くそっ!俺は絶対負けないんだからね!
「ただいま〜」
俺が玄関を開けると二階の扉が開いた音がした。
「ちょっと!どこ行くのよ雫!私まだ一回も勝ててへんのに!」
なんかへんななまりが……。
「おかえり〜お兄ちゃん、もうエミちゃんの相手が大変でさぁ〜めちゃくちゃ弱いのもうめちゃくちゃ」
「へ〜」
すると二階から怒鳴り声が聞こえた。
「よ、弱いとか言うな!まだ始めたばかりで操作に慣れてへんだけやし!ボタンの配置とか相手の動きとか感覚的に掴めれば絶対私の方が強いもん!つよいへん?……あっ!強いんやから!」
まだそんなに訛りは使いこなせてないみたいだけど。
相変わらず元気100倍なんとかマンみたいだな、さっさと風呂に入るか〜カラオケで疲れたし。
「お兄ちゃんお風呂入るから〜」
「あ……うん」
雫の部屋の前まで行くとエミが腰に手を当て謎のドヤ顔をしていた。
「お風呂上がったら勝負よ!私のローラー捌きを見せてあげる!……見せてやる?見せてやっちゃる!」
「はいはい無理に使わなくて良いぞ俺のデュアルで瞬殺だから」
俺は自分の指でピストルの形を作りエミに銃口を向ける。
「あんたデュアル使いだったのね!けど私のローラーは遠距離だろうが中距離だろうがタコ忍で忍び寄ってイチコロよ!」
エミはエアローラーを俺に振り翳して何度もイメージトレーニング的なものをしていた。
しかし今になってタコラテューンにハマるとは。
俺は制服をかけるとさっさとお風呂場に行き湯船に浸かってのんびりしたいと言う気持ちが先行していた。
お風呂場とは生活の中で最もプライベートな時間でその次に寝室……つまりこれらプライベートエリアに関しては時間など気にせず誰にもなので邪魔をされたくないのだ。
そのため風呂の前のドアにしっかりと鍵をかけておいた。
あ、フラグと思ったそこの君、ちょっとこっちに来なさい。
身体を洗い全身風呂に浸かる。
毛穴に染みるぜ!
ガッ……チャ……。
唐突に風呂のドアが開きそこには妹がいた。
そう妹が……。
イモウト……?
顔を真っ赤にしながらタオル一枚でゆっくりと足を風呂場に……一歩、また一歩近づき小さい声で「入るね……」と言った。
う〜ん、これは実に不思議な現象が起きている。
本来ならいや世界の定め的には俺が後から入って「キャー!!お兄ちゃんのエッチ!!」と理不尽な暴力に罵倒に罵声を浴びせられた挙句言い訳すらさせてもらえず更には周りからも冷たい視線で見られるというあまりにも釣り合っていないラッキースケベイベントな筈なんだが。
この場合はどうなるのだろう。
これは合法だ。うん、間違いない。
なら俺は堂々としていれば良い。
湯気とタオルのおかげで妹の大切な部分は見えていない、しかし太ももから指先にかけて落ちて行く水滴や肩の鎖骨、薄ピンクになっている肩などはすべて見えていた。
「わぁお!」
「何その海外のリアクション、うざい」
俺は何とか目をそらそうと試みるがどうやら身体は正直物のようだ。
いやそもそも視線を逸らす必要は一切ない訳で妹も色々隠して入るが隠せていない部分は見ても良いと許可している訳で。
雫の滴る音が風呂場の静寂に響く。
なんと言うか少し気まずいがまず何故鍵のかけた風呂場に入って来れたんだとかなんで入って来たんだとか言いたい事は色々とあるけど。
全く仕方がないな。ここは兄として気の利いた台詞の一つでも言うとするか。
「妹よ……随分と成長したな……」
「普段そう言う事絶対言わないくせに妹の裸を見て成長したとか言うんだ……お兄ちゃんキモすぎ臭すぎロリコンすぎ」
「背中流そっか?」
俺の身体はすでに湯船から半分出ていた。
だめだ身体が全く言うことを効かない。
「そんなエロ漫画みたいな台詞言ってあれでしょ?お兄ちゃん、ぐへへそれじゃあ俺のこっちも洗ってもらおうかなおっと優しくだぞ?優しく……そうそう上手じゃないか良いぞ〜お礼にもっと気持ちよくしてやろうこの欲しがりめ!とか言うんでしょ?」
「言わんわ!ちょっと妹の綺麗な身体にうっかり触ってウヒョ〜!ラッキースケベ最高だぜ!やっぱ妹って最高だなぁ!くらいで満足する程度の俺はチキン野郎だ!」
「流石童貞お兄ちゃん」
童貞言うな。
すると下を向く妹。
「さ、さっきね……言おうと思ったんだけど……なんか久し振りに色々と思い出しちゃってさ……」
妹は目をそらしまた一歩と近づいてくると手桶に風呂水を入れて自分の体に流した。
水音が良く反響する。
風呂椅子に座るとタオルを風呂桶に入れてチラッとこちらを見て来た。
視線を移動させるたびに長く綺麗なまつ毛を揺らし宝石のように綺麗な瞳が感情を隠しきれず何度も動いていた。
「てか、そんなガン見されると流石に照れる、確かにお兄ちゃんが私を好きで好きで結婚したいくらいなのは知ってるけどさ私だって一応女の子で女子中学生でこれからJKになる訳でいわば加工前のA5ランクステーキとか握られる前の中トロとか身を取り出される前のタラバ蟹とかと同じなんだよ?」
「お前よく自分で自分を高級肉だとか中トロなんて言えたな」
「え?違うの?」
俺はため息を吐き湯船の淵に手を当てる。
「当たり前だ、お前は翼の生える前の天使だしレベルカンストで初期村にいる無双キャラだし揚げたて前の唐揚げレベルだ」
「うん、持ち上げてくれるのは嬉しいけど最後の例えだけなんか弱くない?」
「唐揚げが弱い?」
「うん」
何を言ってるのやら唐揚げに溶き卵をつけてたっぷりと片栗をつけた状態の唐揚げが後数ミリで油に投入されると言うあの聖域にも近い状態が弱いだと?
俺はやれやれと肩をすくめる。
「と言うかツッコミ不在すぎて話がどんどん脱線していくんだけど……普通なら自分を持ち上げ過ぎだろってツッコムよね?」
「そんなの知らん」
もちろん、俺の妹は全世界男子理想の嫁だと思ってるからな。
そんな妹が私可愛いと聞いてきたのなら当たり前だぁ!!って叫んであの旗燃やせって言うくらいには行動する。
「ほら……あの時もこうして一緒にお風呂入ってさ……あの時は全然会話も弾まなくて……」
……あの時?どの時だ?俺がこっそり覗いてた時か?けどあれはバレてないだろうし……もし仮にバレていたとしてもあれは風呂の水質を観察していただけで決して妹の身体を舐め回すように見ていた訳ではない。
「やっぱり私はさ、……ぎ」
「ちょっと!!!雫!!!雪が入ってるのに何やってるのよ!!!」
扉に人影(幼女)が映る。
まずい!エミだ!これは色々と勘違いされる!
敵襲!!パターン幼女!!エミです!!
よし!第一戦闘配備で待機!
「え〜兄妹なら普通だよ〜なんならエミも一緒に入る?」
まさかの友軍からの援護射撃!
「わ、私は大丈夫!そ、そっか!そうだよね!兄妹なら普通だよね!じゃあタコラテューンやってるからさっさとあがりなさいよ!」
「エミもちゃんと後でお風呂入らなきゃ駄目だからね〜ってもう行っちゃったみたい、あの子お風呂あんま好きじゃないのかな?」
どうやらエミはあっさり引いてくれたようだが……。
俺は一安心して湯船の淵にだらっと両腕を垂らす。
「だからさ……私は嬉しかったんだよね……お父さんもお母さんも、そしてお兄ちゃんも、すんなりエミちゃんを受け入れてくれて」
雫はゆっくりと肩から手先にかけて泡を付け体を洗っていった。
ポタポタと流れ落ちる水滴の音からは不思議と悲しみと感謝、そして懐かしさをまとった何か心に響く音がした。
「ところであの時って何?」
「……お兄ちゃん身体洗ったなら早く出て行って」
急に冷たい!
と思ったら本当に冷たい!
「お、おい!何を怒ってんだよ!冷水シャワーやめて!」
「お兄ちゃんは豚野郎だから冷しゃぶにしてやろうと思って、ほらブヒブヒ鳴きなよ気持ちいいです雫様って言って、ほら早く、情けなく妹に服従して世間的に死にたいと思えるくらいの台詞と行動を見せて」
くそっ!俺は絶対負けないんだからね!
ちなみにエミは俺たちの光景を扉の隙間から見ていたらしい。
親には言わないでくれと土下座していた。




