つの下位職と、その天職固有の特殊なスキルを獲得できる『聖騎士』や『魔導士』などに代表される上位職があります。


 上位職になれば、下位職とは比べものにならないくらいに戦闘能力が上がり、貴族からお誘いが来るほどの力を得るので、社会的なステータスも一気に上がりますが、それゆえに、そう簡単に上位職へと至ることはできまん。


 こうすれば、確実に上位職になれるという方法は未だに発見されていませんが、


 一般的には、戦闘系の場合は上位職へとクラスアップするためには、戦闘経験を重ねることが、上位職に至る一番の近道と言われています。


 しかし、個人差もしくは才能の壁のようなモノがあるようで、どんなに戦闘を重ねてもクラスアップできるに至るのは全冒険者の中でも一割を切るそうです。


 ロイスさん達も十年以上冒険者をやっているそうですが、未だに下位職な事から分かるように、何十年も冒険者として戦い続けているのに、クラスアップできなかったという冒険者がほとんどです。


 「くそっ! なんでほとんど戦っていないこいつが先にクラスアップするんだよ!!」

 

 ロイスさん達が憤るのも、無理はありません。僕はこの一年間で、ゴブリンくらいしか倒したことのない駆け出し扱いのCランク冒険者です。


 しかし、ステータスプレートの天職欄の文字が赤くなったと言うことは、その者が一定量の経験値を獲得し、何らかの上位職へとクラスアップする準備が整ったことを示します。

 

 後は、ギルドに通達すれば、ギルドお抱えの魔法使いがクラスアップするための魔法を施してくれます。ギルドとしても強い冒険者は大歓迎なので、無料で魔法を施してくれます。


「分かった! ではこうしよう。これからお前を特別に俺達のパーティの正規メンバーの一員に加えてやる。報酬も山分けだ。どうだ? いい武器をそろえられるぞ!」


 現実を受け入れて、開き直ったのか、妙案とばかりに、ロイスさんが案を出すと他のメンバー達も乗ってきました。


「そうだ! それがいい」

「あんたは、実戦経験ができて、さらに報酬も上がる。私達は、あんたという上位職がパーティに入れば、もっと難しいクエストに挑める。お互いにメリットがあるわ」


 いつもは僕のことを雑に扱うパーティメンバーが、得物を見つけた狩人のような目をしてるので少し怖かったです。


 そんな状態の彼らを落ち着かせるために、ギルドに報告して早くクラスアップしてなれる天職について知ろうと提案して了解をもらいました。


 その後、僕達はギルドのカウンターのお姉さんに僕がクラスアップ可能になったことを報告しました。お姉さんは「この若さでクラスアップとは天才よ、この子!」と驚きの声を上げました。


 その声に釣られて、新たな上位職の誕生を見ようと多くの冒険者達が集まってきて、ホールは一時騒然となり、新たな上位職の誕生を祝ってか、お祭り騒ぎになります。


 今の僕の天職は、下位職の『魔術師』です。なので、クラスアップ後になれるのは、割合で見れば『魔術師』の上位版と言われる『魔導士』の可能性が一番高いです。でも、『魔術師』であれば、『精霊使い』や『召喚術士』といった魔法が得意な他の天職になれるかもしれません。


 むしろ、そう言った就いている人が少ない天職の方が貴重な存在になれるので、そちらの方がいいでしょう。


 ともかく、どんな天職になれるかは分からないですが、きっと、今の生活を一変させるだけの力を得るのは違いないでしょう。


 高まる期待に胸をワクワクさせながら、僕はクラスアップの魔法を受けました。


「さあ、これで、いいですよ。プレートに触れて更新と唱えてください」


 魔法をかけてくれた、これから先輩になるかもしれない『魔導士』の男性がクラスアップが終了したことを教えてくれたので、懐からステータスプレートを取り出して自分の新たな天職を確認しました。


「おい、早く教えろ!」

「は、はっ、はい。ええと、ん? なんだこれ、聞いたことない天職だ。『死霊術士』って皆さん知っていますか?」


 しーん。


 僕は自分が『死霊術士』と呼ばれる聞きなれぬ天職になったことを告げると、さっきまでのお祭り騒ぎが嘘のように引き、ホールは一瞬で静まり返りました。


「ええ、と、『死霊術士』です。僕、田舎者なんでよく分からないんですけど、どういった天職なんで……」

 

「お、俺知らねー!!!」

「そ、そうだ。逃げろ~!!」


 言葉を言い終わる前に、見物していた一部の人達が悲鳴をあげて逃げ出していきました。ホール中がパニックに陥る中で、何が何だか、分からない僕は、顔面蒼白のロイスさん達に皆さんがおびえる理由を尋ねます。


「ええと、これ、そんなにすごい天職なんですか?」


「ああ、すごい。すごいから。これ以上近づくな!!」

「死霊術士だと!! よりにもよって、とんでもねえ、上位職に就きやがった!!」

「まずいわ。これじゃ私達まで疑われるわ!」


 ロイスさん達のそれは、もはや怯えでした。


 どうやら、僕はよっぽどすごい天職についたでしょう。伝説に謡われる最強の天職『勇者』並みの力を秘めているかもしれません。


 これならみんな、僕のことを見直してくれるかなと思った矢先、ロイスさんは僕に向かって突き放すように言い放ちます。


「お前は今日から俺達の仲間じゃない!!」


 そう言い残し、ロイスさん達もその他大勢の冒険者やギルドのお姉さん達と同じようにギルドホールから逃げ出してしまいました。


「えっ? これ何?」


 誰もいなくなったギルドで一人首をかしげていると、教会のシスターと護衛の騎士達がギルドホールの中に入ってくきて、すぐに僕の体に拘束魔法を放って手足の自由を奪いました。


「我々は教会の者です。すみませんが、あなたの身柄を確保させて頂きます」


 そして、僕は訳が分からないまま、突然やってきた教会関係者達に捕まり牢屋に放り込まれました。

 

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