ふふっ世界って臆病ですよね?
気づいた時僕はクラスのみんなと楽しく会話していた。
会話の途中で意識がはっきりとしてきた。
その感情ははっきりと表情に出ていたみたい。
「佳奈?どうしたの?そんな目を見開いて……まさか好きな人でも出来たの!?相手はどこ!?まさかこの私か!?」
「え〜そんなんじゃないよ」
僕は手を横に振った。
「じゃあ私の可愛さに気づいたとか?」
その子は自分に指を刺すと、すかさず隣の子が頭を引っ叩く。
「それだけはない」
「え〜ひど〜い」
「それより佳奈はどうしたの?たまに一人の世界に入る事はあったけど今回はそれとも違う感じがするし……って!抱きつくな!」
その子はもう一人の子をひっぺがそうとしていたがなかなか離してくれなかった。
そんな中で僕のこの発言は空気が読めていない。
そう……分かっていても言わずにはいられなかった。
「……あのさ、僕ってみんなと仲がいいよね?」
僕のその質問にみんなキョトンとしていた。
その顔でもう分かる。
当たり前じゃんと言わんばかりの顔だ。
「って、ごめんごめん!そんなの当たり前だよね〜!ははは〜」
僕の笑いに釣られてみんな笑い始める。
「もう佳奈ってたまにそう言う事言うよね〜変わった本読んでる影響なの〜?」
……確かに本の読み過ぎて世界がごっちゃになった事はある。
けど今は確かに私が生きてる世界の中で……だけど本の中でもある。
そんな気がする。
そのまましばらく談笑した。
なんとなく自分の立ち位置が分かってきた。
言われて納得した。
なんなんだろう……この妙な感覚。
「そういえばお姉さんが探してたよ」
「……えっ」
お姉ちゃん?
そっか僕……お姉ちゃんが居るんだ。
「ど、どこに居るの?」
「ん〜どこだろ?ほら、佳奈さっきまでトイレ行っててそのタイミングで来たんだけど、多分自分のクラスに戻ったんじゃない?」
「ありがとう!ちょっと行ってくるね!」
僕は飛び出すように椅子から立ち上がり教室を出た。
今はお姉ちゃんに会いたい。
何故かそんな気持ちでいっぱいだ。
隣?隣ってどっちだ?
分からないけど私は廊下を走った。
よく分からない。
けど今にも泣き出しそうだった。
この胸から込み上げてくる熱い気持ちはなんなんだろう。
目頭が酷く熱い。
いつもの日常なのに。
特に変わった事はないのに。
「佳奈!」
僕はその声に振り返る。
その人は腕を組んでこちらを睨んでる。
あぁ……間違いなくこの人が僕のお姉ちゃんだ。
「廊下は走っちゃダメって言ったでしょ?」
僕は我慢の限界だった。
「お姉ちゃん!」
人目を気にせず走ってお姉ちゃんに抱きついた。
泣き顔は見られたくない。
そんな思いからか胸に飛び込んでそのまま顔をうずめた。
「か、佳奈?どうしたのよ?……何か嫌な事でもあった?」
そっと頭を撫でられる。
あぁ……この感覚は遠い記憶の奥に眠っていた。
「ううん、ただ今はちょっとこうしたいだけ」
「あなたこんなに甘えん坊だったかしら?なんか昔を思い出すわね……ほら?佳奈ってずっと私の跡追ってたじゃない?」
「そうだったね……お姉ちゃんはすぐ先に進んじゃうから」
僕の頭を優しく撫でてくれた。
その丁寧な仕草に僕は心が温かくなる。
ようやく涙も引いてきたので名残惜しいが胸から顔を離す。
お姉ちゃんは一瞬だけ僕の方を見ると手を握った。
「ちょっと話したい事あるのよ、付き合って」
「え?でももう授業始まっちゃうよ?お、お姉ちゃん!?」
僕の言葉の制止も聞かずに手を引かれた。
ーーーー
そこは人気のない校舎の隅の一角で、空き教室の中に僕とお姉ちゃんは中に入った。
ややカビ臭さと埃っぽい所があり、お姉ちゃんは窓を開け小さなベランダへと出た。
「ほら?佳奈も来なさい……ここなら少し話しても誰にも迷惑かからないわよ」
「お、お姉ちゃん授業はいいの?」
真面目なお姉ちゃんが授業をサボるなんて僕の記憶では存在しない。
「いいのよ、もちろん普段なら絶対ダメだけどね……学業より大切な事って沢山あるじゃない?今回がそう言うことよ」
舌をペロっと出して笑うお姉ちゃん。
僕はその顔がたまらなく好きだ。
人前では絶対に見せない。
信用と信頼と身内という立場だからこそ見れるお姉ちゃんの本当の姿。
この世界で唯一僕だけが見れるお姉ちゃんの表情や仕草。
それがたまらなく嬉しい。
「お姉ちゃん悪い顔してる」
「たまにはいいじゃない」
「そだね……お姉ちゃんのそういう表情はあんま見れなかったし」
ベランダの取手に手をかける。
外は青く澄んでいて校庭側からホイッスルの音がここまで聞こえてくる。
「ええ、だって見せないもの……それで何があったの?」
こちらの顔を覗き込んでくる。
その表情は僕のことを心配してくれているのが嫌でも伝わってくる。
それがまた僕にとってはたまらなく嬉しい。
「……なんかこの当たり前の光景に感謝してただけだよ、それよりお姉ちゃんこそ僕に用があったんでしょ?」
「私の件は大したことじゃないわよ?それより急に抱きついて来た佳奈の方が心配よ」
グランドの土の匂いが鼻腔をくすぐる。
「それこそさ?たまにはいいじゃん?僕だってお姉ちゃんに甘えたくなる時くらいあるんだよ」
ひけらかすようにそういうとお姉ちゃんはそれ以上何も言ってこなかった。
本当に何かあったわけではない。
ただそれじゃあお姉ちゃんを納得させるのは無理みたいだ。
「本当だよ?僕に悩みなんてあるわけないじゃん」
笑顔を見せるとまたこちらをジッと見つめてくる。
その顔はちょっとだけ怖い。
「そう……ならいいわ、それで私の要件なんだけど羽形さんがあなたの事呼んでたわよ?珍しいじゃない?」
「ユンが?」
羽形ユンは確か……たまに遊ぶような関係だった。
口調や仕草が丁寧でクラスでもお姫様扱いされてたっけ。
あれ?ちょっと前まで遊んでたような気もするけど……いつからか合わなくなってて。
「ええ、図書室の棚17番の下から2番目、右端から五冊目って確か言ってたわよ……あの辺は読まないけれど佳奈が申請して購入した本がその辺に置かれてたわよね?」
棚17番目の時点で僕はすぐに分かった。
そして右端から五冊目。
さっきまで感じて本の中に居るような感覚。
そっか……あの物語と現状の僕が似ているんだ。
「ありがとうお姉ちゃん、僕はもうちょっと授業サボるからお姉ちゃんはちゃんと教室戻りなよ」
「あっ!廊下は走っちゃダメって言ったでしょ!」
僕はそのまま図書室に向かった。
廊下はしゃがみながらこっそりと通って、できる限り足音を立てないようにした。
扉を開けるとそこにはユンがいて、こちらを見ている。
固唾を飲みゆっくりと中に入る。
「久しぶり……って言葉が自然と出て来ちゃったけど合ってるよね?」
「そうですね、いきなり本題に入るんですけど大丈夫ですか?」
冷たく震えそうな声。
眉ひとつ動かさない彼女の表情を見て僕は事の真剣度が伝わってくる。
「ふふっ世界って臆病ですよね?」
ん?唐突に何を言ってるんだ?
「なにそれ?僕には難しすぎてよく分からないけど」
「私にも分からないですけどね、世界ってどれを指すか次第です……ただ今回は遠回しに言ったり歌に込めたり手紙を書いたり……そう言ったことを指してるんですけど……それって悪い事じゃないですよね?」
話が読めてこない。
ゆっくりと頷く。
「はい、ありがとうございます……少し長くなると思うのでとりあえず座りましょう?」
ユンはそう言って目線を向かいの椅子に向けた。
僕はその通りに椅子を引き腰をかける。
「そう……ですね……私って結論から出すのが好きなのでこれだけは言っておきます」
「うん、わざわざ授業中に話すくらいだから大事なのは僕も分かる」
ユンの唇が開いて放たれる言葉は耳を疑うような発言。
単語だけ抜き取れば真実味は全くない。
だけど机の上に置かれた本を見てこの違和感と照らし合わせて、それが嘘ではない事をヒシヒシと感じ取った。
「佳奈さん……あなたはこのままだと消えてしまいます」
そう言われて妙に納得してしまう僕がいた。
最近またちょくちょく書くようになりました、お久しぶりです。
執筆の時間はあったのですがアニメや小説を見る時間が極端に減ったのでインプットされない分アウトプット出来ないという状態でした。
完結までの道筋は一昔前の自分が作ってくれたのでそれを辿るだけなんですが、文に昔みたいな勢いがなくて困ってます。
この作品の初投稿が7年前くらいなのでもうそんなに経つのかと驚いてます。
亀みたいにのんびりと投稿してますが必ず完成はさせるので死ぬほど暇な方は是非お付き合いください。




