俺のことは雪お兄ちゃんと呼びなさい!
辺りは少しずつ暗くなっていき幼女はベンチで足をぶらぶらとさせながら自分の足を眺めていた。
俺は自動販売機でブラックコーヒーとオレンジジュースを買うとベンチへ向かった。
うわぁ……もうあんまお金ないじゃん、なにに使ったんだよ俺……。
「幼女よ、俺のおごりだ」
俺はわざとブラックコーヒーを幼女の頬に当ててやった。
「ちょっと!びっくりしたじゃない、……ありがとう」
以外にも幼女は素直にお礼を言ってきた。
「いや、それコーヒーだぞ?ほれ、こっちのオレンジジュースでも飲め」
すると幼女は俺のことをジッと見てきた、きっと子供扱いしたことに怒っているのだろう。
「そっちのオレンジジュースを飲むのが普通なの?」
俺は幼女の隣に座ると少し避けられた。
それ地味に傷つくからやめて欲しい……。
「まぁそうだな、子供は基本コーヒーなんて飲まないからなぁ〜」
「そう、ならそっちのを貰うわ」
そう言ってブラックコーヒーとオレンジジュースを入れ替えるとそれをジッと見つめた。
そう言えば志保はよくコーヒー飲んでたな……。
俺もよくカッコつけて飲んでたけどブラックの良さがマジで理解できない。
俺は缶のフタを開けるとコーヒーを一気に飲み干した。
「ゴク……ゴク……はぁ〜、やっぱあんま美味しくないな……めっちゃ苦い」
その姿を見て幼女も見よう見まねで同じようにオレンジジュースを飲み干した。
こいつやっぱ可愛いな。
好き!
「あんた名前……なんて言うのよ」
コミュ障か!それかツンデレだな。
「高橋 雪、趣味と言うか特技はメンヘラとヤンデレから生き延びることそして世界一妹を愛して愛されてると思う」
俺の自己紹介に幼女はクスクスと笑った。
「ふふっ……なによそれ、もっと他に自己紹介出来ないわけ?陰キャくん」
全くだ、我ながらおかしな自己紹介だと思う。
「これも変わるのか……」
「え?」
全ては過去の話だ、もう2人に関わることはないだろう。
「今の趣味はゲームとかラノベとかあとちょっと足が早いことくらいかな」
俺は苦笑いをしながら幼女を見た、その苦笑いに幼女は少し戸惑っていたがすぐに会話を続けた。
「普通ね……」
そう、普通だ……あの呪いの絵も今後書くことはないだろう。
「普通だな……」
しばらく静寂な時間が続いた、幼女の手に持っていたオレンジジュースの缶からは水滴が下にゆっくりと落ちていく。
俺は別に気まずくはなかったしきっと幼女は気を使ってくれたのだろう。
……幼女のくせに。
「あんたさっきから私に失礼なこと言ってない?」
ぎくっ!なんでわかったし!
「そ、そんな訳ないだろ、ははは〜嫌だな〜」
なんて苦し紛れの発言なんだ!嘘下手すぎだろ!
「ふぅ〜ん、まぁ別にいいけど」
いいのかよ……もっと絡んできて欲しいのに……この幼女め!胸なし!可愛い!結婚してくれ!よしもうやめよう。
自分でもおかしくなってるのがよく分かる。
「名前なんて言うの?」
「う〜ん……そうね、エミって呼んでくれれば良い」
今ちょっと考えてから言っただろ……。
名前を教えたくなかったのか?
まぁ別にいいけどさ。
ブラックコーヒーをゴミ箱目掛けて投げ捨てる。
おぉ!意外にも綺麗に入ってくれた。
「そうか、それじゃ暗くなってきたしそろそろ俺は帰るとするよ……エミも暗くなる前に帰れよ家は近いのか?あんま遅くなるとパパとママと妹に心配されちゃうぞ」
俺はベンチから立ち上がってカバンを肩にかけた。
「本当に……」
「うん?」
エミは缶を両手で握り、震えた声で言ってきた。
「本当にそれで良いの?」
……。
妙に胸がつっかえた。
俺はエミの言っている意味が分からなかったが、エミが本気で言っていることだけは分かった。
それでいいのか……。
俺は本当にこのままでいいのか……。
現状が最適解で自分が折れればみんなが幸せになる。
それなら俺自身はどうなんだ?
甘んじて受け入れればいいのか?
「私を雪の家に連れていきなさい、しょうがないから手を貸してあげる」
「え?うちに来るの?」
「いいから!帰りに何か買ってよね」
「いやいや!そう言う意味じゃなくて家は!?両親は!?妹は!?」
「うっさいわね!妹なんて居ないわよ!お姉ちゃんなら居るけど……今は会いたくないし……とにかく雪の家に連れて行きなさい!」
急にどうしたと言うのか……。
それにいきなり名前呼びなのも気になるけど。
「なら一つ条件がある……これが出来ないなら連れて行く事はできない」
「何よ……仕方ないから聞いてあげる」
「俺のことは雪お兄ちゃんと呼びなさい!」
「分かった!雪お兄ちゃん!」
俺は仕方なくエミをうちに連れていくことにした。




