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ただのオタク君かと思ってた


 俺は神埼妹の佳奈と合流してとりあえずファミレスに行く事になった。


 学生が一番気楽にいけてそんなに値段もかからず時間を潰せる場所と言ったらこことカラオケとフードコートくらいだ。


 「前に来た時はお姉ちゃんとメガネくんも居たけど今日は僕と二人きりだね」


 その誤解を生む発言を軽々してくるの本当やめてほしい。あとその無駄に口角上げるとことか。


 男子高校生なんてこんな言葉でも意識しちゃうんだから。


 なんなら目と目が合っただけで、あれ?もしかして俺のこと好き?くらいの勘違いは生むんだぞ。


 「ん〜俺はキノコとほうれん草のパスタにしようかな」


 「あ〜僕のこと無視したぁ〜それに高橋くんそのチョイスはもう女子と同じだよ〜男子はやっぱ肉食べるんじゃないの?」


 そう言って俺の手に持ってるメニューに人差し指で触れてくる。


 うん、分かってる……この子は天然じゃなく計算でこれをしてる事に。


 だから騙されるな!高橋雪!平常心を保て!


 俺は心の中の自分に何度も鞭を打ち煩悩を捨てた。


 さよなら俺の煩悩お帰り現実。


 「へぇ〜高橋くんって意外と怖がりなんだね」


 その突拍子もない発言に驚いた。と言うか男としては傷つく台詞なんだが。


 「怖がり?そりゃまぁお化け屋敷とかホラゲーとか遊園地のジェットコースターとか乗れないけどそんなに怖がりかな?」


 「うん、世間では立派な怖がりの部類に入ると思うよ……ってそうじゃなくて他人に拒絶されるのがって事」


 ん〜どうも話が見えてこない。


 「つまり?」


 「真の自分を見せてもしそれを否定されたらって言うリスクを極限まで避けようとしてるよね?上辺だけの発言はするけど本当に大切にしている部分からは逃げてる」


 そう言ってニコッと笑った。


 改めて聴いてもその言葉にピンと来ない。


 「けどさ?それって別に普通の事なんじゃない?まぁ俺が無意識にそうしてるのかもしれないけど大抵の人はそうなんじゃないか?」


 「ううん、そんな事ないよ……まぁ僕の身近な人が似たような性格だからさ……五人に一人くらいはそうなんじゃないかな?」


 て事は1クラスに5、6人は居るって事だからつまり左利きよりは多いと。


 やっぱ普通の事なんじゃん。


 「はぁ……なんだか振り回されっぱなしだなぁ……まぁこんな状況にも慣れっこだけどさ」


 「ふ〜ん、僕以外にも高橋くんの事を玩具みたいに弄んでる人いるんだね〜」


 「おい、今聞き捨てならない事言ったな?誰が玩具だ」


 「えへへ〜まぁまぁそうカリカリしないでよこんな可愛い子なら許せるでしょ?」


 そう言って頬に手を当てニヤリと笑う。


 くそっ!なんで世の中の女性はこんなにも可愛いんだ!もうちょっとムカつく顔してくれてれば許す気も起きないのに。


 まぁ日本の女性は美意識高いし肌も綺麗って言うからな。


 周囲を見渡しそれを感じる。


 店員の人もナチュラルなメイクしたり向こうの席の人は今流行りの地雷系メイクにゴスロリの格好して好みは分かれるが俺はめっちゃタイプだ。


 自分に合ったメイクをして自分を最大限まで発揮しているのは努力の証だろう。


 「どうしたの?そんな周りをキョロキョロし始めて」


 「いや……女性って凄いなって思ってさ」


 「え?そんな話してたっけ?だいぶ飛躍してない?まぁ凄いのは事実だけど」


 て事はあの二人もそうだったのかな。


 グラスの中に入っていた氷は既に溶け切っていた。


 もう誰かに話したい気持ちでいっぱいだ。


 俺のそんな一瞬の揺らぎが全てを吐き出すきっかけには十分すぎた。


 ーーーー


 「へぇ〜そんな事が本当にあるんだね〜」


 そのリアクションはからかってる様にも見える。


 ただそんな表情を見ても俺の心はスッキリした感情で満たされていた。


 体内に溜まっていた毒素がかなり吐き出され一時的ではあるけどさっきまでの光景とはまるで違う世界が広がっているように見える。


 ただこの非現実的要素を話して彼女がどう感じたのかは気になる。


 「えっと……どう思う?まぁ普通に考えたら信じられない様な話だと思うけどさ……俺自身始めの方は何が起きてんだかさっぱりだったし」


 「ふふっ……僕は信じるよ、少し話を変えるけどいい?」


 表情は相変わらず楽しそうにしていた。


 本当に信じてるのか?


 俺は促す様に首を縦に振る。


 「僕が少し前に読んだ本の話なんだけどさ、何もかも上手くいってた主人公がある日突然人生をやり直せる機会が訪れたんだ」


 何もかも上手くいってた人間にやり直しの機会が?


 それってどうなんだ?


 「うんうん、まぁそういう表情になるよね〜その主人公もなんで俺なんかに〜ってなる訳なんだけど彼はもちろん前までの人生を気に入ってたから同じ様な人生を歩こうとするんだ」


 「へ〜、一つ前の人生よりいいものにしていこうとかしないんだなぁ俺だったら少しでも良くしたいと思うけど」


 考え方は人それぞれか。


 「だよね、僕も実際そっち側の意見なんだけど彼はよっぽど慎重派なのか全く同じ様に繰り返そうとするんだけど一つの分岐点で前とは違う人生になっちゃうんだ」


 「え?全く同じ事をしてたのに?」


 それっておかしくないか?


 ゲームで言ったら「はい」か「いいえ」の選択で正解の「はい」を答えたのに一個前のセーブデータと違くなってるって事だよな?


 全く同じ条件の時に同じ相手、同じ場所で。


 「変な話でもないんだよ?これは物語だけど現実世界と同じようにちょっとした間合いとか息遣いとか目線とかそういった細かい仕草の違いで世界は変わっていく……僕はそうゆう事だと思うんだよね」


 そう言ってカバンから本を取り出しポンポンと人差し指を当てる。


 表紙はマフラーをした青年くらいの人が街外れから光り輝く街並みを物憂げに見つめている一枚だった。


 これがどう物語とリンクしてどの場面でこの表情をしているのかは分からないがなんだか寂しそうな表情といった感じとも違った。


 「どう?興味ある?良かったら貸すけど?」


 「うん、借りようかな……ありがとう」


 俺は本を受け取る。


 「読み終わったら感想聞かせてね〜あとこの人の作品他にも面白いの沢山あるからハマったらそっちも読んでみてよ」


 その表情は無邪気な子供が大人の注意を惹きたい行動と同じような感じだった。


 「みんな自己評価出来てないくせに他人の評価ばかりするからさ」


 そんなセリフをポツリと吐いた。


 何気なく言った言葉なんだろうが俺の心には十分すぎるくらい響いた。


 常日頃から思っていたければ口に出すことなんて無いんだから。


 こんな台詞が思わず口から漏れてしまうって事は彼女も何か思い詰めているのかもしれない。


 だから大人はそう言ったものを上手く気にしないように、気にならないようにすべき手段を沢山持っている。


 酒だったりタバコだったり女遊びだったり。


 それらが身体に悪かったりお金を大量に消費すると分かっていても。


 そりゃ今から10年20年先の事考えるより目の前の事を優先するのは当たり前だ。


 「ふふっ、随分と真剣な表情してるけど高橋くんってそんな顔も出来るんだね?」


 「おい、確かに否定しづらいけどそんな正面切ってオタク呼びされると普通に傷つくからやめろ」


 「あはは、ごめんごめん……高橋くんって面白いね?なんか人間味あるって言うか……その背景に写ってるものが僕の想像より何倍も凄いものなんだろうなぁ〜って」


 先ほどの物憂げな雰囲気は消えた。


 俺も不思議と笑みが溢れる。


 「ははっ、なんだよそれ言っとくけどさっき言ってた事は本当だからな、小説の話とかじゃなくて」


 その日はいつもの調子に戻ってる気がした。


 こんなのいつ以来だろう。


 前までの環境のありがたみを感じてしまった。

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