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お兄ちゃんに任せなさい

 

  眩しい日差しの中、朝から電柱にとまっている小鳥たちは愉快にさえずり、暑さは一層増していった。


  今日は絶好の天気で何よりユンに会うのが楽しみで仕方がない、それに今日は遠足の日だ。


  もうすでにユンと名前で呼び合う中になってるとかもうこれあれでしょあとは告白待ちとかそんな展開でしょ。


  今日の遠足だってもはやユンと楽しくカレー作りする事以外考えてないし……はっ!


  俺はこんな時なぜか後ろ向きに考えてしまう癖がある。


  事が上手くいきすぎているとフラグにしか思えず万が一の展開にも対応できるように日々鍛えられているのだ。


  俺の目の前に佇む二人の影、どちらとも凶器は調理器具だ。


  くそっ!なぜナイフとおたまを持って俺の頭部を狙うんだ!あれがジオン軍の新しいモビルスーツとでも言うのか!?


  もう頭の中で戦闘BGM流れちゃってるよ、聴覚奪われてるよ。


  五感奪われるとかそれまじこしまえくん?クールドライブとか当てちゃうのかな?


  そんな超絶どうでも良い事を考えながら気がつけば目の前の料理は無くなっていた。


  思いのほか食欲があってこれはもう元気はつらつ熱とか風邪とかしばらく無縁の生活に住めるやつ。


  パンにがっつく俺の姿を見て妹は唖然としていた。


  「どしたの?お兄ちゃん?元気だね?……もしかして彼女でも出来た?」


  「妹よ、冗談でも俺に彼女が出来たとか言ってはいけないぞ、そんな噂を聞きつけて速攻寝首を狩ってくる人物を俺は二人知ってる」


  妹は手に持っていたパンを皿に置くとこちらに近づき顔を覗き込ませると


  「それよりお兄ちゃん、お土産の件よろしくね?」


  妹は俺に寄りかかりながらそう言った。


  くっ……なんてあざとい目だ……きっと全国の男子は妹のお願いを断る事が出来ないのではないのだろうか。


  ナチュラルに触れられた俺の肩はやや上がっていて妹だと言うのに何故かドキドキしてしまった。


  「お兄ちゃんに任せなさい!」


  そして俺は妹から一枚の紙を受け取るとポケットにしまっておいた。


  しかしこの元気はすぐに消え失せた。


  ーーーー


  「美代が雪くんの隣に座るんだもん!ほら、雪くん、昨日オススメしてくれた本読んだよ、一緒に話そうよ〜もう最新刊まで読み終わったんだよ〜ついでに原作者の家特定してこれより先の話も知ってるよ〜知りたい?」


 ……。


  美代は先に座って手招きをしてくる。


  そういえばバスの座席、決めてなかったな〜。


  学校に着いて早々に厄介ごととは……原作者さん生きてるんだろうな?


  「あの……私はどうすれば?」


  ユンは俺の隣で困った顔をしながらあたふたとしていた。


  私服姿はとても可愛く気温が高いせいか、どれも裾が短く肩とか凄く綺麗で真っ白な肌を露出させ淡くピンク色の艶が太陽の光を超越していた。


  ……そっと抱きしめたい!


  「雪くん……またそうやって金髪にデレデレしているの?最低ね……ねぇ?乗るバスを間違えているんじゃないかしら?だって行き先があの世じゃないもの」


 こっちも朝から絶好調だな。


  「ち、違うんだ!……そうだ!あれ!じゃんけんで決めよう、あのグーとパーで別れるやつ」


  俺の得意スキル!話題を変えるかつ内容も第三者に関係する為無視できず先ほどのまでの興味関心をそらす究極奥義!


  『とりあえず何々しない?』だ!


  これが決まればもう主導権は俺が握ったも同然だ。


  こうして俺たちの座席は決まった。


 「ええ〜美代が雪くんの隣がよかったのに〜つまんない〜もう帰りたい〜」


 「やった!……ありがとう神様、今日ぐらいは感謝するわ」


 「よろしくお願いしますね、美代さん」


  俺は志保の隣になった……ついてないな〜。


  これからユンと二人でラブコメ展開を期待していたと言うのに……まぁ志保も容姿だけは優れているけど中身がなぁ……。


  「なに?不満でもあるの?今からでも行き先をあの世に変えることも出来るのだけれど?そうね?1分も必要ないわよ?ちょっと雪くんの首元にカッターの刃を勢いよく貫通させたあと手の甲で横へスライドさせ……」


 「志保!今日の私服大人っぽくてめっちゃ似合ってる!あと髪の毛切った?」


  頼む〜お願い神様!許して!


 俺は心の中で手を思いっきり合わせて頭を地面に叩きつけた。


  「そう……数ミリしか切ってないのに気づくなんて……ちゃんと私のこと見てくれてるのね」


  最後の方はボソボソ言って分からなかったが志保は目線をそらし胸前で腕を組んだ。


  きっと頬を赤らめていたのは俺の気のせいだろう。


  「そ、そういえばお菓子を持って来たのだけれど……よかったら雪くんも食べる?」


  そう言って志保はカバンからゴソゴソとポッキーを取り出した。


  なぜポッキーなのかは分からないが……貰っておくことにする。


  「ありが……」


  「美代も食べるね〜」


  前の席から体を乗り上げ美代は志保のポッキーを一本取り出すと唇にポッキーを咥えたまま自分の席に戻っていった。


 横の志保さんはそれはそれは恐ろしい顔をしていました。

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