いや、ほんと勘弁してほしい。
いつもと変わらない日々、玄関を開けるとそこには志保と美代が笑顔で俺を迎えてくれていた。
二人ともわざわざ暑い中待っててくれたのか……こんな可愛い子に手を振りながらお出迎えしてもらえるなんて普通の人なら羨ましがるだろう。
この二人が普通ならね……。
「……おはよう」
今日も今日とて1日が始まる、暑い日差しを受けながら2人の会話を聞くとワイシャツに汗がびっちりとついてしまっていた。
もちろん暑さのせいでもあるがこれは明らかに別の何かも混ざっている。
ちなみに志保と美代のワイシャツもちょっとだけ透けててエロい。
ふむふむピンクと緑ですか……あ、見てるのバレたかも。
俺はすぐさま目線を逸らす。
2人とも俺の両隣で一応仲良く順番に会話してくるがいつ喧嘩するかわかったもんじゃ無い……。
志保と美代の間には必ず俺がいて御構い無しに銃を撃ち合っている。
もちろん本物じゃなくて言葉のだからね。
この銃口がいつ俺に向くか分からないし流れ弾が飛んでくるかもしれない。
いや、ほんと勘弁してほしい。
「ねえ、ねえ」
「ん?」
俺は美代に視線を移すと何故か胸元からハンカチを取り出した。
「雪くんってよく汗かくよね?よかったら美代が拭いてあげよっか?」
「なっ!……」
俺が返事をする前に志保が声を漏らすと軽く咳払いをした。
既にそのハンカチは僅かな汗を含んでおり!つまりは間接的に俺が触ってるみたいになりませんかね!?
俺は軽快な動きで志保を見ると特に何事もなかったかのように歩いているので安堵のため息をついた。
「こ、これくらい大丈夫だから、そもそも日本って気温が高いってよりは湿度のせいで暑いって感じだよなぁ〜今の季節だと雨も増えるだろうし」
「うんうん、雪くんって博識だよね?私はおっぱいが大きいから特に胸元が暑いんだけど……チラッ、雪くんも胸筋あるしやっぱ胸元が汗ばんじゃうのかな?ね?志保?」
「殺す殺す殺す……」
何やら一人でぶつぶつ言ってるみたいだが俺は耳を塞ぎ聞こえないフリをする。
と言うか聞きたくない。
「あ、殺すと言えば最近雪くん結構狙われてるみたいだから気をつけた方がいいよ〜しかも上級生に」
美代は思い出したかのように唇に首先を当てそう言う。
せっかく俺が殺すって言うワードをスルーしてたのにこいつは……。
え?てかなに?俺狙われてるの?
この二人にじゃなくて?
「何その話?詳しく」
「う〜ん、目的はよく分からないけど美代って人の目をよく見るから雪くんに向けられてる視線が気になってその人たちをつけてみたんだけど高橋ってワードが何回も聞こえてきたから多分それって雪くんのことなんじゃないかなって」
「……いやいや、高橋ならこの学校に結構いるだろ?」
大体なんで俺が狙われてるんだよ?動悸がないだろ。
すると先ほどまでぶつぶつ言っていた志保の様子が戻っていつも通りの表情で会話に参加してきた。
「あぁ、その件ね気になっていたから一人とっ捕まえて全部聞いたわ」
志保は自慢げにそう言うと黒く長い髪を靡かせドヤ顔を美代に見せつける。
どう?凄いでしょと言わんばかりの表情だ。
「それで?なんで俺が狙われてんだ?しかも上級生って関わり全くない気がするんだが?」
「そうね、正確には雪くんが狙われたいのではなくて私と美代が狙われてるのよ」
あ〜なんとなく察したかも。
「ふふっ、なんとなく分かった見たいね……そう、雪くんを通して私と美代を紹介してもらおうって魂胆らしいわ、わざわざ外堀から埋めて行ってる時点で相手はただの猿じゃないみたいね」
クスクスと笑う魔性の女志保さん。
相手を手玉に取ってるようで怖い。
「へ〜美代は雪くんが無事ならそれでいいけどあんましつこいと殺しちゃうかもしれないから今度注意しとかないとね〜それに私と雪くんの周りをうろつくハエが増えても困るし」
その一言で俺たち三人の足が止まる。
俺はカバンを頭の上に置きゆっくりと右足を大きく前へと前進させる。
志保と美代はお互い向き合って何も言わない。
落ち着け俺……この展開も慣れてきただろ?ゆっくりと呼吸を忘れずにそして足に緊張感を与えるんだ。
俺は大股で早く行きたい気持ちを抑えながら前へ前へと進む。
後ろから志保の声が聞こえて来る。
「ふふっもしかして雪くんの周りをうろついてるハエって自己紹介でもしてるのかしら?」
「ええ〜甲高い声で叫ぶ志保の方がハエにそっくりじゃな〜い?羽音みたいでさ〜」
二人の笑い声が重なった瞬間俺は抑えてた力全てを絞り出し走った。
この夏空がいつ終わりを迎えるのか……俺の予想では割と早い気がする。




