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レバガチャで適当にやっても一発位当たるはず


 音ゲーコーナーの後はその隣にある格ゲーやらパズルゲーなどのアーケードゲームコーナーについた。


 ちなみに格ゲーもあんまプレーした事はない。


 「いやぁ〜初めてあの音ゲーやったけど結構面白いね!操作とか慣れるの大変だけど少しずつ成長してるのを実感しやすくてやり込めばやり込むほど面白くなっていきそう」


 「さすが雪殿!あのゲームの醍醐味をもう理解しているとは!結局のところ難しいゲームが人気なのは何時間もかけて少しずつ上手くなっていく過程を楽しんでるものがプレーしているからでござる、最近の若者はすぐ無双したがる傾向にある為ああいった時間をかける必要のあるゲームはあんまし人気にならないんでござるよなぁ〜」


 円堂は残念そうな表情をする。


 彼の良いところは自分の楽しみを他者にも共感してもらおうとしているが無理強いはしないところだ。


 試しにやってみようとか何でもかんでも手取り足取り教えるわけじゃなく自主性を持たせつつ誘導するところとか。


 クレーンゲームにしろ音ゲーにしろ何が面白くてここがハマるポイントとかの説明は一切ない。


 もしかしたら円堂くんは教師や教育者に向いているのかもしれない。


 「それじゃあ次は……あれ?雪殿……あの方見覚えがあるでござるが一体どこで見たんだか思い出せないでござる、あんまり人の顔をジロジロみるのは失礼でござるが……う〜ん、最近見たようなぁ〜」


 その台詞に従い俺は円堂くんの視線の先を見た。


 そこに居たのは間違いなく志保の彼氏だ。


 別に恨んでるとか妬んでるとかそう言う感情がある訳じゃない。


 ただなんとなく敵意を向けてしまう。


 「あれは志保の彼氏だよ」


 「あぁ!そうでありましたなぁ!志保の彼氏殿もゲーセンに来るのでござるなぁ〜しかもあの大人数、さすが陽キャでござる」


 確かに人数が多い。


 ぱっと見7〜8人くらい居るみたいだけど。


 別にいちゃもん付けるわけじゃないけどあんな大人数で来るなら周りの人に迷惑かけないようにしろよな。


 「雪殿?もしあれでしたら今日は格ゲーはスルーしても大丈夫でござるが……」


 「いや、別に……俺は気にしてないから普通にやろう」


 近づくにつれあのグループが騒いでる声が聞こえてくる。


 「やりぃ〜!!これで俺の五連勝目だ!!おいおいお前ら弱すぎないか?これじゃあ話にならないぜ?誰かもっと強いやつかかってこいよ!」


 「あはは!めっちゃ調子乗ってんじゃん!まじで誰か分からせてほしいわ!ゲームも強くて勉強も出来て美人な彼女も居るとかお前どんだけ最強なんだよ!領域展開でもしてんのか?なんてな!」


 ゲラゲラと五月蝿い笑い声が響く。


 くそっ!なんでこんなにも落ち着かないんだ!


 あんな奴ら気にしないで円堂くんと楽しく遊べば良いじゃないか。


 もうどうせ志保も美代も俺の事なんかなんも思っちゃいないんだから。


 顔見知りの女子とたまたま高校が一緒になってたまたま同じクラスになっただけ。


 それ以上の進展なんて無かった。


 ここではそうなってるんだ。


 「それじゃあまずは雪殿には基本のプレーから説明していくでござる、このボタンがジャンプでこれは小ジャンプと大ジャンプがあるでござるがまだそれは覚えなくて良いでござる次に……」


 チュートリアルと円堂くんの説明が終わった。


 正直言ってあまり頭に入ってこなかった。


 近くにいる円堂くんの声を遮るように隣のあいつの声がやたらと聞こえてくる。


 「とまぁ、そんな感じでござるが何がともあれまずはプレーしてみるのが一番でござるよ」


 選択画面が出て来る。


 俺はすかさず店内マッチを押した。


 「あ!雪殿!それはまだ早いでござる!基本的にはまずボタンの配置を感覚的に覚えてから技コマンドを習得してようやくその領域でござるよ」


 「ごめん円堂くん……けどどうしてもあいつに一発だけでも俺の拳を当てたいんだ!それがたとえゲームの中だとしても!もちろん勝てないのは分かってる……けどこればっかりは譲れない!」


 そう、負けるのは百も承知だ。


 けどこの行き場の無い感情を決して誰も悪く無い状況で握らされているこの負のバトンをどうすれば良いのか。


 それを少しでも軽くしたい為に俺はあいつをゲーム内でも良いから一発殴ってやりたい。


 この傷の入った心に土を被せるだけじゃなくてある程度強度のあるものを一時的でも良いから被せておきたい。


 完全に癒そうなんて考えていない。


 少しでもこの感情を楽にしたいんだ。


 「おお!新しいカモが来た!初期スキンで見るからに弱そうだな!こんなのノーダメで勝てるぜ!」


 大丈夫、レバガチャで適当にやっても一発位当たるはず。


 そう思って意気込んだが1ラウンド目は近づくことすらできずに瞬殺された。


 「あはは!なんだよこの対戦相手!目の前で謎ジャンプし始めたりしてさ!魚かよ!浜に押し上げられた魚みたいにぴょんぴょん跳ねてたぞ!」


 この五月蝿いゲームセンターの中でもよく聞こえるその笑い声が俺の羞恥心を掻き立てた。


 でもそんなの関係ない……一発当てられれば良いんだから。


 2ラウンド目が始まった。


 三本先取だからここで決めるしかない。


 ボタンの配置とかコマンドとか一切分かってないけど隙を誘って近づかれたところでガチャガチャすれば何かしら当たるはず。


 俺は舐めプしきってる相手に何もせず少しずつ近づく。


 相手は一切の警戒もしていない。


 俺は距離を詰めもうどの選択を取っても明らか攻撃が当たる距離まで来た。


 よし!ここだ!


 俺はレバーを相手キャラの方に傾けてボタンは適当に押しまくった。


 すると偶然にも小ジャンプからの小攻撃キャンセル大攻撃がコマンドとして入力された。


 よし!これなら当たる!


 くらえ!お前は志保のそばに居るのに相応しくない!


 俺のキャラが衝撃波みたいなのを飛ばしさらに相手は棒立ちしたまま。


 これは確実に当たる!


 ここ最近不運続きだった。


 と言うより俺は自分と言う人間を上手く理解出来ていなかった。


 まさかこんなにも器が小さいとは……自分でも笑っちゃうね。


 ……けど今はそれで良い!


 「はい!終わり〜!やっぱ俺最強!これでもう何連勝したんだ?勝ちすぎてもう覚えてないわ!」


 は?


 ゲーム画面には赤文字でgame overと表示されていた。


 「うわずりぃ!あんな雑魚相手だったら俺でも勝てたのに!魚みてぇにぴょんぴょん沖の上で跳ねてるような雑魚だったらさ!」


 俺はもう恥ずかしいとか羞恥心とかそう言ったものを越えてなんかもうどうでも良くなっていた。


 こんだけボコボコにされたんじゃもうどうしようもない。


 諦めて大人しくもう帰ろう。


 「いやぁ〜最近の遼くんまじ強すぎじゃね?しかもなんか彼女も出来たんだろ?なんて子なの?写真とかある?」


 「まぁな!結構貞操の硬い女だからキスとかも出来てねぇけどもうあと数週間でハメまくりよ!壁際に押し付けて俺の高速キャラコンで大声出させてやるぜ!……こんな風にっな!」


 「ウヒョォ~!そりゃ早すぎだろ!テクニカルレートカンストしてんじゃねぇか!そんなんで突かれたらもう声出しまくりで枯れちゃうんじゃねえか!?い〜や!もう失神して声も出ないね!」


 水の中にいるような感覚に陥った。


 隣のグループの笑い声にモヤのようなものがかかっている。


 ……。


 はぁ……俺はこっちの世界に連れてこられてからなんでこんな酷い目に遭ってるんだ。


 そもそも俺は何か目的があってそれでこっちの世界に来てしまった。


 「……?雪殿?どうかしたんでござるか?とりあえずあっちの自販機でアイスと飲み物奢るでござるよ!このゲームも慣れが一番なので初めは上手くいかなくて当たり前でござる……雪殿?」


 美代に告白してフラれて……志保にも彼氏が出来て。


 何が日常が一番だよ。


 平和を望んでたくせに。


 日常とか平和とかって言葉とは真逆の二人との接点が無くなって俺はそれを惜しいとか寂しいとか心の底から思ってるのか?


 分かんない……けど。


 俺は立ち上がり一歩また一歩と脇目も振らず一点に集中しながらそこへと向かう。


 今は俺がしたいと本気で思ってる事をするだけだ。

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