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それは五十歩で足を止めた彼らの勇気を知らないからだ。

 

  人を恨み始めるのは暇な証拠と言うが俺も全くもってそうだと思う。


  群れで生活する者たちは孤独に暮らす彼らの気持ちを理解できないから嘲笑したり罵ったりするのだ。


  彼らは決して劣っているわけではない、むしろ優っていると言っても過言では無いだろう。


  五十歩百歩と言う言葉があるがあれと全く同じだ。


  なぜ五十歩しか逃げなかった彼らが百歩も逃げた彼らに対して同じ扱いを受けなくてはならないのか。


  それは五十歩で足を止めた彼らの勇気を知らないからだ。


  仮に彼らが百歩逃げた連中を笑わなければ同類だなんて言われる事は無かった。


  つまりは過程や結果なんかよりも人柄や性格をこの物語は着眼点としておいていることが分かる。


  つまりどんなに群れようが孤独でいようが結果や過程は全く関係ないのだ、そいつらがそれを罵ったり罵倒する行為によって悪になる。


  つまり俺は妹に嫌われているわけじゃないんだ!


  自分でも正直なところ話が飛躍しすぎてついていけてないのが事実だが。


  俺はいつも通う通学路ですら億劫に感じていた。


  目線は常に木陰に追いやられた雑草やドブに張り付いたタニシのような生き物を淡々と眺めていた。


  「でさ〜そんな時に志保が圧力鍋と土鍋の違いが分からないって言うんだよね〜お粥とか作るとききっと志保は圧力鍋に入れちゃうかもね〜」


  俺はそんなやりとりを脳死状態で左から右へと受け流しつつも軽く相槌はうっていた。


  何だっけ?土鍋とおかゆの相性?


  「もういいじゃない!そんな話は終わったことよ、それにあんな耐熱性のわずかな違いで分かるわけないじゃない!ただでさえ種類が多いのよ?」


  顔を真っ赤にしながらまくし立てる志保は鞄で顔を半分ほど隠しながらチラリとこちらを一瞥するとまた視線を戻した。


  その弱々しい目線は俺の庇護欲そそるのでやめてもらって良いですか?普段の強気はどうしちゃったの?


  美代は相変わらずのまったり口調で会話を促し続けた。


  何度か目線が合ったりしたが俺はすぐさまそらして懸念になっていた妹の事を考えてしまう。


  はぁ……一体どうしたら妹は許してくれるのだろうか?


  妹のことが気がかりで仕方がない。


  今朝の様子だと滅多に自分からは起きない妹が……今日に限ってあんな能動的になるという事はつまり激おこプンプン丸なのだろう。


  せめて紙さえ見つかれば……それが懸念で仕方がない。


  そんな事ばかりを考えていた。


  ーーーー


  教室に入りいつもの机に鞄をかけると開口一番に志保と美代がバツが悪そうに訴えて来た。


  「ちょっと、何かあったの?さっきからずっと元気がないじゃない」


  「うんうん、美代もそう思うよ?何かあったなら相談に乗るよ?」


  そうは言ってくれるものの二人に相談すればさらに話は飛躍してしまう。


  ここはまだ相談するべきじゃないだろう、それにこれは俺個人の問題だ、兄妹喧嘩をいちいち友達に露呈させる必要がないのだから。


  二人の表情を見る限り真剣なのは明らかだ、だからこそこんな下らない事に……まぁ俺にとっては一大事で世界戦争より大事なのだが相談すべきではない。


  リスクとメリットを天秤にかければ明らか……もはやリスクとデメリットを天秤にかけているようなものだ。


  「いや、志保や美代が心配するような事じゃないから」


  俺は落ち着いた口調で二人をあやす。


  しかし二人とも俺のことを心配してくれるなんて……。


 感動で涙が止まらない。


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