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と言うかなんでお前ら字に可愛さを求めてるの?

 

  まだ朝早くの事、教室の窓辺から入ってくる風は少し冷えていて今の季節には気持ちの良いものだった。


  そんな中……。


  俺は震える手でケータイのメモ帳機能に遺言を書いている。


  しかしまぁ一番後ろの窓側とはなかなかいいポジションだが……いつ消えるか分からないこの命……友達できたら花瓶でも置いてもらおう。


  友達が出来たら……。


  俺は自分の書いた遺書を見た。


  【拝啓お父さん、お母さん、そして妹の雫よ……俺は今ある事情により不安の中、常に怯えている状況で学校生活を送っています。例えるなら先の見えないエスカレーターを逆走し続け止まればその先に待っているのは死……そんな気分です。次第に体力の限界が近づき足が重くなって動かない……とまぁこんな感じなのですが今まで育ててくれてありがとう】


  軽く書いて見たがこんなものか?遺書など書いた事ないからさっぱりだ。


  きっと第三者に見せたのなら俺は精神科に連れていかれるに違いない。


  「ゆ〜きくん♡何してるの?まさかまた美代のエッチな妄想してるんじゃないよね?流石にそんなところ構わず発情されると美代も体力持つか心配だよ?」


 ……さっきあんな発言をさせられた手前下手に言い返せばまたそれを逆手に取られるのは分かってる。


 だから俺は余計な事は言わない。


 サッとスマホを閉じポケットの中にしまう。


  次第に教室の中に続々と生徒が入ってくる中、俺は隣の席が志保……前の席が美代と言う本来なら美少女2人に囲まれたハーレム状態で喜ぶ訳だが……


  だが!!


  俺は知っている……こいつらの頭がいかれていることを。


 志保は一見すると黒髪ロングのクールな美女にしか見えないだろう。


 だがその中身はただ計算され尽くした行動や発言、さらに最近では実力行使も使って来るとんでもない女なのだ。


 頭が周り周りの空気も読み取る力があるためその場を簡単に支配してしまう、ちなみに身体はスリムなので胸や太ももは控えめサイズとなっている。


 ただ手足すげ〜長いんだよな……顔もめっちゃちっちゃいし。


 そして先ほどから自分のことを美代と名前で呼ぶ正面の席のこいつは志保とは違いあまり頭を使うタイプではない。


 だからこちらは何をして来るか行動が読めないし周りの空気を一切読む気がないため志保よりも数倍厄介と言っても過言ではない。


 志保とは別の意味でその場を支配するタイプだが支配というよりは自分の世界を作ってさらにその世界を他者にも納得させてしまうのがこいつの恐ろしい所だ。


 ちなみに美代は胸や太ももが大きく全世界男子理想のウエストは引き締まってるのに何故か胸や太ももには肉がしっかりついていると言うスタイルをしている。


 何が言いたいかと言うなら一言だけ言おう。


 エロい。


 ただこの美代という女は最近で言う地雷系にも近いのでもし彼女とエッチしようものなら一生その束縛から逃げる事は出来ない。


  俺は横目でチラッと志保の方を向くと教科書の裏表紙に名前を書いていた。


  さらさらっと書くそのなめらかな指先からは気品さを感じさせる。


  【山口 志保】


  「へぇ〜志保って綺麗な字書くもんだな〜硬筆とか得意だったっけ?」


  「なっ!……」


  志保は目を見開き書くのをやめてマッキーペンを手から落とす。


 そんなに驚くことか!?


  「き、綺麗!?そんな綺麗で美しいだなんて……お世辞、言ってもなにもでないわよ!もうっ!ばかっ……」


  志保はふんっと言ってそっぽを向いた。


  え?なに言ってるの?俺は字が綺麗って言ったんだけど……それに美しいなんて単語は一言も使ってない。


  「雪くん〜美代の字も見て〜ほら?綺麗でしょ?可愛いでしょ?」


 「ん?」


  美代は後ろに振り返ると俺の顔にグイグイとノートを押し付けた。


  近すぎて見えないのですが……。


  【関根 美代】


  と言うかなんでお前ら字に可愛さを求めてるの?顔文字でも書いてるの?


  「お、おう美代の字も丁寧だな」


  すると美代は膨れた顔をした。


  「むぅ〜!可愛くないんだ?可愛くないなら……」


  「待って!可愛いよ!だからシャーペンを高く上げて刺そうとしないで!」


 「だよね〜良かった〜危うくこれがこうなってこうなる所だったよ雪くん?」


 これは……もしアニメ化するなら全モザイクだな。


 それくらい美代の手振りは凄まじかった。


  教科書に名前を書くだけで人の命が関わるとか今時の女の子厳しすぎ!


  「みなさーん青春してますか〜?そろそろ席について下さ〜い」


  教室のドアから出席簿を持って先生が入ってくるとそれぞれが席につきはじめた。


  「また後でね……雪くん♡これが……こうだから♡」


  そんな前向くついでに爆弾発言するのやめてもらっていいですかね!?そのまた後でには色んな意味が含まれてますよね!?


  先生が出席を取り終えた後、各自部活動見学をする事になった。


 本校は強制的ではないみたいだけど大抵の場合内申点欲しさに適当に入部するのが暗黙の了解らしい。


 俺は別に内申点要らないので入る気はないのだが帰宅部だとそれはそれでこの二人に何かされそうで怖いから二人と被らずに済む部活動が都合よくあるならそこに入部しよう。


 それに入学してからまだ男子と話していない。


 なので友達作りの為にいろんな人に声をかけようと思ったが……志保と美代がそんな事を許してくれなかった。


  まずテニス部へ向かった。


  「雪くん?テニスなんて言う球を打ち合うだけのくだらないゲームなんてやるべきじゃないわ、それにあなたの目的は私以外の女とイチャイチャして、動くたびに揺れるスカートに目が釘付けになって最終的には、キャ!?ご、ごめんなさい(萌え声)い、いや、今のは不可抗力だから(鈍感系主人公)だ、だよね!……もし良かったら私と夜の熱いラリーしない?とか狙ってるんでしょ!?全くこれだからテニスなんて紳士の皮を被った包茎は嫌なのよ」


  こいつ間違いなく全テニスプレイヤーやテニス好きの皆さんを敵に回してる。


 それになんだよ紳士の皮を被ったって……あと包茎言うな。


「美代がいれば他は要らないよね?だって雪くんと美代は一心同体で、お風呂も洗濯も食事も常に一緒だからいつもダブルスってこと♡でもテニスなんてやってる暇ないもんね?私とのダブルス(意味深)で忙しいし……でも……そんなに美代のテニスウェアが見たいなら……良いよ♡チラッ……キャッ!恥ずかしい!雪くんのサーブもスマッシュも美代の下半身で受け止めてあげる♡」


  うわぁ〜!自分でもこんなにリアリティー溢れる想像してしまうなんて!このバカ!キモい!包茎野郎!


 この脳みそがいけないのか!この!この!


 頭をガンガン打ちつける。


 「おい……あいつ部活見学してると思ったら突然地面に顔をぶつけ始めたぞ?」


 「最近の一年は変わり者が多いなぁ〜」


  俺は醜い崩壊野郎だ!こんな可愛い二人を頭の中で都合のいいように解釈して!


 消えろ煩悩!俺は紳士だ!


 「何あれ?頭おかしいんじゃない?」


 「あれは関わっちゃいけないべ」


 あれ?俺の周りから人が居なくなってく。


  そんなこんなで、俺たちは一緒に部活動見学をした訳だが……美代も志保もどの部活動からも入ってくれと勧誘されまくり、挙げ句の果てには泣いて土下座する先輩もいたが「美代は〜雪くんと同じ部活がいいからな〜」とか「わ、私は別に構わないけど……雪くん1人じゃ心配だから同じ部活に入ってあげないこともないわよ」などと言って、全ての勧誘を断った。


  先輩方、なんか俺のせいですみません!だから睨まないで!!特に野球部の先輩!!泣きながら「マネージャーが欲しい!」とか言わないで!


  そんなこんなで、俺たちは全く決まらずとりあえず保留となった。


  今日1日がすごく長い気がする……。


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