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このキンキンに冷えたコーヒー牛乳を!


  電車はゆっくりとスピードを落とすと俺たちの目指していた場所についた。


 ようやく着いてくれた……。


 先ほどまでの重い空気がようやく緩和されて普通にちらほら会話が聞こえてくる。


 その内容は志保を称賛するものだったり最近の若者はと口喧嘩に文句を言う人もいた。


 まぁ実際はうるさくした俺たちに原因がある訳で俺からは何も言えない。


 出来ればもうさっきの二人とは会いたくないな。


 雰囲気的には志保が口論で論破させたみたいになっているがあの二人は納得いってない様子だったし。


 けど志保の底なしの圧力や語彙力に口喧嘩では勝てないと踏んだのか特に言い返してくる事もなかった。


 代わりに俺が目をつけられてそうで怖い。


  辺りを見渡すとかなりの者が出たり入ったりを繰り返していたがここで降りる人たちがダントツで多かった。


  きっと皆も同じ目的で来ているのだろう。


 目的地到着のアナウンスが聞こえる。


  「よし、ここで降りるから」


  俺はそう言って3人のことを見ると……


  「ちょっと胸があるからって調子に乗らないでもらえるかしら?そもそも人体の構造的におかしいのよ……脂肪って本来なら顔周りやお腹に二の腕やお尻に太もも辺りに付きやすいはずなのよ?それをこんな器用に胸ばかりに付けて……」


  「美代は、別に気にしてないけど〜男の子はみんなこれが好きだと思うんだよね〜」


  そう言って激しく胸を強調する美代、それを悔しそうに見る志保と妹。


 ……妹?


 だが確かに美代の体型は女性の理想と言っても過言ではない。


 そもそも胸が大きいのに対してウエストが細いから胸が大きくて太っていると言う印象を全く与えず胸が大きくてスタイルもいいと言う完璧超人なのだ。自分でも何いってるかわからん。


 まぁこの様子だと三人とももうさっきまでの事は気にしていないみたいだ。


 いいんだか悪いんだか……まぁどうでもいい事なんだろうけどさ。


 俺もこれくらい強くならなきゃいけないのかもしれない。


 それなら今日の作戦はやや危険な道を通ることになるかもしれない。


 だけど俺も強くならなくては。


  志保も美代もお互い睨み合っていた。俺と妹はすぐさま電車から降りると2人とも後を追いかけてきた。


  「ちょっと!どうして置いてくのよ!」


  「待ってよ〜雪くん!」


  妹よ、お兄ちゃんもう疲れちゃった。


  帰っていい?


 アイコンタクトをとると妹は首を横にブンブン振った。


 なんかちょっと可愛い。


  その後、俺たちは駅から数分歩いた先にあるスターランドについた。


  入場券の販売口には大勢の人盛りが出来ていた。


  雑誌に載っている通り新しく改装して出来た温泉目当てで来ている客も多いのか若い層とお年寄りの層で半々くらいの人数になっている。


 普通ならサマーランドみたいなキラキラした青春の思い出を作るのにぴったりな施設は若い人向けに作られていると勝手に解釈していたが温泉効果が出ているみたいだ。


 値段は高校生2000円となっていてかなりリーズナブルな価格だと思う。


 某ランドの方は余裕で5000円超えるしね。


 列に並び高校生三枚と中学生一枚を購入して三人にチケットを渡す。


 そして入場ゲート前の列に並び自分たちの番が来るのを待つ。


 流石に人が多い。


 ちょっとずつしか進まないところを見ると20分〜30分くらい入るのにかかりそうだ。


 最近CMもバンバンうってるみたいだし暫くは人気ありそうだけど。


  「人が多いのね、全員死ねばいいのに……」


  腕組みしながら眼光を至る所に飛ばしていた。


  志保は先ほどの胸の件についてイライラしているらしい。今日はあまり関わらないでおこう。


 俺が引き攣った顔をすると志保がなに?と睨んできたのでなんでもないと言っておいた。


 志保さんまじ怖いっす。


 ……そうだ。


 「い、妹よ」


 「ん?何?」


 辺りをキョロキョロしていた妹がこちらに振り向く。


 「長時間並ぶ事に対していちいちイライラする人ってあんま良くないよな?いやまぁ!気持ちは分かるけど!」


 俺は横目でチラッと志保の顔を確認しながら妹に質問する。


 ここでちゃんともちろん志保さんの気持ちも分かりますよアピールをしておく事が大事。


 そして志保の行動を否定する事によって何こいつ?急に語り始めてキモって思われる作戦だ。


 妹は小首を傾げ口元に人差し指を当て考える仕草をする。


 「ん〜まぁ空気壊されるのは嫌だよね、列に並んでる時も会話とか楽しめる人が理想だと思うけど最近はスマホでいくらでも時間潰せるしそんなスキル要らないのかもね」


 なんか凄いちゃんとした答えが返ってきてびっくりしたけど妹も同調してくれたし。


 これでどうだ!志保!


 俺はバッと志保の方を振り向く。


 肩を震わせ俯いていた。


 や……やり過ぎたか?


 まさかこんな人の多い場面で暴れたりしないよな?


 もし暴れたら確実にネットで拡散される。


 高校生グループ喧嘩が原因か?男性一名死亡。


 「突然なのだけれどタピオカミルクティーって知ってるかしら?あれはその名の通りタピオカとミルクティーを合わせた商品なのだけれどタピオカの原料ってキャッサバの根茎から製造した澱粉なのだけれどあれってシアン化合物って言う有害成分が含まれているのよ」


 へ〜。


 唐突な博識アピールに俺は何も言えないでいた。


 まさか会話出来るいい人アピールしてくるとは……。


 こりゃ手強い。


  入場前の入り口には長蛇の列が出来ていてようやく背伸びをしてやっとゲートが見えるくらいの位置まで来た。


  しかし、本当に人が多いなぁ〜子連れや学生なんかが特にうるさいから目立ってる印象。


  「それじゃ中に入りましょうか……とりあえずマップの把握からかしら?そこのパンフレットは二枚貰うとしてまずはプールで遊んでから温泉で身体を洗うってのが効率的だと思うのだけれどその辺は雪くんに任せるわ私はその辺の定石知らない訳だし」


  「美代も賛成〜でも〜温泉は一緒に入れないからまずプールからがいいなぁ〜」


  よし、それなら温泉にしよう。


  その後俺は何度も手首にアイスピックの先端を当てられそうになるもなんとか回避した。


 本当に!失血多量で死ぬから!


  「そ、それじゃまた、後で」


  俺は手を振ると暴れる美代を志保が何とか抑えてる。


  すまん!ありがとう志保!妹も面倒な2人を押し付けてしまい申し訳ない。


 だがこれも二人に嫌われるためだ!


  「雪くんと入れないなら美代ははいりたくな〜い!」


  暖簾をくぐる寸前で美代はわざと俺に聞こえるようそう言った。


  あまりにも露骨な嫌がらせ過ぎて冷や汗が背中がダラダラと流れ落ちる。


 あいつ本当周りの視線とか気にしないのな。


 他人のフリ他人のフリ。


  「大人しくしなさいよ……後で雪くんとプールで一緒になれるのだから」


  「それなら美代……我慢する」


  なんだかよく分からないがどうやら美代は大人しくなり志保はこちらにウインクしていた。


  うんうん、ありがとう……何で俺がお礼してるの?いや、するべきなのか、元凶は俺だし。


  すると妹がひょこひょこと歩いてくると袖を軽く引っ張ってきた。


  「お兄ちゃん、いつもこうなの?」


  ううん!いつもはもっとひどい!


  思わずオネエ口調になるくらい。


  「き、今日は珍しい方かな〜」


  「そっか……」


  すまん妹よ……お兄ちゃん嘘ついちゃったよ。


  俺はとりあえず着替えるとかけ湯を浴びて大浴場に入った。


 カッポン……。


 なんで風呂入る時のSEってこれなんだろうね?


 学生も多いせいか猿のようにキャッキャッと声が何度も反響する。


 湯気で視界が悪く何回かおっさんにぶつかりそうになった。


 足元もちょっと鈍ってて転びそうで怖い。


 手短に全身を洗い流し湯船にザブンと浸かる。


  「はぁ〜〜……っふぅ〜〜」


  俺は温泉の素晴らしさを語り始めたら止まらない気がする。


 と言うか止まらないね!


  全身の毛穴が刺激され、血行ももよくなって細胞がフルに活性化されていくのが伝わる。


 無駄な垢を体の芯から搾り出しこの解放感に溢れた状況を楽しまずにはいられない。


  周りを見ると頭にタオルを乗せた老人や子連れのお父さんが気持ちよく浸かっていた。


  はぁ……いっそこのまま温泉と同化したい。


  そう思いつつも俺の欲望が脳裏に浮かんできた。


  それは消して許されるものではない、しかし普通の男子高校生ならその行為に至らなくてはおかしい気がする。


  夢の国……決してネズミーランドなんかでは味わえないものだ、実際ネズミーランドは飯食う時とかすれ違いざまに肩とかぶつかったりすると幻想から現実に戻されるし……。


  しかし!これは自分の想像力を育む一種のステータス上げに近い行為……しかしバレたら死ぬ!


  ……やはりここは女湯を覗くのが定番だよな?俺も1人の男として覗くべきなのか?


  否!そんな事してみろ……命どころか一家全員殺されてしまう!


  高橋家が滅びる!


  俺はひたいの汗をタオルでふき取ると四角にたたみ頭の上に乗せた。


 ……まぁせっかく温泉に来たんだし?一応全部入っておいた方がいいよな?


 別にあわよくば女子風呂を覗こうなんて邪な気持ちはこれっぽっちもないが。


  俺は露天風呂の方へ向かうと既に何人かの人が入っていた。


  外に出ると風がものすごく気持ちよくその後に入る風呂がまた最高だった。


  火照った身体を汗と一緒に飛ばしてくれる涼しい風……最高。


  そしてまた湯船に浸かる……これの繰り返しがたまらない。


  「ちょっと!美代はどうしてそんなに胸が大きいのよ!こんなもの!こうしてやるんだから!本当に気になって仕方ないわね!いちいち見せつけるように揺らしてくるの!やめてもらえるかしら!」


  なにぃ!?美代の胸が大きいだと!


  俺は全神経を隣の女子風呂に向けた。こんな時に幽体離脱があれば気軽に女湯を覗けるのに……。


  「美代は普通だよ〜志保だってそこそこあるじゃん……それ!」


  「きゃ!……ちょっと揉まないでよ美代!」


  ……すごく気になるんだけど!?


 俺の妄想力が今までにないくらい猛スピードで回転している。


 つまりは二人とも全裸でお互いの事をあんなことやこんなふうに……。


 くそっ!これ以上は俺の限界だ!


 もっと女性の裸について勉強してくればよかった。


  「お二人とももう少しお静かにしてくれないと……いくら周りに人がいないからって……」


  妹よ〜!なんて真面目なんだ〜!お兄ちゃん感動しちゃったよ。


  ……だが今は常識を外れる時なんだよ。


 だから邪魔をするなぁ!


  「美代は意外と隣のお風呂に雪くんがいる気がする」


  ギクッ!なんで分かるんだよ……あいつ超能力者?あ、頭に乗せてたタオルが……。


 ビチャビチャになったタオルを搾り再び頭の上に乗せる。


  「なんか私もそんな気がします」


  「2人とも考えすぎだと思うわ……ちょっと覗いて……」


  よし、逃げよう。


  俺は……悔しい!


  正直言って覗きたかった!だって漢だもの……でも……でも怖い!


  まだ死にたくないんだぁ!


  その後俺はそっと抜け出すと体を洗い風呂場から出た。


 ガラリと扉を開けまだ火照った身体からは僅かな湯気が出ている。


 極度に緊張してそこから解放されたせいかやたら喉が渇いた。


 なんだか別の汗も混じってる気がするがまぁいいか。


 確かに女子風呂を覗くと言うアニメでよくある犯罪行為だがやってしまうアニメキャラたちの気持ちがよく分かった。


 バレたら社会的に俺は物理的に殺されてしまうと言う緊張感にバレずに覗くと言う背徳感。


 そしてそれらの危険行為すらも臆すことなく行動出来てしまうほどの報酬。


 ……うん、何を言ってるかさっぱりわからない俺はきっとのぼせているのだろう。


 落ち着いて扇風機の前に立ち身体を冷ます。


 暑い……喉が渇いた。


 全身の水を大きめのバスタオルで拭き取りドライヤーで髪に付着した水も乾かす。


 ついにこの時が来た!


 俺は今自販機の前にいる。


 もう言いたい事は分かるだろうがそう!


 温泉の一番の楽しみ!それは渇ききった喉を潤すコーヒー牛乳だ!


 硬貨を入れボタンを押す。


 取り出し口から瓶状のコーヒー牛乳を取り出し上蓋を外す。


 温泉で俺の水分はかなり減った。


 欲している!飲み物を!


 このキンキンに冷えたコーヒー牛乳を!


 俺は唇にそっと飲み口を当て瓶を斜めに傾ける。


 口いっぱいに広がる甘くてコクのあるコーヒー牛乳。


 う、美味い!ダメだ!何も考えられない!


 ただひたすらに味わうこともせずゴクゴクと飲み続ける。


 欲望のままに身体へと流し込む。


 あっという間に空になってしまった。


 こののどこし!たまらん!


 もう一本買うか……いやダメだ!この一本が最高なのであって二本目からこの感動を味わう事は出来ない。


 俺は瓶を指定の位置に置き大満足で暖簾を抜けた。

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