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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
VRMMOが日常となった世界で大切な仲間が出来るまで
7/50

6話:1本勝負!(3本)

  6時限目が終わり、教室は途端にざわつき始める。


 担任の岡田先生が帰りのホームルームを始める前のこの僅かな時間は、生徒たちにとって放課後の予定を友人たちと話し合う魅惑の時間だった。


「はぁ……」


 そんな楽しげなクラスメイトとの様子とは真逆のため息をつく男がいた。


 清宮総司である。


「お前昼休みからため息ついてばっかだな」


 俊がいつものように前から席を乗り出し、こちらに話しかけてくる。


「もう、今日は散々だよ……」


 がっくりと肩を落としながら答える総司。

 あれからずっと恵美先輩の事が気になって仕方がなかった。昼飯も結局食べなかった。


「それよりも聞いたぜ~、学食で女の子の先輩泣かせたんだってな?」


 ニヤニヤ顔で言う俊に、アタフタしながら反論する。


「ち、ちがう! 誤解だって!!!」

「本当かな~、見たって奴がいるぜ~」


 わざとらしく笑いながら、親指で教室にいる女子の一団を指す。どうやら昼休み、食堂にいたようでこちらを見ながら盛んに内緒話をしている。

 彼女たち曰く、総司は編入してすぐ先輩と痴情のもつれを起こし、泣かせる鬼畜男らしい。


「う、うう……俺はそんなつもりじゃなかったんだ……信じてくれ……」


 机に突っ伏す総司。


「分かってるよ! ゲーム部の先輩のことだろ! お前もツイてねぇな~」


 俊はそう言って背中をバシバシ叩いてくれた。


「ところで総司さんよ、放課後どうすんだ? どっかよってくか?」


「いや……今日は真っ直ぐ帰るわ」


 顔だけあげ答える。

 こういう場合の総司にとってのメンタルケアの手段は既に確立されていた。


 (アレサやりたい……)


 ただ何も考えず、仮想世界で暴れまくる事だった。


「そうか、ま、明日までには元気だせよ!」


 そう言うと、俊はポンと肩を叩いて、前を向いた。どうやら知らぬ間に岡田先生が教室に入ってきていたらしく、帰りのホームルームが始まる様だった。


 俊の励ましに感謝しつつ項垂れていた体を上げる。


 (早く帰りたい……)


 ため息を付いた。



 ※



「え~ですから、当校の学生としての自覚を持ち――」


 (長い…)


「勉学に励む事を第一として――」


 (長すぎる!!!)


 高校に入学して1週間以上、そろそろ気が抜けてくる生徒が出始めるとのことで、気を引き締める名目で始まったありがたいスピーチは既に10分以上が経過していた。


 もう他のクラスの生徒たちはホームルームが終わったらしく、教室の外から話し声と廊下を歩く音が聞こえてくる。


「大学付属とは言え――」


 (クッソ! こちとら早く鬱憤を晴らしてぇのに!!!)


 先程まで気落ちしていた総司もなかなか開放されない苛立ちに、いつの間にかいつも通りの様子に戻っていた。

 どうやら総司だけでなく、他のクラスメイトもうんざりしているようで、ちらほら内職にいそしむ姿が見える。


「勉学に励む事を第一として――」


 (それ、先言ったよ!!! チッ! 準備だけでもしておくか……)


 総司は気づかれないようにポケットからスマートフォンを取り出し、机の中でアレサ用のアプリケーションを立ち上げ、自身のアカウント管理画面を開く。


 手慣れた手つきで現在のダミーアバターである〈ルーラー〉をログアウトさせ、本アカウントのアバターであるレベル130のアバター”〈ベイオネット〉”でログインし、一頻り武器や装備の設定を行い顔を上げると、演説も佳境(かきょう)に入ったようで内容の纏めに入っていた。


「え~……というわけでして、これから1年間クラスを担当するものとして皆さんにはゲームばかりではなく、勉学を励む事を第一としてほしいわけです。これにて帰りのホームルームを終わります。井口さん帰りの号令をお願いします。」


 井口とは呼ばれる女生徒が立ち上がり、起立と礼を行うと、クラスの雰囲気は打って変わり放課後モードへと移行する。


「さーて、帰りますか。総司! せめて校門まで一緒に帰ろうぜ」


 俊が鞄を肩に引っ掛けながら振り向いた。


「OK」


 それに頷く総司。俊とは帰り道が真逆な関係で帰宅時は校門までしか共通するルートが無かったが、そこまでは一緒に行動していた。


 乱暴に教科書を詰め込み帰宅準備が完了。そのまま、俊と共に教室の出口に向かおうと立ち上がると俊が突然吹き出した。


「ブフォ!……なんか、お前の事めっちゃ見てる人がいるぞ!」


 俊が出口を指さす。なんだ? と思いながらその方向を見る。





 恵美先輩だった。





「マジ、勘弁してくれ……」


 全身が脱力し、吐き出された空気から絶望の呻き声が上がる。

 出口から頭だけを出し、教室を覗いてる小動物のような顔つきのその女生徒は明らかに総司の事を凝視していた。


 助けを求めようと俊の方を見る。


「じゃ! 俺、先帰るから、詳しいことは明日聞かせてくれよ!」


 満面の笑みで教室を走り去っていった……。


 (あの野郎……)


 あまりにも薄情な友人に青筋を立てつつ、チラリと恵美先輩の方を見る。

 ジ―ッとこちらを見つめる視線に総司はもう逃げられないことを悟り、恵美先輩の方に向かう。まだ生徒が帰り支度でザワついている教室の所々から「修羅場」だとか「鬼畜」だとかが聞こえ心の中で涙を流した。


「あ~……何か用ですか?」


 顔だけ出してる先輩に、渋々話しかける。


「3回勝負……」

「は?」

「まだ1回しかしてないから勝負終わってない……」

「え? だって一本勝負って……」


 じわっ


「わ、分かりました!だから目に涙を浮かべるのやめてください!」


 そう言うと、少し涙が引っ込んだ。


「どこでやります? 出来れば人がいないところがいいんですけど……」

「部室……」

「……じゃあそこで」


 先輩と一緒に教室を後にしようとした時、後ろから「仲直り?」「人がいないところ……?」「まさか学校で?」とか聞こえたような気はしたが、総司は考えるのをやめた。



 ※



 ゲーム部の部室は総司がいる校舎とは別の棟の4階に位置しており、廊下を進んで一番奥の角部屋だった。


「立地はいいっすね」


 部屋が近づき、総司がそう呟くと、恵美先輩は振り向き、


「でしょー!」


 と笑顔満点で答える。


 (この人、感情の浮き沈みが激しすぎる……)


 ついさっきまで今にも泣きだしそうな顔だった恵美先輩はいつのまにか、スキップ調の歩き方になっていた。

 そんなこんなで部室(総司にとっては新しい修羅場)の前に到着する。


「さあ! 入って! 入って!」


 ガチャッと扉を開け、中に促す恵美先輩。大きな鉄の扉を両手で一生懸命に引く姿は可愛らしかったが、総司にとってはもうどうでもいい事だった。


「……どうも――て、なんじゃこりゃ!?」


 中は想像以上に広く、壁には大きな窓が連なり、明るく開放的なスペース――だったであろう、正体不明のガラクタが山積みになった部屋に案内される。


「倉庫?」

「部室だよ!」


 やや突っ込み風に言った後、恵美先輩は総司の真横をサッと駆け抜け、辛うじて確保されたスペースに折りたたまれた机とパイプ椅子を2つ用意する。


「どうぞ、座って!」


 軽く会釈しながら、腰かける。それを見て恵美先輩も腰をおろした。


「クーラー、ウォ―タ―サーバー、冷蔵庫完備の快適空間じゃなかったんですか?」


 今朝のアピールポイントを思い出しながら半目になり、恵美先輩の方を見る。


「あるよ! ほら!」


 恵美先輩はそう言って、ガラクタの山を指さす。


「どうやら先輩には俺には見えないものが見えるらしいですね……」

「もう!」


 総司の皮肉交じりの答えに、恵美先輩はほっぺを膨らませながら、立ち上がり。山積みになった、電化製品の残骸やら、余った日曜大工の木材のようなものをかき分けると、少しづつだが冷蔵庫らしきものとウォ―タ―サーバーらしきものが見えてくる。


「ほら!」


 ドヤッとした表情と共に鼻を鳴らし、こちらに顔を向ける。


「動くんですかこれ?」


「動くとは言ってないよ!」


「おい」


 あまりの開き直りっぷりについ敬語を忘れ、突っ込んでしまった。


「でもクーラーは動くよ!はいこれ!」


 そう言うと、リモコンらしきものを手渡される。


「まあ、空調が生きてれば、最低限は……」


 ピッ! と試しにスイッチを入れてみる。久し振りに動いたのかクーラーは重低音の唸り声を挙げ、ゆっくりとカバーが開き――煙が出て止まった。


「……」


 無言で恵美先輩の方を見る。彼女は目を反らした。


「……ふたが動いたからセーフ」


「アウトですよ」


 あまりの惨状にため息がでる。もう、さっさっと本題に入ってしまおう。


「で、3回勝負でしたっけ? じゃあ、あともう1回俺が勝ったらおしまいというわけですね」


 今度こそ言い逃れないよう、しっかりと確認する口調で言う。


「そうだよ! でも、さっきみたいに上手くいかないよ! あの戦いで清宮君の動きは見切ったからね!」

「……そっすか」


 殆ど動いてないんすけど。


「てか先輩、魔法とか使わないんすか?」


 つい気になり尋ねる総司。恵美先輩は胸を張り答える。


「私補助魔法以外使えない!」

「えぇ……」


 何ともしょーもない理由が返ってくる。この人タイマンの時とかどうすんだろ?


「……ファイヤーボールの1発でも撃てるようにした方が良いっすよ」

「私は仲間の力を引き出すことに特化しているのよ!」

「部員いないのに?」

「目の前にいる!」

「……」


 (あ、やべ話通じないモード入った)


 直感的に理解した総司は一刻も早くこの場から脱出するため、鞄からESGを取り出し、対戦の準備をする。


「じゃあちゃっちゃっとやりますか、こっちから仕掛けます。いいですよね?」

「うん!」


 恵美先輩もそう言うと背筋を伸ばしいそいそとESGを頭に取り付けた。


「じゃあいきますよ。ルールはさっきと同じで」


 彼女が頷くと総司は対戦開始ボタンを押した。



 ※



「コロシアムステージね。夜とは結構珍しいな」


 目を開け、いつもの周囲確認。

 満点の星空と満月がコロシアム全体を照らす。周囲を取り囲む観客席にいつもいる声援を送るNPCの姿は一人も見えない。良く整備された砂は静かに星々の光を反射し、闘技場全体をハッキリと浮かび上がらせる。

 人々の熱気に溢れた普段のコロシアムと違うが、それがかえって静かな闘志を湧き出たせるステージ構成だ。


「先輩はあそこか……」


 遠目に昼に見た先輩のアバターが立っているのが確認できた。


 (先手必勝、さっさと決めるか)


 グッと足に力を込め、土を蹴る。凄まじい加速でみるみる内に先輩のアバターに近づくが……


 (あれ?なんかおかしいな)


 どこか違和感を感じた。


 (やたら早く動けるけど移動速度にbuffがかかるタイプのステージじゃなかったはず……)


 考えている合間にあっという間に先輩のアバターの前まで来る。しかしそのアバターはこちらを見つめ、杖を落とし、口をポカーンと開けた状態で硬直していた。


「先輩、試合はもう始まってますよ?」


 流石にただ事ではない雰囲気を感じ取り、その場で立ち止まり、声を掛ける。


「ひゃくさんじゅう……」


 先輩のアバターが口を震わせながら何かを呟いたが、総司はイマイチ意図が掴めなかった。


「……? 攻撃しちゃいますよ?」


 取り合えず、武器だけでも構えようと、腰に手を掛けた瞬間――


 違和感の正体に気づき、同時に全身から汗が噴き出る。


 ゆっくりと、武器を引き抜く。目だけを動かしてそれを確認する。



 そこには光を鈍く反射する、”いつもの”の黒い銃剣があった。


 

(ぬ、ぬおおおお!!! まさか!? マジか!? 嘘だろ!? なんで!?)


 弾かれたように着ているローブを持ち上げ確認する、速力と可動域を最重視した薄手の服、顔を隠す為のダークグレーのフード――紛れもなく、清宮総司の本アカウントアバター〈ベイオネット〉その物だった。


 (そういや、アカウント変えてたんだった……)


 帰りのホームルームで自身がアカウント変更を行っていたことを今更ながら思い出す総司。

 よもや自身が卒業まで隠すつもりだった秘密が、入学して2週間経たずに知られてしまうとは……。

 想定外の事態にフリーズする総司改め〈ベイオネット〉。数秒間沈黙が続いたのち、


「……」


 取り合えず無言のまま”いつもの”銃剣を抜き、茫然とする恵美先輩のアバターを撃つ。

 極限まで強化された銃弾は一撃でそのアバターのライフゲージを消失させた。



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