……お姉ちゃんのお世話?
そこは以前にも来た真っ白い地平線がどこまでも続く世界だった。
「貴方が何回も私に会いたくて会いたくて震えると願うからお願いを叶えてあげましたよ、久しぶりね元気にしてた?」
「遅いよ!このままだと俺は死ぬとこだったよ!なんでもっと早く会ってくれないの!震えてたのは恐怖と憎しみのせいだよ!」
「ご、ごめんなさい!いや私って神に近い存在だから色々とやる事があって……」
声を弱くしてそう言う。
「じゃあ何してたのか言って!ほら!早く!」
しばらく黙り込むと。
「……お姉ちゃんのお世話?」
「っざけんな!やっぱなんもしてないじゃん!あとお前のお姉さん連れてこい!一発いや!二発ぶん殴ってやる!」
これは志保の分!そしてこれは美代の分だ!
「やめて!お姉ちゃんはちょっと思い込みが激しくて嫉妬深いだけだから!」
おい!そのせいで俺は死にかけてるんですけどね!
俺は興奮状態をなんとか冷静にしようと深く深呼吸する。
「それで?俺は無事鍵を使用出来たんですか?一応ユンの悩みを聞いてお礼に防弾ジョッキを貰いそれを身につけたんだけど?これであってるんですよね?」
またしばらく黙り込むと。
「防弾ジョッキ?……あぁ!あれは全く関係ないわよ!第一あれは貴方が寝ている時二人が不思議そうに貴方の着ていた防弾ジョッキを見て面白そうだから耐久性を見ようって話になって美代が刺したんだから、つまり着ていなければ別になんでもなかったのよ」
マジかよ……。
やっぱそんな簡単じゃないって事ですか。
「それじゃあユンの問題はまだ解決してないって事だよな?もう教えて貰ってもいいですかね?そろそろ死にそうだし」
昨日も殺されかけたし。
それは昨日に限った話じゃないか。
「それは出来ないわ、内容を教えたら面白くないじゃない、それに真相をそんな手っ取り早く知ったら貴方後悔するわよ」
「いや、全くしないけど」
てか絶対この人俺で遊んでるだけだろ。
呑気に鼻歌歌いやがって。
まじでぶん殴ってやりたい。
「まぁそれはいいとしてユンの問題は解決出来てないと……鍵は全部で幾つあるんだ?これくらいの質問ならいいだろ?」
流石にこれくらいのヒントは欲しいとこだ。
おそらく過去の俺が死にものぐるいで手に入れた過去の鍵の数。
これは知っておきたい。
「そうね、おそらく全部で四つよ過去の貴方が手に入れた鍵はそれで全てだったわ」
四つか……それら全てを手に入れてさらに俺は生き残るためのルートを開拓すると。
なるほどね。
正直言って今のところ無理ゲーだと思ってる。
過去の俺も生きるのに必死だったんだろうなぁ……。
遠い何処か平和な土地で暮らしたい。
けどその選択肢は過去の中で最も酷い結果になるらしい。
しかも女性恐怖症の軽度に近い俺が二人の女性を愛しつつ直接的な事は控えながら生き残って鍵を集めてそれを使用して初めて三学期まで生き残れる。
更にそこからはノーヒントで何個集めなきゃいけないのか分からない鍵探しをまたやらなくちゃいけない。
うん、無理ゲー。
と言う訳で生きることを諦めようと思う。
「俺もう生きるのに疲れたんでリタイアします」
「ちょっと待って!なんでそんな簡単に諦めちゃうのよ!まだ一つ目の鍵すら手に入れてないじゃない!」
いや、問題はそこなんだ。
これだけ濃い生活を送ってきてまだ一つ目すら手に入ってないってどうゆう事なの?
俺の人生ハードモードすぎない?
望んでそうなったならまだしもこいつの姉のせいで俺がどんな目にあってるのか本当に理解して欲しい。
「あの……せめてヒントくらい欲しいんだけど俺このままだと一個目の鍵すら手に入らずにあの二人のどちらかに殺されるんだけど」
「……そうね、タイムリミットは実は明後日までだしそろそろ教えたないと死ぬわよね、どうしようか悩んでたけど……うん、やっぱ言うべきよね」
おっようやくその気になってくれたか。
……。
は?タイムリミットがなんだって?
聞き間違いだよな?
「え?なに?明後日には俺死ぬの?」
「うん、死ぬわよ」
まじかよ!?なんでこいつはそんな大事な事も教えてくれないんだ!
「あのさ、結構非協力的じゃない!?肝心な事全然教えてくれないし本当に助けてくれる気あるの?もっかい言うけどお前の!姉のせいで!こうなってるんだからな!そこをよく覚えとけよ!」
「分かってるわよ!うっさいわね〜どうせ死んでもあの二人と仲良く天国で暮らせるんだからいいじゃない」
良くねぇよ!死んでもあいつらと関わらなきゃいけないなんて真っ平ごめんだよ!
「ヒントね〜あなた羽形ユンが普段どんな生活を送ってるか知ってる?きっとクラスの人気者で男女問わずお金持ちのお嬢さまってイメージでしょ?……それならもう一度良く観察するのよ、そしたら自ずと見えてくるわ」
どんな生活を送ってるかって……。
俺と違って常に命が狙われてる訳でもないだろうし。
あの性格と人柄でイジメを受けてるなんて事もないだろうし。
まさか過去に何か重い悩みがあるとか!?
ま、これは話が飛躍してるとして。
俺が顎下に手を当てて唸っていると。
「ま、ゆっくり考えて……そんじゃそろそろお姉ちゃんを寝かしつけなきゃいけないから行くわね、バイバイ」
あ、ちょっと!
なんだよ寝かしつけるって!
もっと聞きたいことがあったのに。
そう言われて俺の視界はプツンと消えた。




