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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
VRMMOが日常となった世界で大切な仲間が出来るまで
5/50

4話:その名は恵美絵里!

 

「やっぱり、今日は焼きそばパンだな」


 独り言を呟きつつ、昼休みスタートから約15分後。出歩く生徒が少なくなった廊下を気持ち急ぎめに走り、階段を駆け下り、3階の教室から、やや離れた1階の食堂へ向かう。


 入学して1週間と3日ほどしか経っていない総司だったが、既にお気に入りのパンがある程度にはこの学校に馴染んでいた。


 廊下を歩く先生に注意され、「すんません」と軽く頭を下げ、早歩きに切り替えた頃には食堂の看板はもう目と鼻の先で、中からは生徒たちの話し声が聞こえてくる。


 (まだ残ってるかな~)


 無いかもしれないという不安とあるかもしれないという期待で、心を躍らせながら食堂に入る。


 その一室は購買部と学食が併設された広いスペースとなっており。20、30人は座れそうな長さを持つ長机が4つとテーブル席が7つほどある。校庭に面する壁は一面ガラス張りでこれでもかというほどに光を取り込んでいた。


 昼休みということも有り、長机とテーブルの椅子の大半は生徒達で埋まり、昼食と友人との会話に夢中だった。


 総司は人で溢れかえっている食堂を見て、目当ての品は残ってないかもと、少し不安な気持ちになり軽く背伸びをしてパンが置かれた棚を確認する。


 (……あった!)


 辛うじてトレイの上に残された1つの焼きそばパンを見て、ついニヤついてしまう。

 多くの生徒たちの中を子気味良く、すり抜け、そこに向かうが……。


「あっ……」


 ちょうど目の前まで来て、手を伸ばしかけたところで、ヒョイと何者かにそれは持ち上げられる。つい先程まで誰の所有物でもなかった愛しきそれを無意識に目で追い、取り上げた生徒を見た。


 小柄な体格に不自然なほど良い姿勢、茶色の髪色に、自重しきれないほどの胸部、腕には書類のような物を抱えている。


 今朝のゲーム部の先輩だった。


「君は……朝の!」


 視線を向けた総司に気づいたらしい、彼女はやや驚きながら声を発した。


「あ、どうも……」


 咄嗟に応える総司だったが、その心中は穏やかではなかった。


 (うげ……マジか)


 同じ校内だしいつかは会うかもしれないと思っていたが、まさかこんな短時間で再会するとは……。焦燥に駆られる総司とは対照的に彼女は目を輝かせる。


「もしかしてゲーム部に入るために私に会いに来てくれたの!?」


「いや……お昼を買いに――」


「私に会うついでにお昼を買いに来たのね!?」


「ついでではないですそっちがメインです」


「面と向かって会いに来たって言うのは恥ずかしいよね! もう~照れちゃって~可愛いな~」


「……」


(もしかして外人さんかな?)


 相変わらず話が通じないようだった。


 困惑する総司を尻目に彼女はズイっと総司に顔を近づける。


「で、いつ入ってくれるの? 今日からでも勿論良いよ!」

「え、いやそれは……」


 あまりの勢いに総司は完全にタジタジになってしまう。多分このまま普通に断っても『最初は皆そう言ってた』だとか『入ってみたら価値観が変わる』だとか言われて延々と付きまとわれるだろう……。総司は戦法を変えることにした。


「あ~実は……友達とギルド組もうぜって誘われて……」


 ありもしない約束をでっち上げ、先輩が自分から諦めてくれるよう仕向ける――が、


「ならその友達も一緒に誘おうよ! 私も一緒に行くからさ!」


 更に目を輝かせて言う先輩を見て。墓穴を掘る形になったことを総司は察し、これ以上の追求を避けるため愛想笑いで必死に誤魔化す。


「あ、でも、クラス戦全敗したのがバレて、断られたんだった。あはは……」

「……君は、クラス戦全敗したの?」


 総司にとってその言葉はただの場を取り繕う為の物だったが、それを聞いた彼女は今までの勢いが嘘のように物悲しい顔になった。

 総司は一瞬何か地雷を踏んだか? と思ったが、他にしようが無かったので取り合えず返答する。


「……まあ、そうですね」


 彼女はそれを聞くと総司の目をじっと見つめ優しく微笑んだ。


「大丈夫! 安心して! 私はそんなの気にしないから! だから……私と一緒に頑張ろう?」


 彼女の表情は今までみた中で一番強い意志を感じる物になっていた。

 その表情を見ると総司は内心焦りまくりだす。


 (ヤバイ……。ヤバイ! ヤバイ! ヤバイって! 完全に入部する流れになってる!)


 ハッキリと断れば良いものをその場しのぎと嘘で返事を固めたせいで断る口実を失い始め、いよいよ総司は追いつめられていた。


 しかし、この男往生際が悪かった。


「そ、そうだ! じゃあ俺とバトルしません!? 俺弱いんで、もし先輩が勝ったら先輩に鍛えてもらう形で入部しますから!」


 強引に入部を賭け対戦を申し込む。もしこれで彼女が勝負に乗ってくれたら、後は勝つだけで明確に断る口実が出来る。現状を打破するための最後の賭けだった。


 (頼む~乗ってくれ)と願いながら目を閉じ祈り。チラリと目を開け表情を伺う。

 彼女は目を閉じやや俯きながら何か考え込んでるようだった。


 ほんのすこし沈黙が続くと、彼女は顔を挙げる。


「う~ん……君のレベルは?」

「22です」

「……! じゃあいいよ!」


 パッと笑顔になる彼女。

 それを見てなんとももどかしい気持ちになったが、まあしょうがない。


「決まりですね! あそこに空いてるテーブルあるんでそこでやりましょう!」


 部屋の一角にある比較的空いているテーブルを指さしながら言うと、彼女はOK!と頷く。


「先言ってて、私パン買ってから行くから」

「分かりました」


 そう言うと彼女は購買のカウンターまで小走りで向かっていった。


 (助かった~)


 胸をなでおろす総司。これで勝てば部活だかギルドだかめんどくさい物に入らずに済むそう考えると体から重しを抜いたような解放感があった。


 本音を言えば、学校内ではアレサで目立たちたくなかったが、まあ他学年でクラス戦でもないのなら1勝くらい何の問題もないだろう。


 状況は一転好転。ルンルン気分でテーブルに向かい腰かける。

 彼女の方を見ると購買のおばちゃんにペコリとお辞儀している所が見えた。どうやら買い物は済んだようだ。急いでパン袋を受け取ると書類と一緒に抱えてこちらに小走りでやって来る。


「お待たせ!」

「そんなお待たされてないですよ」


 総司の言葉に彼女はへへっと笑い、持っていたパンの袋と書類(……多分入部届)を机に置き綺麗に整えた後、スカートのポケットから折りたたまれたESGとスマートフォンを取り出す。


「あっ!」

「どうしました?」


 突然、何かに気づいたような仕草で、総司の方を向く。


「そう言えば自己紹介がまだだったね! 私、2年3組の恵美絵里(えみ えり)!」


 今更ながら彼女の名前を知る。総司も彼女に倣い自己紹介をする。


「俺は1年5組の清宮総司です」

「清宮君だね! よろしく!」


 そう言って恵美先輩は手を差し出す。


「あ、よろしくお願いします」


 差し出された手を握り返す。小さい手だったが、とても温かかった。


「そう言えば、ルールはどうする?」

「制限時間5分の一本勝負でどうでしょう?」

「うん、それでいこう!」


 ルールの確認をしつつ恵美先輩と総司は手慣れた様子でESGを付け、スマホ

 のアレサ用のアプリを起ち上げる。


「じゃあこっちから対戦申し込むね?」

「了解です」

「ふふ~ん! 絶対部員になってもらうからね!」


 意気揚々と言う彼女。


(勝ち辛くさせてくれるな~……)


 総司はそんな彼女の様子に少し罪悪感が浮かぶが、恵美先輩はそんな総司の胸中など知らずスマホを操作する。


「いくよ!清宮君!」

「はい、いつでもどうぞ」

「リンクスタート!」


 恵美先輩の掛け声と共に意識が遠くなった。


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