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これがリアル女子社会ですよ

 

  瞬時に移り変わる景色を正面の窓越しから眺める。


  見える景色はどれもすぐに過ぎ去って行き右から左へと状景は移り変わって行く。


 なんで外の景色を見ているかと言うとシンプルに酔いやすいから。


  人混みの多さは車内でも変わらずおしくらまんじゅう状態が続き、その熱気と人口密度の高さで既にダウンしそうだった。


 まぁエアコンは一応効いてるけど。


  他の三人はと言うと先程まで席の場所で討論になったので俺以外が全員座ることになった。


  妹は颯爽に俺の手を引っ張り隣に座ったのだが志保と美代はそれに対してああでもないこうでもないと罵声を浴びせ公の場を荒らしまくってた。


  お陰で妹はしおれたまま、ずっと下を向いている。


 一つ下の子にも容赦がない女子高生二人組。


 これがリアル女子社会ですよ。


  はぁ……可哀想に、まぁ電車の位置なんてどこでもいい気がするが。


  順番的にはこうだ、



  【妹、志保、俺、美代】


  もちろん俺は志保と美代の隣ではなく厳密に言えば二人の間の前に立っている感じだ。


  しばらく乗り続けていると次第に瞼が重くなって行くのが分かった。

 

  電車の揺れ具合が俺の眠気を誘う。


  何度もコクリ、コクリと頷いてしまっていた。


  眠い……この揺れ具合が最高に心地よい。


 眠ってはいけない状況こそ最も眠気を誘うのではないかと思ってしまう。


  すると志保の死角を通り抜け俺の左手を触ってきた。


  むっ!この状況で何をしているんだ?そんな触り方されれば俺の眠気も吹き飛ぶが。


 俺の違和感に気がついたのかすぐさま志保は状況を観察しその鋭い眼光で全てを見抜く。


  「ちょっと雫ちゃん!雪くんとまた手繋ごうとしたでしょ!?美代はまだ繋いだ事ないのに!駄目だよ!いくら将来的には妹になるからって!」


 美代は立ち上がり妹に向かって声を荒げる。


 志保より美代の方が早かった。


 おまけに周囲の人の目が痛い。


  「え……でも、私はそんなつもりじゃ……」


  子犬のような目をする妹が困っているのに何もできないお兄ちゃんを許してくれ……。


 周りからは美女三人組と称賛する声も聞こえるしなんか喧嘩でもしてるのかとも聞こえてくる。


 公共の場で目立つのだけは勘弁してほしい。


  すると両手を胸の前で組んで大人しくしていた志保が口を開けた。


  「美代、雫ちゃんにあまり迷惑をかけては駄目よ、それにあなたは一つ誤解してるわ」


 「は?」


 志保は首は下げたまま横目で美代を見つめるとそれに対して美代は立ったまま見下すように志保のことを見下ろす。


 そして妹は捨てられた子犬のような顔をしている。マジ可愛い。


 「聞きなさい美代……あなたの間違いを」


  ほうほう。


  確かにそうだね、年上だからと言ってあまり威張り過ぎても良くない、例えるなら社会に出て後輩が出来たとしてそれを従えるのは口ではなく行動で示せと。


 効率よく指示を出し頼り甲斐のある人って思わせる事が大事であって年齢や歴で威張ってるようでは信頼されないって事だよな?


 うんうん。


  俺は勝手に都合よく解釈し黙って頷いた。


  すると誰にも目線を合わせようとせずそっぽを向きながら……


  「ゆ、雪くんは……私のだから……」


 俺は漫画のようなズコーってポーズをとるなら現状が一番合ってると思う。


  志保も自分で言ってて恥ずかしくなったのか平然を保てなくなり手で顔を隠した。


  おい、ちょっとでも期待した俺の気持ちを返せ、あと顔赤くするな、聞いてるこっちまで恥ずかしいわ!


  「お、お兄ちゃんは誰のものでもないと思います……」


  妹は膨れた顔でそう言うと俺の腕に寄りかかってきた。


  さすが俺の妹だ、やはり分かってくれるのはお前だけだ!


  愛してる!


  ……いや冗談だからね?


  俺は頭を撫でると妹も嬉しそうに笑ってくれた。


  その光景を見た2人はあまりにもシスコン、ブラコン具合に少し引いていた。


  え……志保と美代に引かれる俺たち兄妹って……。


 もしかして相当やばいの?


 いや……これで良い!


 当初の予定通り二人は少なからず俺に対しての評価が下がってるはず。


 この調子でどんどん下げまくっていけば本当にいけるんじゃ……。


 すると妹の隣に座っていた女子二人組の声が聞こえてきた。


 見た目はかなり奇抜で先ほど言っていたいかにも最近の若い子向けのファッションスタイルで髪の毛は当たり前のようにメッシュが入ってる。ちなみに片方の人はプリンみたいな金髪になってる。


 あれって染めてから暫く経つと生え際の方だけ黒くなっちゃうやつらしい。


 初めはああいうスタイルなのかと思った。


 「隣にいる奴ら高校生くら〜い?マジ五月蝿いんですけど〜ちょっと可愛いってだけで自分が世界の中心にいるって勘違いしてるやつ〜いるよね〜」


 その言葉に対しもう一人がゲラゲラと笑う。


 「いる!いる!大学入ったら自分より上なんて沢山あるのにさ〜羨ましいよね〜まさに井の中の蛙大海を知らずってやつ〜!」


 「マジそれな〜!」


 二人のキャキャと言う猿みたいな笑い声が重なり電車内に響く。


 俺は五月蝿いのは事実なので言い返せない。


 もちろんこの二人が怖くて言い返せないのではない。


 決してそう言う訳ではない。うん。


 ただこの二人組……おそらく会話の流れ的に大学生くらいなのだろうけど見た目が派手だから顔も可愛いと思ってたけど。


 俺は横目で二人の事を見る。


 なんだか平面的な顔をして化粧も無駄に濃い。


 そして何より心がブサイクだ。


 どんなに見た目を取り繕ったって肝心の中身が駄目ならメッキは簡単に剥がれてしまう。


 それは自己研鑽や自分磨きとは違って自己満足止まりだ。


 するとブサイクプリンと目が合う。


 「あ?何こっち見てんの?キモすぎ〜顔もキモすぎ〜身体ももやしみたいで背も低いし〜こいつ絶対オタクだろ〜あの花とかで号泣するタイプ」


 ププッと吹き出すようにブサイク二人が笑う。


 ちなみに妹も笑ってる。おい。


 この間の地上波二人で見た時普通に号泣しちゃったからその時のことを思い出したのだろう。


 さっきのりんごジュースの件まだ怒ってるのかよ。


 「てかさ〜いいよね〜高校生って何も考えて無さそーで!まだいろんなものに守られてる事も知らずに大人ぶってさ〜親とかちょー頑張ってくれてるのに〜」


 一体このブサイク達が何を言いたいのかは分からないがとりあえず電車内でうるさくしたのがよほど勘に触れたのだろう。


 てかちょっと俺の知ってるギャルっぽいイメージとは違うな。


 「おい聞いてんのかよもやし!お前絶対調子に乗ってるだろ!女子三人連れていきがってんだろ?」


 何故か矛先が俺に向いてしまった。


 俺は特に動揺も見せず(内心は焦ってるけど)窓の外を見て心を無にした。


 顔こそ見てないが明らか口調や声のトーン的に身振り手振りで煽られまくってるのが伝わってくる。


 「てかこいつネットに晒そうぜ〜友達とかに拡散してもらって住所とか学校とかにも迷惑かけてサイコーの人生にしてあげよー!」


 シャッター音が聞こえてくる。


 それと同時にフラッシュしてまたブサイク二人組の猿のような笑い声が電車内に響く。


 「はぁ〜無視するのが大人の対応とか思ってる訳?全然違うんですけど……まず周りに迷惑をかけずに火種を作らないように生きていくのが大人なんだよ分かる?」


 「それなら今あなたの行動は大人のそれとはとてもかけ離れているのだけれど?鏡って知らないのかしら?そう言うのを棚に上げるって言うのよ?大学生には難しいことわざだったかしら?」


 志保のその声は別に叫んだり甲高い訳でもなくいつも通り普通の人よりはややテンポの速い口調で喋っていたがはっきりとよく電車内に響いた。


 ギャル二人組は初めて反応されたせいなのかそれとも志保の強い口調のせいなのかは分からないが初めて口を詰まらせているように見えた。


 ここはもう志保の世界だ。


 俺はこいつ以上に口喧嘩が強いやつを知らない。なんならリアルファイトもめっちゃ強い。


 「は、はぁ!?歳下の癖に生意気なんだよ!マジでネットに晒してやる!特にお前を!」


 ギャルは派手なネイルをつけた人差し指を志保に向ける。


 志保は涼しげな顔をしながら立ち上がり両腕を胸の前で組んでいる。あれ?もしかして胸強調してる訳じゃないですよね?


 ちなみにギャル二人組はどっちも大きい。美代ほどじゃないけど。


 「ネットに晒す……ね自分の力じゃ何にも出来ないから他人を頼る……自分は特別……色んなものに守られてる……これ全部あなたの言葉よね?もしかして自己紹介だったのかしら?そもそも赤の他人の顔を晒した時点で肖像権の侵害行為になるのだけれどそれって知ってるかしら?」


 志保の紅く強い瞳が二人を睨みつける。


 長くフサフサのまつ毛が瞬きするたびに揺れ動く。


 「そんなの知ってるけどウチらに関係ないだろ!そもそも最初にうるさくしてたのはあんた達でしょ!」


 先ほどまでの威勢はなく口調こそ荒々しいが何処かで志保を怖がっているようなそんな声色だ。


 「えぇそうね、だから謝るわ……この電車内にいる皆さん!お騒がせしてすみませんでした!」


 志保は綺麗な姿勢で腰を下げる。


 決して深く下げた訳ではないがその真っ直ぐな姿勢と綺麗さに誠意が伝わってくる。


 そして志保が長い髪を揺らしながら顔を上げるとチラッと俺の方を見る。


 なんとなく分かるが俺にもやれと言う事なんだろうか。


 それを察した妹もすぐ立ち上がる。


 「すみませんでした」


 「ご迷惑おかけしました!」


 俺と妹も頭を下げる。あれ?俺って別に騒いでないよね?まぁいいけど。


 美代は知らぬ存ぜぬな感じでスマホをいじってる。


 志保は俺たちの謝罪を見て再びギャル二人組の方へと向く。


 「これがあなた達の言う大人の対応って奴じゃないのかしら?高校生の私たちに出来てまさか大学生のあなた達が出来ない訳ないわよね?」


 二人ともまさにぐうのねも出ないと言った感じだった。


 その後は特に何かある訳でもなくただ気まずい空気が車両内に漂いつつさっきまでの口論がある訳でもないまま目的地へと向かった。

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