何かしら?こんな所に呼び出して
あの日ボランティア活動で雪くんも参加するって聞いたから私も町内の草むしりに参加した。
どうしてそんな事したのかわからないけど私の胸の奥にある気持ちがそうしたいって我儘を言って聞かなかった。
最近よくある事なんだけど頭の中で正解が分かっててもそれを実行する事ができない。
だから……あの夕暮れの河川敷で雪くんに告白された時私の心臓は跳ね上がって全身が熱くなった。
そんな女の子なら誰でも憧れる様な瞬間を目の当たりにしてしかも私が告白相手で。
もちろん私の答えは二つ返事でオッケーを出したかったけど。
視界の奥に居た不気味な存在に気がついてしまった。
元々私は視力がかなりいい方で加えて動体視力も高い。
だから木の影からこっそり双眼鏡でこちらを覗き見している志保の存在に気が付いてしまった。
その瞬間私は脳をフル回転させ何故志保がこちらを覗いてきているのかそしてその隣で倒れている彼氏、目の前で雪くんが告白してきた理由。
その全ての答えが何故か分かってしまった。
もちろん合ってる保証は無いけど女の勘みたいなものがそう言ってる。
だから告白は一度断ってしまった。
凄い辛い決断だった。
本当は雪くんの事を意識し始めてから気になって気になって仕方がないのに。
それもこれも全部志保のせいだ。
だから今日これからあって答え合わせをしようと思ってる。
あの子は正直言って何を考えているのか私にはさっぱり分からない。
と言うかなんで隣で彼氏が伸びてたのかも分からないし。
それも全部このあと分かる。
ーーーー
美代が待ち合わせ場所に選んだのは人のいない小さな公園。
閑散とした街並みが広がり多少の声を出しても誰に迷惑かける心配はなさそう。
この不安を取り除く為にもあの時の真相を確かめておきたい。
早く聴きたい自分と真実を知るのが少し怖いのが入り混じった不思議な感覚に満ちていた。
「何かしら?こんな所に呼び出して」
美代が振り向くとそこには制服姿の志保がいた。
夏休みの日に制服を着ていると言う事は何か用事でもあってその帰りなのだろうか。
「ごめんね急に呼び出して……実は聞きたい事があってね」
「はぁ……大体察してはいるのだけれどあの河川敷で行ったボランティアの件についてでしょ?」
志保は額に手を当てため息を吐く。
「うん、私たまたま見えちゃったんだよね……志保が双眼鏡で覗き見している所」
「あなた……あの距離でよく見えたわね……妙にこちらを気にしてると思っていたのはやはり気のせいでは無かったということね」
志保もあの時薄々勘付いてはいた。
ただかなりの距離があった為確信までは得られていなかった。
本当にこの距離まで見えているのだろうか?ただ視線を逸らす為にこちらを見ているだけでは無いのだろうか?
そう言った疑問は常に存在した。
「でも私もこれで疑問が確信になったと言う事ね……やはりあなたは私のことが見えていてこちらを気にしていた」
「うん……そうだね」
「それは何故なのかしら?あなた告白されていたのでしょ?私の事なんて気にする必要ないと思うのだけれど?」
志保の瞳が真っ直ぐ美代を見つめる。
その真剣さは美代にも伝わってきた。
「えっと……その前になんであの時志保の隣に志保の彼氏くんが転がっていたのか教えてもらってもいいかな?」
「なっ!……そ、それも見えていたのね」
実は美代が一番気がかりだったのはその事についてだった。
志保が気になってこちらを覗いてたのは理解出来ても隣で伸びていた彼氏については説明がつかない。
「うん、その事について少し話聞かせてもらえないかなって」
志保は少し狼狽えてしまう。
その挙動は美代の目にもしっかりと映っていた。
「そ、そうね……まぁこの事に関してあなたに話す理由は全くないのだけれど……その様子だと話すまで返してくれなさそうね」
志保は美代と視線が重なるたびに目を逸らす。
「正直言ってこれから話す事は一切現実味の無い普通の人からしたら何を言ってるのか理解すら出来ないでしょうけれどそれでも大丈夫かしら?」
「うん、私も最近自分自身に疑問を持つ場面が多いし……明らかに周りが変ってよりは私が周りと違ってるって感じがするし」
そよ風が二人の髪の毛を靡かせる。
「そう……あなたもそんな風に感じていたのね……これはあくまでも推測なのだけれど私は別の世界線から来た又は別の世界線に行って役目を終えて元の世界に戻ってきたと考えているわ」
志保は最後に「突拍子も無い話だけれど」と付け加える。
だが美代の反応は志保の思っていたものより食いついていた。
志保は考察に考察を重ねてここまできた。
だが美代は瞬時に幾つものパターンを考えその原因を自分なりに推測していく。
「でも役目を終えたのならこのモヤモヤはなんなのかな?もしかしたら強制的に飛ばされたって考える方が妥当かも……」
「はぁ……あなたのそう言うとこ……本当嫌い」
志保は睨みつける様に美代の事を見つめる。
「うん……自分の中で割と整理できたかも、ありがとう志保……ってなんでそんなに睨んでるのかな?私何かした?」
「いえ……嫌われる理由なんて何かしたからってだけじゃ無いのよ、会話すらしたことのない相手に対してだって殺意は沸くもの」
美代は首を傾げる。
「顔が気に入らないとか体型が気に入らないとか視界に入るだけで不愉快とか見ているだけでムカムカするとか体臭が気になるとか……それから」
「酷い言われ様だけど美代の体臭臭く無いよね!?」
そう言って美代は自分の体の匂いを嗅ぐ。
ま、私のストレス発散はこれくらいにしてこれからどうするべきかしっかりと考えなきゃいけないわね……。
志保はその動作を見ながら今の一連の違和感に気がついた。
この子今自分の事を……けど……どうだったかしら?何処ぞのお嬢様みたいな事は聞いたことあったけれど……それに今の台詞は凄いしっくりくるのよね。
「ねぇ!?私臭く無いでしょ!?さっきの話は例えだよね!?私関係ないよね!?」
「……ん、え、ええっ!そうね、それより今度は私から質問させてもらってもいいかしら?」
美代はまだ体臭を気にしながらこくりと頷く。
「あなた……なんで雪くんの告白断ったのかしら?」
美代の動きが止まる。
二人の視線が交わる。
先ほどとは変わって今度は美代が志保から視線を逸らす様になる。
「黙ってちゃ何も分からないわ、私も答えたのだから貴方も答えるべきじゃないかしら?まぁ最も……答えない方が貴方らしいとも言えるけれど」
志保はこの時自分でもなんでそう思ったのか理解出来なかった。
けど……この子が自分勝手に答えないって選択するのが私にとって一番しっくりくるのよね……なんなのかしらこの感覚。
「えっと……うん、そうだね私も答えないとフェアじゃないよね……多分雪くんは志保の事が好きなんだと思う」
「……ん?あなた今なんて言ったのかしら?」
志保は首を傾げると美代も同じ様に首を傾げた。
「え?これに関しては志保もわかってると思うけど雪くんは志保の事が好きでそれはあの河川敷のボランティア活動の時に……」
「ま、待ちなさい!……え?それだとおかしいじゃない?だって……あれ?いや……でもそうよね?うん……あの時裏路地で貴方のことをカッコよく助けてたじゃない?あんなにボロボロになってまで助けるなんて友達程度の関係ではするべき行動ではないわ、雪くんは間違いなく貴方のことが好きだからあの行動に及んだのよ?」
二人とも数秒顔を見合わせてやはり首を傾げた。
そして志保は理解に追いつけず額に手を当て眉間に皺を寄せる。
「う〜ん、なんか私色々分かってきちゃったかも……まだ時間大丈夫?ちょっと話しておきたいことあるんだけど」
志保はやれやれといった表情で美代に近づく。
夕暮れ時も終わりを迎え公園の遊具たちの影も少しずつ薄くなっていった。




