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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
第二章:天まで届く世界の樹
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12話:悪魔も泣き出す(1)

「ようやく見えてきたな」

 

 総司は一言そう呟いた。

 

荒野を2時間ほど歩いたゲーム部の4人。いつの間にか空を覆っていた分厚い雲は途切れ、青い空が広がる下、周囲の光景は段々と広がり、僅かな植物と4足歩行型の小型のモンスター以外は、赤い砂利と土がむき出しになった平野にそれはぽつりと建っていた。

 

 それはいくつもの石を重ねて作られたであろう大きな石柱に囲まれた円の形をした石の祭壇だった。その祭壇の中央には、青く光り輝く光の粒子が天高く舞い上がり、自身の存在をこれでもかと言うほどアピールしている。


 間違い無い、世界樹へ続くワープポイントだ。

 

「大分歩いたわね」

 

 優理香が呟くと楓と絵里先輩が顔を見合わせ「そうだねー」と頷いた。

 

「後は、あのワープゾーンでひとっ飛びよ」

 

 総司が祭壇を指を指しながら言うと3人は頷く。4人はワープゾーンに向かい、進もうとするが、その前に横を歩く絵里先輩が何かに気づいたように、祭壇に近い場所を指さした。


「総司、あそこに誰かいない?」


 総司は指さされた場所を目で追う。そこには小さく赤い土けむりを立てながら移動する2つの物体の存在が確認が出来た。総司は「あ~」と納得したように呟いた。

 

「あれはPKプレイヤーキルしてるんすよ。ここら辺は安全地帯(セーフゾーン)から離れてるエリアなんで」

「大変! 助けに行かなくちゃ!?」

 

 絵里先輩はこれは大変と、目を見開き、総司を見つめる。それは紛れもなく総司が助けに行くのを期待する目だった。しかし、それに対する総司の答えは――

 

「え~……めんどくさいっすよ。ほっといて行きましょう」

 

 露骨に嫌そうな顔をする事だった。

 

「ちょ、ちょっと総司!? ”正義の交渉人”なんでしょ!? 見過ごしていいの!?」

 

 慌てて言う絵里先輩に総司は付け加える。

 

「そりゃあ、人を騙して~とかの悪質なPKなら助けても良いですけど、こんなに安全地帯(セーフゾーン)から離れてるところなら、PK自体はさして悪いことでも……」

 

 総司の答えはこのグローバルサーバーのプレイヤーにとって共通する価値観だった。基本的にグローバルサーバーにおいて、PKはあまり悪いことだとは考えられておらず、安全地帯(セーフゾーン)から離れれば離れるほど、自分の身は自分で守るという考えが根強い。


 原則、《サポーター》のような非戦闘員は狙ってもメリットが薄いので狙われないが、戦闘員である《ハンター》同士はその限りでは無い。彼等にとって”彼等自身”はモンスターよりも極上の獲物なのだ。

 それでもPKされるのが嫌なら”ガード”と言われる《ハンター》の一種である護衛をしてくれる人間を雇うのが道理であり、それが常識だったのである。


 しかし――

 

「総司君……。私は助けられる人が居るなら助けるべきだと思うよ?」

「あの追われている人が騙されてああなった可能性も否定出来ない以上、助けるべきだと思うけど?」

「そうだよ! 助けようよ!」

 

 楓と優理香と絵里先輩――始めてここに来た彼女達3人にはそんな理屈は通じなかった。

 

「え!? でもこういう所でPKはされる方が悪いって言うか……」


「「「……」」」

 

 しどろもどろになりながら言う総司に、3人は無言で総司を暫く見つめた後、互いに顔を見合わせ、目だけで会話をし始める。数秒経つと彼女たちは意気揚々と言った。

 

「総司が助けに行かないのなら私達が行こうよ!」

「総司君が居なくても、私達3人で戦えば追われてる人が逃げる時間くらいは稼げるよ! ユリカちゃん!」

「……そうね、行きましょう!」


 3人は互いに頷き合い、その場を駆けようとするが、総司は3人を急いで止める。 

 

「待った! 待った! 分かりました! 助けられそうなら俺も行きます! 3人だけで行っても相手のレベルが100以上だと返り討ちにされる可能性の方が高いんですから!」

 

 義心に燃える彼女たちをなだめる総司。彼女達は再び顔を見合わせると満足そうに頷いた。

 

 総司は(全く、みんな良い子ちゃんなんだから……)とため息を付きながら、ポーチに手を突っ込み【マジカルーペ】を取り出す。

 

(適当に理由つけて、助けない流れに持って行こう……)

 

 そう思いながら【マジカルーペ】を覗く。『タダ働きはしない』それが総司の主義だ。

 

覗かれた【マジカルーペ】は総司の意思をくみ取り、遙か先で逃げる2つの土煙に自動的にピントを合わせる。どうやら推測通り2人のアバターによってPKが行われている現場だった。総司はそれを集中して見つめる。

 

「……」


「どう?」

 

 無言で【マジカルーペ】を覗く総司に、絵里先輩が心配そうに尋ねる。総司は独り言の様にボソッと呟いた。

 

「……何やってんだあの人」

 

 総司は【マジカルーペ】を目から外しポーチに入れ、3人の方に振り返る。

その顔からは普段の少し間が抜けた感じが消え、何処か怒ったような呆れたような表情が浮かんでいた。

 

「気が変わりました行きます」

 

 総司は一言そう言い切るとは駆ける。荒野を風のように疾走する〈ベイオネット〉に3人は驚きながらその後ろを急いで追いかけた。



 ※



 「いや~お助け~」

 

 少し気の抜けた声を上げ、土を激しく蹴りながら1人の藍色のローブを身に纏った女性のアバターが駆ける。

 

「ぐへへ……! 待て待て!」

 

 その後ろには焦げ茶色のコートを着た男のアバターが、ゲスな笑顔を浮かべながらそのアバターを追っていた。


 藍色のローブを着た女性型のアバターは精一杯走っていたように見えるが、アバターの能力があまり身体能力に寄っていないのか、男のアバターにジリジリと距離を詰められる。

 

「誰か~助けてぇ!」

 

 決死の助けを求める声だが、それをあざ笑うかのように声が響く。

 

「無駄だぜ! こんな所に助けに来る奴なんていない! さあ身ぐるみ置いていきな!」

 

 男は走りながら背に背負った銀色の剣を抜き、振り上げる。

 天に掲げられた銀剣は、十字架を象った大きな柄を持つ分厚い両刃のロングソードで、銀色の刀身は太陽の光を美しく反射し、艶やかで見る物を圧倒する迫力があった。

 

 誰が見ても一目で業物と見えるほどの剣である。その女性に振り落とされたら一太刀の下、女性のアバターは両断されるだろう。彼女は万事休すかに思われたが――

 

「うお!」


 咄嗟に飛び退く男のアバター。

 

 何かが爆発する音が響くと同時にその男のアバターの足下に、銃弾が着弾したのだ。その銃弾は地面を抉り、赤い土煙を上げる。

 

 何があったのかと? 女性のアバターが視線を音のする方に向ける。そこには両の手に銃剣を握り、漆黒のローブに身を包んだアバター――清宮総司の操る〈ベイオネット〉の姿があった。

 

「オラオラオラ!」

 

〈ベイオネット〉は走りながらその男に向けて銃弾を放ち続ける。着弾する度、土を掘る鈍い音が鳴り、土煙が周囲に広がり、視界が段々と効かなくなっていく、もう目視では狙いがつけられない。しかし総司はそれでも射撃を止めない。そのアバターが居るであろうと推測される位置に弾を撃ち込み続ける。

 

 弾を撃ち尽くすと、総司は銃剣を放り上げ、続いてローブを翻す、ローブの裏側には大量の5発の弾丸が一つになったスピードローダーが大量に装着されており、総司はそれを2つ掴み上げ、宙に投げる。同時に空中を漂う銃剣を素早く握り返し、シリンダーをスライド、空薬莢を外に弾き出し、その場所にまるで決まっていたかのよう落ちてきた弾薬がすっぽりと収まった。

 

「喰らいやがれぇ!!!」

 

 ガチッ! とシリンダーを戻し、射撃を再開する総司。その男のアバターが居た場所は、爆弾が落ちたように高くまで土煙が上っていた。

 

「ちょ、ちょっと総司君! いくらなんでも撃ちすぎだよ!」

「貴方やり過ぎよ!」

 

 ようやく〈ベイオネット〉に追いついた楓の〈猫丸〉と優理香の〈ヴァルキュリア〉が、総司を止めるべく声を掛けるが、総司は銃口を動かさず、首だけ傾け言った。

 

「良いんですよ! これくらいがちょうど良い!」

「で、でもそれじゃあの人……死んじゃうよ」

 

 急いで走ったためか息を切らしながら言う絵里先輩に、総司は鼻で笑い返した。

 

「この程度であの野郎が死ぬもんか……!」

 

 ようやく総司は銃撃を止めた。舞い上がっていた土煙が収まリ始める。

 

 するとその煙の中から1人の人影が飛び出した。その人影は大量の土煙を身に纏っていたが、空中でキレよく体をひねり、身に纏っていた土煙を弾き飛ばし、総司達の前に着地する。

 

「久しぶりに会ったと思ったら随分な挨拶じゃ無いか? ”弟子”」

 

 息一つ荒げず、そのアバターは焦げ茶色のロングコートに付いた土をはたき落としながら、立ち上がる。身長は190cm以上の長身で銀色の髪と瞳を持つ中年の男性だった。

 身には長い焦げ茶色のロングコートを纏い、背には大きな銀色の大剣、腰には2丁のオートマティック拳銃がぶら下がっている。

 

 総司は視線をそのアバターの上部に移す。

 

 あれだけの銃弾を撃ち込まれながら全く削れていないライフゲージの上に、アバター名である〈アグロ〉が表示されていた。そして名前の隣にはそのアバターのレベルを指す数字――”140”が表示されている。紛れもない総司が見知ったアバターだった。

 

「弟子じゃねぇよ……何やってんだアンタこんな所でPKなんかして」

 

 不遜な態度で尋ねる総司に〈アグロ〉は肩を上げ答えた。

 

「悪魔退治の依頼も一段落して暇でさ、ならず者ロールプレイをしていた訳よ」

「アホなことやってねーで、次の依頼者でも探せ」

「俺は小心者でね、営業はしないタイプなんだ」

「チッ……よく言うぜ」

 

 総司が舌打ちしつつ言い返す。その後も飄々とした態度崩さない、そのアバターに顔を向けながら目だけを動かし、襲われていた女性のアバターを見る。彼女はゲーム部の3人に「大丈夫ですか?」と声を掛けられ、それに「大丈夫です、ありがとう」と返答していた。視線を〈アグロ〉に戻す。〈アグロ〉はその女性

に明るい笑顔を向けた。

 

「君ツイてるね! 俺の知り合い来たから、PK止めるんで安心してくれ!」

 

 話しかけられた女性も応えるようにニコっと笑った。

 

「はい、ありがとうございます」

「「「え!?」」」

 

 ゲーム部の女性陣からか声が上がる。無理も無い、先程まで追いかけられていた相手と普通に会話を交えるその女性に驚いたのだろう。

 

 総司は首を傾け、彼女達を見る。

 

「言ったでしょう? 基本的にここじゃあ、外でPKする事はあまり悪いことだと思われてないんですよ。実際にキルされなきゃこんなもんです」


 総司の言葉を聞くと3人は、何処か納得したような、してないような顔を浮かべ固まる。その3人を見た〈アグロ〉は顔をニヤリとさせ言った。


「そう言うことよお嬢ちゃん達! ……ところで君たちってもしかして弟子の知り合い?」

「弟子って総司の事?」


 絵里先輩がそう答えると〈アグロ〉はパチンと指を弾く。

 

「そう正解! 清宮総司君の事!」

「もしかしてこの人が総司君のお師匠さん?」

 

〈クニトモ》の所で見た写真を思い出したのであろう楓が言うと、〈アグロ〉は指で彼女を指す。

 

「それも正解!」

「……だから弟子じゃねぇ! って言ってるだろうが!」

 

 総司が睨みつけると〈アグロ〉は頭をかく。

 

「ちょっと前までは『ししょ~、ししょ~』って後ろを付いてきてくれてたじゃねーか」

「一体いつの頃の話してんだよ……。テメェが借金の連帯保証人に俺を勝手に設定したりしなければ、もう一度そう呼んでやるよ……!」

 

 総司は額に青筋を浮かべ、プルプルと震えながら〈アグロ〉を見た。〈アグロ〉は悪びれる様子も無く言う。

 

「おいおい、確かにあの時は悪かったと思うけど、ちゃんとあの後俺が金を返しただろう? 許してくれよ」

「アンタが金返すまでの2日間、俺は借金取りの連中と戦い続けてたけどな!!!」


 眉を捻じ曲げる総司に〈アグロ〉は「悪い、悪い」と”笑顔で”返した。


「……」

 

 眉を更に潜める総司。この〈アグロ〉という男はいつもこんな感じだった。

 

 キザで怠惰な性格、人をくってかかる態度に、他人をやっかい毎に巻き込んでも特に気にしないブッ飛んだ感性……。総司もそれに振り回されたことは一度や二度では済まなかった。

 

 モンスター狩りに行こうと誘われたかと思えば、その時の思いつきで修行と称してPK集団の根城に突っ込んだり、良い場所に連れてってやると言い、まだ10歳にも満たない総司を娼館に連れて行こうとしたり(〈クニトモ〉にバレて未遂で終わったが)、更には自分の持ち物で最高の財産である筈の銀色の大剣

――レア度6の”神器”【魔王剣シルバーフォース】を平気で質屋に入れ、その金で総司にギャンブルを教えた事だってあった(早々に〈アグロ〉が負け、総司が顔を真っ青にしながら取り返した)。

 

 他にも総司にとって心臓が飛び出しそうになる様な出来事は、山の様にあったしかし――

 

(変わんねーなこの人も……)

 

 心の何処かで安心する気持ちも総司にはあった。

 

 確かに〈アグロ〉という男は総司にとって疫病神も良い所だったが、同時に幼き頃の総司のすぐ側にいた人間のうちの1人に違いなかった。

 

 モンスターにやられかけて死にかけた時、PKに逢い装備を奪われそうになった時、何処からとも無く現れ総司を助けると、決まってボロボロになって動けなくなった総司を、『よく戦ったぞ! 弟子!』と励ましながらながら安全地帯(セーフゾーン)までおぶって歩いてくれた。


 その時の背を思い出すと、どうしても総司は本気でこの男の事を嫌いになることが出来なかった。――それ故に総司にとってこの〈アグロ〉という男は天敵だった。

 

「チッ……!」

 

 総司が舌打ちし僅かに顔を逸らす。その様子に〈アグロ〉はやれやれと首をふり、ひょいっとジャンプするとその場に居る全員に自分が見える位置に降り立つ。

 

「ま、とりあえず先に俺から名乗らせて貰うぜ! 俺は【魔王剣シルバーフォース】と愛銃【アレッタ】と【ロザリー】と共に、日夜この世界に巣くう悪しき悪魔を狩る最強の”デビルスレイヤー”悪魔も泣き出す男〈アグロ〉様だ! よろしくな!」

 

 言い切ると〈アグロ〉は焦げ茶色のコートを翻し指をピッと上げ、決めポーズを取る。周囲の人間が反応に困っている中、総司は顔を向けず目だけでその男を見る。

 

「何が”悪魔も泣き出す男”だ。他のゲームの主人公パクってるだけだろ」

 

 総司の指摘に〈アグロ〉は気を止める様子も無く答える。

 

「デビルメイクライという神ゲーの存在を少しでも知って欲しいんだよ! あれはアレサが無かったらもっと大ヒットしてた」

「……確かにあのゲームは面白かったけど、あのゲームの主人公のコートは、”赤”だろそんな”焦げた土”みたいな色じゃ無い」

「俺に取ってはあのコートの色はこの色なんだよ! ”赤”みたいにトゲトゲした色じゃない」

 

 〈アグロ〉はそう言い誇らしげに焦げ茶色のコートを翻した。

 

「……」

 

 総司は特にその言葉に反論すること無く黙る。話す気が無くなったなどそう言った理由では無い。もう既にその答えを知っていたからだった。

 〈アグロ〉の現実(リアル)……つまり、アバターを操作する生身の彼には重度の色覚障害がある。彼の現実に”赤”は存在しないのだ。


繁忙期越えたので連日投稿再開します!

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