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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
第二章:天まで届く世界の樹
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14話:衝突する2色の影

「ちょ、ちょっと貴方は何やってるの!?」

 

 突然の事態に周囲が困惑する中、優理香の〈ヴァルキュリア〉が言うが、総司はそれに返答せず、ジリジリと<アグロ>に剣を近づける。

 

「そんなに稽古をつけて欲しいか弟子?」

 

少しづつ剣が近づいているにもかかわらず、<アグロ>は余裕綽々な態度を崩さない。本当にムカつく奴だ。

 

「うるせぇ! 師匠面するな! テメェなんかとっくの昔に超えてるんだよ!!!」

 

 つば競り合いを止め、後方にステップ、剣の柄を<アグロ>に向ける。グリップと同じく、近接形態でも撃ちやすいように変形した引き金を連続して引くと大口径の銃弾が爆音を鳴らし、連射される。

<アグロ>は銀剣の刀身でそれらを受け流すように受け、後方に跳躍した。

 

「皆ちょっと待っててくれる? 弟子が遊びたいみたいだからさ?」

 

<アグロ>が総司を飛び越え、後ろに居る4人を見ながら言う。その本気で相手にしていない感じがなおのこと癪に触れた。

 

「……!!!」

 

 その場を強く踏み込む〈ベイオネット〉、赤土を後方に撒き散らし、凄まじい早さで<アグロ>に向かっていった。

<アグロ>はそれを見ると首を鳴らし、〈ベイオネット〉に匹敵する速度で向かう。両者が衝突すると甲高い剣戟の音と重低音の銃声が連続して響く。しかし、2人のアバター達が何をしているのかは分からない。分かるのは黒い影と、茶色の影が激しく交差し合い、猛烈に何かを打ち合い、無数の赤い火花が散っていることだけだった。

 

「すごい……」

 

 呑まれるようにそれを見つめる楓のアバター〈猫丸〉。しかし、それは彼女だけでは無く、絵里先輩の〈マリボール〉と優理香の〈ヴァルキュリア〉もそうだった。

 目の前で何が起きているのかが分からず、呆然とする彼女達に<ソフィー>は促すように言った。

 

「皆さん私の後ろに下がって下さい」

 

それを聞いた3人は、前で戦う2人のアバターの戦いを見つめつつもそれに従う。<ソフィー>は一歩前に出ると、藍色のローブの中から小さな棒状の杖を取り出した。

 

「【ガード・ビット】!」

 

<ソフィー>が杖を自身の前方に突きつけると、そこに小さな魔方陣が展開される。するといくつもの小さな盾がそこから飛び出し、宙にふわふわと浮かび始めた。その盾は〈ベイオネット〉と<アグロ>の戦いから出る、流れ弾や、石の破片を感知し、それから4人を守るため、忙しなく動き始める。

 <ソフィー>は3人の方を振り返りながら言った。

 

「100超え同士の――それもレベル130以上同士の戦いですから、絶対にこの盾より前に出ないで下さいね。巻き込まれたらしたら大変ですから」

 

はね飛んでくる戦いの余波を防ぐ為、激しく音と火花を散らせながら動く【ガード・ビット】を背に<ソフィー>は言った。呆然と頷く3人。<ソフィー>はそれを笑顔で見る。

 

「暫くしたらあの2人も落ち着くでしょう。まだ、そこまで本気で戦ってるようには見えませんから」

「〈ソフィー〉さんはあの2人が何をやっているのか分かるんですか!?」

 

 楓が聞くと<ソフィー>は微笑をかけらも崩さず答える。

 

「はい、分かりますよ。今はお互いに弾を撃ち落とし合っていますね。凄いですね~」

「はあ……」

 

あまりにも平然と答える<ソフィー>に呆気にとられる楓。

 

時間が経つにつれ4人を守る【ガード・ビット】は、今まで以上に動き始める。同時に【ガード・ビット】に守られていない場所からは、流れ弾が着弾し、頻繁に土埃が舞いだした。

 ゲーム部のアバター達はそれに、驚き、縮こまっていたが、<ソフィー>はまるで暖炉の前に腰かけ、本を読んでいるようなやわらかい表情を浮かべ続けていた。

 穏やかな微笑を浮かべ、2人の戦いを終わるのを待っていた彼女だったが、キン! とガードビットから何かが弾ける音が鳴ると、一瞬彼女は目を見開き、表情をかたくするとすばやく手を前に振り、何かを掴む様な仕草を見せる。

 

「どうしたんですか?」

 

 心配そうに尋ねる絵里先輩に<ソフィー>は彼女の方を振り返り、握っていた手を開く。そこには2つの銃弾が重なり1つになった物があった。

 

「う~ん……思ったよりヒートアップしてますね。まさか流れ弾で【ガード・ビット】を突破してくるとは……」

 

<ソフィー>は困ったような微笑を浮かべ、<アグロ>と〈ベイオネット〉の戦いを見る。荒野を飛び回る2つの影は加速し続け、今やどちらが〈ベイオネット〉か<アグロ>なのか見分けは付かない、まさに破壊の竜巻と形容していいものになっていた。

 

「仕方有りませんね。ちょっと頭を冷やして貰いましょう」

 

 そう言うと<ソフィー>は〈ベイオネット〉と<アグロ>が戦いを続ける方向に向き直し、両腕を天に掲げるように上げる。すると彼女の足下に白くかがやくルーン文字で描かれた円形の魔法陣が展開され、同時に両腕の先にも同様の紋章が展開される。

 3つの魔方陣から青白い光の粒子が舞い出し、彼女の周辺を美しく照らし始める。彼女は詠う――

 

『極北の星夜よ、星雲の煌めきよ、白銀の息吹となって舞い上がれ!』

 

 〈ベイオネット〉と<アグロ>が戦ってる場所に〈ソフィー〉の周囲に展開される3つの魔法陣が重なった巨大な魔法陣が展開される。2つの影はそれに気づくと、即座にその場から離脱を試みるが、それよりも早く彼女の声が響いた。

 

 『【スター・ウィスパー】!』

 

  白くひかるルーン文字から巻き上がるように、輝く光が吹き上げる。凄まじい寒波を周囲に撒き散らしながら、〈ベイオネット〉と<アグロ>が戦っていた余波で舞い上がった土煙は瞬時に凍り。そこには天高く渦巻く竜巻型の青白い氷のオブジェクトが出来上がった。

 

 それは3つの魔方陣を同時に展開した上で放たれる、上位の詠唱魔法であった。その魔法の威力は凄まじいもので、オブジェクトを中心に空気中の水分が凍り付き、氷の欠片が一帯に降り注ぎ始める。まるで星が降っているような光景だった。

 

「あ、あわわわ……!」

 

 絵里先輩が声を震わしながら<ソフィー>を見ていると。彼女はゆっくりと振り返る。

 

「これでもう、安心ですよ」

「そ、総司と<アグロ>さん……生きてますか?」

「ええ。あの程度でやられるようなら、レベル130もありませんから安心してください」

 

 そう言って彼女はにこやかに笑った。

 

 寒さに震えながらゲーム部の3人は氷のオブジェクトを見ていると、オブジェクトの端の部分がひび割れ、そこから1人のアバターが飛び出す。宙で体を翻し4人の前に着地したそのアバターは、”焦げ茶色のコート”をはたきながら<ソフィー>を見る。

 

「ソフィアちゃんやるねぇ! 危うくコートが凍る所だった!」

 

それは<アグロ>だった。<ソフィー>はそんな彼に笑顔で答える。

 

「お二人に涼んで貰うかなと思いまして。いかがだったでしょうか?」

「ああ、最高のクーラーだった。弟子が結構頑張るもんで、俺も熱くなってた所だからさ」

「ふふ、なら良かったです」

 

 軽く話す2人に、優理香がおそるおそる、尋ねる。

 

「あの、すいません……総司は大丈夫でしょうか?」

 

 その問いに答える前に<アグロ>はまず笑った。

 

「……フッ! ハハ! 俺が鍛えた弟子だぜ? そろそろ出てくるんじゃない?」

<アグロ>は視線を氷のオブジェクトの上方に移す。するとバキン! と音を立て氷が砕けると、人影が飛び出してくる。その黒衣を纏った人影――〈ベイオネット〉は5人の前に着地すると、くしゃみをしながら立ち上がった。

 

「さっぶ! これ<ソフィー>さんの魔法ですか!? 冗談キツすぎですよ!? 死ぬかと思った!」

 

<ソフィー>は総司を見ると笑う。

 

「はいそうですよ。でも頭に血が上った頃には、ちょうど良かったでしょう?」

「……うぐ」

 

 総司は<ソフィー>の言わんとしてることを理解する。

 

「これ以上やるとお友達を巻き込むところでしたから注意してくださね?」

 

<ソフィー>が窘めるように言うと総司は「……すんませんでした」と頭をかき謝る。理由はなんであれ、皆をほっぱらかしてバトルを仕掛けるのは流石によろしくない。それが自分から売った喧嘩ならなおさらのことだ。

 総司はバツの悪い気持ちになり、ゲーム部の3人をチラリと見て首を少し下に傾け、彼女達に謝るジェスチャーを送る。

 <アグロ>はその様子を見ながら肩をすくめた。

 

「弟子はすぐ熱くなるからな」

「……」

 

 総司は無言で(もとはと言えばテメェの無神経さが原因だろ!)と思いつつ睨み付けるように<アグロ>を見る。<アグロ>は相変わらず無神経に、かつ悪気無く笑っていたが、一瞬総司を真面目な顔で見つめるとその背をバン! と叩く。

 

「でも、強くなったな! ”総司”!」

 

 そう言って再び笑い出した。

 

「……」

 

 こういう所だ……。こういう所が本当に嫌いだった。いつもいつもこうやって、人をムカつかせたと思えば、その償いをするかのように褒めるのだ。

 

「チッ……!!!」

 

 特大の舌打ちをしながら顔を逸らす。<アグロ>はそれを見て、フッと笑うと、<ソフィー>を見た。

 

「ソフィアちゃん! そう言えばどこ行く予定だったの?」

「ニホンサバに行こうと思っていました。次のクライアントが日本の観光がしたいとのことだったので」

「OK! じゃあそこまでは俺様が”ガード”になろう! ……そう言えば弟子達は何処へ行くんだ?」

「世界樹だよ。【ニーズヘッグ】狩りの準備に行く予定」

「ああ、了解了解、俺たちがここで鉢合わせしたのも当然だな」

 

<アグロ>は納得したように頷き、続けて言った。

 

「じゃあ、時間も大分経ったし、ここら辺でそろそろ分かれるか。お嬢ちゃん達も運が良ければまた会おうぜ」

 

<アグロ>の言葉を受け、3人は各々がお礼を言うと<アグロ>はそれに応える様に指を立て決めポーズをし、<ソフィー>に目配をする。2人はそのまま体を翻し出発するように思われたが、<アグロ>が何かを思い出したかのように、総司の方に振り返った。

 

「そういえば弟子! 最後に1つ聞いて良いか?」

「……なんだよ?」

 

 総司がボソッと呟く。すると<アグロ>は顎に手を当て、総司の後ろに立つ絵里先輩と優理香、楓――彼女達3人を眺めるように見て、言った。

 

「誰が弟子の彼女なんだ?」

 

「「「「……」」」」

 

 唐突に投下される爆弾にゲーム部の4人は沈黙する。

 前後関係無視の脈絡も無い展開に、総司の思考は一瞬でフリーズしその場で固まる。同時に後ろから、弾けるような声が上がった。

 

「ち、違います! 私達はそういう関係じゃありません!!!」

 

 優理香の声だ。その声色からはもうこれ以上無いくらい、必死になって否定している様子が分かる。

 

「え!? へぇ!? あっああー! 私も彼女じゃないです! まだ!!!」

 

 絵里先輩も様々な感嘆詞を述べた後、ヤケクソ気味に叫んでいた。

 

 その後も二人は声だけで赤面していることが容易に想像出来るくらい、高い声を上げていたが、その2人とは真逆の落ち着いた声色が楓から響く。

 

「う~ん……彼女じゃないですね。友達かな?」

 

 あっさりと言う彼女に、優理香と絵里先輩はすぐに同調する。

 

「そうです! 友達です!」

「うん! ”まだ”友達です!!!」

 

<アグロ>は残念そうに頭をかく。

 

「やれやれ、弟子には早かったか」

「……テメェ!!!」

 

 ようやく正気を取り戻した総司。銃剣を抜き出し、<アグロ>に斬りかかるとと<アグロ>は笑いながらそれを避け、<ソフィー>の隣に着地する。

 

「おお、こわいこわい。じゃ、行こうか、ソフィアちゃん! このままじゃ弟子に殺される」

「ふふ、分かりました。では皆さん、今日はありがとうございました!」

「じゃあな弟子! また会おうぜ!」

 

<アグロ>が総司の銃撃による追撃をいなしながら言うと、隣に立つ<ソフィー>も何処か愉快そうに笑い、おじぎをする。それが終わると同時に、2人は笑いながらその場から去って行った。

 

「二度とその面見せるな!!!」

 

<アグロ>の背中に向かいそう叫ぶ総司。土煙を立て超スピードで逃げる<アグロ>の背からは高笑いが響いていた。

 

「……はぁ~」

 

 2人の背が見えなくなると総司はその場にため息を付きながらしゃがみ込む。ドッと疲れが吹き出したような気分と共に首だけで振り返ると、何処かよそよそしい態度の優理香と絵里先輩が視界に入った。

 

(あの野郎……気まずくなっちゃたじゃないか……)

 

 とは言え、傍から見れば女所帯の中の男1人である。こう言った流れになるのはまあ当然かとも思い、総司は再びため息を付きながら立ち上がり、彼女達の方を見る。

 

「ああいう奴なんです! 気にしたら負け! サッサと行きましょう!」

 

 少し、ヤケクソ気味な総司に促されるように3人は、もう目と鼻の先のワープゾーンに向かった。



 ※



 それは近づいてみると遠目で見ているよりも大きい印象を受ける物だった。

 円形状の祭壇の上に、青白い光が登っており、それがワープゾーンなのだがその祭壇を囲む円柱状の塔は、高さで言うとビル6階分――30m程あり、祭壇そのものも小さなグラウンド場ほどの大きさがある。祭壇の中央にあるワープゾーンを示す青白い光も近くで見ると、10本ほどありそれが円の形で配置されていた。それが重なって遠目では大きな青白い一本の光に見えたようだった。

 

 総司はようやく目的地に到着し一安心すると、やや気まずい雰囲気になった彼女達(楓はいつも通りだったが)をチラリと見て、言う。

 

「世界樹へのワープゾーンは今俺たちが立っている場所を6時と見て、1時の方角にある奴がそうなんで」

 

 10本あるうちの1本のワープゾーンを指さす。それを聞いた優理香が何処か他人行儀な感じで尋ねてきた。

 

「他の9本は別々の所に通じているの?」

「そうだよ、大抵どっかのダンジョンか安全地帯に通じてる。例えばだけど世界樹のワープゾーンの右隣に有るのが北アメリカにあるダンジョン”ジャイアント・ホール”に通じる奴で。左隣に有るのが、ロシアサバの近くに通じるやつ」

「<ソフィー>さんがここに居たのも、それが理由なのね」

「だね」

 

 簡潔に話しを終え、ゲーム部の4人は世界樹のワープゾーンに向かう。

 

「ワープゾーンは1人づつしか入れないんで、先入っちゃて下さい。俺は最後に入りますから」

 

青白い光を前に総司がそう言うと絵里先輩と優理香は頷き、ワープゾーンに入っていく。光の粒子となり消える2人を見る総司。しかしその次には入るであろう楓のアバター〈猫丸〉はなかなかその場を動かなかった。

 

「あれ? どうしました楓さん?」

「ちょっと総司君に言いたいことがあって」

 

 彼女はそう言うと総司の方をむき直した。

 

(……?)

 

 何か特別に言われるような事があっただろうか? と総司が内心、首を傾げていると楓はニコリと笑って言った。

 

「総司君、ちょっとしゃがんで」

「はあ……」

 

 何が何だかと思いつつも総司はしゃがむ。楓はそれを確認すると総司の耳元にさっと移動し、囁いた。

 

「私は総司君のこと友達以上だと思ってるよ」

 

「……!!!」

 

 咄嗟に飛び退く総司。楓はそれを見ると少し照れ臭そうにはにかんだ後、「先行ってるね! 総司君!」とワープゾーンに消えていった。

 

「……」

 

 その場に取り残される総司。破裂しそうなほど高鳴る心臓を体全体で感じながら、総司は自身の耳元を撫でる。

 

「楓さん……魔性過ぎますよ……」

 

 暫くその場で悶絶し、ぐるぐると歩き回り、ようやく心臓が落ち着いてきた後、総司もそのワープゾーンに飛び込んでいった。


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