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かけたのはマヨネーズくらいだな


 俺は真っ白い果てしなく地平線の続く世界で唐突に言われたその一言。


 頭の中も真っ白になりかけたが今度は逆に何かが込み上げてきた。


 「って!おい!!!!ふざけんなよぉ!!お前のお姉さんのせいでどんだけ!酷い目にあったか!分かる?分かりますかね!?わからないでしょうね!?クラスの男子からは除け者にされて!無理やり土団子食わされて!両親に土下座して引っ越しまでしてもらったんだぞぉ!!」


 「ご、ごめんなさい!!本当にごめんなさい!!そうよね?苦労したわよね!それは貴方にしか分からないわ!だから泣かないで、ね?」


 そんなくだらない理由で呪いなんてかけやがって……。


 はらわたが煮えくりかえってくる。


 「はぁ……はぁ……」


 久しぶりに心から叫んだせいか喉がイガイガする。


 けどちょっと落ち着いて来た。


 「ま、満足した?それでその……本題に入ってもいい?」


 「まだちょっと酸欠気味ですが……はぁ……どうぞ」


 ここは落ち着いて深呼吸だ。


 「えっと……それで貴方が死ぬかもしれないって話なんだけど?」


 「ふざけんなぁ!!何で俺が死ななきゃいけないんだぁ!!」


 「さっさと言ってる事が違う!怖い!怖いよこの子!」


 冷静に考えればおかしいだろ!何で俺が死ななきゃいけないんだ!


 大体こんな変な世界に連れてこられて迷惑だ!


 こいつらに関われば確実に楽なことにならない。


 早いとこここから出よう。


 「あの、急用が出来たのでそろそろ帰ります」


 「だめ!まだ話終わってないから聞いて!てかこの調子だと全然進まないから!……いい?よく聞いてね?私は神に近い存在なの」


 「うそくさ」


 「いいから!黙って聞いて!……私は貴方の未来を見れるの、過去に何度か出会っているけれど全て貴方は死んでるわ、しかも殺害よ」


 切羽詰まったようにそう言われる。


 嘘だろ……そんな俺人に恨まれるような事してないし殺されるなんて事が……。


 いや、思い当たる節がある!


 頭の中には女性二人組のシルエットが浮かんできた。


 間違いなくこいつらの仕業だ。


 「理解してくれたようね、そう……お姉ちゃんの呪いのせいもあって貴方はあの二人のどちらかに必ず殺されているの、そんなお姉ちゃんの尻拭いをする為に私が来たって訳」


 つまり俺はこの後志保か美代のどちらかに殺されるって訳でそれをなんとかしてくれるように動いてくれるって事か。


 動機はこのお姉さんの尻拭いと。


 確かに会話した感じ世話焼きな感じが伝わってくる。


 「なるほど……意外にも辻褄が合っていますね」


 それにあの二人ならちょっとした拍子に俺を殺してもおかしくない。


 それもこれもこいつのお姉さんの所為って事か!


 まじでふざけんなよぉ!


 「ちなみに全て貴方が死んだ後に二人も追って死んでるわ、天国でも仲良く暮らせる事は保証できるのだけど」


 「いらんわ!そんな保証!」


 じゃあなんで殺すんだよ!現実世界で仲良く暮らせよ!


 「そう、同じこと言うのよねこんなに愛されてるのに……ちょっと私も嫉妬しちゃう……てのは置いといて私が見て来た中で一番長生き出来たのが三学期の終わりよ、前回はそこで殺されてしまったわ……けどもっと酷い話もあるのよね」


 やや困った声色をしていた。


 と言うか一番長生きできても三学期の終わりまでなのか。


 つまり後一年もないって事か。


 実質余命宣告。


 しかもそれより酷い話もあるときた。


 一体どんな目に……。


 俺は固唾を飲む。


 「聞かせて貰ってもいいですか?」


 「そうね……貴方の自身のことだから言うけれど一度完全に距離を置いて遠い誰もいない山奥に移り住んだ事があったの、その時が一番深く後悔することになってたわ」


 「一体何があったんですか?」


 俺がそう質問するとしばらく無言が続いた。


 「これ以上は言えないわねあまりにも酷い話だから……でも安心してそのパターンでも三人とも仲良く天国で暮らせるから」


 「だからいらんわ!俺は生きていたいんですよ」


 なんでそこだけ保証してんだ生き続けられる保証してくれよ。


 まだエッチだってしてないし?他には……特にないかな。


 「貴方が生きるには今から指定する人物達を救って貰う必要があるわ、彼ら彼女らを救うことによって生きる為の鍵を手に入れる事が出来る、そして扉を開けられれば無事死のフラグを回避できるわ」


 俺は今聞いた説明を解読する為脳をフル回転させる。


 生きる為に人を救う?


 彼ら彼女らって事は男も女も居るのか。


 そして救ったお礼的な感じで鍵がもらえるって事か?


 それに最後の言い回し。


 扉を開けられればってとこが妙に引っかかる。


 「それってつまり鍵を手に入れただけじゃ駄目って事ですよね?使って初めてフラグを回避出来るって事なんですよね?」


 「おにただ」


 おにただ?なにそれ?


 咳払いすると話を戻す。


 「そう……使わなきゃ駄目よ……いい?まず一人目の人物を伝えるわ……彼女の名前は羽形ユン、図書室で必ず会う事が出来るわ、最も簡単に救う事が出来るからそこまで心配はしていないけどもし仮に彼女を救えなかった場合は」


 救えなかった場合……ゴクリ。


 引き延ばすのやめてほしい。


 「美代に無理心中されるわ」


 「まじですか?」


 「まじです、笑顔で首を絞められてそのあと」


 「聞きたくないです!分かりました!必ずその人の事は救います!……あとこれからも定期的に会えるんですか?」


 「そうね、こちらから会いに行くわとりあえず三学期の終わりまで生き延びて……そのあとどうなるかは分からないけど最終的にはお姉ちゃんを何とかしなきゃ駄目かもね」


 「あったら多分手が出る自信あるんですけど」


 てか絶対殴る。


 「やめて!お姉ちゃんはちょっと嫉妬深いだけだから!……まぁそんな訳で頑張ってね、応援してるわ……最後に一言だけ、あの二人を愛してあげて……でも愛しすぎても駄目だからね?好きってのは伝えちゃ駄目よ」


 なんか最後にサラッととんでもなく難しい事言われた気がするんだが。


 「それに……」


 ゆっくりとした口調でそう言うとだいぶ間をあけてまた話し始める。


 「これは貴方のせいでもあるのよ?」


 俺のせい?


 気がつけば辺りは騒がしいプールサイドの屋台前へと帰って来ていた。


 記憶ははっきりしているし夢ではないはず。


 まだ頭がボーッとする。


 それに最後に言われた一言が頭から離れない。


 「兄ちゃんどした?ほらよいちごとミルクとツナ」


 店主は不思議そうに俺の顔を見つめていた。


 クレープを一つずつ手渡されそれらを受け取りクレープを見つめる。


 ……おかしいよな。


 「あの……チョコソースって?」


 店主は小首を傾げ目をぱちぱちとさせる。


 「チョコソース?兄ちゃんの頼んだクレープにチョコはかかってねえよ、かけたのはマヨネーズくらいだな」


 やっぱそうですよね。


 ーーーー


 あの不思議な世界に入り込んだ後はどうも頭の中に入り込んだモヤが膨らんでいく一方で目の前のことが見えていなかった。


 いきなりこんな沢山の情報を詰め込まれて悩まない方がおかしい話だ。


 「……お兄ちゃん?大丈夫?」


 妹が心配そうな顔をして覗き込んでくる。


 志保も美代も俺に視線が向いている。


 さっきあったこと全て吐き出してしまいたい気持ちはあったが自分の中でも整理がついていないし何より言いづらい事がある。


 俺は志保と美代の顔を見つめる。


 二人の性格は後天的に作られたもの。


 ……植え付けられたと言う表現の方が正しいのかも。


 「雪くん……クレープ買ってきてから様子がおかしいよね?何かあったの?なんでも美代に相談して」


 相談したいのは山々なんだがな……。


 志保と美代のメンヘラとヤンデレの性格は俺のせいで植え付けられた。


 貴方のせいでもあるとはそう言う意味なのだろう。


 だから言いづらい。


 何よりあんな過去、夢かなんかかと思っていたのに。


 今日体験してあれが現実の出来事だったと確信に変わった。


 あの感覚が妙に懐かしいのも志保と美代の異常なまでのスキンシップにもこれで理由がつく。


 普通に考えれば好きすぎて相手を殺そうなんて発想ありえないのだから。


 「……体調が悪いのなら泊まりはキャンセルにしましょう、別にキャンセル料が発生するわけでもないし無理に行く必要もないもの」


 そう言って俺は長考モードをやめ自然と視野が広がる。


 三人とも俺を見つめている。


 志保はスマホを取り出し電話をかけている。


 おそらくホテルにキャンセルの依頼をしているのだろう。


 三人で行く提案を俺からするべきなんだろう。


 そう思うが口には出さない。


 俺はこれからこの二人とどう付き合っていけばいいのだろうか。


 今こうやって心配してくれているのもその呪いのせいであって本来なら関わることなどなかったのかもしれない。


 二人とは距離を置くべきなんだろうけど。


 焦ったい事にそうすると俺の命はないらしい。


 むしろ程よい距離を保ちつつ鍵集めをしろだなんて。


 まだ頭がボーッとする。


 考え込むのは後にすべきなんだろう。


 そう思いながらも俺は無言で二人と別れた。

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