これは……俺が悪いのか!?
俺は美代にグイグイ引っ張られながら学校方面に向かった。
あ……幸せだけどなんだろう。
いつ起爆するか分からない爆弾を抱えてる気分。
「ちょっと!まだ話し終えていないのだけれど……大体美代はすぐ下ネタばっか言って品が無いとは思わないのかしら?あとその無駄な脂肪を雪くんに当てるのやめてもらえる?鬱陶しい事この上ないのだけれど」
これが毎朝続くのか……これが普通のハーレムなら何も問題はないのだが。
何故か美代の手には裁縫セットが。
ちなみに昨日のまち針は妹に抜いてもらった。
正直言って刺さってる痛みは無かったが刺さってると言う事実が怖すぎて妹に抱きつきながら抜いてもらった。
今でも刺さってた部分を意識すると血の気が引く。
と言うかいつ刺されたのか……昨日の放課後から数十分の記憶が全く残ってない。
気がつけば二人と下校してたし。
「ちょっと!美代は雪くんにベタベタし過ぎよ寄生虫みたいにベタベタと気持ち悪いわね……見ててこっちが恥ずかしくなって来るわ」
「え〜、そんな事ないよ〜ね〜雪く〜ん?美代そんなにベタベタしてないもんね〜」
いや……そんな事あります。
俺は美代の胸を一瞥するとその包容力満載の胸に圧倒され今にも沸騰してぶっ倒れそうになってしまった。
でかい!デカすぎる!なんだろうただ大きいだけじゃない、この制服越しから見てる背徳感や比較対象となる志保を見てそれらを考慮した上でのこの大きさなのだ。
色んなアニメに出て来るただの爆乳キャラと違ってありえるサイズでありながらその大きさが伝わって来る。
おっぱいとはただ大きければ大きいだけいいってもんじゃない!
「あっれ〜?雪くんもしかして美代の胸見てる?このおっきい美代のコ・レ♡」
あざとく俺の方へ顔を覗き込ませるとクスクスと笑いイタズラっぽく舌を出した。
そして制服を少し緩め自分の胸のラインを人差し指でゆっくりとなぞっていくと胸の谷間の部分に挿したり出したりを繰り返す。
「もっと見たいなら……この婚姻届にサインしてくれるだけで良いんだよ?毎朝私のこれ……見放題だし……夜にはあ〜んな事や……こ〜んな事まで……」
なんだ!その甘くとろけるような声は!思わず目が引き寄せられてしまう!
落ち着け俺!毎朝あの胸を見て学校でも見て夜も見れるなんて幸せだ!
ってそうじゃない!今は隣に志保がいるだろ!鼻の下を伸ばしてれば確実に殺される!
さらに制服の隙間に人差し指を入れ少しずつ美代は胸を露わにしていく。
ゆっくりと……ゆっくりと鎖骨から胸のラインまで……。
「ば、ばか!そんなものただの脂肪でしょ!?早く離れなさい!雪くんはデブが好きなの!?あんなチャーシューちょっと胸やお尻が大きいからって……」
志保も自分の胸やお尻をポンと触る。
そして美代を見て自分のを見てを何回か繰り返しその場でorzの体勢になる。
表情は分からないが雰囲気で分かる。
美代とは絶望的なまでの差があると言う事が。
大丈夫!世間では全然標準サイズだよ!美代が規格外なだけだから!
俺は心の中で親指を立てておいた。
「チャーシュー!?……ふ〜ん……美代をそんな風にコケにしてくれるとは……美代が唯一嫌いな単語なんだよね……いいよ、志保が望むなら今からどっちが雪くんに相応しいか勝負しようよ、突っ立ってるだけの電柱女今すぐ殺して死体をその辺に突き刺してあげるから」
志保は立ち上がりスカートの埃を叩くとニヤリと笑う。
「いいわよ、受けて立つわその勝負……いい加減腹を立てていたところなのよその動くたびに無駄に動くそれがね!なんなのそれ!?ばかにしてるのかしら!?動くたびに私に対して何か語りかけて来るようにプルプルプルプルと!削ぎ落として私の家の近くにある家系ラーメンに提供するとしましょう!」
志保はスカートをふわっと軽くあげると何故か両手には既にカッターが握られていた。
そして美代は裁縫セットを高く中に上げると片方の手には大量のまち針がもう片方の手にはアイスピックが握られていた。
あぁ!……あぁあぁ……もうおしまいだぁ……。
とりあえず頭を守らないと……あと遺書も。
俺はバレないように学校方面へと早歩きで逃げた。
後ろからは凄まじい金属音と風の切る音が聞こえたが俺は振り向く事なくただ足を前へ前へと進ませた。
そしてようやく学校に辿り着いた。
こ、怖かった!流石にここまで人混みがあればあいつらも暴れたりしないだろう。
と言うかホームルームに間に合うのか?
朝礼まであと二分……俺が今から教室に向かうだけで二分は間違いなくかかりそうだから早めに昇降口を抜けて教室まで向かうつもりだけど。
あの二人はまさかまだあそこで金属音撒き散らしてるんじゃないだろうな。
俺はチャイム十秒前くらいになんとか席に着く事ができた。
あっぶね〜割とギリギリだったな。
ちょっと急いだせいか体が熱ってしまった。
熱を放出しようと窓を開けるとちょうど先生が入って来る。
やっぱあいつら間に合わなかったか。
俺がカバンから筆箱を取り出そうとすると目の前をシュンと何かが高速で二回通り過ぎた。
それがなんなのかを肉眼で捉えるには一切ピントをぼかさずにチーターの全力疾走をカメラに捉えるくらい不可能なスピードをしていたと思う。
「うん、全員居るわね!こんな入学早々遅刻するお馬鹿さんが居なくて先生関心だわ!」
全員?居る?
俺の隣には涼しげな顔をした志保が、そして正面には鼻歌交じりで首を楽しげに揺らす美代の姿があった。
な!なにぃ!?こ、こいつらどこから来たんだ!?間違いなく教室の扉は閉まっていた!なら一体何処から!?
「雪くん助かったわ、私のためにわざわざ窓を開けといてくれたのよね?流石に正規のルートから侵入するなら一旦全員を気絶させる事も考慮していたのだけれどその必要が無くなったのはかなりリスクを避けられたと言えるわ」
まさか……。
登ってきたのか!?こいつら!?ここ3階だぞ!!!!
この人間離れした行動を把握しているのは俺だけで他の人たちは何もなかったように話し始める。
「今日から授業が始まります!皆さんは進学すると思いますが〜くれぐれも無駄な時間を過ごさないように!それではロングホームルームを始めます号令を」
一時間目のロングホームルームでは、この学校の施設や方針について詳しく説明された。委員会やまだ入部していない人はここである程度方針を固めなくてはいけないらしい。
運動部は既にある程度のグループが出来上がっていて先輩のスカウトや引き抜きなんかもあったらしく今更入るには荷が重い。
だから必然的に入るとするなら委員会か文化部になる訳だが。
委員会は今から完全に決める事となる。
もちろん部活動と並行して行っても良いらしい。
が、そんな事をするのは内申点欲しい生徒だけだろう。
委員会なんて特に入りたい部活もない人間がとりあえず何かしらに所属しなくちゃいけないと言う理由の逃げ道として所属してる人間が大半なのだから(偏見)
黒板にはこの学校にある全部活動と全委員会が書き出されている。
プリントも回ってきた。後ろの方で黒板見ずらかったから助かる。
美代から受け取ったプリントは何故か裏面でしかも何か小さく文字が書いてあった。
俺は顔を近づけそれをまじまじと見る。
え〜っとなになに?志保には内緒で二人で同じ部活か委員会に入ろ♡悔しがる志保の顔を見るのが楽しみだね♪って……こいつ最低だ。
丸くふんわりとした文字とは対照的に内容は志保をひとりぼっちにさせようと言う狡猾な文章だった。
相変わらず首を揺らし楽しそうにしている美代。
俺は見なかった事にしてプリントの表面に目を通す。
文化部はマニアックなのが沢山あって悪くはない……が知識ゼロで入部するのも気が引ける。
てことはもう楽そうな委員会でやり過ごすしかないか。
「それでは図書委員やってくれる人〜」
図書委員か楽そうでいいな……本読めば終わりそう。
辺りを見渡し特に誰も挙手する気配がない。
そして困ったような顔をする先生。
これは悪くない状況。
俺はすかさず手を挙げると、志保と美代もそれを見逃さずに素早く手を挙げた。
はやっ!
美代に関しては俺の方を一切見る事なく気配だけで察知して手を上げてる事になる。
多分スローカメラとかで見たらほぼ同時……いや、手を上げ切るまでの動作は二人の方が早かったかもしれない。
俺はパッと志保の方を見るとこちらを一瞥して頬を赤らめる。
その表情はいかにも「別に雪くんと同じになりたいわけじゃないけど……たまたまなんだからね!」と今にも言い出しそうだ。
「べ、別に雪くんと同じ委員会に入りたいわけではないけど……そう!私は本が好きなのよ!特に村上春樹とか太宰治とか夏目漱石とか!あとは……そうね……」
志保は髪の毛の先っぽをくるくるといじりながらそんな事を言った。
俺は必死だなぁ〜と思いながらそんな照れる志保を無言で見ていたらシャーペンを投げつけられそうになったので慌てて黒板の方を向く。
ふふっ志保め可愛いとかあるじゃないか……やっぱ女の子はこう言った照れとか羞恥心とかコンプレックスがいいんだよなぁ。
なんて考えていたら瞳の奥を真っ黒に染め上げた美代がジッとコチラを見ていた。
え!?なに!?仲間にでもなりたいの?立ち上がり仲間になりたそうな目でコチラをみてるの!?でもこの場合選択肢にいいえはないよね!?どっちもはいになってるよね!?
「美代は雪くんと同じ委員会に入りたいって思ったから挙げたけど……嬉しいよね?ねぇ?どうなの!?そこのへんな胸なし尻なし女がなんか言ってるけど!?じゃあ挙げなきゃ良い話だよね?美代はそこの女みたいにどうこう言うわけじゃない……ただ雪くんと同じ委員会に入りたくて挙手したの……だからその事実に対して雪くんがどう思ってるか聞きたいの分かる?……それで?嬉しいの?嬉しくないの?」
やめてぇ!どんどん顔を近づけないで!怖い!怖いから!
美代のまん丸お目目の瞳に俺の姿が映ってる。
瞬きするたびに動く長くフサフサなまつ毛。
こいつ黙ってればマジで可愛いのに。
俺は後退しながら蚊の鳴くような声で……。
「う、嬉しいです」
俺は急激に加速する心臓をなんとか抑えながら目をそらして美代にそう言った。
「だよね!よかった!もし万が一にも嬉しくないなんて言ったら危うくピーーーしてピーーーするところだったの……良かった!雪くんをそんな目に合わせずに済んで……ところで美代がピーーーって言うとなんか世界の妨害を受けてる気がするんだけど?あれ?ピーーーピーーー!ピーーー!」
ぎゃー!!!こいつ今なんて言ったの!?なんかへんな音入ってたんですけど!?あと手に隠し持ってるそれはなに!?
美代はニコッと笑うと体を左右に揺らしながら鼻歌を歌っていた。
明らかにこんなふわふわした感じを出しながら文字に起こすことすら出来ないワードを連発するなんて誰が想像出来るんだろうか。
俺はふと我に帰るとクラスの視線がこちらに向いている事に気がついた。
そりゃそうか……こんだけ騒げば嫌でも注目浴びるよな。
志保も美代も特に気にしている様子は無かったが俺だけはその辺やたら敏感だった。
まぁ俺だけ見られてるんじゃなくて睨まれてるからね。
「あの高橋ってやつ俺らに見せつけるかのように学園のアイドル美代様と志保様にいちゃいちゃしやがって……」
「私美代さんと志保さんに話しかけたいのに……友達になる機会が全くないのよ、いつもあの高橋って人といるから」
「あいつ奇行が多いし関わりたくないんだよな……この間も壁に何回も頭を打ち付けてたし」
そんな声が教室中から聞こえてきた。
それは男子だけでなく女子からも言われていた……。
これは……俺が悪いのか!?
「そ、それじゃあ図書委員は高橋くん達って事で決まりで〜す……本当は男女一人ずつなんですけどね〜」
この変な空気を素早く切り裂いてくれた先生、ありがとうございます!
「この調子なら雪くんと同じ部活にも……それなら早く計画を立てなくちゃ……」
志保は隣でブツブツと何か言っていたが俺には聞き取れなかった。
こうして俺は志保と美代と仲良く図書委員になった訳だが……。
まぁこうなるのは想像出来てたし仕方ない。
諦めてこの二人と上手く図書委員をやっていこう。
「雪くん雪くん」
机の上をシャーペンでノックするように二回叩かれる。
「ん?なに?」
「放課後に図書委員は図書室で顔合わせするみたいだよ」
美代は先生からもらった新しいプリントを俺に渡してきた。
ペラっとめくるとそこには業務内容や時間帯などが書いてあった。
定期的に集まったりするのか、とりあえずそれが今日の放課後で十分程話し合いすると。
二人が妙にソワソワしているのは何故だろうか。
ーーーー
「それでは以上のペアでやってもらう、解散」
図書委員会、会長の号令とともにそれぞれが席を外していく中……
「えっ……」
「やった〜美代大勝利〜」
志保は手元の資料を見ながら驚愕し美代は椅子から飛び上がって喜んでいる。
なぜ2人がこうなったのかというと……。
図書委員の役目は一週間に一度受け付け係になり、その責務を果たす訳だが2人組に分かれる。
この先は言わなくても分かるだろうが俺と美代は同じ木曜日に志保は隣のクラスの人と金曜日になった。
「あの、同じ金曜日の志保さんですよね?よろしくお願いします」
「え、ええっ……よろしく」
動揺が隠せないのか志保の額には青筋が浮かんでいた。
志保さん!プリント破れてますよ!あと挨拶しにきた人がびっくりしちゃってますよ!
彼は志保の般若のような顔を見て足をグイッと後退させた。
「ひっ!そ、それではまた後ほど……失礼します!」
大慌てで扉を開け敏捷な動きで消え去っていく。
一方志保は貧乏揺すりとプリントを睨みつける行為で辺りを青ざめさせていた。
朝から美代に煽り散らかされさらに知らない男子と毎週受付をやるとなるとストレスも溜まるだろう。
あの〜美代さん?ここぞとばかりに志保の前でやってやったぜ!みたいなドヤ顔やめてもらっていいですかね?
俺が!後で被害を受けるんですか!
「雪くんこれから一年間よろしくね〜」
「う、うん……よろしく」
そんな会話を見ていないふりしている志保だが明らかに動揺していた。
「美代達は木曜日みたいだよ〜」
「……みたいだね」
「てことは帰る時間も一緒になるから二人きりの時間が増えるね〜まさかわざわざ委員の仕事が終わるまで待ってるなんて人居ないと思うけどもしそんな人に遭遇しそうになったらこっそり帰ろうね〜」
……なんも言えね。
俺は志保のご機嫌を伺いながら美代に相槌を打っている。
志保は今にも爆発寸前といった感じだが美代が隣でドボドボとガソリンを注ぎまくってる。
さて逃げる準備しますか。
「これで毎日雪くんと一緒に居れるね〜あとは邪魔者さえ入ってこなければいいんだけどなぁ〜」
「さっきから独り言をペラペラペラペラ!うっさいのよ!二度と喋らないように舌を切ってあげようかしら?豚タンで売れるといいのだけれど」
ほら始まった。
俺はスッと椅子を引きそろりそろりと図書室の出入り口に向かう。
こいつらと3年も過ごすとか普通に無理なんだが。
後ろではあーでもないこーでもないと喧嘩がいつも通り始まった。
俺は扉を潜るとさっきの彼みたいに過敏な動きで廊下を走る。
俺は一体これからどうすればいいんだ!




