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悪夢再び


 この作品は過去に書いたものを修正してそちらを再投稿しています。


 内容など大幅の変更点があるのでご了承下さい

 

 メンヘラとヤンデレの違いを知ってるだろうか?


 知らない人の為に教えてあげよう(ネット情報)


 メンヘラとは、精神的な問題を抱えていると自己認識している人々を指す言葉である。この言葉は、元々は「メンタルヘルス」の略語として使用されていたが、現代では特定の行動パターンや思考傾向を持つ人々を指す際に用いられることが多い。メンヘラの特徴としては、感情の起伏が激しく、自己中心的な行動をとることが挙げられる。また、自己肯定感が低く、他人からの承認を強く求める傾向がある。メンヘラは、自身の精神的な問題を解決するために専門的な援助を求めることが推奨される。しかし、この言葉は侮蔑的な意味合いを含むため、使用には注意が必要である。(wiki的な物参照)


 ヤンデレとは、キャラクターの形容語の1つ。「病んでる」(病み)と「デレ」の合成語であり、広義には、他のキャラクターに想いを寄せている(デレ)が、その好意が強すぎるあまり、精神的に病んだ状態になることを指す。主にインターネットゲームで描写される。(wiki的な物参照)


 なんでこれらの情報を提示したかと言うとこれから俺が語る物語に大きく関係してくるから。

 

  これは一昔前の話……。


  まぁ一昔前と言っても俺はまだ生まれて十七年程度しか生きていないわけだから、大して昔でもない訳で……うん、そこらはひとまず置いて欲しい。


  思い出すだけで全身から汗が吹き出て喉が詰まり、胃がキリキリして体の震えが止まらないのだがそこは俺がなんとか耐えるしかない。


  そう、全ての始まりはまだ俺が一人でご飯を食べるのもままならず、他人の行動を見よう見まねしていた幼稚園児の頃。


 あの時の不思議な出来事が俺の明るい青春時代を大きく変える事となったのだ。


 ーーーー


 「かーしーてー」


 「いーいーよー」


 まだ流暢に言葉が話せない頃の俺はちょっと変わっていて周りとは馴染もうとせず自分の世界に入る事が多かったと言う。


 その時仲の良かった女子二人組がいた。


 この二人こそが俺の人生を大きく変えた。


  「雪くん、何してるの?」


  僕はそれを仕上げる為恍惚になっていた。


  周りへの注意が不足していた為、彼女の存在にまったく気がついていなかったのはそのせいだ。


  黄色い帽子に小さなカバンを肩にかけた少女、志保はこちらに近づいて来ると中腰の姿勢になり僕にそう言う。


  まだ幼いのに顔立ちはしっかりと整っていて、容姿だけなら小学生に間違われても不思議ではなかった。


  園児の中でも大人子供問わず人気があり、誰に対しても素直で自分の意見をはっきりと伝える子だ。


 本当に同い年?


  「僕は今ナスカのちじょうえを書いてるんだよ……この広い砂漠の真ん中で!どうだ?すごいだろ?」


  この間テレビで見たワイドショーのおじさんを見様見真似して身振り手振りをつけ最後にはビシッと腰に手を当てドヤ顔した。


  とても園児が書くものではないと思うが昨日テレビをまじまじと見ていると、世界不思議発見でナスカの地上絵が放送されていた。


  僕はそれに釘付けで横で泣き叫ぶ妹が目に入らないくらい見続けた。


  その影響もあってこうして砂場で僕が再現していると言う訳だ。


  彼女はばつが悪そうな顔をしている。


 テクテクこちらに近づいて来ると、その絵をまじまじと見た。


  そんな誇張するようなことか?と言わんばかりの怪訝そうな顔。


 なんか文句あるんですか?


  「ふ〜ん……ここ砂場じゃん、具合悪いの?先生のところ行く?どこか頭打ったの?」


  「そ、そんなこと分かってるよ!うるさいな」


  僕は、黙って砂漠の真ん中にスコップでひたすら絵を描き続けた。


  あの広大な土地で描かれたものだからこそ、その魅力や神秘的な何かを感じる訳で、どこにでもある小さな砂場に描かれたそれには何もない。


  でも僕にとっては関係ない、自分が納得出来ればそれで良いんだ。


  だから志保が指摘してきた事にちょっとムカつく。


 どうせ自己満足ですよ。


 だから一人でいるのが好きなんだ。


  「2人とも〜何してるの?私も混ぜて〜」


  砂利道を駆ける音と共に近づいてくるのは、ピンク色のフリフリスカートをはいた少女、美代だった。


  彼女もまた園児内で人気があり、両親がお金持ちでいつも持ってくるお弁当や、着てる洋服なんかは子供には分からないものばかりだった。


  でも美代自身は無邪気な女の子で追いかけっこや、お歌が大好きだった。


 よく皆んなが想像する気品あるお嬢様とは違う。


  無邪気にこちらへ駆けつけて来ると、志保に勢いよく抱きつきそれをなんとか支える志保。


 「こ〜ら、美代ちゃん危ないでしょ、めっだよ」


 そう言って人差し指を突き出す志保に美代はほっぺをすりすりと志保の胸の辺りに当てた。


 「志保ちゃん好き〜」


  そんな幼児特有のスキンシップを終えると志保はジト目でこちらを見ながら駆けつけてきた美代に淡々と語る。


  「美代ちゃん、雪くん馬鹿だから、変な絵をかいてるの」


 砂場に指を刺し美代もそちらに目を配る。


 やはり微妙そうな顔をされた。


  「ぜんっぜんっ変じゃないし!僕の芸術がわからないなら見なくていいし!」


  先ほどの苛立ちもあってか、反射的に言い返してしまった。


  僕は最後の線を描きを終えると、満足げにそれを眺めた。


  「美代……よく絵のことわからないけど、志保ちゃんは分かる?」


  少し控えめな美代は僕たちの険悪な雰囲気を察したのか蚊の鳴くような声で会話する。


  「さあ?雪くんは馬鹿だから良く分かんない……けど頭のいい美代ちゃんも分からないってことは、きっと雪くんが馬鹿であってるってこと」


  そう言って美代の頭を撫でる志保。


 それに対し満面の笑みで返す美代。


 二人は人気者同士で仲もいいのだ。


 すると突然そんな光景が見られないくらい視界全体が明るくなる。


  その絵は光りを放ち輝き始め、その場にいた僕たちは思わず目をぎゅっとつぶった。 


 一帯を覆い尽くすような大きな光に幻想的な白一色の世界がどこまで広がる。


  視界が一瞬にして失われる感覚は初めての事で今にも泣き出しそうだった。


  「うわぁ!眩しい!」


  「え!?なに!?美代こわいよ!」


  「雪くんが変なのかくから!後で慰謝料請求してやるから!法廷で会いましょう!」


 志保は僕に対して当たりが強い気がする。


 まだ上手く焦点が合わない。


 目がチカチカして辺りの状況が分からない。

 

  ……すると、どこからともなく声が聞こえてきた。


  「あなたは今、生涯、解けない呪いの絵を描いてしまったのです。彼女たちの性格はメンヘラかヤンデレと化しあなたを困らせ続けるでしょう……ですがこれは貴方の所為なのです、必ず彼女達を幸せにしてあげて下さい……もし約束を破るような事が、彼女達を悲しませるような事があれば貴方の命はありません」


 なにそれ!?一方的すぎない!?


  優しく甘い声が僕の耳元に囁かれる。


  聞いたこともない声に思わず身震いしてしまった。


 なんだろうこの感覚。


  すると、光は消えて無くなり絵も元の砂場になっていた。


 まだ視界がチカチカと光ってはいるが。


 砂場に尻餅をつき目を擦る。


  安堵のため息を吐くと志保と美代の顔を確認する。


 二人とも表情は見えないものの見た感じ怪我とか外的損傷は無いみたいだ。


  「……なに?今の?」


  質問をしても二人からの返答はない。


 今まで無視なんか一度もされた事なかった経験だから違和感しかなかった。


 二人ともいつも元気でお昼寝前の眠い時間でも先生にトイレ行った?って聞かれれば「あぃ……」なんて情けない返答くらいはしていたのに。


 志保も美代も肩を震わせ返事はない。


 流石にこの妙な空気感に耐えきれずもう一度俺が口を開ける。


  「ど、どうしたの?2人とも?様子がおかしくない?」


  僕も確かに怖くて今にも泣き出しそうだったけど。


 泣いてないからね。


 うん、泣いてない。


 すると、志保は下を向きながら魂が抜けたような声で話しかけてきた。


  「……うして……」


 うん?


  「どうして……どうして!雪くんはいつも……私の気持ちに気づいてくれないの?そんなに私は魅力ないかな?いつもいつも!いつも!!雪くんの為を思って行動してるのに……あはは!もう……いっそ殺しちゃえばいいのよ……二人で天国に行って幸せに暮らしましょうよ?誰も居ない私たちだけの楽園に」


  訥々と呟く志保は目が灰色に一切の輝きを見せず声色は一層暗く重々しかった。


  口元も緩み、頬は引きつり目線は僕の瞳から離れない。


  え!?ドユコト?こ、コワイんですけど……。


 明らかに別人としか言いようがなかった。


 子供ながら僕は他人の目を見て会話するのが得意だ。


 だから相手の目線や瞬きの回数などそう言った小さな動作からなんとなく感情を読み取る事が出来るのだが、志保の今の感情はただただ僕に対しての過剰な愛情や憎しみなどそう言った狂気が入り混じっているように見えた。


 だから素直に思う。


 なにあれ!?怖い!


  「美代は……」


  今度は、美代の方を見ると下を向きながらワナワナと体を震わせている。


  ど、どしたんだろう?トイレかな?一緒に行こうか?


  「美代はいつも雪くんのことを愛してるのに!何でわかってくれないの!?ねぇ!?美代はね?先生にも相談して美代は可愛いし素直な子だから雪くんも美代のこと好きになるって言ってたのに!……先生も嘘ついてたの?美代は可愛くないの?美代が悪いの?そんなの嫌!美代の雪君だもん!美代だけの!雪君が欲しい!欲しい!欲しい!欲しくてたまらないの!」


  そう言いながら美代は自分の両腕を必要以上に何度も何度も引っ掻いていた。


 それはもう爪の隙間に自分の皮膚が詰まって腕からは血がポタポタと垂れるくらい強く何度も引っ掻きまくっている。


 その理解出来ない行動を目の当たりにして僕はどうしていいのか分からない。


 慌てる僕に対してジリジリと近づいてくる二人。


  「どうしてなの!?」


  「なんで理解してくれないの!?」


  一斉に二人が襲いかかってくると僕は咄嗟に逃げ回った。


 砂場に円を描くようグルグルと。


  それがすべての始まりだった。


  2人の嫌がらせは小学校に入っても続き毎日泣きながら過ごした。


 その一部始終を語ろうと思う。


 まだこの時はそのうち元に戻るんじゃないかとか本気で説得すれば辞めてくれるじゃないかと言う甘い考え方をしていた。


  「ほら雪くん……あ〜んして♡」


  笑顔で砂の乗ったスプーンを口元に押し付けて来る。


 「あ、あ〜ん……うん……美味しい……です」


 僕はそれを食べる仕草だけして美代に笑顔を向けると美代は手に持ったスプーンを砂場に投げつけて何故か両手で目元を隠し本気で泣き始めた。


 「なんで本当に食べてくれないの!?そんな食べるフリのおままごとなんて嫌だよ!美代の愛情が籠ってればなんでも食べれるって言ってくれたのに!雪君は美代に嘘ついたの?美代達に隠し事は無しって約束したのに!まだ他に何か隠してるんでしょ!?」


 一体なぜ隠し事になってるのかは分からないが美代はこのままだと確実に話が脱線して曲げられていくのでなんとか早く誤解を解かなくては。


 と志保は隣でなぜかおもちゃの包丁を研いでいた。


 あの……それ玩具ですよね?


 「雪くん、あなたの為にママからこの綺麗な包丁借りてきたのよ……ママはとても怒っていたけど私が20分程度論破したら膝から崩れ落ちていたわ、たとえ親でも私と雪くんの邪魔は許されないのよ」


 小学2年生に本気で論破されるなんて普通じゃ考えられないけど志保に関してなら僕は容易に想像できた。


 志保は頭の回転が早くそれでいて呂律もよく回るから的確に相手の嫌なところを聞き手にすら理解させそれをマシンガンのように打ち込んでくるので言い返す隙すらも与えない。


 こう言えばこう言い返してくることも分かってる、ならこうすればいいのに貴方はそれをしないそれってつまり……みたいな感じで言ってくる。


 志保のお母さんが可哀想だ。


 それよりもう僕の頭の中では既に逃げること以外の選択肢がない。


 このままだと確実に二人に縛られて拘束されて監禁される。


  「じ、実は今日ママの誕生日だから早く帰ってきなさいって言われてて」


  僕がそう言うと志保の包丁は地面を貫通するような勢いでおもちゃのまな板に突き刺し美代の笑顔は消えて肩を鷲掴みされた。


  え……さっきの笑顔は?


  瞬き一つせずに濃く映った瞳の色は黒く、濁っていた。


  「ねぇ?美代とお母さんのどっちが大切なの?もちろん美代だよね?……雪くんなら喜んで美代の作ったこのシチュー全部食べれるよね?」


  そう言っておもちゃの鍋を開けるとそこには大量の砂利が押し込まれていた。


  「ひぃ!……む、無理だよぉ……」


  「ううん、無理じゃない!この愛情たっぷりのシチュー!よく見て!雪くんなら出来るよ……ほら、あ〜んして?このハート型の人参とか凄く手が混んでるでしょ?隠し味も入れたんだから沢山食べてね」


  ま、待って!どう見ても砂利!


 美代がジリジリとこちらに近づいてくる様子を見て何か思いついたような顔をする志保。


  「逃げて雪くん!ここは私が引き受けたわ!この女は危険よ!私は貴方に危害を加えるようなことはしないし貴方に危害を加えようとする人を許さないわ……さ!早く行って!私も後で合流するから!」


  夕日に照らされる志保の背中は、その時どんなヒーローよりもカッコよく映っていて僕にとっては忘れられない光景になった。


 ありがとう志保!君のことは忘れない!


 俺は涙を流しながら全力疾走した。


 まさか志保があんなに他人思いのいい人だったとは思わなかった。


  家に着くと何故かそこには既に二人が僕の家の中に入っていた。


 うん、最速で最短で真っ直ぐに一直線に帰宅したのになんで二人の方が先に僕の家に居るんですかね。


 するとママがリビングからひょっこりと顔を覗かせる。


 「あら、おかえり〜お友達来てるわよ〜とても可愛らしくて礼儀も正しいからママびっくりしちゃったわよ〜お夕飯作ってるから三人で遊んでて〜」


 ママは知らないのだ……この二人の本性を。


 僕に無理やり砂利を食べさせようとしたり包丁を見せて脅してきたり急に泣いたり叫んだりと。


 礼儀正しいのは猫を被ってるだけ。


 「ぼ、僕トイレ!」


  僕がトイレに行くと告げると何故かこっそり志保も付いてきた。


 嘘だよね?


 「な、なんでついてくるの!トイレ行くって言ったじゃん!」


 「何よ!二人でしたほうが効率良いじゃない!貴方一石二鳥って言葉知らないの?もう小学生にもなるんだからもう少し語彙の勉強をして自分のキャパを上げるべきよ」


 「いやいや!効率の問題じゃないから!志保は立って出来ないでしょ!」


 僕はトイレにダッシュしてドアノブに手をかける。


 だが志保もその後を走ってついてきて中に入り込もうとするのを僕はなんとか抑える。


 「何言ってんのよ!この変態!痴漢で訴えるわよ!今の時代裁判でもなんでも女性の方が支持されやすいの知らないのかしら?私が訴えれば間違いなく貴方は懲役刑よ!」


 「変態はそっちだ!もう分かったよ!先にしていいから」


 諦めてドアノブから手を離しリビングの方へ向かうと志保が僕の腕を掴んできた。


 「……そ、それじゃ時間の無駄じゃない……私は効率が悪いのが嫌いなのよ……私がしてる間貴方はただ待つという何も得ることができない人生で最も不必要な時間が発生してしまうわけでそれをなくす為に私と貴方が一緒にすればそれを回避できるわけなのだから」


 超早口で僕には何を言ってるのか一ミリも理解できなかったが志保がもう手遅れなことだけはよく分かった。


 結局論破されて志保が座って大股になりながら僕がその隙間にする羽目になったのは多分人生で一番のトラウマだったと思う。


  トラウマすぎてその時の光景は覚えていないし思い出したくもないし誰かに後頭部を殴られて記憶が飛んでいる気もする。


  その日のうちに志保への憧れは一切無くなった。


 玄関に飾ってあった観葉植物が気がつけば無くなっていた。


  こんな日々がほぼ毎日続き我慢出来なくなった僕は一つの……いや二つの大きな決断が必要となった。


  それは中学からは別の所に通うと言うこと。


 そしてそれまでに二人に嫌われてしまおうと言う事。


  あの幼稚園の時に書いてしまった謎の絵はこの時既に忘れかけていて二人は元々この性格だったと認識し始めていた。


 そもそもあれが現実だったのか夢だったのか……正直言ってあんな出来事が霞むくらい自分の中のトラウマは新しく次々と植え付けられていくのだ。


 もう耐えきれない、それに俺にはもう妹もいる。


 二人とはもう関わりきれない。


 適当な言い訳を使って両親に納得してもらったわけだが……。


  2人にはギリギリまで黙っておいた。なんせバレた時が一番怖いわけだし……ヤられるのは目に見えていたから。


 もちろん嫌われるように無視し続けたりあんま女子得意じゃないんだよねアピールもしまくった。


 ほとんど返り討ちにあったけど。


  別の中学へ行ったことがバレた時は弁解の余地も与えてくれず何度も殺されかけたし、メールや電話が1日に500件近くも来て俺はゆっくり眠ることもできなかった。


 妹にも相当迷惑をかけてしまった。


  だが中学2年に入ると2人の嫌がらせは、ぱったりと無くなった。


 初めの方は嬉しくてこの日々がずっと続いてくれる事を本気で願っていた。


 中学では普通に男子の友達も数人出来て若干会話のすれ違い……意識の違いなんかはあったけどその辺は俺がおかしい事にすぐ気がついて訂正した。


 そんな普通の生活の中を生きていてふと俺は気がついてしまった。


 志保と美代がいないと……退屈かも。


 けど俺は二人に嫌われるよう動いてきた訳だし……。


 よく考えてみろ!


 例えば退屈な1日を過ごしたとして次の日に熱を出したとする。


 その時感じるのは昨日までの自分は健康で幸せだったんだなぁって思うだろう。


 つまり退屈ってのは幸せな事なんだよ。


 逆にむしろ嵐の前の静かさとか実は裏では大規模な作戦が立てられていていつしかの想像していた拉致監禁が現実になるんじゃないかとヒヤヒヤしている自分もいる。


 けど実際にはそんな事なく普通に平穏な日々を送っていた。


 2人の顔もしばらく見なくなり俺もいつしか慣れていった。


 望んでいた何もない平穏な日々。


 別に文句があるわけじゃないがもう少しくらい何かあって欲しいと欲が出てしまう。


 最低限の会話に最低限の行動、腹の底から笑うこともないけど会話する相手がいない訳でもない。


 部活は強制参加じゃなかったから行かなかった。


 それに放課後はやる事あったし。


 妹の方は俺とは違ってかなり充実した毎日を送っているみたいだった。


 本人は面倒くさがってるが友達も多いし男子からの人気もある。


 そんな妹と自分を比較して思う。


 正直言って退屈だ。


 春を迎え夏が来て木枯らしが散り肌寒くなる。


 親ももうだいぶ落ち着いて来た。


 妹もすくすく育った。


 俺も……多分変わったんだと思う。


 あれ?俺もう中学卒業してたのか。


 一日はこんなにも長く感じるのにそれでも時間は進んでるんだな。


 振り返って思い出す記憶はあの二人の事ばかり。


  そして迎えた高校入学式。


 あの二人と会わなくなってどれくらいの季節が変わったのかもう考えもしなくなった。


 これはつまり俺が嫌われたって事でいいんだよな?


 もちろん俺自身がそれを望んだんだ。


 これでよかったんだよ。


 俺たち三人が再び会う事はもう二度と無い。


 それに誰が再会を望むって言うんだよ。


 気がつけば玄関に再び観葉植物が飾ってあった。


 ……全然気が付かなかったな。


 特に何事も起きないだろうと思いながら俺は入学式初日を終えようとした。


 この学校の通学路は綺麗な桜並木が出来ていて観光スポットとしても人気らしい。


 確かに雰囲気良く、それに当てられ付き合い始めるカップルも少なくないらしい。


  学校の説明が終わり各クラスで出席を取ると担任の挨拶を聞き終えた。


  「それじゃあ、みなさん〜楽しい高校生活を送って下さいね〜青春の2文字には嘘も真実になる!」


  堂々のVサインをかます先生の姿に俺たちは呆気をとられた。


  あ〜この先生女性の割に暑苦しい人だなぁ〜。


  俺はペン回しをしながらそんな事を思っていた。


  「ねぇねぇ?どこの部活入るの?」


  「おっ!お前そのゲーム知ってるのか?」


 「悪りぃ〜シャーペンの芯くれない?」


 「あぁ!お前の姉ちゃん俺の兄貴と付き合ってるらしいな!」


  周囲の生徒がそれぞれ新しい友達と会話している中、俺は1人スマホを取り出し時間を確認する。


 結構時間かかったなぁ……。


 適当に男友達数人作ってまた退屈な日々を過ごすとしますか。


 俺は凝り固まった体を目一杯上へと伸ばす。


 多分普通に友達作れるよな?


 やっぱ自分からこう話しかける時は少し緊張するな。


 部活の話とかゲームの話とか聞く分にはいいけど俺自身よく分かってないし。


 けどこの流れなら友達作りますよ環境は整ってる。


 ここで逃したら終わりだ。


 俺はそう思い首を上げた。


 うっ!


 急に身震いした。


 全身から湧き出る汗。


 懐かしい香りに懐かしい感覚。


 かつて俺が防衛本能を最大レベルにまで引き上げたあの日。


 そのメーターに付いてるダイヤルを俺の脳内が再びマックスにまで引き上げた。


 ……第六感が逃げろと言ってる。


 この感覚……覚えがある!


  生き物が良く殺気を感じると咄嗟に身構えるのと同様、今俺が現状を説明するのなら……そう!


  嵐の前の静けさ……。


 体の震えが止まらない。


 歯はカチカチとなり全身から鳥肌が立つ。


  何だか嫌な予感がする……たのむ!勘違いであってくれ!


  俺はスマホを閉じると同時に急いで席を立ち上がりその場から退散しようとする。


  「ふふっ、ひ・さ・し・ぶ・りね?雪くん……」


 え!?この声はもしかして……。


 出かかった足が動かない。


 動けば殺される!


 嘘だ!


 てか嫌だ!


  その聞き覚えのある声は隣の席から聞こえてきた。


  脳は長期的な記憶は小脳で保存されると言われているが……今人生で一番俺の小脳が活発に行動しているのは間違いない。


 くそ!何となく誰なのかは分かってるけど俺の中でそれを認めたくない。


  恐る恐る隣の席を見るとそこには黒髪ロングに赤い瞳、表情は落ち着いていてクールなのが伝わってくる。


 ビシッと着こなしている制服からは引き締まったウエストにスカート越しからわかる細長い足。


 そして俺はもう一度彼女の横顔を見る。


 キリッとした猫目でツンとした鼻、気難しそうなのが伺える。


  生徒の大半はまだ制服に馴染めていなさそうだが、彼女は完璧に着こなし髪を上げる仕草なんかは上級生と言わんばかりの貫禄だった。


 こんな子が志保の訳……ないか!……良かった!俺の気のせいみたいだ!あはは!


 「ふふっ」


  その控えめな笑い声と共に俺は椅子ごと彼女に押し倒され床の上で仰向けの状態になった。


 ……?


 はい!?


 頭はまだ理解出来ていない。


 え?何で?てか近い!


 上を見上げているのに天井は見えない。


 視界に映っているのは彼女の綺麗な瞳と重力によって下がってくる長くて黒いサラサラな髪の毛だけだ。


 その髪の毛を耳にかけると反対の手で俺の頬を優しく撫でてくる。


  あ……ヤバイ……心臓が引きちぎれる。


 止まらない鼓動。


 上がる心拍数。


 彼女の荒い吐息。


 舌を出し獲物を狩る様な姿。


  制服の隙間からまだ成長途中の可愛い胸が僅かに晒されている。


  ち、ちょ!何だか良い香りが!それにこんな美人の目を見つめてられない!


  「どうして目をそらすの?久しぶりの再開じゃない……ふふっもしかして照れてるのかしら?私と貴方の関係じゃない……照れることなんてないでしょ?と、トイレであんな事もしたんだから……」


  彼女は髪の毛を耳にかけ直すと顔をどんどん俺に近づけて来た。


  き、キスでもするのか!?いいのか!?ここで初めてを迎えても!


  彼女の赤い瞳の奥には、まるで宝石のように光り輝く……。


  視線は彼女のピンク色に輝く瑞々しい唇に釘付けだった。


 いや!落ち着け!!!!


 今最後に彼女はなんて言った?


 トイレがどうたらとか……。


 俺には全く身に覚えのない話だ。


  「待って!待って!あの!……人違いしてませんか?」


  「え?」


  俺にこんな大胆でかわいい女性の知り合いはいない!


 中学では慎ましく少人数の男としか付き合いがなかった!


 顔見知りの女性は妹と母さんだけだ!


 ちなみに都合の悪い記憶は全部消える。


 みんなもそうだよね?


  教室中の目線がこちらに向いている中で彼女はニヤリと笑うと俺の耳元で囁いた。


  「私があなたを忘れるわけないでしょ……それは美代も同じ……」


  えっ……。


  視線が数秒彼女に釘付けになったところで結論が出た。


  やっぱこいつ志保か!!!いやぁー!!再開早々殺される!!……と言うかめっちゃ可愛くなってる!


  すると急に俺の視界は遮られて誰かに引っ張られると同時に顔を何か柔らかいもので埋め尽くされたかと思うとそれがどんどん圧迫感を増していった。


  「やめて!美代の雪くんをいじめないで!」


  いや!苦しいから!助けて……息が……。


  そう言って彼女は一度俺の顔を見ると笑顔を見せて俺の耳元で囁いた。


  「ふふっ、これから美代がたっぷり雪くんに甘えるんだからね」


  み、美代なのか……!?顔を覗き込ませていたのは美代らしいが……こちらも小柄で茶髪ショートに赤い瞳をした胸の大きい女性に変わっていた。


  張り裂けそうな白いワイシャツの上に羽織る制服は胸部をさらに強調させた。


  美代はねっとりとした甘い吐息にゆっくりとした口調……マイペースなのがうかがえた。


  ウエストが引き締まっていたが太ももはむちっとしていてそれを晒すようにスカート丈はかなり短い。


 もう少しでパンツが見えそうなレベルくらいには短い。


 てか階段とか美代が屈んだ瞬間とか余裕で全部見えそう。


 今度しっかり確認しておかなくては。


 「どっちと結婚してもらうかは雪くん本人に決めて貰えばいいのよ、そうすれば雪くんと結婚するのは私になるのだから美代は大人しく家で泣きべそかいてなさい」


 「え〜そんな妄想は家に帰って小説にでも書けばいいと思うよ〜自分の理想だけを想像してそれをリアルにまで持ち込んでくるのはただの痛い人になっちゃうから気をつけた方が良いと美代は思うんだけど〜雪くんもそう思うよね〜」


 美代はニコッと笑顔を向けてくるとそのまま俺の顔を再び胸の間に押し込んでくる。


 なんて大きくて柔らかいんだ!ありがとうございます!


 「雪くん……今すぐそいつから離れなさい……出ないと貴方も巻き込む事になってしまうわ……美代、覚悟は出来てるわよね?」


 「う〜ん、美代は手加減って出来ないから普通に志保のことを殺しちゃうけど別にいっか、このまま雪くんの周りで蚊とかハエみたいに飛ばれても困るし殺しちゃうね」


 「……貴方ああ言えばこう言う癖やめた方がいいわよ?」


 「それは志保も同じでしょ?」


 待て待て待て!


 「ち、ちょっと二人とも!周りの視線が凄いことになってるから!一旦ね!一旦落ち着こう!」


 二人の視線がチラッと俺の方へ向くがすぐ二人は再び睨みつけ合う。


 「安心してちょうだい雪くん、すぐこの女を始末して雪くんの身体についた汚いその女のあぶら汗を消毒したあと、二人で夜の公園でも散歩しましょう……しばらく会えなかったのだし話したいことも沢山あるのよ」


 「え〜志保こわ〜い!そんな汚い言葉遣いする女の子って心も身体も汚いからやだよね〜雪くんは美代が既にた〜くさんギュッてマーキングしてあるからもう美代のものなんだよ?」


 その二人の会話にクラスの人達も反応している。


 「おい……ふざけんなよ、あの可愛い子俺狙ってたのにさ、バイト代も今まで貰ってきたお年玉も全部捧げて結婚まで考えてたのに」


 「僕もですよ!あんな可愛い女の子二人から狙われてるあいつは一体なんなんですか!?」


  明らかな殺気が俺の方に伝わってくる。


 これは……クラスの男子の皆さんですね。


 これが入学式での出来事だ。


 こうして俺の退屈とは程遠い高校生活が始まったのだ。


 もし面白かったと言う方がいらっしゃいましたら高評価ブックマーク感想をお願いします。


 週一ペースで投稿を目安にしてます。


 この作品の他に[モブキャラの俺 なんとか主人公ルートを回避しつつ学園生活を送る]と言う作品も書いてます。


 こちらもそのうち大幅に修正を入れる予定ですが死ぬほど暇だよって方はぜひご覧になって下さい。

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