10話:思い出の場所
じ~……
<クニトモ>に連れられて店の奥に行くため厨房を抜ける4人。総司は刺すような視線を継続して、感じていた。
「『言葉巧みに解決してきた、”交渉人”』じゃないの?」
絵里先輩が何処か避難するようにボソッと、呟いた。総司は振り返り必死に取り繕う。
「ちゃんと話し合っても解決してますよ! でも……ほら、たまに抵抗する奴がいる時は、ちょっとドンパチする事もあるってだけで……」
「ふ~ん……どれくらい?」
絵里先輩はまん丸な瞳を細くし、疑うように総司を見る。総司は視線を逸らしながら答えた。
「20回に1回くらいは……」
「戦いで?」
「……交渉で」
「やっぱ”死神”じゃん!」
「ち、ちがう”奪還士”の中ではそれでも良い方なんです!」
あたふたと否定しする総司を含めた4人は厨房の奥にある最後の扉を開き、その中に入る。
その一室は先程までいた酒場や厨房の雰囲気とは打って変わり、石で出来た煉瓦で作られており、窓が少なく全体的に薄暗かった。
部屋の隅には壁に埋め込まれる形で巨大な火炉があり、その近くには熱した鉄を鍛える為の四角い金床と、長テーブルのような作業台が置かれ、壁には先の尖ったハンマーや、平べったいマイナスドライバーの様な形をしたハンマーが立てかけられていた。
火炉の正面には大きな棚が設置されており、そこには虹を溶かしたような7色の不思議な色をした薬品や、鈍く光り輝く鉱石が置かれていた。
「ささ! あんまり居心地の良い場所じゃないけど、皆くつろいで~」
<クニトモ>は部屋に入るなり、テキパキと作業台に乗った金道具を片付けて、場所を整え、振り返った。
「さて、先に自己紹介をしておきましょうか! 私は”鍛冶士”の<クニトモ>よ! 見ての通りオカマよ~よろしくね!」
そう言ってニコッと笑う。総司を除いた3人は顔を見合わせ、その後、各々がしどろもどろになりながらも、自己紹介を行った後、楓が尋ねた。
「……あの”情報屋”さんじゃないんですか?」
<クニトモ>の赤いリップで覆われた唇が開く。
「ああ! 私ね本職は”鍛冶士”なのよ~”情報屋”は副業なの! ほら鍛冶やってると、時間がかかるから人待たせちゃうでしょ? それでその人達が暇しないように、酒場を始めたんだけどそこで色々情報が手に入るようになったから、ついでに”情報屋”も始めたのよ~」
マシンガンの様に聞かれた以上の情報を繰り出す、<クニトモ>のトークに、横から聞いていた絵里先輩は「お、おお……」と関心したような困惑したような反応を見せる。
楓はそんな勢いに気圧されず笑顔で言った。
「NPCの人以外にも鍛冶屋さんっているんですね!」
「そうよ~総司の【ヘリオス】と【セレーネ】を作ったのも私よ!」
<クニトモ>はそう言うと総司の腰に着いている2対の銃剣を見た。しかし、楓はそれよりも気になることがあるのか<クニトモ>を見つめた。
「<クニトモ>さんは総司君の事知ってるんですか?」
その質問の意味は、<クニトモ>が総司の事をアバター名では無く、本名で呼んでいたことに関する疑問だった。<クニトモ>はマニキュアで彩られた手で口を押さえ笑って返した。
「総司とはもうずっと一緒なのよ! こんなに小さい時から知ってるのよ~」
<クニトモ>は手を腰まで下げた。
「そんなに小さくなかった!」
話を横から聞いていた総司が素早く反応すると、<クニトモ>はクスクスと笑い、ポケットから手帳を取り出し、一枚の写真を抜く。
「ほら! これがちっちゃい時の総司!」
<クニトモ>はその写真をその場にいた全員が見えるように前に出す。
写真には小さい頃の総司のアバターが笑顔でピースする姿が写っており、それを囲むように若き日の<クニトモ>、<オグ>――それと、”焦げ茶色のコートを着た男性型のアバター”を含む3人のアバターが立っていた。
「これが小さい頃の総司なのね……」
「女の子みたいだね~」
「可愛い……持ち帰りたい……」
優理香と楓と絵里先輩が各々感じた感想を言うと<クニトモ>は笑う。
「小さい頃の総司はうちの看板娘だったのよ~」
「俺は男だ!!!」
あまりにも好き勝手言われていたので、ムキになって言うも、4人はそれを気にとめず、<クニトモ>から次々と繰り出される、総司の過去話で盛り上がる。総司は根掘り葉掘り明かされる自信の過去への恥ずかしさに、ムスっと口をへの字にしていると、楓が写真を指さしながら言った。
「この写真に写ってる人って<オグ>さんと<クニトモ>さんですよね?」
「ええ、そうよ。<オグ>とは知り合い?」
「はい! さっき総司君に紹介して貰いました! ……ところでこの人は誰なんですか?」
楓の指は総司の隣に立つ、暗い焦げ茶色のロングコートを着た灰色の髪色を持つアバターを指した。
「ああ、その人は総司の師匠よ! うちの常連で――」
「あんな奴師匠じゃねぇ!!!」
総司は強引に話に割り込む。<クニトモ>はため息を付いた。
「また喧嘩してるの?」
総司は<クニトモ>の言葉に応えず、フンッと鼻で答えた後、出来る限り真面目な口調で話す。
「そんなことよりも【ニーズヘッグ】の情報をくれ、昔話はもういいだろ」
「あら? まだ話したり無いエピソードが一杯あるんだけど?」
「……ッ! もう良いから! 早くしてくれ!」
総司は言い切ると顔を真っ赤にし、顔をフイっと横に向け、腕を組む。
<クニトモ>は少し微笑み「ああ、言ってるからまた今度ね」と女性陣に語りかけ、自身の持っている手帳を再び取り出した。
「そう言えばなんで【ニーズヘッグ】なんて大物の情報が知りたいの?」
手帳をめくりながら総司に言った。
「色々あって”龍玉”が入り用なんだ」
目だけを<クニトモ>に向け答える。彼の手帳をめくる手が止まった。
「”龍玉”ってレア度5のアイテムよ? えらく大物を狙うのね?」
「まあ、色々あるんだ」
「じゃあ今日は下見って所ね」
「そうなるな」
端的に答える総司に優理香が視線を向ける。
「……そう言えば貴方は以前に【龍玉】のことをレア度5と言っていたけどレア度というのは何なの?」
総司は彼女にむき直した。
「レア度って言うのはアイテムの等級を表す物だよ」
「聞いたこと無いわね……」
彼女はピンと来ないようで、表情には疑問の色が浮かんでいた。
総司は当たり前かと思いつつ答える。
「基本的にこのゲームアバターのステータスとか、アイテムのランクとか、そういう情報は隠し情報だからな、コンソール上で表示されないんだ」
「……じゃあどうやってそれが分かるの?」
優理香がそう言うと、総司は腕を組み離し、腰部に付いているポーチに手を入れ、一本の片目用望遠鏡を取り出した。
「コンソール上では表示されなくても、【勘定】っていうスキルがあればアイテムのレア度が見れる。今俺が持ってるこの【マジカルーペ】に【勘定】スキルが付いてるから見てみる?」
総司は【マジカルーペ】の先端部分をキリリと回し【勘定】スキルを発動させ、優理香に手渡した。
「これ古いタイプの望遠鏡だけど、どうやってピントを合わせるの?」
彼女は受け取ったそれをまじまじと見ていると総司はそれに答えた。
「【マジカルーペ】は見たい人の意思をくみ取って、自動的にピントを合わせてくれるから、そのまま覗くだけで大丈夫。ついでに手ぶれも抑えてくれるし、録画機能もある」
「やけに便利ね……」
彼女はそれを覗き周囲を見回した。
「どんな風に写ってる?」
横から会話を聞いていた楓がそう尋ねると彼女は答えた。
「……”色”で表示されてるみたいね」
「色?」
「ええ、例えば楓の【アイアンダガー】は”白”、私の【回転式機械槍】は”緑”の色で光ってるわ」
楓が持っている短剣を持ち上げて「これ白なんだ」と言い、それを眺めていると横に立つ絵里先輩が杖を持ち上げて言った。
「これは何色に見える?」
「絵里先輩の【サポートステッキ】は黄色に見えますね」
「おお~君は黄色だったのか!」
そう言うと絵里先輩は杖をまじまじと見出した。
優理香は総司の〈ベイオネット〉の装備が気になったのか、【マジカルーペ】を総司の方に向ける。
「貴方の身に纏ってるローブは”赤”銃剣は”青”に見えるわね」
総司はうんうんと頷き、説明を開始した。
「もう大体分かったと思うけど、レア度は色で表示されて、レア度1は白、レア度2は黄、レア度3は緑、レア度4は赤、レア度5は青、レア度6は紫で表示されるんだ。だから俺のレア度4の装備【シャドウ・ローブ】は”赤”レア度5の【ヘリオス】と【セレーネ】は”青”で表示されるわけだな。付け加えて言うと今持ってるそいつは赤色だ」
「なるほどね……」
優理香はそう呟くと持っていた【マジカルーペ】を総司に手渡しながら言った。
「アバターの基本装備は、レベル事にパワーアップしていくから、レベル130の貴方の装備はレア度5になっている訳ね」
「いや、違うよ」
「え?」
来ている甲冑をカチャリと鳴らし、驚く優理香。
アバターの装備や形というのは、ESGを通じて獲得される、戦闘時の思考パターン、反応速度、深いところは趣向や願望と言ったものを、レベルアップ毎に反映させ、より強く、よりその人間に適した形に変わっていく物だ。つまり彼女は、総司のアバター<ベイオネット>の装備のレア度は、そのアバターのレル”130”を反映させた物だと認識していた。
総司はそんな彼女の考えを察したのか、説明するため口を開いた。
「レベルアップで上がる装備の強化具合とレア度は3で打ち止めなんだ。だから優理香の場合はこれ以上レベルを上げても装備の形とレア度は変わらないな」
総司の説明を受け、優理香は理解したのか頷いた。
「……ここから先は鍛冶屋とかで強化していくしかないという事ね」
「そう言うこと。だけど基本的にはうちの学校のサーバーにある、NPCが経営してる鍛冶屋とかじゃ、レア度3+αくらいまでしか強化出来ない。レア度4以上は、グローバルサーバーで人間の”鍛冶士”に装備を強化して貰うか、このサーバーのダンジョンから拾ってくるしか無いんだ」
「そう聞くとレア度4以上の装備というのは、凄い貴重で強力な物に聞こえてくるわね」
「実際その通りだよ、レア度3の装備とレア度4の装備は、例えるなら自転車と自動車くらいの差があるからな」
「そんなに!?」
「レア度4以上の装備になると、装備自体にかなり強力なスキルや特性が付くからね。俺の【ヘリオス】と【セレーネ】も”ブラック・グロリア”っていう鉱石で強化して貰ってから、【熱反動吸収】ってスキルが付いて、50口径もあるのに、発砲時の衝撃が0の無反動銃になってる」
総司はそう言うと左腰に着いた銃剣を抜き、巨大なシリンダーをスライドさせ、中から親指程の太さがある銃弾を優理香に見せる。
「良いこと尽くめね……」
「でも、デメリットが無いわけじゃ無い。レア度4以上になると一度壊れたら二度と直らないから、装備の耐久値とか結構気を付けないといけない。俺もコイツが壊れたら二度と直せないからな」
総司は手に持った銃剣をクルリと回転させ、腰に戻した。
「まあ、レア度4以上の装備はおいそれとは壊れないけど」
最後にそう言い、話を締めようとしたところ、横から会話を聞いていたであろう絵里先輩が杖を撫でながら総司に言った。
「私のこの杖をレア度6に強化する為には、どんなアイテムが必要なんだろ? やっぱりレア度6のアイテム?」
総司は彼女の首を横に振る。
「レア度6の装備は”神器”って言われてて、原則ダンジョンからしか拾えないんですよ。”鍛冶士”で強化して貰っていっても、装備は素材のレア度の1個下になるんで、どうやってもレア度は5で打ち止めになりますね」
「そっか~、じゃあ強化出来る装備はレア度5が最高なんだね!」
絵里先輩が納得したように頷くと、その後ろで<クニトモ>が手帳をめくりながら言った。
「あら? ”鍛冶士”が強化すると、装備のレア度が1個下がるとはまだ決まってないわよ?」
総司は僅かに沈黙した後、口を開く。
「……”人造神器”なんてのは夢物語だ。出来るわけが無い。事実、今までどんな凄腕の”鍛冶士”だって強化したらレア度が下がったんだ。これは仕様だ」
「今まで出来なかったから、これからも出来ないなんて誰が決めたの?」
「……」
<クニトモ>の反論に総司は閉口する。<クニトモ>は僅かに微笑むと、手帳をめくる手を止め、言った。
「【ニーズヘッグ】なら今、”世界樹”最下層第三の門”冥界の間”にいるわよ。情報も新しいからしばらくはそこにいる筈ね」
「……分かったありがとう」
総司は一言そう言うと<クニトモ>は笑顔で返す。
「良いのよ、私と総司の仲なんだから! あ! 後、情報量と修理費で占めて2.000Mtrね! つけておくから安心して!」
総司は「ブフッ!」と吹き出した。
「2.000Mtr!?!? いくら何でもぼったくりすぎだろ!!!」
「これでもかなりまけてる方なのよ? アナタがさっき壊したうちの備品、レア度4の特注品なんだけど、値段聞きたい?」
「……遠慮しておきます」
総司は顔を逸らすと<クニトモ>は軽く笑い、女性陣に顔を向け言った。
「”世界樹”は危ないところだから注意して行ってね? 総司も構抜けてる所があるから、色々助けてあげて」
<クニトモ>の言葉を聞くと彼女達は顔を見合わせる。
「任せて! 私達がビシッと総司の事を助けちゃうんだから!」
絵里先輩が胸を張り宣言すると、楓と優理香も笑いながらそれに頷く。
<クニトモ>はそれを見ると安心したように表情を柔らかくした。
「またいつでもいらっしゃい、今度はゆっくりお話しましょう」
「ありがとう! <クニトモ>さん!」
絵里先輩がそう言う楓と優理香もそれに続いてお礼を言う。絵里先輩は胸を
張り、腕を振り上げた。
「よ~し! じゃあ”世界樹”にしゅっぱつだぁ~!」
何処か気合いが入るような抜けるような掛け声と共に彼女達は、その一室から出る。総司もその後に続くように部屋から出ようとすると、<クニトモ>から背に声を掛けられた。
「総司、貴方に素敵な友達が出来て嬉しいわ、行ってらっしゃい」
総司は振り返る。そこでは<クニトモ>が優しく総司に笑いかけていた。
その顔は自分が幼い頃、何度も見た表情だった。クエストに出かける時、<クニトモ>は決まって『行ってらっしゃい』とその優しい笑顔で見送ってくれていた。随分と久しぶりに見たような気がする。
総司は小さく返す。
「……行ってきます」
言い切ると総司は直ぐに視線を前に戻し、部屋から出て行った。




