ついでに靴下も〜
そのあと俺と妹は美代を家の前まで送り届けた。
美代はその怪我で見送りしてもらって申し訳ないとか早く病院に行った方がいいだと言ってたが普段美代と志保に散々やられてきたからな……。
それに美代を襲った連中は妹が多分ボコボコにしてくれたのだろう。
何故か壊れたピアスとチェーン持ってたし。
ゴミは拾っちゃいけません。
俺は親に連絡をするとエミがカンカンに怒っているらしい。
ご飯まだ〜!と駄々こねてるとか。
美代の話によると志保とか結構仲良くやってるみたい。
二人とも互いを認め合っていて今度剣道の試合の応援にも行くらしい。
そんな話を聞いて俺と彼女らの距離がどんどん遠のいていく気がした。
俺は美代に別れを告げると見えなくなるまで手を振り続けてくれた。
俺はこれからどうすればいいんだ……。
「遅い!お腹減って死にそうなんですけど!それに雫と一緒にゲームする約束もしてたのに!」
玄関開けたらさと……じゃなくていきなりエミに怒られた。
「連絡送ったろ、それにほら」
「なによこれ?」
俺はエミにビニール袋を渡すと中身を確認した。
「あんぱん買っといたから許してくれ」
驚いた表情を見せたがそれはだんだん笑顔に変わっていきエミはそっぽを向いた。
随分と嬉しそうだな……。
「し、しょうがないわね〜今日だけ許してあげる……なんか顔が傷だらけじゃない、大丈夫?」
今気がついたんかい。
「エミが心配する必要はない、俺が勝手にした事だし」
誤魔化すように言った。
「それに将来あんぱんで釣られないか心配だよ」
「そうだね……お兄ちゃん」
うん、すごく心配だよ。
「それじゃ夕食作るから待っといて〜」
妹は髪をポニーテールにまとめるとお気に入りのエプロンをつけて料理を開始した。
「それじゃ俺は風呂にでも入るか〜」
一度リビングに行き冷蔵庫に材料を入れた。
「妹よ〜俺の買っておいたドクペ知らないか?」
俺は念入りにビニール袋の中を確認し全ての材料を入れ終えたがやはりドクペはなかった。
おかしい……我が家でドクペを好んで飲むのは妹くらいだが、まさか……。
手慣れた手つきでフライパンを使い料理を進める妹をよく見ると材料と一緒にすでに飲みかけのドクペがそこにはあった。
「これお兄ちゃんの?……はい」
飲みかけのドクペを俺に差し渡して来た妹。
これを一体どうしろと……。
「何か言う事はないのか妹よ」
妹は菜箸を持ちながら「う〜ん」と唸って考えると何かひらめいたかのような顔でこちらに近づいて来た。
「これで間接キスだね?」
くっ……我が妹め、男の扱いに慣れてあるな。
よし、許そう。
「しょうがねえな……」
「あ、それつまんないからやめた方がいいよ」
「はいはい」
俺は飲みかけのドクペを飲みたかったが後でエミにネチネチ言われるのも嫌だったので諦めた。
く、悔しくなんかないんだからね!
「お兄ちゃん、ついでに生姜とって」
「いや、なんのついでだよ」
あと足だけ使って器用に靴下脱ぐのやめような。
俺は冷蔵庫から生姜を取り出すと「ほら」と言って手渡した。
「ついでに靴下も〜」
「甘えるな」
俺はなんだかんだ言いつつも逆さになった靴下を拾い風呂場に向かおうとした。
結局妹の可愛さには勝てないと言う事だ、それに素足もなかなか良いものだしな、なんか家にいると、とりあえず靴下脱ぎたくなるし。
「お兄ちゃん」
「ん?」
俺は妹の方を見ると料理を黙々と進めていた。
「愛してる」
アホか。
「ん、俺もだよ」
何これ妹ルートかな?
「アホ兄妹ね」
エミはソファーに座りながらそう言って来た。
「よし、あんぱんを返してもらおう」
「嘘です!ごめんなさい!」
こいつは……とにかく将来が心配でしょうがないよ!生姜だけにな!わっはっは〜。
……きっと疲れてるんだな、風呂に入るか。
俺は自分で言っといて恥ずかしくなりすぐにその場を離れ風呂場に向かった。
風呂の湯気で視界が悪い。
ただ全裸になる解放感と一人でぼーっとしているこの時間は嫌いじゃない。
ただ色々と考えてしまう。
なんだかあの二人から解放されたおかげか最近緊張感がなくなってきた気がする。
それ以外にも理由があるのかもしれないけど。
「なんかやる事があった気がするんだけどな〜」
なんだったのかさっぱり思い出せない。




