そりゃ無理もない
妹と仲直り大作戦二日目に突入。
初日は物の見事に歌い続け終わった。
カラオケはダメだ、娯楽施設だとその娯楽に浸ってしまう。
「あの……昨日は申し訳ございません、ついつい歌ってしまい」
シュンとするユンのバックに茜色の光を遮っていたカーテンがなびいた。
昨日の夜も妹は口を聞いてくれず、「お風呂上がったら教えてね、先に寝るから」とか強い口調で言われたけど先に寝たらダメだよね?
朝も妹を起こしに行ったらポケーっとしながら普通に話しかけて来たし。
まぁそのあと、はっと思い出したように口を結んでたけど。
ユンは下を向いたまま髪の毛を耳にかけ直し潤んだ瞳で俺を見つめた。
「あの……怒ってますよね?」
「いや、カラオケに行きたいって言ったのは俺だし、相談に乗ってもらってる身だから」
これはまぎれもない本心だ、結局のところ俺の利己的な問題を三人に(半ば強制的に)相談させてもらってる訳だし。
するとユンは椅子から立ち上がってスカートを整えると教室を見渡した。
「今日は志保さんと美代さんはいないのですか?」
「ああ、その件ね……正直説明したくないけど」
俺は恐怖と呆れの混ざったため息を思わず漏らしてしまった。
「やっぱ怒っていますか?」
「いやいや!……実はあの二人荷物検査で引っかかって、なんか刃物と鈍器のようなものを持ってたらしくって……」
いや、なんでほんとそんなもの持ってるんですかね?逆に今までよくバレなかったか不思議なくらい。
ユンは口元に手を当て喫驚した。
そりゃ無理もない。
「まぁ!お二人とも何故そんな物を?料理でもなさるつもりだったのでしょうか?」
ははっ……一体何をどう料理するつもりだったのだろうか。
具材が食べ物なら良いんだけどね。
思わず嘲笑してしまう。
「なら今日は二人っきりですね……少し緊張します」
ユンは体の向きをこちらからずらすと緊張をほぐすかのようにスカートの隅をぎゅっと握った。
俺はカーテンとともに揺れ動くユンの髪の毛や、その火照った顔や憂い帯びた妙な表情に目が吸い寄せられていた。
あれ?今まで意識してこなかったけど放課後の教室で二人っきりとか超ロマンチックじゃない?恋のアイディアしちゃってない?
しばらく静寂が訪れた。
お互いが何か話題を探していたがどうにもこの沈黙を埋める議題が見つからない。
やばい……このままじゃ心臓の鼓動がユンにまで届きそうだ。
その時ふと微笑んだユンの横顔が誰かに似てる事に気がついた。
あれ?なんだろう?どっかで……。
そのモヤモヤはすぐに晴れそうもなく、記憶の奥底に眠っていた。
う〜ん、どっかで見たことがあるような?でも昔の記憶なんて誰かさんのせいで植え付けられてるし。
「あの?雪さん?」
ユンは至近距離で顔を覗き込んでいた。
あ、待って!近い近い!首かしげるのとかやめて!俺ほんとにそれ弱いから!今すぐ告白したくなっちゃうから!
「す、好き!」
俺は焦燥に駆られるかのような勢いで思った事を口にしてしまった。
お陰でユンは状況が飲み込めておらず不思議そうにこちらを見ている。
「……なんだよね!妹のことがさ!いつも優しいし小さい頃からあんま喧嘩とかしたことなくってさ!」
「あ〜、そうなんですか!そうゆうの良いですよね、兄妹で仲がいいのって……」
ユンは納得した様な顔をすると、何か後ろめたさがあるのか顔を俺から背けた。
「ユン?」
ユンは立ち上がり窓の外から校舎全体を見渡しそのなびく金色の髪の毛を手で優しく撫で下ろした。
「そのうち分かるのかな……」
何か呟いてるのは分かったが強い風がそれを遮った。
細く弱々しいその声はきっと自分に何か言い聞かせているのだろう。
「それじゃあ妹さんと仲直り出来る作戦を考えましょう!」
その表情はいつもの明るい笑顔で辛い気持ちを明るくさせてくれた。
「そうだな、志保と美代がいないうちにさっさと決めるとするか……あの二人がいなければ会話は進みそうだし……ん?どうかしたの?」
ユンは申し訳なさそうにこちらを見ると後ろに指をさした。
ん?後ろに誰か……はっ!待って!お願い!嘘だと言ってくれ!
しばらく俺は後ろを向くことが出来なかった。




