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ZODIAC~十二宮学園~  作者: 団長
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極東決戦編その1

今回の事件について全容をここに書いておこうと思う。俺は作文が苦手で無論小説家ではない。よって、これからの文章は読みにくかったり訳がわからなかったりするかもしれないが、ここに文章として残しておく。身近に小説家、国語教師や人文学者などの偉い人がいたら俺の心情をこの文章から読み取って欲しい。お願いします。



気が付くと俺は一面真っ赤な地面にいた。頭の中では「?」がいっぱいある。誰だって急にこの状況に陥ったらそうかもしれないが、俺もパニックだった。目の前に人の死体。そして、凶器と思しきナイフを俺は握っていた。急いでそのナイフを捨てると獅子宮の附属病院に連絡しようと思った。

「今、電話すればまだ助かるかも知れない。」

息がない。白羊宮の訓練でやったことを思い出すと死後硬直がもう始まっているのがわかった。警察か金牛宮に連絡したほうがいいだろうか。しかし、犯人は誰だ。俺がなぜこの部屋の死体の目の前にいるのか思い出せない。ここ数時間の記憶がない。

「このままだと俺が犯人になるのか・・・。」

自然と汗が出て焦り始めた。

「冷静になれ。俺がここで逃げたら死体遺棄になるのだろうか・・・。」

「逃げよう。見なかったことにして立ち去ろう。この現場には誰もいないし、誰も見ていないじゃないか。俺には無関係だ。」

早く家に帰ろう。今日のことは見なかったことにして急いで学園から家に帰った。

「あら、お帰り。早かったわね。」

「あ、母さん・・・。お、俺、風呂入ってくるわ。」

母さんがいたことには驚いた。いつも帰りが遅いから妹しかいないと思っていた。隠れるように血のついた手は洗ってきたが、全身から血の匂いが消えていない。

「制服どうしようか。洗濯しとくか。ん?」

ふと右ポケットに何か入っているのに気付いた。

「ペンダント?いついれたのだろうか。」

嫌な予感がした。これは事件現場の遺留品とかじゃないのか?持ってきてしまった。落ち着け。まだ、事件と関係あるとは限らない。しかし、心配なのでずっと肌身離さず持っていよう。制服を洗って部屋で乾かしていると不意に自分の記憶が昨日と今日ないことに気が付いた。昨日は始業式だったから今日はホームルームと講義のガイダンスがあったはずだ。しかし、自分には関係がない。なぜなら自分はエレメンタルクラスに留年が確定していることが先月伝えられていたからだ。去年と同じ内容を言われていたに違いない。レポートも試験もおざなりで出席だけだ。訓練だって真面目にやっているつもりだが体がついてこない。体力には自信があったがこの学園では底辺組だ。留年したことに反省はしているが、解決策が見つからない。

「あ~!もう変なことに巻き込まれてしまったな。顔はよく見えなかったけど研究室の場所から察するにシスカ先生の死体だよな。」

頭と鼻から屍人の光景と臭いが消えない。今日は飯を食べて早く寝よう。母さんと夕御飯を食べた後、風璃かざりの面倒は全て任せて一人早くベッドの中に入った。

「ミドルクラスにあがりたかったな・・・もしかして、シスカ先生に進級のお願いに行ってトラブルになって自分が殺してしまったのか?」

自分が罪を犯したのではないかという疑念と、いつ家に警察や金牛宮が来るかの不安で眠れない一夜を過ごした。


新聖暦六〇一八年

四月七日

憂鬱だ。学園に登校するだけでもいつもめんどくさいのに、昨日の事件でテンションは最悪。学園に行かないと不審に思われるかもしれないと思い今日は普通に登校することにした。きっと、学園では昨日の事件は大きく報じられているだろうし双子宮メディア学部新聞部の奴らが黙っているはずがない。しかし、学園に着くとそこはいたっていつもの学園の景色だった。行き交う学生の口からシスカ先生の話は一切ない。たわいもないいつものリア充共の会話だ。何故だろうか。理由は分からないが警察か金牛宮は報道規制でもしているのだろうか。しかし、金牛宮の校舎の前を自然に通り過ぎてみてもいつもと変わらぬ忙しさが目に入ってくるだけでコロシ、ゲンジョウやガイシャなどの言葉は耳に入ってこなかった。とりあえず、いつもどおりに教室に行き席に着いた。

「あんた、前もウチと同じクラスだった人だよね。名前は確か、さんこう・・・かざ・・・?何だっけ?」

いきなり声かけてくる奴がいるとは思わなかったので少し驚いた。

三江風翔さんこう かざと。お前と同じでエレメンタルクラスに留年だよ。」

「やったー。ウチと同じ人がいて。その制服は白羊宮?」

「ああ。」

「んあっ~!兵隊目指しているの!」

こいつの「んあっ~!」発言で直ぐにわかった。こいつは俺の嫌いなタイプだ。人を見た目で判断するのは嫌いだが、見た目も何かジャラジャラと装飾品を付けていてバカっぽい。こう言う奴は適当にあしらいたい。ボソっと一言、

「ああ・・・。そうだな。」

これで女子は「何このキモイ奴!?関わりたくない」と思うだろう。とにかく一人で考える時間が欲しいのだ。昨日の事件が一切、学園の話題になっていないのが不思議でならない。整理しよう。整理しよう。整・・・

「ウチはハンナ。ハンナ・ノルン・金城。双子宮タレント養成学部で将来はチョー有名なアイドルになるわけよ。お金持ちになって、幸せになるの。」

こんなバカそうなギャルがなれるわけない。自分をどう過剰評価したら、そんな夢を抱くのか全くわからない。顔や胸の偏差値は悪くない方だが、アイドルといわれると正直しっくりこない。人生設計を大きく見誤っているが本人のために黙っておこう。

「悪い。俺トイレ。」

「もうすぐ講義始まるわよ。」

「腹痛くてさ・・・。」

何で俺が逃げなきゃならないのだ。しかし、今は一人にして欲しい。ゆっくり頭を整理できるベストプライシスはトイレの個室だ。飯まで食べたりしないが、今の俺に必要なのは事件を整理することだ。

昨日、俺は確かにシスカ先生の殺人現場にいた。死体を放置してきたが、金牛宮か連邦警察が調べれば直ぐに俺の指紋がいたるところにこびりついているのが分かるだろう。水無瀬水鳥あたりが俺のことを怪しんでいてもおかしくない。学園に来るだけでも嫌だったのに講義と訓練を受けていかなくてはいけないのか。本当に辛い。何で俺がこんな目になるのだ。まただ。事件前の記憶が全く思い出せない。今日は宮の訓練だけでも出て行かなくては怪しまれるよな。よし、昼までここに居よう。時間を潰して午前中の講義が終わった。トイレから出てくると待伏せしていた主に声をいきなりかけられた。

「三江!トイレからなかなか出てこないから心配しちゃったよ。」

「何でいるの?」

「待っていちゃダメ?」

顔が近い。

「いや・・・その、ここ男子トイレだし・・・目立つ・・・」

「目立つこと嫌いなの?ウチはガンガン前面に出ていきたいのよ!」

「その・・・お前はいいかもしれないけどさ・・・」

「お前じゃないよ。ハンナ!特別にウチのことをきんさんと呼んで!将来はゴールデンプリンセスと名乗る予定だから。」

頭おかしい・・・

「俺は白羊宮の訓練に行くから・・・」

「またね!風翔!」

うざい。こういう感じの女は本当に嫌いだ。しかし、本当に俺と同じクラスだったか。あんなに目立つ奴を知らないで一年間留年しちまったのか(去年は水無瀬水鳥に夢中だったな)。


「ワシの指導についてこられない奴は無能だ!戦士の資格がない!」

アシリレラ・コタン副宮長は相変わらず厳しい。入学時に軍人になれば将来は安泰だと考えていた自分が恥ずかしい。確かに風璃かざりの治療費を補助してくれるのは助かるが、昨日の今日では自分の身体がもたない。訓練はいつもどおり行われたがコタン副宮長の視線を多く感じた気がした。

「おい三江!今日は様子がおかしいな。ワシの訓練に集中せずに他に何か考え事していたか?貴様は一年留年している。給与は減額になるぞ。」

「じ・・・自分はこれから他人の二倍訓練に勤しみます・・・」

「愚か者!貴様は考力が全く足らん!慎重に発言をしろ。」

確かに魔法を使えないのに軍人になるのはハードルが高い。入学の時に覚悟はしていたが二年目になると魔法使い達との差がハッキリとわかる(まぁ、魔道機動隊にはなれないから普通の兵士になるしかないけどな)。コタン副宮長には俺の心が分かるのか?

「副宮長!お相手お願いします!」

「ほほう。貴様、本気か?ワシの相手をすればポイントが上がると思っているのか?」

近くで見るとコタン副宮長の見下ろす威圧感が凄い。ものすごく身長が高い人だが、近くで見ると圧倒されてしまう。

疲れた。白羊宮の学生達の前でボコボコにやられた。結果はわかっていたが、心が折れそうになる。コタン副宮長はいつも通りに魔法を一度も使わなかった。俺はきっとあんなふうにはなれない。いっそうのこと、昨日の事件のことを金牛宮に話してしまえば楽だろう。そもそも俺がコソコソする必要があるのか?左ポケットには先生の物であろうペンダントがある。事件現場からこいつが無くなっていたら・・・。ダメだ、どう考えても俺が犯人にされてしまう。どうして事件前の記憶が思い出せないのだ?

「みぃ~つぅ~けぇ~たぁ~さ・ん・こ・う・く・ん!う~ん、風翔の方が呼びやすいかな。」

「お、おう。別にどうでもいい。悪いけど俺は自宅に帰るから・・・」

「んあっ~?寮じゃないの?一緒に帰ろうと思ったのに。」

「お前、もしかして・・・」

嫌な予感がする。白羊宮の訓練時間割を周知しているのか。本当はこいつ、俺のことを知っているのか。もしかして昨日のことも・・・

「ウチ知っているのだな。風翔が・・・大のアイドルオタクだってこと!」

「なぜそれを?」

「今日一日、教室にいるときずっと考え込んでは源姉妹を見ていたでしょ!去年も源姉妹の音楽、プロモーションビデオや雑誌ずっと見ていたのを知てるのだから。」

「だって学園入学前から源姉妹は有名だろ。今年から同じクラスになるとは思わなかったからさ・・・」

「あの双子はウチのライバルなのよ。同じ宮学部だけど、ライブもしてオンラインデビューもしているし写真集も出している。何でウチには声がかからないのかな?」

「俺もう帰っていいか?」

「んあっ~!待って。風翔は私のマネージャーをお願いしたいの。」

「は?」

「だからマネージャーよ。どうやったら私がアイドルになれるか真剣に考えて欲しいの。」

「お前、双子宮のオーディションとか成績はどうなのだ?」

「最悪よ!どうしてウチの順位が低いのかしら。去年は出演したCMは一つ。」

「それだけ?」

「それだけよ。しかも、ウチの腕だけ映っていたわ。」

「俺もう帰っていいか?」

「んあっ~!どうしてそこで帰るっていう発想になるわけ?ウチのことプロデュースできるのよ。光栄なことじゃない。」

「あのな。俺みたいなキモオタに何ができるのだ?」

「ウチはどうしても今年中にいっぱいの人にウチのこと知ってほしいの!正確には今年中まで。」

「は?無理だろ。アイドルなめているのか?大体お前オーディションも・・・」

「お前じゃない!ウチのことは金さんって呼んで。」

「(´Д`)ハァ…お前は俺よりアイドルが厳しい世界だって知っているのだろ。」

「風翔だって魔法も使えないのに兵隊になることが大変だって分かっているでしょ。」

「いや。俺は今年中に前線で活躍したいとか思っていないから。」

「同じよ。そんな甘い考えではウチと風翔はこのままじゃ、ずぅーとエレメンタルクラスのまま進級できずに宮位もあがらないまま。それでいいの?」

ああああああ。バカに指摘されてしまった。去年から学園に入学できれば全てうまくいくと思っていた成長していない自分が恥ずかしい。昨日の事件のことよりこのバカに指摘されたことの方がかなりキツイ。なぜか事件のことは報道も噂もされていない。今は勉学に励むべきだ。

「帰って勉強するわ。」

「ウチも一緒に行っていい?」

「ちょっと待った。家に来るのか?」

「んあっ~、悪い?」

何なん、この女は?こんな目つきの悪いキモオタの家に来たいとか頭がおかしいか俺に気がある・・・いや絶対にそれはない!馬鹿なだけだろう。俺は一生水無瀬水鳥が好きで、源姉妹のファンだぞ。

「あれだぞ。両親と病人の妹がいるぞ。」

「んあっ~!妹いるの!風翔みたいに目つきが悪かったら可哀想・・・」

「風璃は美人だ!そもそも何で金さんは俺の家に来る流れになっているのだ?」

「今、金さんって呼んだ!」

「ノリです。帰ります。」

ずっとあとを付いてくる女がいて、家に着くまで気が狂いそうになる。

「お邪魔します!」

「両親はまだ帰っていないから適当にあがってくれ。風璃の部屋には入るなよ。」

「んあっ~?何で?ウチより美人な妹さん見たいな。」

「いや・・・病気でさ・・・」

何処の馬の骨とも知らない女に風璃の病気のことを話すのは気が引ける。やっぱりこいつには壁を感じる。俺とは違う世界の住人で風璃の病気も理解できないと思う。去年一年間知らなかった奴が新学期の今日に家にまで入り込んで目的は何なのか気になってしょうがない。

「とりあえず勉強しようか。ずばりウチがどうやったらアイドルになれるか?」

「双子宮のオーディションはレベルが高いからな。まずは中の下ぐらいの事務所のオーディションを受けてみたら?」

「んあっ~!それってウチは中の下ぐらいしか通用しないってこと!?」

「いや、金さん結構プロポーションいいのだからもっと上でも通用すると思うけど最初はそのくらいから挑戦するべきだと思ってさ。」

「きも~い。オタクの風翔が言うとキモく聞こえる。ウチは好きな人いるから無理です。口説かないでください。」

「俺だって好きな人くらいいるよ!」

「水鳥?」

「うっ!?」

「んあっ~、図星か。男はみんなあの手の清楚なお嬢様が好みなのよね。でも、水鳥にはいつも幼馴染のハヤテが一緒だよね。」

「だから諦めるのか?」

「いや、違くてさぁ。風翔の水鳥への‘好き’は憧れみたいなものでしょ。」

「キモオタですいませんでした。俺の話はいいから金さんがアイドルデビューできるように何とかしようよ。ダンスとかは双子宮の講義でやっていると思うけど体調管理は?」

「講義で習ったけどいざ実践しようと思うと難しい。寮の食事のメニューは多いけどどれも同じに見えて・・・」

「白羊宮の筋トレと食事を取り入れてスタイルを鍛えるのは?野菜中心で黒酢と味噌を組み入れてある食事をチョイスしたら。運動は?俺は毎日、宮の訓練だけじゃなくて自主トレ夜にしている。」

「いいじゃない!ウチも混ぜてよ!年齢的にも運動でスタイルを整えるべきだし。」

「以外に頭いいな。」

「んあっ~!失礼ね。これでも学園の入試はパスしたのよ。勉強の時間も考慮して継続できるものにしよう。」

こうして俺たち留年組の新しい生活が始まった。金さんは悪い奴ではないようだが壁を感じる。その方が気楽でいいが教室でもこの調子で来られると気まずい。この手の女はみんなにやさしい。俺が特別なわけでない。多くの人にいい顔しなければアイドルというものはできないのかもしれない。まぁ、俺には関係ない。


おっと、食事を作らなければな。金さんは食べていくのかな?寮の食事は満足していないようだけど。仕方がない、今日は白羊宮直伝のメニューで作るか(金さんは肉、脂は少ないほうがいいな)。風璃に食事を持っていくと金さんと話がしたいと言ってきた。仕方がない。

「金さん、風璃が話をしたいと言うから今日は特別に風璃の部屋に入ることを許可します。」

「んあっ~!風璃ちゃん!」

まぁ、風璃の姿を見て普通でいられる人は少ないだろう。このバカはどんな反応をするだろうか。情けだけはかけて欲しくないが

「うわ、チューブだらけ。頭の機械は取れないの?ウチは風璃ちゃんの顔が見たいよ!寝ているだけなんてつまらなくない?」

「右手を握ってやってくれ。」

「右手?右手は動くのだ。」

「Glücklich」

「??なんて言ったの?普通に喋ってくれないの?」

「『うれしい』だってよ。」

普通にできたら苦労してないだろう。風璃の魔法は風を操っている。こうして口が動かなくても風によって空気を振動させて話ができる。魔力を貯めれば自分で起き上がることだってできる。結構、一人で何でもできるのだ(魔法使いでない俺にはその感覚は分からない)。

「んあっ~?この傷跡・・・もしかして!」

「金さんは変なことに勘が鋭いな。右手首の腱や筋肉とか皮膚とか一部は俺のだよ。学園の病院で手術してもらって助かったよ。」

その後も俺を介して金さんと風璃はよく喋った。風璃が家族以外とこんなに喋るのは初めてかもしれない。やっぱり女の子同士の方がいいのだろうか。いつの間にかトークはヒートアップ!俺、ここにいていいのか?話している内容が男にはきつくなってきた。(内容は読者の皆さんの想像にお任せします。)

「ん?今何て言ったの??」

「いや。俺の口から言うのか?」

「それ以外に、どうしろと言うのさ!」

「す、すぅ、好きですか?お兄のことは?」

「はぁ?風翔のことなんか好きなわけはないじゃん。風璃ちゃんはやさしいお兄さん(風翔)のこと大好きみたいだけど優しいだけじゃ男はダメなのだよ。いい、男っていうのは第一にお金なの。」

「てめぇ!男は銀行とでも言いたいのか?」

「んあっ~?違うの?お金がないと生活が苦しいよ。病気なら特に!」

「Du kennst die Welt gut」

「ん?何て?」

「知るか!金さんそろそろ寮に戻らないと門限に遅れる。」

「ああ、そうだね。風璃ちゃんいいこと教えてあげる。お兄さんはこの先きっと正しい選択をする。それを・・・」

「金さん、それってどういうこと?俺は風璃を見捨てたりしないぞ!」

「はいはい。ウチは帰りますね。明日、迎えに来てあげようか?ていうか朝起こしに来てあげようか?(`ω´)グフフ」

金さんは何を考えているのか全くわからない。どこまでが冗談でどこからが本気なのだろうか。なぜ俺にかまうのだろうか?同じ留年生であること以外は共通点もないし・・・。やっぱり苦手だ。

こうして新学期が始まった。事件については全く報道も噂もされていない。一体どうなっているのだ。それはそれで怖いが、俺に捜査が及んでいないならば勉強して学年と宮位をあげることだけに集中しよう。金さんは体を鍛えながらオーディションを受けるようだ。課題は山済みだがこの手の問題は学園で何とかなることが多い。一つは巨蟹宮音楽学部から声楽の練習もしたいらしい。思い出したのはミドルクラス(去年の同級生)にいるキリカ・リーン・アストレアだ。彼女は音楽の才能を桜花させていると聞いている。准宮位の地位についているし間違いないだろう。しかし、問題がある。キリカは金さんみたいなチャラチャラしたギャルが嫌いだろう。音楽のプロがどうしてアイドルの歌練習を手伝わなければならないのだろうか。もっと適任の人はいないだろうか・・・。二つめは美容に関することである。知識は双子宮で十分習うが実践できるお金がない。学園はオーディション合格者優先だから、金さんのような「自称アイドル」には奨学金を出してはくれない。宝瓶宮理学部化学科の化粧品を開発している人の協力が得られれば良いのではないだろうか。



四月八日

「風翔!来週にウチのミニライブがある。遂にステージデビューなの。」

「いつもの双子宮の中間発表だろ。金さんは歌でアピールするのか?」

「んあっ~!歌と踊り両方!」

「金さん、もうちょっと考えてよ。歌と踊り両方は難しくないか?」

「風翔に『考えろ』っていわれたくなぁ~い!踊りは宮で練習しているし、それにウチはキリカに歌の練習してもらっているよ。」

「いつのまに。金さんとキリカは友達なのか?」

「んあっ~!そんな訳無いじゃない!誰があんな堅物と。」

「よく教わっている分際でそんなこと言えるな。」

しかし、行動はしっかりしている。キリカはそれなりに高いプロ意識みたいなものがあると思っていたが、素人の金さんの相手をしてくれるとは予想外だった。なんだか不思議な感じがしてきた。金さんとは去年は同じクラスだったのに今年度に初めて会ったような感じがする。そもそも俺のクラスに頭にお団子をつけた髪型の女子がいたか?キモオタで引き籠りがちな自分の性格のせいか女子のことはさっぱりだ。金さんに直接、髪型変えたか聞いてみてもいいかもしれないがそういう事を聞くとキモいと思われるだろう。だいたい何で俺がアイドル活動手伝わないといけないのだ。魔法でどうにかできないものか。金さんはどんな魔法を使えるのだろうか。それ次第では状況が変わるのではないのか。魔法使いでない俺には消費する魔力や体力についてわからないので何とも言えないが。



四月九日

鬱だ。早く懺悔したい。人馬宮の懺悔室に行くか金牛宮に事情を説明に行くか迷うな。もちろん後者は「俺が犯人です。」と言っているようなものだから自首なのだろうか。今日も学園に行くのが億劫だが、金さんの相手をしていると事件のことが少し紛れる。

「おはよう!風翔!」

「金さんはいつも元気だな。」

「アイドルは常に元気な姿をファンに見せるものなのよ!よし、今日は元気全開で講義を受けよう。」

「内容はわからないのに?」

「んあっ~!それ言っちゃう?正直、数学とか将来、何の役に立つのか分からない。オイラーの公式とか使うのかな?」

「オイラーの公式?」

「仲の悪い指数関数と三角関数の間に成り立つ公式。」

「仲が悪いのかどうかは金さんの私感だよね・・・。」

今日は適当に金さんの相手をして学園で過ごした。帰ると祖父ちゃんが家に来ていた。そうだ!祖父ちゃんに少し話してみようか。昔の人の話はとてもためになるとどこかの誰かが言っていた気がする。

「祖父ちゃん。今日は何で来たの?」

「トウモロコシとか、人参とか成果を持ってきたのじゃよ。」

「祖父ちゃんは確か戦時中も農家だったのだよね。戦争中って怖かった。その・・・人を傷つけたり傷つけられたりした?」

祖父ちゃんは戦時中の話をしないけど聞いてみて良いものだったのだろうか・・・?

「昔は連邦も一つじゃなかった。色々な国が競い合い対立していた。こぞってイデオロギーを掲げていた。資本主義、社会主義、全体主義や保護主義とか。」

「なにそれ?」

「国の考え方の違いみたいなものじゃよ。うちの国はこういうふうに国を運営していこうって考え方が違うのだよ。」

「膨れ上がった憎悪と差別は大量虐殺に繋がったのだよ。今までの戦争と違って犠牲者はほとんど一般人だった。」

「強制収容所もあったな。軍が開放した時に見学させられた。」

「祖父ちゃんはどう思ったの?」

「わしらは知っていた。収容所があるのも毎日そこで何が行われていたのかも。仕方なかったのだよ。わしが攻撃されて収容所に入れさせられるかもしれないという恐怖があった。」

「祖父ちゃんは農家だったのだっけ?」

「そうじゃ。国の食料庫ともよべる大農場で田舎だった。月に一度決まった麦と豆を国と教会にあげていた。残った分は皆で分けあった。戦争が激化しても徴収の量は変わらず、戦場は遠い場所のことだった。近くに出来た収容所から毎日、収容者が働きに来ていた。会話はできなかったが、彼らはとても真面目に働いた。」

「そんな人でも殺された人とかいたの?」

「昨日までいた人が、次の日からずっと来なくなった。皆、勘付いたよ。あいつは殺されたのだなと。」

俺にとって戦争は七十年以上前の話だ。多くの人が犠牲になったとか、重要な科学を消失したとか色々な話を聞くが、祖父ちゃんが話してくれることが一番リアルに伝わってきた。祖父ちゃん達は収容者達を見殺しにしたのかな。俺がもしその場所にいたら何ができるだろうか。そのとき、不意に隣の祖父ちゃんの顔を見ると涙が見えた。後悔だろうか。

「祖父ちゃんは間違っていないって。俺なんか小学生の頃いじめられていたやつのことただ見ていただけ。悪いことだって分かっているのに止めようともしなかった。」

「風翔は自分より他人が大切だと思ったことがあるか?」

「ないな。友達とかいってもただの上辺だけって感じがする。十二宮学園の入試前だって友達が受験するって言ったのだ。こいつよりかは負けたくないなって思ったよ。そして、勉強したのだ。」

「どんな形であれ、わしは孫が十二宮学園に入学できて嬉しい。日菜子、つまり風翔達の母さんが三江家の嫁に行くと言い出した時には自分のことより日菜子の幸せのことを考えたものじゃ。当時は風の民と血縁関係になるのが正直怖かった。」

「風の民は怖いの?」

「昔は今より恐れるものが多かった。戦場を風で切り裂くさまはまさに夜叉。風の民は戦神の使いとも言われた。」

「水の巫女様と契を交わしてからは大丈夫なのでしょ?」

「ああ。そもそも人を民族、宗教や家柄で区別することなんて虚けがすることなのじゃ。これから憎しみの連鎖を断ち切るにはどうすればいいのかのう?」

「連邦内は安心じゃないの?」

「お前が言った上辺だけの付き合いじゃよ。とりあえず一緒に平和にいましょうと約束しただけで、本音は各地域によって異なる。それに、今は外に敵を作っておるからの。」

「敵?連邦の敵はイデアルのこと?」

「お前はまだまだ若いの・・・。」

「お父さん、風翔、ご飯できたわよ。」

久しぶりに祖父ちゃんと話をしたけど学園に入学して少し社会を勉強したおかげだろうか深い話ができた。そのあと家族五人で食事をした。さすがに家族の前ではさっきの話の続きはできない。内容が重い。その日は風呂に入ってすぐに布団に入った。風璃の世話も母さんがいれば問題ない。夕方の祖父ちゃんの話は本当に心に響いた。戦時中の祖父ちゃんの行動は犯罪者になるだろうか?今の俺の立場はどうなのだろうか・・・?シスカ教授を殺したのか見殺しにしたのか真犯人にでっち上げられたのか。記憶がないのが本当に辛い。これも真犯人の狙いなのか?もしかしたら真犯人は俺の知っている人だから俺の記憶を魔法で消したのか?考えても結論は出なかった。



四月十日

「ハンナのミニライブがあるから見に来てください!ハンナ・ノルン・金城!双子宮のハンナ・ノルン・金城です!」

声が枯れそうだ。金さんに付き合ってビラ配りをしているがもらってくれる人はまばらで困っている。

「風翔、もっと列車乗って遠くの街とかでも配ったらどうだろう?」

「その遠くの町にいる人がライブ当日に遠くから列車に乗って来てくれるか?」

「それもそうだね。せいぜい学園の半径十キロ圏内ってとこかしら。でも東京の人は物好きが多いから来てくれるかも。」

「東京って遠いだろ。それに旧都の人はお金無いだろ。治安も悪いし行くならボディーガード役が必要だろ。」

「んあっ~!それが白羊宮の風翔じゃない!風翔が私を守ってくれる。」

「ビラ配りながら警備するってシュールな光景だな。」

「あなた達、ここでビラを配る許可はとっていますか?」

突然声が掛かって驚いたが、振り返ると水無瀬水鳥がいた。

「んあっ~!水鳥、久しぶり!ハンナはアイドルを目指すべく頑張っているのです!」

「私の質問に答えて。」

「双子宮の許可はとってあるよ。金牛宮には伝わっていない?」

思えば事件後に水無瀬水鳥と直接会うのは初めてだ。挙動不審に思われないか心配だ。そもそも事件のことが何で報道も噂もされていないのだろうか。金牛宮は事件のことは当然知っているのだろうが。

「あぁ・・・水鳥は・・・今日は何でここに?」

「妹に会いにいきます。私用じゃありません。宗協連と金牛宮の協調をアピールですかね。」

「んあっ~!さすが金牛宮副宮長忙しいですね。これから聖都まで行くの?」

「いいえ。水萌の方が聖都から来ていますので、近くのホテルで会う約束をしています。」

「あ、あのさ。水無瀬のさぁ・・・妹って、たしか・・・未来が見える魔法使いだったよね。お、俺の未来は・・・」

おっと事件のことを悟られてしまうか・・・。

「いや。何でもない。」

「水萌の魔法はそんな便利なものではないです。三江くんは妹を買い被りすぎだと思います。未来は自分で切り開くものですよ。」

「いや~俺もさ・・・神様にすがりたくなることもあるのだよ。聖帝猊下としてではなく水無瀬の妹として会えないかな?」

不味い。久しぶりに会って言うセリフがこれか?怪しまれてもおかしくないだろ。水無瀬水鳥の観察力と推理力は尋常ではないからな・・・。

「風翔が神様にお願いすること?宮位が早くあがりますようにとか?」

「いや、何でもない。水無瀬は列車の時間があるだろう。早く行ったほうがいいって。」

「いいえ。それが昨日から水萌の方がこちらに来ています。新しい神託でしょうか?」

「じゃあ、俺は聖帝猊下に会いに行こう・・・かな・・・」

水無瀬水鳥に怪しまれずに何とか俺の未来が見られないだろうかと、心丸出しで言ってしまった。

「んあっ~!風翔はビラ配りがあるでしょう!!それに今日はウチに付き合うのでしょ。」

「えええええ!」

突然、耳元で金さんが呟いた。

「マジでウチの言うことには従っておいたほうがいいわよ。シスカ先生が死んでいたことばらされたくないでしょ。」

不意の言葉に耳を疑った。それと同時にしばらく思考が停止してしまった。水無瀬水鳥に怪しまれていないか俺は・・・。金さんが事件のことを知っているのか・・・!?驚愕の事実に俺は手に汗握りながら全身に震えが走った。もしかして金さんは事件の真実を全て知っているのではないだろうか。俺が犯人だったらこの場で水無瀬水鳥に逮捕されて終わりだ。水無瀬水鳥に関わるなってことだろうか。

「水無瀬悪いな。今日中にビラ配り終えたいから・・・」

早く死にたい。まさか、金さんが・・・。水無瀬水鳥は足早に街へと消えていった。そして、

「あ~あ。バレちゃったかぁ。風翔に真実は教えたくなかったのだけどな。ウチの言うことを聞いていればばらさないでおくから。ちゃんと働きなさい。そう。ウチは最強の記憶操作の魔法使い、ハンナ・ノルン・金城。(ニコ)」

不気味に感じる顔に唖然とした。アイドルを目指しいつも笑顔でいる金さんがこうも怖い顔されると本当に怖い。(女っていうのはみんなこうなのか?)

「金さん・・・。俺の記憶をいじったのか?」

「そうよ。風翔だけではない。事件そのものの事をもみ消してやったわ。感謝しなさい。これからはウチの言うことには絶対に服従してね。」



四月十一日

早朝から学園都市の警備が厳重だ。ぐるりと見回すと警官と金牛宮の学生がたくさんいる。厳戒態勢である。昨日、水無瀬水鳥が言っていた通り妹(聖帝猊下)が学園都市に来ているに違いない。

「水鳥お姉ちゃん、学園の仕事は抜けてきて大丈夫だった?水萌もなるべく迷惑にならないようにするから。」

「水萌はそんなこと気にしなくていいのよ。あなたは立派な聖帝猊下なのだから堂々としていればいいのです。それで話っていうのは何ですか?」

水萌が合図すると部屋には水鳥と水萌の二人だけになった。ボディーガードも部屋の外に出ていった。

「これから大変なことがおこるの!」

「落ち着いて、順番に話して。」

「水姫お姉ちゃんにも話したのだけど警察は水萌のワガママでは動けないって。水萌はいつもある一定先の未来が見えるの。場所とか日時は指定できないのだけど誰かの未来が見えるの。それが五月二十一日の後から先の人達がおかしいの。何だか人形みたいにみんな同じ未来なの。」

「いつもと違う未来が見えるってこと?」

「そう・・・。うまく説明できないけどとにかくおかしいの!」

「水萌の魔法は有効範囲ってどのくらい?聖都にいる人たちだけじゃないの?」

「昨日、学園都市に来て魔法を使ってみたけど同じだった。この街の人も人形みたいになっちゃうの!」

「信じがたいが、世界中の人が思考を停止する状態になってしまうってことかしら?魔法使いの結社か反連邦派が何か犯罪をしようとしているってこと。」

「聖帝猊下の権限で何か調べることはできないの?」

「怪しい宗教団体は異端審問局が常にマークしているけどおとなしいみたいなの。水萌の言う事を信じてくれる人も少なくて困っているの。」

「ってことは反連邦派か。関係ないかもしれないけど、金牛宮のマークしているリストには最近『世界システム開発局』っていうのがあるのだけど連邦議会の重役が立ち上げた組織があるわ。おかしなことに組織の人物はほとんどが魔法科学者達ばかりで一般人もいて全体像を把握しきれていないのが現状なのよ。大きなテロ事件にならなければいいけど・・・友達の頭いい人に聞いてみるね。」

「テンお兄ちゃん?水萌は思うのだけどずっと研究室に引きこもっていて心配になるよ。」

「う~ん。今はだいぶ落ち着いてきた感じだしこの間、あかりちゃんが転入してきてから、二人は仲いいみたで前向きになってきている感じがします。ハヤテもいるし。」

「最後はハヤテお兄ちゃん頼みなのだね。水萌は水鳥お姉ちゃんとハヤテお兄ちゃんの恋の進捗状況が心配だよ。最近、二人でデートとかしているの?」

「水萌、私とハヤテはそんな仲じゃないのだから勘違いしないで!」

「じゃあ、水萌がハヤテお兄ちゃんのお嫁さんになってもいいの?」

「それとこれとは話が別です。」

「水鳥お姉ちゃんに相談して良かった。少し心が楽になったよ。」

「私も水萌が少し元気でてくれて本当に良かったわ。姉妹なのだからなんでも相談しなさい。」

姉妹だから分かることがあります。昔からそうですが水萌が見た未来は絶対におこることです。この(厄介な)魔法のせいでこの歳で聖帝猊下にまで宗協連で担ぎ上げられた子なのです。しかし、水萌が言っているのに宗協連の奴らはなぜ動かないのかしら?宗協連の幹部も『世界システム開発局』に何人かは入っていたような気がします。テンくんに調べてもらえば分かることかしら・・・



四月十二日

「金さん、今日もビラ配り?あまり有効な手段だとは思えないな・・・」

「んあ~、文句言うな。他に思いつかないの。」

「・・・」

だめだ。昨日のことがあっていつもの会話が続かない。そもそもいつもニコニコ笑っている女って何考えているのかサッパリわからない。そもそも感情を表に出す女なんているのだろうか・・・。

「へぇ~。この学園はアイドル養成のライブまでやるの。ビックリ。」

「そうなのよ(ニコ)。見ない制服ね。どこの宮 (ニコニコ)?」

「あたしは十二宮学園に転入したっていうか転入させられたというか、よくわからないけど光星明こうせい あかりです。好きな食べ物はチーズケーキ。嫌いな食べ物は特にありません。」

「『明ちゃん』って呼んでいい?ウチはあなたとは気が合う気がするわ。」

「うぅ~ん・・・何か作り笑顔してない?そっちの彼は彼氏?」

「んあ~、そんなわけないじゃん。付き合うくらいなら学園の研究所のサルと暮らすほうがまだましよ。」

「いい暮らしができそうだね。餌には困らないし。」

おい、何か俺が滅茶苦茶ひどいこと言われてないか。しかも、金さんに対しても何だか威圧的じゃないか。顔に『あんたは嫌い』とでているぞ。感情を表に出す女の子もいるのだと感心してしまう。さらに驚くのは、金さんがいつもの笑顔でいることだ。

「サル未満の彼はマネージャーさん?・・・ファンの人?もしかして、ビラ配りの最低賃金労働者さんですか?」

サル未満・・・せめて以下にして欲しかった。

「んあ~、後ろからウンコ投げられるわよ(ニコ)。」

「それは求愛行動って聞いたことある!アイドル目指しているのに下品な言葉使うの?」

金さんと一緒にいることがおかしなことのようにハッキリと表情に「キモイ」とでている。金さんに似て頭はバカみたいだが感情とかいろいろものものがハッキリ表情にでているぞ。こんな女は存在するのだな。感心する一方で表情からここにいちゃいけない人オーラが伝わってくる。

「べ、別に・・・好きでやっているわけじゃあ・・・なくて・・・」

「んあ~、風翔はウチのマネージャーなのだから堂々としていればいいのよ。」

「マネージャーさんなのですか?ハヤテと同じ制服なのにサルモネラ菌なの?」

サルモネラ菌!サルよりランクが下がっていないか俺。霊長類から細菌になったぞ。

「細菌じゃあ、いざって時に食べられないじゃん(ニコ)。」

えっ、俺は非常食なの?いざって時には食べられちゃうの?

「あたし、そろそろ行かないと。ライブ必ず見に行くから。」

光星明は足早に街へ消えていった。ポニーテールの髪型をしているのでぴょんぴょん髪がはねていて人混みの中に去っていくにも目立っていた。水無瀬水鳥、金さんと風璃以外の女の人と話をするのは久しぶり過ぎていつもの癖で一歩引いてしまった。キモオタの条件反射である。

「光星明。今年、ミドルクラスに転入した人よ。」

「俺も噂で聞いたよ。魔法使いではないって言っているけど光の魔法使いらしいな。」

「ウチらはエレメンタルクラスに留年しているのに、いきなり学園に現れてミドルクラスに入るのは納得いかないよね。」

「どこの宮に所属するかも決まっていないのに学園に所属しているのは有りなのか?」



四月十三日

遂にミニライブの日がやってきた。金さんの衣装は巨蟹宮芸術学部と乙女宮家政学部が共同で今日の舞台のために仕上げてくれた。サイズはぴったりなのはもちろんギャル系の金さんの魅力を引き立てるとてもこった衣装だ。

「着てみたけど、どう?」

「えっ・・・うん。いつもよりギラギラしている。」

「んあ~。何で『きれいだね』とか『素敵だね』って言えないの?デザインは巨蟹宮でキリカの知り合いに頼んだのよ。」

「どうりで。キリカに頼りきっているな。」

留年したエレメンタルクラスの学生にここまでしてくれるなんて巨蟹宮も太っ腹だな。十二宮学園だからできる学生同士の共同作業だ。ここで、金さんがいいパフォーマンスをすれば衣装を制作した巨蟹宮の学生の株も急上昇し宮位も上がるだろう。しかし、金さんにいいパフォーマンスができるのだろうか。歌と踊りの両方をやると言っていたが俺は実際に双子宮で練習しているところを見たことがない。双子宮の大規模施設である学園附属アリーナでは大勢の学生たちが準備に追われていた。ミニライブといっても次期アイドル候補の新人戦であるため審査員席には学園の宮長クラスだけでなくアイドル事務所の関係者も多く入る予定である。さて、そんな次期アイドル候補の控え室に何故、俺が金さんと一緒にいるかというと白羊宮の学生である自分は金さんのボディーガード兼プロデューサーとして正式に双子宮から許可が出た。金さんには逆らえずに引き受けたのである。事件のことで金さんに聞きたいことはたくさんあるが、今はミニライブを成功させないと金さんの告発で俺が死体遺棄で逮捕されるだろう。金さんはシスカ先生が殺されたこととその現場を俺が逃げたことをもちろん知っているだろう。金さんはどうしてこの事件をもみ消したのだろうか。ダメだ・・・考えてもしょうがないから今はミニライブに集中しよう。

「皆さん!十二宮学園へようこそお越しくださいましてありがとうございます!」

「今日は乙女宮タレント養成学部ミニライブということで司会は源翼みなもとつばさと」

源燕みなもとつばめの源姉妹でお送りいたします。」

「私たち源姉妹は入学したばかりのエレメンタルクラスですが、いきなり司会を任せられて緊張していますが最後までお付き合いください。」

「それでは早速、双子宮のランク順に始めていきます!」

さすが源姉妹だ。舞台慣れしている。金さんはエレメンタルクラスなのですぐに順番がまわってくる。舞台に上がりスポットライトがあてられると美女が表れた。楽屋で見たときは気付かなかったが、高身長にピッタリな煌びやかなフレアスカートに似た白いドレスに、ウェーブのかかったロングヘアに花型の髪飾りが光っている。普段の金さんからはかけ離れた姿に俺だけではなく会場の人々も釘付けになっている。ロック調の曲が流れ始めた。


迷い込んだ迷路の 出口を探して

歩き続けた先に 答えを求めている


人の心の中 覗けないから

伝え合うことだけでしか

想い わかりあえないでしょう


ふとした時にこぼれた言葉が

あなたを傷つけていたね

口にすればもう戻らない

それがホンネだから


いつも気にしてばかり

だれかがウワサしている

言いたいことも

言えない世の中じゃつまらない


「翼ちゃん、凄い新人が表れたじゃないでしょうか。」

「私達より歌とダンス、うまかったじゃない?」

金さんがミニライブを終えると会場は静まり返ったが、司会の源姉妹が少し間をおいて進行をおこなった。一人に与えられている時間は限られている。司会の仕事を理解している。金さんはステージを降りてすぐに俺に言い放った。

「どうよ。風翔はどう思った?」

「驚いたよ。今まで金さんは本気出していなかったの?エレメンタルクラスとは思えない歌唱力と踊りだったよ。」

「んあ~、風翔が言うとキモく聞こえるわ。」

「すまん。源姉妹ファンとして感想を言っただけだから。」

「ふ~ん。風翔はプロデューサーとしてこれから忙しくなると思うよ。」

衣装を着替えて金さんと会場を後にしようとしたとき多くの視線が感じられた。しかし、何か不穏な視線も感じた。白羊宮でいつも戦闘訓練しているときに感じる殺気に似たもので後ろを振り返った瞬間にコタン副宮長が目の前にあれわれた。

「三江、お前は軍人にはならないのか?ハンナのプロデューサーがしっくり来ておるぞ。」

「副宮長!あの・・・自分は・・・」

ダメだ。金さんがいる前で事件のことは言えないし、何故、金さんのプロデューサーをやっているのかうまく説明ができない。何とかごまかさないといけないのか。

「二人ともこの後時間空いておるか?場所を変えて話がしたい。」

「はい!金さんも大丈夫だよな?」

「白羊宮の副宮長さんがウチにも話があるのでしょうか?」

「いいから黙ってついてこい。この場を離れるぞ。」

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