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俺は言ったぞ!


 暑い……もう既に帰りたい。


 今日の最高気温は39℃らしい。


 ニュースでは警戒も出てる地域もあるらしいし既に熱中症で倒れている人も少なくは無い。


 年々暑くなっていくのを実感していたがこうやって改めてニュースやらなんやらで数字として認識するとそのヤバさを改めて実感させられる。


 うん無理。帰ろう。


 思わず踵を返したくなるが。


 「お〜い!雪殿〜!こっち!こっちでござるよ!なんで帰ろうとしてるんでござるか?ちょっと!雪殿!?」


 見つかってしまった。


 このまま何も見なかった事にしたい。


 河川敷の草むしりプラスゴミ捨てを今日はやるらしい。


 うちの学校のポスターにもボランティア募集の紙は貼ってあったみたいで毎年少人数の参加者がいるらしい。


 きっと内申点欲しさにやってるに違いない。


 なんでこんなクソ暑い中お金にもならない事をしなきゃいけないんだとか妹とエミを誘ったら暑いから行かないとあっさり断られたとか言いたい事は沢山あるが今は何も言うまい。


 「……おっす円堂くん、流石に暑いね」


 「ですなぁ〜熱中症には我々も気をつけねばなりませんぞ、それに雪殿にとっては嬉しいニュースがあるでござる」


 ニヤニヤと笑う円堂くん。


 俺にとって嬉しいことは沢山お金が手に入るか妹とエミと出かけることくらいしかないんだが。


 「高橋く〜ん、おはよ〜今日凄く暑いね〜」


 その声は美代だった。


 美代の姿を一瞥した瞬間、俺は思わず声をあげそうになった。


 それは円堂くんも同様に口元を両手で押さえてる姿が横目から見える。


 上は白のTシャツに引き締まったお腹のラインが出ているヘソだしスタイル。


 したはダメージジーンズのショートパンツで綺麗な白い肌が裂け目の部分から見えてそれはもう最高だった。


 多分女性なら誰もが憧れるであろうこのスタイルの良さと自分の武器を最大限まで活かした服装。


 夏の暑さなんてもうどうでもよかった。


 感極まりすぎて目頭が熱い。


 「え、円堂くん……今日来てよかったよ……俺!あの犯罪級のスタイル!見る人全員が振り向いてる!」


 「ふふっん!雪殿ならそう言うと思ってたでござるよ〜それにしても本当美代殿は美人でスタイルも異次元でござるなぁ〜」


 美代はこちらに近づいてくるとニコッと笑顔を向けてくる。


 なにそれ!?可愛い!結婚しよう。


 「お、おはよう!今日は暑いね!」


 「おはようでござる美代殿、流石に暑すぎて美代殿もだいぶ薄着でござるなぁ」


 ガハハと笑う円堂くん。


 こいつ!今のご時世そう言った発言は全部セクハラになるの知らないのか!?


 最近だと血液型を聞くだけでセクハラなんだから。


 すると美代は両腕を胸の下に当てる。


 「えっとね〜これ実は胸が大きすぎてシャツが上がっちゃうんだよね〜けどこう言うファッションもあるしいいかなぁ〜って」


 「「ぐはぁ!」」


 俺たちは同時に膝を落とした。


 コンクリートにはポツポツと俺の額から汗が落ちて滲んでいくのが見える。


 「ゆ、雪殿!拙者……何故か鼻血が止まらないでござる!分からないでござる!」


 「馬鹿野郎!円堂くん!俺もだ!ただ俺には理由が分かる!それは美代が可愛い過ぎるからだ!」


 「拙者!美代殿に告白して振られてもいいでござるか!?この気持ちを抑えられないでござる!」


 俺たちの目は真剣に見つめ合っていた。


 これは男同士にしか分からないだろう。


 男とは自分の欲求に素直なのだ。


 時には玉砕覚悟で突っ込んで行く時もある。


 それは先祖がそうしてきたように俺たちにもその血が流れている。


 「本当に男子ってエッチな格好好きだよね〜僕ならもっと凄い格好になれるけど二人とも興味ある?」


 俺たちは鼻を抑えながら後ろを振り返るとそこには神崎姉妹がいた。


 二人とも黒をメインとした服装をしている。


 妹の佳奈の方は日焼け防止の為か薄生地の長袖を着ていて姉の方は逆にオープン的で肩まで出すワンピーススタイルだ。


 「佳奈!そんなはしたない事言うんじゃありません!皆さんおはようございます、美代さんも来てくださってありがとう……だけど雑草とかでこの綺麗な足に傷が入りそうで心配だわ」


 そう言いながら美代の足元をまじまじと見つめた。


 確かにあの綺麗な足に傷が入ったら大変だ。


 俺がなんとかこの世の雑草全てを借り尽くさなくては。


 俺と円堂くんはお互い見つめ合い阿吽の呼吸で頷く。


 美代は照れ臭そうに自分の太ももをガン見してくる真由から両手で隠す。


 「そ、そうかもね〜それならゴミ拾いを優先して美代はやればいいかな?」


 「そうですね、男子には優先して草むしりをしてもらいましょう、その後を追うように美代さんが残った草やゴミを拾う形ならこの綺麗な太ももに傷が入る心配も減りますし」


 真由が話をすると佳奈が俺たちの前にパッと出てくる。


 「僕が思うにそれってつ・ま・り……二人が綺麗にすればするだけ美代ちゃんの怪我のリスクが減るって事なんだよね〜そこを踏まえた上で今日は頑張って欲しいなぁ〜」


 「円堂くん!この世の草を一本残らずむしり取る!それが俺たちの生まれてきた意味なんだ!」


 「拙者達に任せて欲しいでござる!行くでござるよ!雪殿!」


 俺たちは一心不乱に草を根元から綺麗にむしり取った。


 それはもう美代が後始末をするまでもないほどチリ一つ残さない勢いで俺たちは前へ前へと進んで行く。


 草の根を掴み根っこの土を払ってゴミ袋に入れる動作は始めの方はかなり時間がかかったが半日も経てば音を置き去りにするレベルまで仕上がっていた。


 美代の太ももに感謝。


 一日一万本の雑草をむしってやる!


 ちぎっては投げちぎっては投げ。


 そんな勢いで草をむしっていると美代が声をかけてきた。


 「高橋くんも円堂くんもそろそろ休憩しよっか?もういい時間になってきたしあとは大人達に任せて大丈夫だよ」


 俺も円堂くんも既に土まみれになっていた。


 爪にもびっしり土や砂利が詰まっている。


 円堂くんもメガネのレンズに汚れが目に見えるくらいついていた。


 そんな汚い俺たちを嫌な顔一つせずペットボトルの水を差し出してくれる美代。


 誰に対しても愛想がいい。


 俺は美代の差し出してきた水を受け取った時感じてしまった。


 ……もうこのままでいいじゃ無いか。


 そう何度も自分に言い聞かせてるのに。


 心の何処かに寂しさがある。


 美代と志保との思い出がフラッシュバックする。


 あの楽しかった日々が。


 ……。


 あれ?


 ろくな思い出なくね?


 やっぱこのままでいいんじゃ?


 「ん?どうかしたの高橋くん?……ってあれ?志保来てたんだ〜しかも」


 最後まで聴き終える前に俺の心臓はが跳ね上がった。


 美代の視線の先には志保がいた。


 だが志保は一人じゃ無い。


 その隣には楽しげに会話をしている男がいた。


 理由は分からないがきっと今俺の表情はだれがどう見ても機嫌が悪そうに見えるだろう。


 自分でも眉間に皺が寄っているのが分かる。


 そんな客観的に見えているのだからきっと自分は冷静で別に何か特別な感情がある訳じゃない。


 そう心を冷静にしてただまっすぐに志保の居る方をジッと見つめる。


 隣で美代が何か話してくれているみたいだがなにも頭に入ってこない。


 このモヤモヤした感覚がこべり付いて仕方ない。


 今すぐにでも洗い流してスッキリしたい。


 志保ってあんな風にも笑うんだな……。


 隣にいる男は俺なんかと違ってイケメンで愛想も良さそうだ。


 本当に……付き合ってたんだな。


 なんでだろう……。


 無性に苛立ってしまう。


 あんなにも俺の事を好きだと言ってたのに。


 婚姻届を書くまで逃さないと言ってたくせに。


 確かに俺は志保に散々迷惑かけてきた。


 小さい頃あんな絵がまさか本当に呪いの絵だなんて思いもしなかったし助けてもらったことも多い。


 けど……俺だって志保のために動いた事も沢山あった。


 いつだって命懸けに近い行動をしてきたつもりだ。


 こんな簡単に心変わりしちゃうのかよ。


 俺たちってそんな浅い関係だったのかよ。


 ……だったら。


 それだったら俺ももうどうでもいいよ。


 俺たちはただクラスが同じなだけで。


 別に友達でも彼氏彼女でも無い。


 幼馴染ってだけだ。


 そんな浅い関係なんだよ。


 自分でもなんでこんなに苛立ってるのか理解出来ない。


 ただ腹の底から大声をあげたりこのぶつけようのない気持ちをぶち撒けたい一心だった。


 落ち着けよ俺。


 美代も志保も本来ならこの関係になるはずだったんだろうが。


 何ムキになってんだよ。


 俺たちは他人。


 それだけだろうが!


 拳を作り爪がめり込むくらいまで力を加えていた事に今気がついた。


 通りでやたら手が熱いと思った。


 俺はふと我に帰ると隣には円堂くんが居た。


 「あ〜あれがこの間真由殿達が言っていた志保殿の彼氏ですかなぁ?……ってあれ?雪殿?雪殿〜!何処行くでござるかぁ!?」


 俺は円堂くんの呼びかけには答えず一人アスファルトの上に座った。


 陽を浴びたアスファルトは焼けるように暑かったがそんな事どうでもいい。


 今は誰とも話したく無いし目も合わせたく無い。


 俺は一体なんでこんなにイライラしてんだよ。


 自分勝手にも程があるだろ!


 くそっ!


 何度拭おうとしても志保とあの男の楽しそうな笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。


 「……本当なら俺があそこに居るはずだったのにな」


 「あそこって何処?」


 見上げるとそこには美代がいた。


 いつものように笑顔で思わず俺のイライラの気も紛れるくらい他人を幸せにしてくれる素敵な笑顔だ。


 「口に出てたよ」


 俺はハッとして口元を手で隠す。


 自分でも気がつかないうちに声に出ていたみたいだ。


 美代は俺の隣に座るとただ一定の距離を保ちつつ自分の指先を触っていた。


 「……高橋くんってさ……志保の事好きなの?」


 「えっ?」


 志保は俺に目線を合わせる事なく河原の方を眺めながらそう言う。


 唐突にそんな事を言われ動揺しそうになるが今の俺は冷静じゃなかった。


 言いたくも無いことが頭の中に沢山浮かんでくる。


 むしろこれが本心なのかもしれない。


 俺って嫌なやつだな。


 「……好きなのかな……自分でもよく分からないけどなんか取られた感じがして嫌なんだよ」


 「志保を?美代はよく分かんないけど高橋くんと志保ってそんなに仲良かったっけ?あんまり話してる印象ないなぁ〜」


 「まぁ……そう見えるかもね……」


 それは二人が変わったからだ。


 ……いや、元に戻ったからか。


 これまでの出来事を知らないからだ。


 「けど志保って硬いイメージあるからあんま好かれるイメージなかったけどなぁ〜なんかちょっと美代悔しいかも〜」


 そう言って再び美代は指先をいじり始める。


 確かにあんなイケメンと付き合える志保は美代から見ても羨ましいのかもしれない。


 「まぁ普通に考えて美代の方が誰からにでも好かれるからな」


 俺がそう言うと驚いた表現を見せる。


 「そ、そうかな?」


 「まぁ……じゃない?」


 「へ〜……」


 なんだろうこの間の空いた空気感。


 妙に辿々しい。


 いつもなら会話のテンポは常に一定で前へ前へと進むのに今はやたらその場に常駐しているような。


 ふと目線が合うと不意に逸らす。


 あれ?


 なんだろう?


 この雰囲気。


 時間がゆっくり流れてる感覚。


 もはや時間は止まってて俺たちだけの世界が出来上がってるような。


 美代は悔しがっているようにも見える。


 これは俺の勝手な憶測に過ぎないがそれって俺が志保の事を好きだから?


 それってつまり美代は俺の事を好きなんじゃ?


 こっちの世界線でもそうなのか?


 もしかして前の世界線での気持ちが残ってるとか……。


 だとしたら志保は俺に好意を寄せていないのは変だし。


 ……それに。


 美代は普通にめっちゃ可愛いし。


 言うなら今しかないだろ。


 顔が焼けるように暑い。


 もう今は何も考えていない。


 2人から嫌われようとか。


 逆に好かれようとか。


 そう言った何かにつけて理由ある行動をとる訳じゃない。


 ただ空気感や自分の感情に従って。


 「あのさ……」


 「なに?」


 俺と美代の目が合う。


 もう引き返せない。


 このまま言うしかない。


 こんな雰囲気にしておいてなんでもないなんてありえない。


 全身の脈打っているのが伝わる。


 全身が暑い。


 喉元まで出かかった言葉がなかなか吐き出せない。


 言え。


 言えば楽になる。


 止まった時間はまだ動かない。


 「お……あのさ……」


 「……うん」


 まだ俺たちの瞳は見つめ合ったままだ。


 体感では凄い時間が流れている気がする。


 この言葉を言うために美代はどれだけ待ってくれているのか。


 ぐずぐずするな。


 いいから言えよ。


 固唾を飲み大きく息を吸う。


 ものすごい勢いで脈打ってるのが分かる。


 ただ呼吸が上手くできない。


 よし……言うぞ!


 「お……俺たち付き合わない?」


 呼吸が止まる。


 額の汗が落ちていくのが伝わる。


 その瞬間時は再び動き始める。


 雑踏の音が耳に入ってくる。


 あの静寂とした緊迫感はもう薄れてきた。


 言った……。


 俺は言ったぞ!


 ただまだ顔は暑く心臓の音が周囲に爆音を鳴らしている。


 美代と数秒間見つめ合う。


 その潤んだ瞳で一体何をどう感じているのか俺には想像もつかない。


 「ごめんね?美代……そんなつもりじゃなかったんだけど……」


 美代は俯き俺はただ身体が硬直した。

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