金銭面じゃ役に立たないし
その後、俺は次の日に神崎姉妹と夏祭りに行く約束をした。
せっかくみんなで夏祭り行く予定だったけど遠藤くんも妹もエミも行けないらしい。
それは仕方のない事だがやっぱ寂しさもある。
祭りと言えばあいつらも行くのかな?
俺の頭の片隅には志保と美代が必ずいた。
現状は何も解決していない。
ただこの世界で上手くやっていく他ないとも思えるようにはなって来た。
多少の違和感こそあれどあいつらが大人しくなった事以外は特にこの世界で何か困るわけではない。
いやまぁむしろ大人しくなってくれてるんけなんだけれども。
そんな事を永遠と繰り返し考えていると神崎姉妹がこちらに向かって手を振っていた。
「お〜い、高橋くん!こっち!」
まず二人の浴衣姿に目を惹かれた。
だがあまりジロジロ見るのも失礼だとは思うので俺は一体どうすればいい!?
くそっ!まずは落ち着け。
落ち着いてゆっくりと二人の浴衣を見よう。
まずは姉の真由からだ。
ふむ、黒っぽい青といったところだろうか。
おしゃれなデザインで髪の毛にはかんざしが刺さっている。
ん〜女の子ってこうしっかりと身だしなみを整えて、自分の武器をしっかりと理解している。
これで一体何人の男を騙してきたのだろうか。
「……高橋くん、挨拶もしないで私のことをジロジロ見るのはどうなのかしら?ちょっと引くわ」
「い、いや!ごめん!二人とも今日はごちそうさまです!……じゃなかった!よろしく!!!!」
「「う、うん」」
危なかった!危うく俺が夜堪能させてもらうのがバレてしまうところだった。
しっかりと目に焼き付けてシュチュエーションを想像しておかなくては。
今夜は忙しくなりそうだ。
「ねぇ〜僕は?僕は?どう?良い感じでしょ?真由姉と同じ柄なんだ〜」
あ、本当だ。
刺繍されたデザインは一緒だが、妹の佳奈は淡い水色で、姉の大人っぽさに比べると子どもらしい印象を与えてる。
もちろんそれは佳奈とは相性が合っていて、真由も自分に合った色を選んだのだろう。
側から見ても二人とも似合っていることは一目瞭然だ。
「お、おう……佳奈も似合ってる」
「だよね〜真由姉と一緒に選んだんだ〜、もし似合ってないなんて言われたら雪くんの目が腐ってるって事になるね〜」
「おい、酷い言われようだな……けどまぁそうだな、この浴衣が似合ってないって言うやつは目が腐ってるに違いない」
俺たちのそんなやりとりに真由はポカンと口を開けていた。
「あなたたちいつの間にそんな仲良くなっていたのね、佳奈が最近よく高橋くんの事を話すから察してはいたのだけれど」
「ちょっと!お姉ちゃん!余計な事言わなくて良いから!」
「余計?余計な事なんて言ったかしら?」
「いや、言ってないです」
「なに!?そのリアクション!?普通は照れるところじゃないの!?」
俺たちは顔を見合わせて吹き出した。
その笑い声は街の雑踏によく馴染む。
少し沈黙が生まれた。
ここはやはり先陣切って俺がエスコートするべきだろうか?
そもそも祭りにおいて正しく楽しむ方法とかあるのか?
まずは屋台を見てそれからどうするんだ?トイレ休憩とか入れるべきだろうし……。
「それじゃあ行きましょうか?二人とも食べたいものとかある?」
「は〜い!僕はとりあえずりんご飴!あとわたあめ!」
「あめばっかじゃない」
「あ!本当だ!」
二人が楽しそうに笑ってるのを見てなんだか色々考えてる自分がバカらしく思えた。
そうだ、二人みたいにただ心から楽しめばそれでいいじゃないか。
何をしきたりやらなんやらに囚われていたのか。
今日という日を少しでも楽しい思い出にする事が俺の役目だ。
金銭面じゃ役に立たないし。
けどまぁ多少は貰ってあるから大丈夫……だよな?
俺は財布を除きある程度は入っている事を確認する。
よし、これくらいあれば楽しめるはず。
「ほら、雪くんも行くよ」
そう言われ佳奈に手を引かれた。
……一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ二人が別の人に見えた。
それは屋台の提灯の灯りやらで朧げではあったが。
霞んだその景色に……。
やはり心の何処かでは思うところがあったのは間違いない。