え〜こう言うの好きでしょ?
夏休み初日、俺は悩んでいた。
どれにするべきか……。
「もうお兄ちゃんどれでもいいじゃ〜ん早くして」
「私も早くこのあずきバー食べたいんだけど!」
このプレミアムアイスが食べたい……だが金銭的にきつい!
妹はこのバーゲンダッツの抹茶が食べたいらしいし。
ここはやはり俺が折れてカリカリくんを食べるべきなのか……。
いやしかし!このプレミアムアイスが俺を呼んでいる!
この綺麗に巻かれたツイスト!
そして濃厚な牛乳!
サクサクでクッキーの食感を味わって最後まで楽しませてくれるスコーン!
この暑い夏の日に食べたら美味すぎて失神してしまうかもしれない!
食べたい!
甘くて濃厚!だがしつこくないこのプレミアムアイス!
「も〜う、貧乏お兄ちゃんなんだから……分かった、後で私の靴下洗濯カゴに入れて良いよ」
「なんで俺がそんな事しなきゃいけないんだよ!」
大体なんで俺が妹の靴下を洗濯カゴに入れると言う行動が妹にバーゲンダッツのアイスを買ってやる理由に繋がるんだよ。
「え……だって匂い嗅いだりそれ使ってあれしたりするんでしょ?だからいつもはこっそりやってるとこを今回は雫様が黙認して見逃してあげるって言ってるの……分かったらバーゲンダッツの抹茶味早く買って」
こいつ……一体俺をなんだと思ってるんだ!
俺は買い物カゴにあずきバーとカリカリくんとバーゲンダッツの抹茶味を入れた。
「あずき〜あずき〜あずきバ〜あんぱんじゃないよ〜あずきバ〜」
そろそろバイトでもするべきだなぁ。あと早くエミにその恥ずかしいあずき中毒者みたいな歌を歌わせるのを止めてくれ。
ーーーー
家に帰って冷房の効いた部屋で俺はカリカリくんを食べながらスマホの動画を見ていた。
夏の風物詩の動画がオススメにバンバン出てくるなぁ。
花火やら祭りやらキャンプやらプールやら。
その中でも一際俺の目を引いたのはサマーランドの広告だった。
……まぁ、うん。
すぐさまスワイプした。
最近はvtuberってのが流行ってるんだな。
よく分からんけど。
「またエッチな動画見てるの?」
「見てないわ!」
「はいあ〜んして……どう?美味しいでしょ?可哀想なお兄ちゃんに一口だけサービスしてあげる……どう?美味しいでしょ?そんな氷の塊よりもこっちのちゃんと牛乳を使った本物のアイスの方が何倍も美味しいでしょ?お兄ちゃん?」
美味い!美味すぎる!妹のあ〜ん。
普通に食べるバーゲンダッツの十倍は美味い。
くそっ!俺が本物ならここでプラスチックのスプーンを掴んでいる手ごと舐め回していたと言うのに!
「わ、私のはあげないわよ!……ひょら!ひょうぜんぶ食べちゃったもぉん」
慌てて口の中にあずきバーを放り込むエミはリスみたいで可愛い。
「その出っ張ってる棒の部分を引っ張ってやろうか?」
「お兄ちゃん鬼畜だね〜鬼の鬼いちゃんになっちゃうよ〜」
「物語シリーズ長すぎて終物語でやめちゃったよ」
独特の世界観好きなんだけどね。
アニメもカオスで好きだったし。
「ちなみに最近エミちゃんは僕たちは親友が少ないにハマってるみたい」
「なるほど……それで最近訛りみたいなのが出てくるのか……ようやく理解、カラコンだけはやめとけよ〜上手くやらないと目にバイキン入るし」
小鳩ちゃん俺も好きなんだよなぁ〜。
ロリコンじゃないけど。
「それより今年の夏祭りはどうするの?エミちゃん連れてく?逸れるの怖い気もするけど」
「エミは行きたいの?」
パッと顔を明るくするエミ。
分かりやすすぎる。
「行きたい!行きたい!連れて行きなさい!たこ焼きにイカ焼きに焼きそば!焼き鳥にとうもろこし焼きに」
「あ〜はいはい分かりました……どんだけ食うつもりだ……もうお金ないっつうのに」
食い物ばっかだしなんか焼き焼き言ってるし。
「お兄ちゃん解消なしだね〜だから彼女出来ないんじゃない?」
いや、俺に彼女が出来ないのはあの二人が……。
あの二人……。
「ん?どうしたのお兄ちゃん?」
「りんご飴に!フランクフルトに!チョコバナナに!かき氷に!」
こいつはまだ言ってるのか。
それより本当ならあの二人と夏祭り行くはずだったのかな……。
そんな事を考えてしまう。
「お兄ちゃん……バイト嫌なら臓器売るしか……それかなんちゃらファイナンスに行くしかないね」
「うらねぇよ!けどお金ないのは事実なんだよなぁ〜普通のバイト始めたら遊ぶ時間減っちゃうしお金なかったらそれはそれで楽しめないし……」
「じゃあ短期のバイト探せば?」
短期のバイトかぁ〜。
時給1000円だとして8時間労働8000円を一週間くらい。
一ヶ月ちょいの夏休み中一週間程度なら潰しても問題無し。
56000円もあれば今年の夏くらい過ごせるはず。
手持ちの残金が24円。
やるしかないか。
適当に求人票を見る。
倉庫に飲食店、工場とか色々あるんだなぁ。
「あ、これとかお兄ちゃんでも出来そうじゃない?」
そう言ってスマホの画面を触ってくる。
「おい、それはただのブラウザ広告だろ、しかもちょっとエッチなやつ……なんで俺の妹はこうも思春期なんだ」
「え〜こう言うの好きでしょ?」
はいはい。
今日申し込みして即採用してもらうとしても仕事開始が三日後くらいだとして……。
頭の中で計算しているとメールが来た。
[高橋くんこんにちは元気?三日後に町内の草むしりがありますので参加お願いしますね、軍手やゴミ袋はこちらで用意するので動きやすい格好、気になるようだったら虫除けや日焼け止めなどそれらは持参でお願いします、暑いと思うので帽子や水分補給なども忘れずに、あとそれから夏休みの宿題も手をつけておかないと……]
「って長えよ!真由さんは俺の母親か!」
妹がスマホを覗き込む。
「……いや、お母さんでもこんなに心配しないよ……真由さんって人多分長女だよね?兄弟多くてしっかりものなんじゃない?お兄ちゃんと違って」
「一言余計だ……確かにしっかり者ではあったな」
双子だったし少なくとも神崎家の家庭の事は分からないが真由さんが世話焼きなのは確定だろう。
「ぷはぁー!あずきバー美味しかったわ!雪!もう一本買ってきて!食べたい!後夏祭りも行きたい!」
待て待てそれにはお金が必要なんだって……。
てか俺のバイトは?ただ働してる場合じゃないんだが?




