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雫かなぁ〜やっぱ、自分ではそうは思わないんだけど


 嫌な予感が当たってしまった。


 やっぱ美代の跡をつけていた二人組のチャラ男はたまたま進行方向が被ってた訳じゃない。


 意図して美代の跡をつけていたんだ。


 助けてくれ〜雫〜エミ〜。


 すると男達はとうとう美代の身体に触れようとしていた。

  

  「あの!」


  俺は自分でも気が付かないうちに声を上げていた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


  辺りもだいぶ暗くなって来たこの時間帯に裏路地に女の子を連れて行くなんて悪事が働いてるとしか思えない。


  「あ?……うわぁ……バレちゃったよ、しかもその制服って事は知り合い?学校同じだろ?なんで気づいたのかな?わざわざこんなところまで来るって事は跡を追ってたのかな?」


かなり低い声音で1人の男がそう言ってきた。


  「おいおい、俺たちの連れに何か用かい?この子は俺たちの知り合いなんだよ、もしかして君もこの子の知り合いかな?俺たちの用が済んでからでも良いだろ?」


  男達の視線は一気に俺に集まると俺は緊張し腕に力が入った。


俺はこんなヤンキー2人に堂々と喧嘩を挑もうってのか……きっとラノベの主人公ならボコボコにしてヒロインの女の子とチヤホヤするんだろうなぁ。


俺は裏返りそうな声をなんとか抑え平常を装った。


  「その子は俺の友達……知り合いなんですが……こんな時間に一体何しているのかと」


  俺は正直言うと美代より彼らの方が心配だった、いやもちろん美代のことの方が心配でしょうがないがヤンデレ時の美代を思い出すとどっちが犯罪者になるのかわかったもんじゃないし……。


  とにかく、こいつらも美代も刺激しないようにしなくては……。


  「……あ〜あ、まぁこの状況だと俺たちが悪者だよな〜気が付かなきゃ良かったのになぁ〜テメェ空気読めないって言われない?」


  1人の男がこちらに近づいてくると威圧をかけるよう袖をまくりバキバキッと手を鳴らした。


  ……ここはかっこ悪いところ見せるわけには行かないけど……。


  はぁ〜嫌だなぁ〜……でも喧嘩が得意なわけじゃないし……。


 けどまぁ。


  「一言だけ言う……」


  「あん?」


  俺は深く息を吸うと大声で叫んだ。


  「俺は殴られても構わないから、その子には……美代には手を出すな!」


  これから殴られるの覚悟で出た言葉がこれです、はい。


 ダサすぎるよ俺。


  「上等じゃねぇか……よっ!」


  勢いよく飛ばしてきた腕は綺麗に俺の溝に入り俺はその場で跪いた。


「雪くん!」


  「ぐっ……」


……ふっ、まったくかっこ悪いなぁ俺って……。


  ラノベの主人公なら男たちをボコボコにしてかっこいいところ見せるチャンスなのに……俺にはそれができない。


  なんてかっこ悪いんだ。


  すると男は俺の目を見ると「ふん!」と言って俺の顔面を蹴り飛ばしてきた。


  当たりどころが良かったのか悪かったのか分からないが血が流れていくのが見えた。


  ヤベェ……どんどん気が遠のいてく。


  俺は地べたに這いつくばりながらもうつらうつらと美代の方を見ると泣きながら何かを叫び訴えていた。


  ……はぁ、よかった。


  俺はふと微笑んだ。


美代には……手を出していない……みたいだ……。


 どれくらい経ったのか分からない。


 一方的に殴る蹴るの暴行を受け続けたけど。


 俺はまだ立っている。


 逃げていない。


俺はラノベの主人公じゃない……けど。


俺はラノベの主人公じゃない……だけど!


「俺はラノベの主人公じゃないけどな!……ハァ……幼馴染1人くらい……守ってやりたいんだよ!!!!!」


俺は最後の力を振り絞ってそう叫んだ。


「……もういい、いくぞ!サツがくるそれにこれ以上はまずい」


 「はっ!殴られる一方でだせえなお前!そんなんでカッコつけてんじゃねえぞ!ゴミ野郎!」


……思いが通じたのかヤンキー達はその場を去っていった。


  「だ、大丈夫?痛くなかった?」


  美代はこちらに駆け寄ってくると俺の頬に手を当てるとすぐに震えた体で俺の事を抱きしめて来た。


体のあちこちが痛かったが美代に抱きしめられてそんなことなどどうでもよくなってしまった。


 あぁ……懐かしいなこの感じ。


 だけどいつもより優しい気がする。


  「ど、どうしたの?もしかして俺、くるの遅かった?」


  「遅かったよ!……本当に怖かったんだから」


  震えた声でそう言うとさらに強く抱きしめて来た。


  ちょっと苦しいだなんて言えない……。


  すると妹がこちらに駆け寄って来た。


  「お、お兄ちゃんどしたの?それにひどい怪我……一体何があったの?」


  「だれ?……でもどこかで会ったことが……」


  そっか……記憶が……。


  「あ、えっと……初めまして?お兄ちゃんの妹の雫です」


  妹は丁寧にお辞儀をするとさらにこちらへ寄って来た。


  俺の顔を見ると「痛そう……」と言ってポケットからハンカチを取り出し血を拭いてくれた。


  「それで?一体何があっての?お兄ちゃん」


  「実はーーーー」


  俺は妹に軽く説明すると……。


  「あれ?お兄ちゃんちょっと顔赤くなってるよ?」


  そりゃこんな胸を押し当てられれば赤くなるわ!……ってそっちじゃないか。


  「ん?さっき軽く殴られてな」


  「お兄ちゃん……とてもじゃないけどその怪我でそんなこと言われても……変にカッコつけない方がいいよ」


  「はいはい」


  すると妹はこちらをジーっと見つめて来た。


  「……なに?」


  「いつまでくっついてるの?」


 慌てて美代は俺から離れる。


 くそっ!妹のせいで俺の幸せが。


 後で仕返ししてやろ。


 「そんじゃ私はちょっと行くとこあるけど……すぐに戻ってくるね」


 「えっ……雫さん?」


 「……その呼び方なんだか違和感があります」


 妹は両手いっぱいの荷物を下ろしてクラウチングスタートで走って行った。


 トイレだろうか。


 「何処に行ったんだろうね?」


 「トイレじゃない?」


 二人っきりになると少し気まずかった。


 俺は何か話題がないか必死に頭をフル回転させた。


 ん〜なんも思いつかん。


 すると美代がハンカチを俺の額に当ててくれた。


 「また血が出てきてる……病院とか行った方がいいね」


 「まぁこんなの日常茶飯事だけどね」

 

 「そうなの?高橋くんって凄いんだね」


 まぁあなたのせいなんですけどね。


 「なんかこうやって会話してると凄い懐かしくなる……」


 「……そうかな?」


 これ以上話せば話すだけ悲しくなるだけなのかもな。


 「あ、そうだ今回のことクラス委員長には伝えとかないと……他の生徒にも同じような目に遭って欲しくないからね」


 そう言って美代はスマホを取り出し誰かにメールを送っているようだった。


 「うちのクラス委員長って誰だっけ?」


 「高橋くんそれはひどいよ〜本当に他人に興味ないんだね?クラスでもいつも一人で過ごしてるからそうなのかな〜って思ってたけどさ〜」


 と、友達くらいいるし!?円堂くんとか?あと……まぁそれくらいか。


 「しかも双子なんだから覚えやすいのに〜神崎姉妹のお姉ちゃんの方、真由ちゃんね、ちなみに妹の方は佳奈ちゃん、二人ともすっごく可愛いんだよ」


 へー。


 まじで知らんかった。


 「あ、そうだ!高橋くんの連絡先教えてよ〜今回の件のお礼もしたいしなんか他の人とは違う感じするんだよね〜」


 まじかよ!?俺こっちの世界線でも美代と友達になれるの!?


 「お、おう……別にいいけど」


 「あ〜、またイチャイチャしてる〜目を離すとすぐこうなんだから」


 また妹はタイミング悪いな。


 まさか狙ってるのか?

 

 「あれ?雫さんの手に血が……」


 確かに美代の言う通り妹の手には黒ずんだ血がついていた。


 「あ、これは返り血だから心配しないで」


 一体誰の?とか余計な事は聞かない方が良さそうだ。


 妹は昔からカッとなると我を忘れてしまう癖がある。


 気がついたらみんな血まみれで倒れてるのかな?


 雫かなぁ〜やっぱ、自分ではそうは思わないんだけど。


 「それより美代さんを家に帰してあげた方がいいんじゃない?お兄ちゃんがもっとべたべたくっついていたいって言うなら私は止めないけど」


 「お、おい!美代の前で変な事言うなよ!……確かにそろそろ帰らないと親が心配するだろうし……よいしょっと、送っていくよ」


 まだ至るとこが痛いけど腰を上げる。


 「ほんと?実はまだ一人だと不安だからそう言ってもらえると助かるな……雫ちゃんもありがとね」


 俺は妹に無言で荷物を押し付けられた。


 俺一応怪我人なんですけど。

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