今日は！いい結婚日和だなぁ〜
いつも通り俺は朝、起きて学校へ向かった。
昨日までは熱だったわけだが……だいぶ疲れも取れてきた。
うん良い感じだな。
昨日のモヤモヤも晴れたし。
「ふぁ〜〜……つぅ〜……」
大きく息を吸って背筋を伸ばした。
なんら変わらない日常を別に退屈だとも思っていないし、そもそも志保と美代が退屈にさせてくれないし……。
でもその日は何かがおかしかった。
いや、いつもおかしい気が……。
「はよ〜お兄ちゃん、体調はどう？」
「はよう、ん〜まあまあかな」
「じゃあ早く着替えて朝ごはん食べちゃってよ〜さっさと食器洗いたいし」
「はいはい」
俺は制服に着替え、リビングで朝ごはんを作ってくれている妹の姿を見ると、やはり、なんら変わりのない日常だと認識した。
「そろそろ夏休みだな」
今日は7月15日か……。
俺はテレビの横にあるカレンダーを見ながらそう言った。
「そだね〜今年も一緒にどこか遊びに行く？夏祭りとか花火大会とか結構隣町まで行けばあるし今年も猛暑になるみたい」
可能ならお兄ちゃんもそうしたいところだが……。
まだ眠いのかボーッとしてしまう。
自然と脊髄だけで会話してる。
「あの2人がいるからな〜」
「あの2人？」
妹はジャムパンにかぶりつきながら首を傾げた。
「あぁ、今は3人か〜あの人もどうするべきかな〜今後志保と美代に関わるとろくなことにならない気が……」
ん？
まぁいっか。
食事を終えると、テーブルの上にあるお皿を台所に持っていき水に浸けた。
とりあえず学校に行くか。
俺は時間を確認し玄関を開けたところで確信を得た。
普段なら普段通りならここにいるはず、やはり人は習慣化するとそれがなければ違和感を感じてしまう。
あれ？
やっぱおかしい！
「どうなってるんだ！？」
え！？……まずは落ち着いてケータイを確認するか……。
画面には特に何もなく通知や電話もかかっていなかった。
志保と美代が朝、俺の家に来ていないなんてことがあり得るのか？
あの入学式であって以来ずっと毎日来ていたのに！？
「まじかよ！？」
玄関先に二人の姿はなかった。
ーーーー
俺は急いで学校へ向かった。
いつもの道がやたら物足りなく感じてしまう。
ただ志保と美代が居ないだけでこんなにも変わるものなのか！？
本当にどうなってんだよ……。
教室に入って2人のことを確認するとやはりそれは違和感しかなかった。
志保も美代も俺になんか目もくれずに勉強してる……。
まぁとりあえず普通に学校に来てるわけだし一安心だけど。
俺は席についてカバンを机の横にかけると2人のことを何度も見た。
特に挨拶をすることもない。
赤の他人……いやただのクラスメイトって感じなのか？
「あの……なにか？そんなにジロジロ見られると気になるのだけれど」
「ああっ！いや……別になんでもないよ」
声は確かに志保だったが中身はまるで別人のようだった。
本当にどうなってるんだ……美代は？美代もまったく別人になっているのか？
ここはひとつ賭けに出てみるとしよう。
「今日は！いい結婚日和だなぁ〜」
俺は美代に聞こえる声でそう言った、すると美代はクスクスっと手を上品に添えながら笑い始めた。
「あの、高橋さん7月15日は結婚日和なのですか？ふふっ、面白いこと言いますね」
「そ、そうかな〜、ははっ……」
誰だよこいつ！いつもなら、そうだよね〜雪くん結婚しようとか言うのに！
俺が恥かいて終わっちゃったよ！
俺は頭を抱えた。
どうなってるんだ！……考えられるのは呪いの絵。
俺が幼い頃に偶然書いてしまったあの絵がまた関係し始めている。
くそっ！なんで今更また呪いの絵が出てくるんだ！？
……昨日の遠足の日に何かあったのは間違いない。
けど一体何が？
それに俺は何かを探していた。
それらを手に入れなきゃやばいってのは薄っすら覚えてる。
くそっ！なんで何も思い出せないんだ！
その後はボーッとしていた。
今の教室は前とは違ってだいぶ賑やかになっていた。
なんせ美代がクラスの中心になりみんなを盛り上げているからだ。
美代は男子からは特に人気がありもう何十回も告白されそれを丁重にお断りしたらしく、成績も良く教師からの信頼も厚かった。
ちなみに情報提供者は隣の山田くんだ、もちろん聞き耳立ててた訳じゃないぞ。
それに志保も影でファンクラブなんかが作られているらしく、前までのヤンデレは一切無くなっていた。
そりゃクールでおとなしく、いかにも大人の女性って感じがするもんな〜。
志保も美代もほとんどの生徒たちの憧れの存在となり先輩からも人気を得ていた。
俺だけが、まるで別の教室……学校に連れていかれたような気分だった。
今日1日の授業中は基本美代と志保が積極的に答え、周りの連中が公式や解き方を聞き、かなりいい事尽くしであった。
以前なら俺の邪魔して、クラス全体に迷惑をかけてと散々だったのに。
それでも最終的にはこんな感じになってたのかな〜。
きっと呪いの絵がなければこれが普通なのだろう。
俺は1人教室の隅でペン回しをしながらクラスのみんなを見ていたが誰1人不幸にはなっていない。
それならいっそ現状を維持させるのが一番良いのだろう。
俺はそっと心の中で2人の記憶を閉じ込めることにした。
こんな簡単に諦めるべきではないのだろうが……みんな楽しそうだし、俺1人の意見で2人にどうこう言うわけにもいかないし……それに呪いの絵を書けばまた二人を巻き込んでしまう。
そんなの美代と志保が望んでるはずがない。
それはただの俺自身のエゴだ。
いい事じゃないか。
教室の扉が開くと先生が入ってきた。
「みんな〜青春してるか〜？ちゃんと授業は聞くんだぞ〜志保さんと美代さんが可愛いのは分かるがみんな二人に負担をかけすぎるのはダメだぞ？女ってのは意外と脆かったりするのよ……」
また失恋したんですかね。
そんな様子を頬杖つきながら見ていた。
