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あぁ……死にたい


 言いたい事が色々あった気がする。


 話したい事もたくさんあった気がする。


 けど実際会ってみたらそんなの全部吹っ飛んでた。


 そのキリッとした目つきに紅色の瞳。


 どこか人を見下してる様なそんな表情を常に浮かべている。


 「そんなボロボロのりんご飴持って何物憂げな表情してるのかしら?もしかしてあなた厨二病なの?思春期男子って大変よね、同情するわ」


 「おい、久しぶりに会ってその言いようは酷いだろ」


 けど何故か笑みが溢れた。


 それは志保も同じみたいだ。


 「それよりなんで一人で居るんだ?……彼氏と……一緒じゃないのか?」


 俺は俯き視線だけ志保の方へとやった。


 意外にも志保の表情は変わらず、その長い髪の毛をクルクルとロールを巻く様に弄っている。


 「彼氏?……あぁ、あれの事ね、あれは私の戦略的な行動の一環で箔を付けるために付き合ったに過ぎないわ、けどあんまりにもしつこいから昨日海に沈めたところを友達に拾い上げられてたわよ……ふふっ、まるで沖に上げられた魚の様だったわね」


 その台詞を聞いて俺は嬉しくて泣きそうになってしまった。


 志保は昔からそうだ。


 どこか抜けてるしなんか違うんだけど最終的にはカッコよくて頼り甲斐があって……魅力的だ。


 裏でどれほど努力していてもそれを表面に出さずしれっとやってのけて見せる。


 「そっか……ごめん」


 意識せずに出た言葉は感謝ではなく謝罪だ。


 それは志保の彼氏がどうこうじゃない。


 今まで煙たがっていたのにいざ居なくなると寂しいとか自己中な発言をしてしまったことに対してだ。


 そんな自分が嫌で何もかもが嫌になって。


 けどだからって自分の本質や本性が変わる訳じゃない。


 世間体を気にして変える必要もない。


 俺は俺だ……高橋 雪という人間なんだ。


 なんで知らない誰かを気にして変わる必要がある?


 俺が変わるのは心から好きな人がそれを願った時だけだ。


 きっとそれを彼女達は望んでないはず。


 結局これも俺の勝手な妄想に過ぎない。


 理由も曖昧できっと辻褄だって合っていない。


 けど人間ってそんなもんだろ?


 「なんで謝るのかしら?最近の貴方は少し変よ?けど……それも気のせいだったかもしれないわね……何か心境の変化でもあったのかしら?」


 「心境の変化というか環境の変化と言うべきなのか……けど……うん、もう気持ちに整理はついた」


 それは間違いない。


 きっとこの世界に居続ければ俺は楽に生きられるんだと思う。


 真由や佳奈に遠藤くんみたいな俺をサポートしてくれる人間も居て、平和に生きようとすれば俺の都合の良い方へと進んでいく。


 だから抗おうとするとその分罰が付いてくる。


 この場合の抗いとは志保と美代への接触だ。


 何故接触をさせない様にするのか……きっとそれが元の世界に帰る方法に繋がるからだ。


 今の俺の気持ちは元の世界に戻りたい。


 初めは受け入れていた部分もある。


 二人のせいで大変な目に遭ってるだとか、メンヘラやヤンデレじゃなければもっと良い関係になれただとか。


 けどそうじゃなかった。


 あの二人じゃなきゃ俺は嫌なんだ。


 「ふふっ……なんでかしらね……貴方のことを考えると取り繕ってる私の仮面が取れそうになるのよ」


 「仮面?そんなの付けてるのか?」


 俺はてっきり……。


 「誰でも多少は猫を被ってるものでしょ?けど貴方とはそこまで話した記憶とかないのに何故か心を開いてしまう……私もこんな感情初めてでよく分からないわ」


 そこまで話した記憶が無い……か。


 もちろんその言葉はショックだった。


 だって志保は俺の中では1、2番を争うレベルで一緒に思い出を作ってくれた人だったから。


 相手は対してそんなに俺のことを見てなかったんだって錯覚しそうになる。


 でもこれに関してはこの世界での志保の話だ。


 頭がごっちゃになりそうだけど。


 ただ俺は元の世界に戻れればそれで良い。


 とりあえず志保は見つかった。


 あとは美代だ。


 けどそんな都合よく見つかる訳もない……か。


 「それじゃあ私は行くわね、少し人を待たせちゃってる訳だし」


 「あ!いや!……ちょっと待って欲しいんだけど」


 「ん?どうかしたのかしら?けど私あまり時間がないのよね、予定の時間過ぎてしまいそうだし」


 志保はスマホで一度時間を確認している様だった。


 くそっ!よく考えたらそうだよな……志保と俺は一緒に祭りを回る約束した訳でもないし。


 それなら……。


 「あのさ、よかったら……」


 喉元まで出かかった言葉を吐く前に慌てた様子で誰かが近づいてきた。


 「雪くん!急に走り出したから慌てて追いかけてきたんだよ!……あれ?志保さん?偶然だね!僕たちもちょうど遊びにきてたんだ!」


 佳奈は膝に手をつき汗を拭く様な仕草をする。


 「えぇ、偶然ね、まぁうちの生徒なら割と来てるんじゃないかしら?私の場合は誘われただけなのだけれど」


 「へぇ〜……あ!もしかして噂の彼氏と!?」


 両手を合わせ目を輝かせる佳奈。


 普通はそう言う反応だよな。


 女子高生は特に恋愛話好きだから。


 まさか海に沈めてるとは思うまい。


 「彼氏?……あぁ……あれの事ね……私に彼氏は居ないわよ?そうね強いて言えば煮干しみたいに干からびてもう出汁すら取れなくなった状態の男なら持っていたのだけれど、それももう捨ててしまったわ」


 佳奈は数秒固まった。


 「ん?……えっと……ん〜、雪くん?どう言うことか分かる?僕にはこの比喩表現がよく分からなかったからさ」


 目をぱちぱちさせた後に腕を組んでいた。


 これに関しては俺とこいつ以外理解出来ないと思う。


 そう思うとまた嬉しくなる。


 志保は別に俺の為にしてくれた訳じゃないかもしれない。


 間違いなく前の世界ならフルボッコにしてくれたと言う自信はある。


 けどこうやって別の世界でもこんな行動をとってくれたことに感動だ。


 「まぁそうだな……元々志保のワードセンスはユニークなものばかりだったし」


 「ちょっと?貴方?今、私に失礼なこと言ってる自覚はあるのかしら?確かに幼馴染ではあるけどそこまで仲良くした記憶はないのだけれど?」


 どっと笑いが起こる。


 あぁ……そうだ。


 やっぱ俺は元の世界に帰らなくちゃいけない。


 もちろんこの世界も楽しい。


 なんだかんだで楽しませてもらった。


 辛い事も悩む事も多かったけど。


 気持ちは固まった。


 「それじゃあ僕たちもそろそろ行かないと、真由姉が心配しちゃうから……と言うかもう心配してたけど」


 「それは……ごめん」


 「そうね、道のど真ん中で大声あげてかと思えば黄昏てよく分からなかったわ」


 「あの……思い出すだけで恥ずかしくなるからやめてくれ!」


 あぁ……死にたい。


 「それじゃあ本当にそろそろ行くわ」


 志保はそう言って振り返る事なく背中を向けた。


 やばいやばい、早く追いかけないと。


 足を一歩前に出そうとすると佳奈が俺の腕を掴んだ。


 「ほら、僕たちも行くよ、また雪くんが迷子にならない様に手を繋いであげるから」


 そう言って佳奈は俺の手を強く握った。


 なんでこんな時に限ってラブコメ展開になるんだ。


 普段なら喜ぶところだが今はそうじゃない。


 ……そうか、俺が志保に近づこうとしているからか。


 それを回避するにはさっきみたいに大声を上げるレベルの事をしないといけない。


 「ん?どうしたの?」


 「ごめん!ちょっと俺用あるから!」


 その瞬間に手を払い全力ダッシュした。


 佳奈を傷つけてしまうかもしれないが俺にはこうするしかない。


 まだ志保の背中はギリギリ見える。


 志保と美代に会って俺は元の世界に帰る。


 ……本当に帰れるのか?


 そんな不安もよぎる。


 ただこの世界に来てからは三人で集まることはほとんどなかった。


 やれる事は全部やろう。


 そして戻ったらあいつらに言うんだ。


 「待って!」


 俺の右腕が強く引っ張られた。


 「……雪くんは……僕の事を……捨てるの?」


 その力強い台詞に俺は佳奈に引き寄せられた。


 俺は初めて佳奈の目をはっきりと見た気がする。


 時々その目を見るときはあった。


 不安を隠す時に見せるその表情。


 それら全てが今ならはっきりと映っている。


 「捨てるって事で……いいんだね?」


 やけに心拍数が上がっていくのを感じる。

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