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お兄ちゃんうざい

 

  張りつめられた空気、その緊迫感はいつもとは違うリビングに見えるような錯覚に陥られた。


  リビングの扉は開けっ放しで台所に立つ妹の影をただ静かに眺めていた。


  遠足の疲れもあってか先ほどまではかなりけだるかったのだがこのピリピリとした空気の中では自分のコンディションなんかは全く入ってこない。


  キャパシティの大半は自分のミスと妹を怒らせてしまったと言う罪悪感で埋め尽くされている。


  遠足から帰ってきて早々、妹が出迎えてくれたかと思えば開口一番にお土産の話をされ、俺はそれをすっかり忘れていた。


  そもそも貰った紙を何処かに落としてしまったらしく、今から買いに行く事も不可能になってしまった。


  一体何をお願いしたのだろうか?所持金300円のお兄ちゃんにおねだりするものなんてせいぜいコンビニでアイス買ってきてくらいの感覚だったのだが……。


  そうゆうレベルではないらしい、まぁそんな事は妹を見れば一目瞭然で火を見るより明らか。


  その空気は緩和される事なく、体感では五分くらい経っただろうか?ようやく妹が紡いでた口を緩める。


  「満を持して紙まで渡したのに……お兄ちゃんのバカ!アホ!シスコン!あとこれ何!?このアイスピックが深く刺さったこれ!」


  確かにお兄ちゃんはシスコンでロリコンだけどバカとアホではない。


 あとそれは俺も知らない間にそうなってました。


  俺は無事鍵を手に入れた使用出来たのだろうか?


 だがこれは氷山の一角にしか過ぎない訳で。


 これからもこんな感じでぐだぐだ続いていくと思うと骨が折れる。


 多分本当に折れるんだと思う。


  そんなお門違いな事を考えていても、時間が解決してくれるわけでもなく、妹の仏頂面は相変わらずだった。


  顔を膨らませて目を合わせないようにそっぽを向いていた。


  「あの……それで俺のご飯」


  「知らない」


  妹は素っ気ない態度をとるがしっかりとテーブルに今晩の夕食を並べてくれた。


  これが俗に言うツンデレというやつなんだろう。


  ツンデレは頭とか撫でてあげれば「ち、ちょっと!やめなさいよ!」みたいな感じで照れてくれるはずだ。


  よし試そう。


  俺は冷蔵庫から飲み物を取るふりをして、洗い物の最中の妹の頭を撫で下ろした。


  いつも付けているヘアゴムはいつも僅かに左耳に寄っていて必然的に撫で下ろす方向も左に傾く。


  うお!めっちゃ髪の毛柔らかい……こんなにサラサラしているのか。


  妹はこちらを一瞥すると怪訝そうな顔をしてすぐに洗い物に戻る。


  あれ?ノーリアクション?


  「お兄ちゃんうざい」


  「なっ!……え、い、妹よ!」


  ショックのあまりに嗚咽を漏らしてしまった。


  そんなにお土産買ってこなかったことに対して怒ってるのだろうか?ちなみに頭を撫でたことで怒ってるなんてことは一切考慮していない。


  一気に身体がだるくなり崩れ落ちるように椅子へ腰を据えた。


  箸を持つ手すらやる気が無く直ぐに手から離れてしまう。


  何もかも覚束ない状態になり側から見たならもはや植物人間に近しい何かになっていた。


  あぁ……妹のジト目でこちらを見つめてくる顔だけが脳裏に焼き付いている。


  お兄ちゃんうざいっか、そうですか……罵倒する顔もマジで可愛いのだがこのままだとしばらく口を聞いてもらえず親の前とか気まずくなり唯一の癒しが居なくなってしまう。


  それは必然的に俺のストレスが溜まり周りの人にも迷惑をかけかねない。


  何より美代と志保の嫌がらせを今の今まで耐えきれていたのは妹がそんな俺をあやしてくれたからだ。


  それが消えるという事はつまり……。


  まずい!今日中に妹のご機嫌をとらなくては!


  俺は勢いよく椅子から立ち上がると既に妹はエプロンを外してリビングから出て行こうとしていた。


  「先に寝るから……おやすみ……バカ」


  最後の方は聞き取れなかったが多分文句を言っているのだろう。


  妹のいないリビングは冬場にお湯のない湯船に浸かっている気分だった。


 もうそれ浸かってないよね。


  寒い…寒いよー!


 ま、暑いんだけどね。


  蛇口から水がゆっくりと零れ落ちる音が反響する。


 そして耳鳴りと外から微かに聞こえてくる雑音が、俺の脳内に響いた。


  やばい、まじでどうしよ。


  鍵の件そっちのけで妹のご機嫌取りに全神経を注いでいた。

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